【解説】2023年10月17日、これまで売買春による被害の実態を国際規模で調査研究してきたメリッサ・ファーリーさんらによる共同の調査報告書『スウェーデンにおけるポルノの制作被害――撮影された売買春はそれ以外の売買春と切り離せない』が発表されました。ここでは、ファーリーさんの許可を得たうえで、その要旨、概要の部分だけを翻訳して紹介します。
スウェーデンは売買春に関する北欧モデル発祥の国ですが、ポルノに関する規制は弱く、改めてポルノに対する法的規制の枠組みの確立が必要になっています。そこで、ポルノグラフィは「撮影された売買春」であると位置づけることで、ポルノの制作被害を北欧モデル立法の枠に入れることが可能になります。実際、ポルノと売買春は地続きであり、買春の中で買春者によって撮影がなされて(時には盗撮によって)、それがサイトにアップされることでポルノになることもしばしばあります。本報告書をそうしたことを念頭に置きつつ、スウェーデンにおけるポルノ出演者、ポルノ被害者に対して、3年間にわたって大規模なインタビューを行ない、その被害実態を明らかにしました。これらはもちろん、スウェーデンだけの状況ではなく、国際的にも大部分共通したものですので、国際的にポルノ被害にアプローチする場合の重要な基礎資料となるでしょう。
2023年10月17日、ストックホルム
メリッサ・ファーリー、エリカ・ベルクヴィスト、メリー・アスボガード、ヨハンナ・ペトルス、ミカエラ・ラナーグレン、ルバ・ファイン、ナシマ・B・ジェラリ
本報告書では、ポルノグラフィは売買春や人身売買と切り離すことができないという、調査研究にもとづくエビデンスを提示する。この結論は、性売買の中の女性たちや男性たち、そのほとんどが売買春を写真に撮られたり、ビデオに撮られたり、ライブストリーミングで配信されたりしている104人のインタビューに基づいている。
私たちは、売買春、ポルノ制作、人身売買のあいだには、その勧誘の方法、そこでの人種差別、経済的不平等、性の不平等、ピンプ行為や買春者による被害、強要の行使、脆弱性を高める幼少期の背景などに関して、さまざまな類似性があることを明らかにする。自分が買春されている様子を撮影された人々が被る被害に関して、その加害者に責任を負わせることができるいくつかの法律について最後に述べる。
インタビュー対象者の生活において、ポルノのオンライン広告と売買春の広告、オンライン人身売買とオンラインポルノ、オンライン性売買とオフライン性売買の間に明確な区別はなかった。
ポルノ制作被害に関して調査からわかったこと
インタビュー対象者の民族的・人種的構成
50%がスウェーデン人であると答えている。残りの半数は多民族の文化的背景を持つか、スウェーデン以外の国から移住してきたと答えている。民族的にスウェーデン人でないインタビュー対象者の3分の1は、肌の色や文化的・宗教的背景に関連した人種差別的暴言を経験していた。
幼少期における性的虐待や身体的虐待を受けた経験
3分の1は里親のような家庭外の施設にいた経験がある。3分の1以上が、子どもの頃に性的な写真を撮られている。
学校の性教育で何が教えられていたか(あるいは何が教えられていなかったか)
インタビュー対象者は、男性の性的快楽について、女性の性的快楽の2倍の頻度で教えられていた。性関係における同意、売買春、ポルノ、性的暴力についての情報は、性教育の授業では十分に扱われていなかった。
売買春・ポルノはどこで行なわれているか
インタビュー対象者の4分の3は、ウェブカメラやライブチャットを通じてオンラインで売買春をしていた。ポルノの81%はスマホを使って制作されていた。 売買春の80%は、個人宅、ホテル、プライベートパーティーで行われていた。
売買春・ポルノと貧困
インタビュー対象者の半数は、貧困であること、あるいは他に手段がないことのせいで、「契約」セックスないし「サバイバル」セックスに従事していた。
売買春・ポルノの中でレイプされた経験
インタビュー対象者の84%が性売買中にレイプされた経験がある。レイプ加害者には、買春者、ボーイフレンド、ピンプ、ポルノ愛好家、ポルノ制作者、ポルノ男優、ポルノ監督が含まれている。27%がポルノ制作中にコンドームの使用を妨げられた経験があり、この行為は裁判所によっては生命を脅かす暴行とみなされている。
ポルノの買春者の広告、連絡、取引で使われていたアプリ
最もよく使われていたのは、Snapchat、WhatsApp、Instagram、Facebook、Tinder、Twitter(現X)であった。
ヌード写真やその他のポルノをアップロードするために利用されていたサイト
最もよく使われていたのは、Rosa Sidan、Badoo、PornHub、OnlyFans、SnapchatPremiumなどであった。
ポルノの対価はちゃんと支払われているか
調査参加者の半数は、ポルノを買春者に送った後に報酬が支払われなかったり、サイトにアップロードする際に報酬が支払われなかったりする経験を持っていた。ポルノでの収入は、非撮影型の売買春よりも低く、不払いはよくある詐欺である。
ポルノピンプは、ピンプ行為、人身売買、強要行為に従事する個人として理解されているか
理解されていない。ポルノピンプは、マネージャー、プロデューサー、ポルノ業者、アカウント・マネージャー、クラブオーナー、保護者、友人といった名前を持っていることが多い。インタビュー対象者が自分の友人をこのような悪徳ビジネスマンに紹介すると、金銭的利益を得られることがしばしばあった。
ポルノ制作過程で強要行為は起こっているか
起こっている。インタビュー対象者の4分の3は、ポルノ買春者が見て要求したものを演じるよう強要された経験がある。売買春において、64%が同意なしに撮影されたり写真に撮られたりしていた。ポルノ制作中、71%が本人が望んでいない性行為を強要されていた。
ポルノ制作に組織犯罪が関与しているか
関与している。インタビュー対象者の4分の1がギャングの関与を報告している。ある女性は、「暴力的な男が主導権を握っていて、ドラッグ、武器、売買春で稼いでいた。私は彼が何かをするのを見たことはないが、彼は手下たちに大きな影響力を持っている。彼はOG(オリジナル・ギャングスター)だった」。スウェーデンで活動する他の犯罪組織には、ヘルズ・エンジェルズ、東欧やアルバニアのマフィア、バンディドなどがいた。
ポルノの支払いはどのような方法でなされていたか
主に使われていたのは、Swish、銀行間送金、Paypal、Mastercard、VISAなど。
ポルノや売買春における性行為の支払いに関与していた銀行はどこか
スウェーデン銀行、ノルデア銀行、ハンデルスバンケン銀行、スカンディナヴィスカ・エンスキルダ銀行(SEB)は、スウェーデンの4大銀行であるが、いずれもポルノや売買春の搾取者から搾取される人々への送金に関与していた。
ポルノ製作において拷問行為は行なわれているか
売買春の中の女性たちに行なわれ、ポルノとして撮影された性行為は、法的には拷問と定義される行為と同じである。言葉による性的嫌がらせ、望まない性行為、ヌードの強要、レイプ、性的嘲笑、身体的・性的嫌がらせ、基本的な衛生状態の侵害など。
ポルノや売買春が健康に及ぼす悪影響は何か
・心的外傷後ストレス障害……インタビュー対象者の81%がPTSDと診断されたが、これは退役軍人、虐待を受けた女性、拷問サバイバーと比べても極めて高い割合である。
・解離……インタビュー対象者は解離の割合が極めて高く、感情的にも身体的にも対処不能な混乱を感じていると答えている。解離とは、制御不能な出来事に対する反応であり、自分の現在の感情的・身体的状態から心が切り離されることである。解離は、拷問を受けている戦時捕虜、性的暴行を受けている子どもたち、虐待、レイプ、売買春を受けている女性たち、売買春の様子を撮影されている女性たちの中で、極度のストレスに見舞われた際に起こる。
・暴力による負傷と健康破壊……インタビュー対象者の77%が頭部に傷を負っていた。多くの人が生涯にわたる暴力を受けており、売買春やポルノ製作の際に極度の暴力を受けたと述べている。
自殺未遂、自殺を目的としない自傷行為(NSSI)、解離は関係しているか
関係している。意図的な自傷行為としてのセックス、自傷行為としての売買春、自殺未遂、そして切創や火傷などの意図的な自傷行為は、多くの人に共通していた。私たちのインタビュー対象者は、63%から71%の割合でこれらの有害な行動を行なっていた。これらの自傷行為はすべて解離と関連していた。
「ポルノ愛好家」や「ポルノフォロワー」とはどういう人々か
インタビュー対象者の一人が、「私は彼らをフォロワーとは呼ばない。彼らは買春者であり、買春者とは例えば撮影機器を買う人のことだ」と説明した。インタビュー対象者の54%がメールで脅迫され、39%が「dox」(個人情報が家族や雇用主に公開されること)を受けたことがある。
被害者はどのようなサービスを必要としているか
ポルノや売買春に関わったあるインタビュー対象者は、個別カウンセリング、ピアサポート、医療ケア、護身訓練、家や安全な場所、法的支援、職業訓練を必要としていると語った。
スウェーデンで利用できるさまざまなサービスをどのように評価しているか
インタビュー対象者は、薬物乱用者向けサービス、失業サービス、身体的・精神的な医療サービス、住宅の提供、社会的サービス、ドメスティック・バイオレンス被害者向けサービス、警察の保護、といった種々のサービスが役立ったかどうかについて話してくれた。ポルノや売買春の中の男女は、あまり細分化されていないサービスが必要だという考えを表明した。彼ら・彼女らは、施設や機関同士のより良いコミュニケーションを望んでいた。
ポルノピンプやポルノ買春者に、ここに述べたような被害に対する責任を負わせるために利用できる法的措置は存在するか
存在する。本報告書の最後で、カナダ、フランス、米国で進行中の、加害者に対する刑事告発と法的措置について説明している。
本報告書では、専門家――つまり、ポルノ制作の現場を実際に経験した女や男たち――から多くを学んだ。以下は、報告書に掲載された彼女たちの言葉のいくつかの例である。
「セックスをすればお金がもらえる、単純なことだ。ただひとつ違うのは、一方は〔撮影されて〕記録に残り、もう一方は残らないということだ」。
「それはあなたを内側から蝕む癌のようなものだ」。
「私はプロのレイプ被害者だ」。
「ポルノというと、多くの人がスタジオで撮影されると考える。しかし、実際には虐待が撮影されたものかもしれない。視聴者にはわからない。視聴者は、同意があるかどうかを知ることができない。そして、たとえ同意があったとしても、その結果はずっとそこにあって被害を生み続ける」。
「私を売った人物は、私を撮影するためにそこにいた。つまり、彼はピンプ行為であると同時にポルノ制作者でもあり、一種の何でも屋だったのだ」。
「ポルノは何年もつきまとう。ビデオや動画は公開され、人間関係や仕事などすべてを破壊する」。
「ポルノはいろいろな点で心を打ちのめす。あなたは取るに足りない存在で、好きなだけ叩けるサンドバックであり、オナニーのためのオカズであるが、人間ではない」。
「男にとってのゲイの世界はとても過激で、セックスを売り買いし、限界はない。たとえクスリを盛られて意識を失ってから犯されても、笑いの種にされる」。
「セックスを買う奴はみんなレイプ加害者だ」。
「売買春は私にセックスについて何も教えてくれなかったが、暴力的な男についてはたくさん教えてくれた」。