【解説】以下は、イギリスのアボリショニスト組織ノルディックモデル・ナウが、2025年9月8日にブライトンで開催したイベントで、売買春サバイバーのジェナさんが行なった報告の翻訳です。このイベントは、イギリスの労働組合ナショナルセンターであるTUC(労働組合会議)の少数派グループといっしょに行なわれました。イギリスの労働組合の主流は、もともとは北欧モデルを支持していましたが、欧米左翼の新自由主義化とセックスワーク論の浸透のせいで、今では売買春の完全非犯罪化に傾きつつあります。こうした動きに抗するために、ノルディックモデル・ナウとTUC内の少数派は今回のイベントを開催しました。ノルディックモデル・ナウとジェナさんの許可を得たうえで、ここに全訳を掲載します。
ジェナ
Nordic Model Now!, 2025年12月5日
みなさんこんにちは、私はジェナと言います。これから、売買春に関する私の個人的経験についてお話しさせていただきます。
私は性産業のさまざまな現場で働いてきましたが、数年前に完全に抜けました。これが私の経歴とここに来た理由の簡単な紹介です。もちろん、これが私のすべてではありません。
私は単なる元売春婦ではありません。母親であり、パートナーでもあります。資格を持った仕事にも就いています。それに、私は本当のところ「ジェナ」でもありません。これは単に、自分の経験を語る時に使う名前にすぎません。そうするのは、この部分が自分の人生の中で、いつも思い出したくない、あるいは結びつけられたくない部分だからです。
女性が性産業から抜け出しても、その後、戻らないですむのは本当に難しいことです。この産業のあらゆる側面を、つまりピンプや買い手も含めて非犯罪化することは、再び戻ろうとするもう一つの誘因になるだけです。本当は戻りたくないところに再び戻ってしまうもう一つの理由になるのです。
セックスを買うのは実に簡単です。料理のテイクアウトを注文するのと同じくらい簡単で、時にはそれほどの金もかからないのです。でも、私はそうであるべきだとは思いません。私たちは人間です。消費されて10点満点で評価される商品ではありません。
金を払ってセックスを買う男たちは、みなさんの身近にいます。病院の職員、店員、職場の同僚たちです。彼らは特別な階級の男ではありません。そして、性を売る女たちも特別な階級の女ではないのです。私たちはあなたたちと同じように感情を持っています。私が「やめて、痛い!」と何度も訴えた時、私はただ面倒なセックスワーカーでしかありません。同じ言葉を別の場で女性が発すれば、それはレイプです。
でもそれは私にとっては同じ感覚でした。それはレイプのように感じました。なぜなら、実際にそうだったからです。男がこっそりコンドームを外すのもレイプです。女性の抑圧に目をつぶり、「セックスワークは仕事だ(sex work is work)」と言い張る社会、そういう社会の問題は、私たちが誰を信頼していいかわからなくなることです。
売買春に足を踏み入れることは、まるで終身刑のように感じることがあります。やめた後でもそうなのです。何度も見る悪夢、あの時のことを思い出させるさまざまなもの、ただ幸せになろうとしている時に突然湧き起こる感情。買春者にはそんなものはありません。彼らはみな匿名性を許されています。引き起こされた結果や被害を目にすることはないのです。
もしそのすべてを合法化したらどうなるでしょうか? 業界を非犯罪化することでそれに立派な体裁を与えたら? 女性たちの状況は変わるのでしょうか? 男たちは汚れた体でシャワーも浴びずに店にやって来ることはなくなるのでしょうか? 今、私たちに苦痛を与えている者たちが考えを変えるのでしょうか? 爪の間に垢を詰めたまま現われることがなくなるのでしょうか? 私は疑わしく思います。けれども、こうした男たちの生活がより快適になるのは間違いないでしょう。そして、彼らが利用する女性たちから利得を得ている者たちの生活も安楽なものになるでしょう。
売春をやめた後にも人生があります。それは一つの希望です。けれども、そのためには私たちは売買春をありのままに呼ぶ必要があります。つまり、それを虐待だと指摘することができなければなりません。私は自分が幸運だったと思っています。なぜなら、抜けたいと思った時、それが可能だったからです。そしてたとえ困難であっても、そしてまだ不安定な部分があっても、私はけっして戻らないでしょう。
完全な非犯罪化は、私にとって「狩猟許可」を意味します。それは、この業界、つまり想像しうる最も過激な方法で女性を利用する男たちの秘密の裏社会にゴーサインを出すということです。男たちを性的に興奮させ、彼らの妄想を満たすこと、これは仕事ではありません。それは、女性としての私たちの仕事でも責任でもないのです。しかしながら、若い女の子や弱い立場の女性と少女たちがそう思ってしまう理由もわかります。
もし初めて目にする性行為が、画面上で男が女を傷つけ虐待する姿なら、このような混乱がどこから生じたかがわかるはずです。もし初めて体に触れられたのが、信頼していたはずの大人によるものなら、混乱がどこから来ているかわかるでしょう。これが業界に身を置く多くの人々の現実なのです。
みなさん、私の目を見て「セックスワークがあなたをエンパワーさせる」などと言えますか? 言えないでしょう。男に責任を取らせ、女性たちに正義が実現できることを示し、女性が自分のために生きる自由を与え、自分の目標を達成できるようにすること――それこそがエンパワーメントです。これを実現できるのは北欧モデルであって、完全な非犯罪化ではありません。
過激な性的行為やいわゆる「セックスワーク」はノーマルなものとされ、その極端な性質は歪められすぎて、もはやほとんどセックスとは言えないものにさえなっています。このままこの道を歩み続けてはなりません。
すでに、OnlyFans のクリエイター、さまざまなパーティーに参加する女性、マッサージパーラーなどの性風俗店で働く女性たちに悪影響が出ています。現実の被害が目に見えるようになってきている段階に至っているのです。みなさんは本当にこの業界で働く女性を増やしたいのですか? すでに言いましたが、彼女たちは普通の女性なのです。何も感じない超能力など持っていません。男もいたって普通の男たちで、相手が被っている被害を意識しているわけではありません。
この業界を離れた後、私は素晴らしい支援を受けることができました。それが私の人生を変えたのです。おかげで、過去を振り返り、自分が経験したことを本当に理解できる余裕が生まれました。業界から抜ける女性に必要なのはまさにこれです。
私は身近な人から「そういうのが好きな女もいる」と言われたことがあります。以前なら私も「自分は好きでやってる」と言ったことでしょう。たぶんそう言ったと思います。でも、今となってはそれは最悪の悪夢です。驚くべきことに、男が女を痛めつけるときでも同じことを言う人がいます。男が女性の首を絞めたり、鞭を使ったりして楽しむときも、「でも、これは合意の上だから! 別に恥ずかしいことではない」と。
私たちは互いに傷つけ合い、傷つけられることに慣れてしまっています。そこには何も進歩的なものはありません。
私は時おり、こうした行為が受け入れられていることに心底悲しくなります。もし完全な非犯罪化が実現したら、さらにどれだけ多くの女性が傷つき、どれだけ多くの男が常習的な買春者になるかと思うと、本当に恐ろしいと感じます。今のシステムは機能していません。そこに関わる人を増やしても問題は解決しません。必要なのは、実際に被害を直視するアプローチです。被害を軽視したり、ごまかしたりしない方法が必要なのです。
今日お話したように、北欧モデルがすべての女性の被害を止められるわけではありません。けれども、出発点が必要なのです。完全な破滅へ向かうこの列車から飛び降りなければなりません。私自身も、長年にわたり何度も自殺を試みてきました。自分の身に起きたことをすべて忘れることができたらと思いますが、無理なのです。ですから、私にできることはそれを人に伝えることです。そして、他の女性たちが傷つくのを止める努力をすることです。あなた方にも、それができるはずです。
重要な変革をつくり出すためには、臆病であってはいけません。私たちが直面する現実を真正面から受け止め、率直に向き合わねばなりません。同じ社会の中の若者たち──少年も少女も──に必要なのは、私たちが彼らを守り、安全を感じられるよう支えることです。ですからどうか、この若者たちのために声を上げ、非犯罪化と売買春にノーと言ってください。