【解説】以下は、イギリスのジャーナリストでフェミニストであるジュリー・ビンデルさんの最新記事の全訳です。ドイツやオランダは売買春を合法化した結果、人身売買がはびこる国となりました。ヨーロッパの左派政党や、アムネスティ・インターナショナルなどの国際人権団体、それに国連のいくつかの機関は、「セックスワーカー」の人権保護を名目に売買春の完全合法化、非犯罪化を提唱していますが、それが被買春女性を保護するのではなく、ただ業者側(ピンプ=女衒)に対する贈り物にしかなっていない実態をこの記事は暴き出しています。ビンデルさんは記事の中で、ドイツの業者が「テスター」(覆面検査員)を雇って、売春婦の「品質検査」をさせているという衝撃の事実を明らかにしています。また、スイスでは、男性の受刑者が刑期を終える前に、移民管理センターに収容されている売春女性を訪問することが当局によって許されていたことも明らかにされています(同じような制度はドイツにもある)。戦前日本の慰安婦制度とほぼ同じものが、現代の「先進的」ヨーロッパに存在しているわけです。なお、読者の便宜のため、内容に即していくつか小見出しを入れています。
ジュリー・ビンデル
『アンハード』』2023年9月25日号
テスターを雇って「品質管理」をするドイツの業者
「売春店のテスター(品質検査員)になるために必要なものはあるか?」――意外にも、ドイツの性市場における最新の残虐行為を調べているときに、この一文が目に留まった。私が「ピンプ国家(女衒国家)」と呼ぶ、売買春のあらゆる側面を合法化した政府は、性売買を大きく後押しする一方で、当事者女性たちに対する常軌を逸した暴力を可能にしている。では、売春店のテスターは労働条件を改善するために雇われているのだろうか?
求人広告を見れば、そのヒントが得られる。最初の条件はこうだ――「数年間の売春店訪問による実地経験〔つまり買春経験〕」、そして「エスコート嬢との経験者は有利」。求められるのは、「清潔感のある身だしなみ」と「健康診断書」だ。「人と接するのが好き」で「接触恐怖症でない」ことが不可欠だ。仕事内容は単純だ。「売春店のサービス、清潔さ、より安全なセックスを実践しているかどうかをチェックする。さまざまな女性とセックスを楽しみ、評価を作成する」。この仕事は男性にしかできないように思われる。
多くの合法売春店では、覆面検査員を雇っている。これは「試験購入」として知られている。その目的は、売買春女性が提供している「サービス」の質を評価することだ。少しでも彼女のパフォーマンスに手抜きがあることがわかれば――たとえば、売り手である自分も楽しんでいることを買春者に納得させられなかったり、買春者が要求する特定の性行為を拒否したりするなど――、売春店のオーナーからただちに罰金を科せられる。これが合法売買春の現実だ。売買春はピンプと買春者に利益をもたらし、女性たちには何の保護もない。
売春店テスターの広告は、「カウフミッヒ」〔ドイツ語で「私を買って」の意味〕が運営するウェブサイトに掲載されていた。「カウフミッヒ」とは、自らを「セックスワーカー、顧客、売春店、エロチックな環境づくりの会社のためのソーシャルネットワーク」と称する企業である。ドイツの性売買で有給の仕事を探しているなら、「カウフミッヒ」はお勧めのサイトだ。同サイトはまた、地元で最高の「輪姦セックス・パーティー」から、セックスを売っている妊娠中の女性の調達まで、あらゆる情報を買春者に提供している。
売買春の合法化によって見捨てられる女性たち
ドイツ、オランダ、スイスなど、売買春のあらゆる側面が完全に合法である国では、女性は商品として販売され、買春者は顧客とみなされ、ピンプは単なるマネージャーにすぎない。性売買をきれいなものに見せるプロジェクトの核心は、性売買を説明するために使われる言葉である。1970年代、売買春の包括的合法化を主張したキャロル・リーは、売買春は「他のどの仕事とも同じ」であることを言うために「セックスワーク」という言葉を作った。私はこの言葉が、「セックスワークはお仕事(sex work is work)」「ブロージョブ〔フェラチオ〕は本物のジョブ(blow jobs are real jobs)」と同様に、プラカードに大書きされているのを何度も目にしたし、合法化を推進する集会で唱和されているのも聞いてきた。売買春が単なる仕事なら、どうしてそれが虐待になりうるというのか、売春が単なる仕事であるなら、どうして社会全体にとって有害になるのか、というわけだ。
けっこうな考えだ。しかし実際には、合法化によって女性たちは恐ろしいほど脆弱な立場に取り残されている。ドイツでは、現在の法律は買春者にほとんど何のルールも課していない。コンドームの使用は義務化されているはずだが、ある「メガ売春店」の女性はこう指摘する。「いったい誰が、そのルールを客に強制し、そいつのペニスに装着するというのか。そして、そいつが取り外すのを――そういうことはしょっちゅうだが――どうやって止めるのか」。
一方、女性たちには高度な管理が課せられている。彼女たちは、最長15時間、夜中の3時まで現場にいることになっている。売春店のオーナーが、常に数十人の女性から選ぶことができると自信を持って宣伝できるようにするためだ。売春店の敷地内にいる間は、すべての売春女性には部分的ないし完全なヌードが要求される。どんなパフォーマンスをするかについて彼女たちに決定権はない。どのような「サービス」を提供するか、「フェラチオが基本料金に含まれているか」などはすべて店側が決める。
ドイツの文化において、売買春はさんざん美化されてきた。テレビの主流番組には合法的なピンプが数多く登場する。メガ売春店「パラダイス」を経営するピンプの一人、ミヒャエル・ベレティンは、売春店を評価する自身のテレビ番組『レッドライト・エキスパート』を持っていた。ベレティンはテレビ契約を結んでいた時期、当時の妻に深刻な暴行を加えていた。そして2013年、犯罪捜査当局は、犯罪組織がこのビジネス内で活動していることを突き止めた。かなりの数の女性が他国から人身売買されていた。売春店のオーナーたちは5年の実刑判決を受けた。
しかし、これは氷山の一角にすぎない。いわゆる「ワーカー」がこれほど極度の暴力、虐待、貶めにさらされる仕事は地球上に他にない。2018年のある調査では、60%以上が外傷性脳損傷を負っていた。
スイスの実態
それにもかかわらず、ヨーロッパの各国当局は性売買を容認し続けている。スイスのチューリッヒでは、郊外に大規模な「セックス・パフォーマンス・ボックス」地帯(郊外に設置されたドライブスルー型の屋外売春店)があり、公的資金によって維持されている。毎日、自治体の職員が使用済みコンドームや汚れたティッシュ、空のローションチューブでいっぱいのゴミ箱を空にしている。スイス政府は年間80万ドル以上〔約1億2000万円〕を投じてこのブースを維持している。スイス政府は、経済的に絶望的な状況にある女性に男がお金を払ってセックスしやすくすることに熱心だ。2014年には、ジュネーブ近郊にある受刑者のための社会療法部門「ラ・パクレット」の受刑者が、地元の移民管理施設に収容されている被買春女性たちを訪問するのを許されていたことが明らかになった。スイスのフェミニスト人権団体「エンド・デマンド」のメンバーによれば、この訪問の背景には、男性受刑者が社会復帰を前に「ガス抜き」ができるという考えがあったという。
最近のエビデンスによれば、スイスのセックス市場にいる女性たちに対する身体的・性的暴力は日常茶飯事だという。幸いなことに、国内では合法的な売買春を廃止し、買春者を犯罪化しようとする動きがあり、それがますます多くの政治家によって支持されている。
アメリカのネバダ州の実態
しかし、問題はヨーロッパ以外にも広がっている。アメリカで唯一売春店が合法であるネバダ州でも、その実態はひどいものだ。私は同地のいくつもの売春店を訪問取材したことがあるが、店内の状況はウェブサイトに掲載されている華やかなイメージとはまったく違っていた。多くの女性たちが、ポルノがループ再生される一室で生活し、そこで売春をする。彼女たちは自分の私物を見えるところに置くことさえ許されず、売春店(多くの場合、金属製の門で囲まれている)から出ることが許されるのは、ピンプ見習いの付き添いがある場合だけだ。これは、合意の上でのセックスで性感染症にかかる可能性に備えてのことだ。
売春店に入る際、買春者が病気にかかっていないことを示す必要はないが、女性たちは毎週検査を受けることが義務づけられている。売春店のオーナーは通常、売春女性の稼ぎの半分を懐に入れるが、売春女性はコンドーム、ウェットティッシュ、シーツ、タオルを自腹で払うことになっている。
もちろん、これは儲かるビジネスだ。ネバダ滞在中、私はアメリカ最大のピンプであった故デニス・ホフ(2018年に死去)に会って取材したことがある。彼は当時営業していた合法売春店の大半を所有していたが、合法的な世界で営業していたため、そのレッテルを受け入れることを拒否した。「俺はビジネスマンだ」と彼は言った――「ちゃんと認可を取っている」。ピンプにとっては、利益がすべてなのだ。女性たちの幸福や生活は関係ない。ネバダの売春店で私がインタビューした売春女性たちみな、買春者とセックスしている間、自分の感情から解離することを目的とした戦術を使って対処していると話していた。ある女性は、行為のあいだ中はいつもマントラを繰り返していると話してくれた――「私は自分を売っているのではなく、1時間だけ体を貸しているだけだ」。
組合化の失敗
売春女性は切実に保護を必要としているが、こうした「ワーカー」を組合化しようとする試みはことごとく失敗に終わっている。2002年には、「セックスワーカー、労働組合に加入へ」という見出しが、ロンドンの新聞の一面を飾ったことがある。性売買の合法化を求める人々が、売買春は仕事であり、セックスを売る者は「労働者の権利」に値すると、イギリス第3の大組合である「全国都市一般労組(GMB)」を説得したのだ。
今はなき国際セックスワーカー・ユニオン(IUSW)はけっして組合ではなく、ピンプ行為〔他人に売春させて利益を得る行為〕の非犯罪化を求めるロビー団体である。初期の頃、その主なスポークスマンは2人のゲイ男性だった。彼らは、「セックスワーカーの権利」論争において、どちらかといえば代表的でない声(セックス市場全体のうち、男性にセックスを売る男性はせいぜい20%)を支配するようになった。そのうちの一人、ダグラス・フォックスは、イングランド北東部を拠点とする大規模な「エスコート・エージェンシー」〔デリヘル会社〕の共同経営者だった。
組合を装ったもう一つの組織は、アムステルダムを拠点とする「レッドスレッド」だ。1984年に設立され、1987年からはオランダ政府から資金援助を受けていたが、その最盛期でさえ、国内に2万5千人いると推定される売春当事者のうち、組合員はわずか100人だった。「ワーカー」を代表して裁判で争ったことは一度もない。それは単に売買春合法化のためのプロパガンダ機関として機能したにすぎない。「レッドスレッド」が政府資金を失ったのは、合法化が惨憺たる大失敗に終わったというオランダの実態が国際メディアによって報じられ始めたからだった。この合法政策のもとで、人身売買やピンプ行為はむしろ増加し、組織犯罪が横行し、女性は暴力から守られていないことがわかった。
安全な売買春は存在しない
売買春の合法化を主張する人々は、それによって売春女性がより安全になると主張する。多くのリベラル派や一部のフェミニストを含む非犯罪化推進派は、「セックスワーカー」は組合への組織や安全衛生措置によって保護されると主張する。しかし、売買春は本質的に虐待的なものだ。それを安全にする方法はない。
そして合法化のもとでは、被買春女性は検査されることはあっても、保護されることはない。セックスを売ることが生活のためにハンバーガーを焼くことと同じであるならば、結局、製品の品質管理が必要なのだ。これは、合法化が女性を裏切る一方で、男性に利益をもたらすという、もう一つの重大な証拠である。ドイツで売春店の検査業務に就く幸運な候補者が誰であれ、彼は容易に、売春が普通の仕事であるという建前を維持することができ、その一方で「いろいろな女性とセックスを楽しむ」よう奨励される。
その女性たちが何を考え、何を感じ、何を経験しているかなんて、誰が気にするだろうか? 女性の身体が商品となったとき、彼女たちは人間でなくなり、彼女たちを売買する男たちはもはや人道的であると主張することはできない。これこそまさに、売買春の合法化が実現することである。
出典:https://unherd.com/2023/09/legal-prostitution-is-a-gift-to-pimps/