ルバ・フェイン「国連も売買春サバイバーの声を聞かなければならない――リーム・アルサレム報告書の画期的意味」

【解説】このサイトでつい最近紹介したリーム・アルサレム国連特別報告者の報告書「売買春と女性・少女に対する暴力」の画期的意義について、自身も売買春サバイバーであるルバ・フェインさんが、イギリス共産党系の日刊紙『モーニング・スター』に記事を書いたので、本人の許可のもと、その全訳を掲載します。

ルバ・フェイン

『モーニングスター』2024年6月19日

 2024年5月に国連女性差別撤廃委員会特別報告者のリーム・アルサレム氏による最新報告書「売買春と女性・少女に対する暴力」が発表されると、サバイバー、支援団体、フェミニストグループに衝撃が走った。この報告書が、売買春を暴力のシステムとして、すなわち、性的行為を購入する男性と少年、その行為を満足させるために買われる女性と少女、そしてこの搾取から利得を得る第三者、これらが関与する暴力のシステムとして理解されなければならないと宣言したからだ。

 この報告書は、「セックスワーク」という用語が、売買春に内在する深刻な人権侵害を覆い隠していると批判し、代わりに「被害者」や「被買春女性、被買春少女」といった用語を使用するよう提唱した。さらに、同報告書は、各国政府に対し、一方で売買春の中の買われている人々を非犯罪化し、包括的な支援と離脱の筋道を提供しつつ、他方で、性行為の購入を犯罪化し、あらゆる形態のピンプ行為を処罰するとともに、買い手に対してその行為の害悪について教育を行なう、というアボリショニズム〔北欧モデル〕の枠組みを採用するよう強く求めている。

 私たちを驚かせたのは、主張そのものではなかった。実際、報告書全19ページに書かれている内容は、性産業に関して私たちにとって目新しいものではなかった。これらは、売買春のサバイバーである私たちが何十年も言い続けてきた真実だった。それなのに、なぜ私たちはそれほどショックを受けたのか?

 私たちが衝撃を受けたのは、これまで何十年もの間、国連に関係するあらゆる人物や専門家が私たちを裏切り、「セックスワークは仕事である(sex work is work)」という偽りのスローガンを繰り返してきたからだ。たとえば、国連における性的指向とジェンダー・アイデンティティに関する独立専門家であるビクター・マドリガル=ボルロズ氏は、「セックスワークは仕事である。しかし、犯罪化とスティグマにより、セックスワーカーは差別と暴力の特別なリスクにさらされている」と述べている。

 同様に、国連人権理事会健康権特別報告者のトラレン・モフォケン博士は、「セックスワークは仕事である」と宣言し、「2023年の私の願いは……南アフリカにおけるセックスワークの全面非犯罪化だ!」と付け加えた。これは、本質的にはピンプたち〔女衒〕の行為を合法化することを意味する。また、2023年、国連女性差別撤廃委員会は、「セックスワーク」を「性的サービスを提供する人々によって選好されている用語」だとして、それを使用する文書を配布し、ピンプを「マネージャー、オーガナイザー、ファシリテーター」と呼んだ。

 さらに、UNエイズは2021年に「セックスワークとは、成人同士の合意に基づくセックスである」とする文書を発表し、セックスワーカーが直面する深刻な不平等は、ピンプや買春者による不可避的な暴力によるものではなく、「懲罰的な法律、政策、慣行」に起因すると主張した。彼らは、ピカピカのオフィスで高給を得ながら、劣等なカテゴリーである女性には、見知らぬ男性の性器を体内に挿入されるという別の仕事があると宣言しているのだ。 これらの人々は、グローバルな人権擁護を任務としているにもかかわらず、人権の本質を損なう有害なナラティブを延々と唱えている。

 これらの操作的な言い回しは、化膿した傷を人権的言語という殺菌消毒された包帯で包むようなものであり、門外漢をミスリーディングするものであるが、性産業の恐怖に耐え、その実態を理解することに人生を捧げてきた人々にとってはそうではない。私たちは、法律や社会的な枠づけとは無関係に、売春がまともな仕事であるはずがないことを知っている。従業員が顧客の体内で行為を行なうような仕事は存在しない。男性による暴力がこれほどまでに極端で避けられない分野は他にない。未成年であること、未経験であること、世間知らずであることに高い報酬が与えられ、縛られたり、薬物を投与されたり、深刻な認知障害を抱えながら働けるような分野は他にない。これらはすべて、売買春ではあまりにも一般的である。

 さらに、売買春には、パートナーの選択、性行為の内容、タイミング、同意を撤回する自由といった、強制的ではない同意の前提条件が存在しない。そのため、私たちは「セックスワーカー」というレッテルを貼られることを拒否する。この言葉は、リーム・アルサレムが「被害者をガスライティングすることだ」と正当に批判したものである。私たちは、売買春の被害者のほとんどが、加害者を「顧客」や「経営者」として位置づけるよりも、そこから逃れたいと思っていることを知っている。しかし、深刻なトラウマやリソースの欠如が、それを妨げているのだ。

 売買春を単なる仕事だとするのは、性産業が本質的に持つ暴力を解決することにはならない。では、この問題に効果的に取り組むにはどうすればよいのだろうか?

 性産業のサバイバーたちは答えを持っている。私たちは、どんな状況であっても、ポルノグラフィを含むあらゆる形態の売買春に関与しないことが、誰にとっても最善の選択肢だと考えている。売買春に関与することは破壊的で有害であり、被害者を肉体的、経済的に、精神的に、そして社会的にさらに悪い状況に陥れる。多くのサバイバーは、そのような深刻なトラウマに苦しんでおり、完全に回復することはない。

 売春は需要によって成り立っているため、現在の被害者、潜在的な被害者、そして社会にとって、ピンプと買春者を根絶するための立法、それの施行、啓発に力を注ぐこと以上に有益な戦略はない。ピンプや買春者がいなければ、どんなに弱い立場に置かれていても、女性、男性、子どもを問わず、性産業で搾取されることはない。すべての売買春制度は廃止されるべきである。

 人間の尊厳を守るべき人々が座っているピカピカのビルの高い窓の下から必死に叫び声を上げようとしてきた数年の後、私たちは初めて、カウンセリング、私たちの文書、そして現場で得た広範な知識に基づく国連報告書を目にするという僥倖に恵まれた。リーム・アルサレムは、19ページにわたる報告書でもって、虐待者に対する国連関係者の全面的支持という津波を食い止めようとしているが、それは、堤防の決壊を防ごうと割れ目に指を差し込んだオランダの少年にとどまるのか、それとも、国連機関とその関連機関においてようやく人道主義への転換を目の当たりにするのか?

 時が経てばわかるだろう。それまでの間、私たちは、売買春のサバイバーとして、私たちの声がようやく聞かれるようになってきたと宣言する。立ち止まらないでほしい。売買春を廃止しようという私たちの要求をどうか支持してほしい。

出典:https://morningstaronline.co.uk/article/voices-prostitution-survivors-must-be-heard-%E2%80%93-including-un

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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