全国公娼廃止期成同盟会「国民に訴ふ――公娼の全廃に就いて」(1923年11月)

【解説】これは、関東大震災によって吉原遊廓が焼失し、多くの娼妓が焼死ないし溺死した事件を受けて、キリスト教婦人矯風会をはじめとする宗教系の婦人団体や社会事業活動家、さらに無産婦人運動の活動家も加わって、1923年11月3日に結成された全国公娼廃止期成同盟会(母体は、震災の被害者救済のために諸婦人団体が結集して作った東京連合婦人会)が出した国民へのアピール文である。起草したのは、女性社会主義者として有名な山川菊栄であり、無修正で採択された。これまで協力関係になかったキリスト教系の婦人団体と無産婦人運動の活動家とが協力して廃娼のために立ち上がったことは、歴史的に重要な事実である。

 本文は『週刊婦女新聞』1923年11月18日号に掲載されたものによっているが、『女たちが立ち上がった――関東大震災と東京連合婦人会』(折井美那子・女性の歴史研究会編著、ドメス出版、2017年)に資料として掲載されたものも参考にしている(ごくわずかな違いがある)。旧漢字旧仮名などは新漢字新仮名に変え、読みやすいよう平仮名を増やしている。

 未曽有の大震災によってひとたび焦土に帰した東京は、全国民の献身的な努力によって、今や復活の緒につき始めております。私どもは活気横溢した新東京の出現を歓喜して迎えると同時に、数万の生霊と百億の富とを犠牲にして得た、あまりにも痛ましくまた尊い教訓を空しくせぬよう、この機会に際して、能うかぎり社会全般の改革を実行したいと思う者であります。

 その改革事業の一つとして、ぜひともこれを機会に断行せねばならぬのは公娼の全廃であります。貧困にして無知な家庭の娘たちの売買を国家が公然許容し保護するこの制度の不正、不合理、非人道は、今さら申すまでもありません。この制度の存置によって五万の姉妹は国法の公認のもとに奴隷生活を強要せられ、その血と肉とは貪婪(どんらん)にして残忍な奴隷売買業者を肥やす糧となっております。九月一日、猛火に包まれた吉原遊廓では、楼主が逃走を恐れて娼妓の避難を許さなかったため、無慮数百名の姉妹は惨死し、中には土蔵の中で生きながら蒸し焼きにされたのも少なくはありませんでした。非常時におけるこのような処置に照らしても、平素における楼内の姉妹の生活が窺われるではありませんか。実に彼女らは往古の奴隷にもまさる悲惨な生活、獄裡に呻吟する囚人にも劣らぬ過酷な換金に身をゆだねているのであります。

 公娼制度が社会一般の風紀を維持するどころか、かえってそれを紊乱させるものであること、検黴(けんばい:性病検査)が単に女性に対する絶大の侮辱であるにとどまらず、その効力が皆無であること等は、つとに内外の学者の証明された所であります。ゆえに私どもは首府の再興に際し、断じて遊廓の再興を許さず、これを機会としての全国の公娼制度廃止を主張するものであります。

 元より私どもは公娼の全廃をもって、より複雑な、より広大な一般売淫問題の解決と同視するものではありません。私どもは単なる公娼全廃に満足せず、進んで一般に婦人の地位改善によって売笑婦の発生を防止するために、女子教育の改善、婦人の職業的訓練の普及、失業救済、労働条件の改善、婦人および児童保護の社会的施設等の必要を認め、公娼全廃の運動と同時に、それらの方面の仕事にも、あるかぎりの力を尽くす手はずをととのえております。

 遊廓を復活しなければ東京の復活が困難であるというような貸座敷営業者の口吻は、単に無根拠の妄論なるのみならず、東京市民ならびに全国民に対するこの上ない侮辱であります。日本国民は売笑婦の力をからずには首府を再興することができぬほど、無智、無力、野卑、低級な民族であるという誣言に甘んずることができましょうか。

 震災救助および帝都復興の問題を中心として成立した東京婦人連合会有志はこの機を期して、全国の公娼撤廃を実現するため、ここに、新たに全国公娼廃止期成同盟会を組織し、左記の綱領により、着々実行方法を講ずることとなりました。同盟会は婦人を会員とすること、事務所を東京に置き、全国の大小都市に支部を置くこと、委員七名を挙げ、委員長、会計等を互選すること、毎月会費金十銭を徴収すること、会計部、出版部、宣伝部を置き、講演会の開催、会報(月二回)およびパンフレット等の出版基金募集等に当たること、および顧問弁護士依頼の件をすでに決定しました。

 正義を愛し、人道を重んぜらるる全国の兄弟姉妹よ、幾百年来の国民的汚辱を、古き東京とともに葬り去るために、奮ってこの事業にご賛同あらんことを。

  綱領

一、焼失せる遊廓の再興を許さぬこと。

一、全国を通じ、今後貸座敷および娼妓の開業を新たに許可せぬこと。

一、今後半ヶ年の猶予期間を付し、現在の貸座敷業者および娼妓の営業を禁止すること。

大正十二年十一月

全国公娼廃止期成同盟会

事務所 東京府下大久保百人町三五六

東京連合婦人会仮事務所内

  発起人

ガントレット恒子、羽仁もと子、服部数子、林ふく子、伊藤きん子、嘉悦孝子、金子しげり、川崎正子、河崎夏子、木崎花子、小泉種子、久布白落実、宮川静枝、三宅やす子、守屋東、村岡花子、新妻いと子、西川文子、沼澤幸、大江スミ子、荻野綾子、坂本真琴、竹越竹代、竹中繁、塚本はま、山川菊栄、安井哲子、与謝野晶子、吉岡彌生、他

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

コメントを残す