リラック・ツール・ベン・モシェ「見えない闘いに苦しむ売買春の中の女性たち──イスラエルの支援活動から」

【解題】以下は『エルサレム・ポスト』に最近掲載された記事の全訳です。筆者は、イスラエルで2011年から売買春から抜け出す女性を支援している「ターニング・ザ・テーブルズ」協会の創設者であり代表理事。イスラエルはいちばん最近に北欧モデルを採用した国ですが、北欧モデル法の制定はゴールではなく、単なる出発点です。魔法のように売買春が消えてなくなるわけではなく、社会状況がひどくなればなるほど、経済的貧困や格差が増せば増すほど、必然的に売買春は増えます。そうした中で、売買春の中の女性たちに具体的な支援を提供する団体の役割は決定的です。

リラック・ツール・ベン・モシェ
『エルサレム・ポスト』2025年8月17日

 過去2年間にイスラエル全土を巻き込んだトラウマや後遺症の中で、暴力や屈辱、肉体的・精神的ダメージを日常的に体験している女性たちがいる。その結果、以前の傷と同様に、彼女たちは何年も治療されない後遺症に苦しんでいる。軍隊の中の女性兵士のことではない。売買春の中の女性たちのことであり、長年にわたる無視の代償を心身で払っている女性たちなのだ。

 女性であれ男性であれ、何歳であれ売買春に踏み切るには、少なくとも次の条件のいずれか一つを満たしなければならない。早期の性的虐待、深刻な経済的困難、家庭環境の問題、そして驚くべきことに母親であることである。そう、売買春の中の女性たちのほぼ3分の2(62%)は、幼い子供の面倒を見なければならない母親であり、それゆえにいわゆる 「世界最古の職業 」に身を落としているのだ。負債、借金に借金を重ねていること、女性の首根っこを捕まえている暴力的なパートナーの存在は、イスラエルで生き延びるために女性を想像を絶する虐待的な職業に追いやるシナリオの一部である。

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)のサバイバーであるタリは、大人になってからもずっとこうした現象と向き合ってきた。彼女は売買春の被害者であり、性産業からの脱出を包括的に支援する組織「ターニング・ザ・テーブルズ」で回復し、規範的な生活を築くための重要なステップを踏んでいる。「以前は、自分が異質な存在だと感じ、まともに理解されていないと感じていました」と彼女は私に語った──「今は、私がいつも生きてきた現実を、周りのみんなが理解してくれているように感じています」。

 それは彼女にとって人生の使命である。彼女はそれを辛抱強く続け、現場にはすでに結果が現れている。タリはもう性産業には属していない。今、彼女は経済的に安定し、売買春の間に積み重なった借金を清算しつつある。

 彼女には、すべてが順調だったような別の時代の記憶がない。彼女にとってトラウマは早期から始まっており、困ったときに頼れる人がいなかったので、性的搾取産業に手を出し、抜け出すのが非常に難しい罠に吸い込まれたのだ。

 性産業に従事する女性たちは生き残りをかけて戦っている

 多くの人は、売買春の中の女性たちを助けるという問題を、彼女たちは生計を立て、自分や家族の生活を支えるための戦略としてこの道を選んだのだと言って片付けてしまう。私はちょっと違う見方を提供したい。性産業に従事する女性たちは、生存のために闘っているのだ。彼女たちは数ある選択肢の中から売買春を選んだわけではなく、他の選択肢を選ぶことが困難な特定の生活環境の下でこの恐ろしいサイクルに入ったにすぎない。

 国家の敵と戦う戦場において、上からの決定を遂行する能力がないまま戦う兵士たちのように、売買春の場に放り込まれた女性たちもまた、心身ともに生き残るために戦っているのだ。

 性産業における屈辱、暴力、不安、鬱、悪夢、そして身体的疎外感を生き抜いてきた女性は、その時々の状況に応じて、自分自身を表現する方法をたくさん持っている。すなわち、自己とつながっている時なのか、断絶している時なのか、彼女を助け、彼女の痛みを聞いてくれる人に向かって言っているのか、それとも、常に彼女を売春婦とみなして、売買春を単なる一エピソードとして見ている人からのくだらない質問に答えようとしている時なのか。

 自分自身とつながっているとき、彼女は実存的な苦悩と、外に出て自分自身の認識を回復したいという願望について話すだろう。何年も傷つけられ続け、被害者の魂に、治療法が知られていない不信の傷や痛みの傷を掘り起こすような状況で現われる複雑性PTSDに苦しんでいる。

 その時点まで、女性はもはや自分の人生をコントロールできているとは感じず、積極的に生き抜く力を奮い起こすこともできない。それどころか、売春店や路上に出没し続け、惰性で生きのびることになる。このような場合、バブルの外にいる彼女を見て、手を差し伸べてくれる人を必要とする。創造的な人生、満足感と充実感を伴った人生、毎朝ぐっすり眠った後に目を覚まし、仕事に行って、帰宅して、普通の母親でいることができる、そういうシンプルな人生だ。

 彼女たちは支援に値する

 戦争や軍事行動、その他の危機が起こるたびに、「ターニング・ザ・テーブルズ」に寄せられる支援要請の数は10倍にも増え、私たちは息も絶え絶えになる。女性が売買春をやめたいと言うのは、性的暴力の連鎖の外にある人生への希望を初めて表明しているということであり、私たちはそれに応える必要がある。

 「ターニング・ザ・テーブルズ」には、「感情を素直に出す(Wearing the Heart on the Sleeve)」というプログラムがある。社会起業家ダリット・ラヴィーとの協力により、人生において新しい何かを創造し、選択する力を養い、学び、アイデアを発展させるためのプラットフォームを提供している。8月に行なわれる売買春の被害に関する啓発月間にちなんで、女性たちはそれぞれ異なる技術を学び、それを応用してデニムジャケットをデザインするというプロジェクトが提示された。このジャケットを販売することは、彼女たちにとって売買春以外での初めての収入でもあった。

 私は毎日、前向きな見通しを必要とする女性たちに会っている。しかも、彼女たちはそれに値するのだ。私たちの助けがなければ、彼女たちは運命に見放されたままになりかねない。その一方で、このような大きな集団に埋め込まれた集団的トラウマは、彼女たちの状況を悪化させ、さらに極限へと追いやるだけだ。

 性産業に従事する女性や男性、そしてその子どもたちにとって、その被害がどのようなものであるか、そしてこの悪循環から逃れる最初のチャンスを得たいと願う人たちを助けることがいかに重要であるかを、誰もが知るべきだし、彼女たちはそれに値する。

出典:https://www.jpost.com/opinion/article-864458

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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