2025年9月1日
女性人身売買反対連合(CATW)
【解説】以下は、私たちの会も加盟している女性人身売買反対連合(CATW)が、2025年9月1日に発表した声明です。ドイツの2017年売春者保護法(PPA)に関するドイツ政府の公式の『評価報告書』を精査し、その問題点を指摘し、売買春を「労働」として保護しようとするドイツの法的枠組みの根本的限界を明らかにしています。
2002年、ドイツは売買春制度を合法化し、売春店経営を非犯罪化する売買春法(Prostitutionsgesetz)を制定した。この法律の結果、ドイツは今日、「ヨーロッパの売春宿」として広く知られるようになり、このレッテルはドイツ政府にとって、今もなお悩みの種となっている。2002年の法律が売買春の中の女性たちにとって社会保障や医療へのアクセスを改善しなかったり、搾取者や他の犯罪者に対する女性たちの脆弱性を減らすことができなかったという否定的な評価や厳しい報道を経て、ドイツ政府は2017年に売春者保護法(PPA)で法律を改正した。PPAは、被買春者と売春店、「サウナクラブ」、エスコートサービスを含むあらゆる種類の売春施設に関する全国的な認可制度を導入した。議員たちは、PPAが性的人身売買や組織的犯罪ネットワークの蔓延を審査し、その結果それを減少させるためのより良いツールを提供することを期待した。
2025年6月、ヨアヒム・レンツィコフスキー教授、ティルマン・バーチュ教授、ロベルト・キュースター教授の3人は、政府から委託されたPPAに関する評価(『評価報告書』)を発表し、同法の成果と称する成果を熱く語った。しかし、600ページにも及ぶこの報告書を精査してみると、その結論の多くが、深刻な欠陥のある方法論から導き出されたものであり、売買春制度に関する執筆者たちの個人的見解に影響されていることがわかる。
信頼できないデータ、偏った仮定、欠陥のある方法論
グローバルな数十億ドル規模の性売買は、ドイツだけでなく世界中で、過小評価されている複雑な現象である。その理由は、圧倒的に女性である被買春者の疎外、犯罪ネットワークの蔓延、性行為の買い手(買春者)とそれが与える被害の不可視性、さらには商業性産業を批判的に検討する政治的意志の長年の欠如、にある。売春者保護法(PPA)の評価において、『評価報告書』の著者はこれらの複雑性に対処しておらず、売買春システムの仕組み、個人への影響、社会への影響に対する理解や関心の欠如を示している。
本報告書は、PPA以前の入手可能なデータが著しく不足しており、ドイツの商業性産業における人口構成の動態や市場規模の変化を評価することが極めて困難であることを論じていない。今日に至るまで、ドイツ政府はドイツで売買春をしている人の数を把握しておらず、その推定は9万人から40万人である。PPAは売春当事者女性に国家への登録を義務づけているが、2024年時点で登録されているのは3万2300人にすぎず、そのうち圧倒的多数は東欧の経済的に最も脆弱な国からの移民女性である。例えば、認可売買春の中のルーマニア人女性の数は、ドイツ人の2倍である。新型コロナ流行、ロシアのウクライナ侵攻、インフレなど、他の複数の要因もドイツの性売買の客観的評価に影響を与えているが、この報告書では扱われていない。
報告書の執筆者たちは、PPAの有効性に関する肯定的な結論のほとんどを当事者の直接証言に基づかせており、2000人以上の個々の当事者を対象とした調査結果に特に重点を置いている。特筆すべきは、この特別な調査対象グループは、認可売春の中の集団全体よりも年齢が高く、教育水準が高く、健康保険に加入していることである。加えて、この調査グループの国籍は、その半数近くがドイツかオーストリアの市民であるが、ドイツの売春人口全体を代表するものではない。南米やアジア諸国出身の女性がドイツの売買春に広く浸透しているにもかかわらず、調査対象者の中に非EU市民がいないのは際立っている。
執筆者たちが「評価」のための調査を行なっていた時期、性的人身売買と売買春の分野の多くの専門家から、被買春者の大多数を占める非ドイツ語圏の人々にとって、調査票の言語アクセシビリティの欠如について警告を受けた。その後、調査は16言語に翻訳され、簡易版も発表されたが、その遅れがドイツ語を話さない多くの人々の参加を妨げたと思われる。さらに、社会学者マヌエラ・ショーンの指導の下、ヴィースバーデン市が長年取り組んできた、地域の性売買の範囲と人口統計を推定するための実地調査は、その方法論を本報告書の作成者と共有していたが、報告書の作成者はその勧告を考慮しなかった。事例報告によると、売買春をする人々が耐えている暴力的で有害な経験について話し合う際に必要な心理的サポートやトラウマに基づいたサポートがないため、オンライン調査のプロセスを途中で放棄した回答者もいたという。
調査対象者の不完全かつ選別された募集
『評価報告書』の「売春者(ママ)」サンプルの調査対象者は、ほとんどすべてオンラインによる匿名の自記式アンケートで募集され、そのほとんどは性売買のあらゆる側面の非犯罪化を推進する団体やネットワークによって配布された。そのなかには、売春からの離脱戦略よりも被害軽減に重点を置くカウンセリング・サービス、売春業者団体、売春広告サイト(売買春された本人ではなく、第三者である搾取者が頻繁に広告を掲載している)などが含まれていた。アボリショニスト団体は「北欧モデル連邦協会」(Federal Association for the Nordic Model)の一団体のみで、『評価報告書』に意見を提供したとされている。また、ドイツで唯一の売買春サバイバー組織である「ネッツヴェルク・エラ」からの意見聴取はなかった。
ショーンは、彼女自身の評価分析において、これらの売春擁護派の団体が配布した調査依頼票に対する回答率が異常に高い(60~80%)ことを指摘している。このことから彼女は、「売買春」サンプルの少なくとも50%は、ドイツの性売買の合法化に既得権益を持つ可能性のある回答者が過剰に含まれているのではないかと推定している。実際、売春当事者自身ではなく、性売買から利益を得ている第三者が、「売春者」用のアンケートに回答していないと調査者たちは断言できないはずだ。
さらに『評価報告書』は、調査対象となった284人の売春店経営者と3470人の性的人身売買業者の証言を盲信することで、その信頼性をさらに損なっている。彼らは、人身売買撲滅に関心を持つ尊敬すべき遵法市民であると主張しているが、むしろこれらの回答者を、性売買に大きな金銭的または性的利害関係を持つ行為者として検証していない。対照的に、この『評価報告書』は、調査対象となった824人の政府および社会サービスワーカーの多くから得た情報を否定している。彼らのことを、調査票の届かなかった売買春の中のより弱い立場の人々やより周辺化された人々との重要な接点であるみなすのではなく、商業的性産業の日常業務から離れすぎており、信頼できる専門家とはなりえないと執筆者たちは判断している。
売買春が女性に対する暴力の一形態であることを否定する
本報告書の主な執筆者3名は、これまでに発表したその著作を通じて、売買春の合法化と売春店の非犯罪化を支持していることが知られている。そして、彼らはそれぞれの著作において、先進的な法的枠組みを明確に批判している。「北欧モデル」あるいは「平等モデル」として知られるこの法的枠組みは、被買春者を非犯罪化し、彼女らに包括的なサービスを提供することを国家に義務づけ、その一方で、買春者が与える被害についてはその責任を問うものである。
たとえば、『評価報告書』の中で売買春制度の道徳的正当化に多くのページを割いているレンツィコフスキー博士は、規制的アプローチを批判するフェミニストたちを退けている。売買春の中の女性たちに対する男性の暴力という分析を否定し、レンツィコフスキー博士は、すべての性行為が相互に望まれたものであることを望むフェミニストたちを異常なまでに批判し、「性行為が常にすべての当事者の性的快楽を目的としなければならないという考えは、著しく奇怪なものである」と述べている(強調は引用者)。彼はまた、売買春と闘う女性の権利擁護者は、結婚、出会い系アプリ、性的なリアリティ番組との闘いに同等の努力を傾けない偽善者であるとも主張している。
報告書の執筆者たちは、売買春がミソジニーの原因であり結果であるという枠づけを拒否しているだけでなく、売買春がジェンダー化された現象であることを認めることにも抵抗している。「売春店経営者」や「客」といった言葉は常に男性形と女性形で登場し(ドイツ語は男性名詞や女性名詞があるジェンダー化された言語である)、ほとんどの場合、売春店の経営者や買春者は女性を搾取したり買ったりする男性であるという事実を消し去っている。報告書はまた、売買春をしている人々を 「売春者(prostitute)」というスティグマ化された用語で呼んでいる。
「選択」と「同意」という問題の枠組み
PPAは、売買春を「労働」とみなすことと、暴力と搾取を助長することを認めることの間で揺れ動く本質的に矛盾した法律であるが、それにもかかわらず、売買春を「選択」として推進している。この『評価報告書』の執筆者たちは、売買春のこうした枠づけを熱狂的に支持し、売春を通じた「自己決定」と「自己実現」という選択を否定することこそ、人間の尊厳と女性の自律性に対する真の攻撃なのだと主張している。レンツィコフスキ博士は、売買春における同意に関する自身の立場を補強するために、「スウィンガーズ・クラブ」や自殺幇助を支持する法的議論やドイツの最高裁判所の判決を引き合いに出す一方で、地域裁判所や連邦裁判所の重要な判決では、社会保障費が取り上げられる危険性をちらつかせて失業中の女性たちに売春店のバーテンダーとして働かせることは、まっとう(decent)で尊厳のある労働をする権利を侵害すると判断していることを無視している。
執筆者たちがPPAの措置をまるごと承認しているのは、2002年の売買春法に続く異常な枠組みに依拠しているからだ。この法律では、搾取者が女性に特定の買春者を引き受けさせたり、特定の性行為に従事することを明示的に強制したりしないかぎり、ピンプは合法であるとされている。しかし、執筆者たちはこの法律の矛盾点には触れないことにしている。たとえば、『評価報告書』では、認可を受けた売春店経営者──売買春の中の女性たちではなくて──の60%が、売買春法に違反して性行為の最低価格を決めているとし、これが価格ダンピングを防いでいると主張している。
ドイツの法律はまた、批准された国際法や国際協定に反して、「強制」の非常に狭い定義を採用している。それは、人身売買された可能性の高い人たちのごく一部にしか法的保護を与えない。このような個人には、「第三者による不当な影響」を受けている者、国外退去の明白な危険がある者、重度の障害のためにソーシャルワーカーに指定されている者、精神疾患の状態にある者、18歳未満の者などが含まれる。性別、ジェンダー、人種、民族の不平等、貧困、借金の束縛、幼少期の性的暴力、搾取者とのトラウマ的な絆、薬物中毒、身体的・知的障害など、売買春の中の個人(圧倒的に女性たち)の脆弱性については、PPAも『評価報告書』も触れていない。本報告書は、前述のような要因やそれに伴う搾取を、売買春や「自己決定」への道を「自由に選択」することと相容れないものとは考えていない。むしろ、売買春にアクセスすることが人間としての尊厳に不可欠であると考える障害者男性に同情的である。
また、家父長制、植民地主義、人種差別、性差別、経済的不平等が生んだ売買春システムの起源と歴史を調べようとはしていない。これらのシステムはそれぞれ、執筆者たちが調査対象者の多くを集めたウェブサイト(売買春広告サイトや買春者フォーラムなど)で例証されている。著者はまた、売買春に関する主流メディアの報道があまりにも否定的で、性売買における犯罪行為に偏って焦点を当てていると嘆いている。この報告書では、エンターテインメントやSNSだけでなく、ほとんどの主流メディアでも性売買が美化され、特にオンライン・プラットフォーム(「シュガーリング」やエスコート・サイトなど)で若者を売買春に勧誘することにつながっていることを論じていない。最も気がかりなのは、レンツィコフスキー博士とその共同執筆者たちが、性的に搾取された子どもたちを「未成年の売春者」と呼んでいることだ。国内法も国際法も、性的行為のために売買される18歳未満の子どもを性的人身売買の被害者と定義しているにもかかわらずである。
登録義務化では性的人身売買を防止できない
PPAの官僚的側面に関する評価の中で、執筆者たちは、簡単なカウンセリングを含む売買春の中の女性たちの強制登録は、彼女たちの法的権利と義務の概要、医療と緊急サービスへのアクセスを提供することに成功していると主張している。しかし、執筆者たちはこの主張に対して意味のある立証を行なっていない。現在、推定9万~40万人の被買春女性のうち、「登録」を申請したのは3万人程度である。この数の少なさを説明するために、執筆者たちは売買春を取り巻く社会的スティグマを挙げている。このスティグマをなくすという2002年法の目標が失敗に終わったこと、また、当局に対する不信感(特に、法執行機関が機能不全に陥っていたり腐敗していたりする国から来た移民女性)など、遵守が限定的であることを説明する他の重要な要因については、本報告書は触れていない、 人身売買業者は、被害者が助けを求めるのを防ぐために、ドイツ語や英語のスキルの欠如、教育へのアクセスの欠如、精神衛生上の危機など、あらゆる手段を用いている。
被買春者とのカウンセリングの平均時間は約35分で、生活や家族の生命が脅かされている被買春者の信頼を得るには不十分な時間である。さらに、強制的な法律カウンセリングや保健カウンセリングを担当する多くの行政職員は、人身売買された状況に対処するための研修が不十分であったり、実際、意味のある行動をとる権限がなかったりする、と報告書は説明している。
とはいえ、報告書は、過去7年間で、数十人の性的人身売買被害者が、強制カウンセリングによってその被害を特定することに成功し、救出されたと言及している。同時に報告書は、人身売買被害者と認められた人に認可証を自由に発行することを認める無数の政府職員の存在を指摘している。その理由は、被害者が他の都市で免許証を受け取るだけだと思い込んでいたり、認可証を保留することで人身売買業者が被害者を罰する結果になることを恐れていたりするからだ。調査対象となった政府職員の約半数が、認可制度は人身売買を減少させるものではないと考えており、売春店経営者の約40%が、女性が認可書を持っているからといって第三者の搾取者たちの支配下にないとはかぎらないと認めている。
保護ではなく、犯罪化と課税
PPAは売買春の中の女性たちを保護すると主張しているにもかかわらず、無認可または売春禁止区域内で売買春に従事した場合、最高1000ユーロの罰金を科すことで、彼女たちを部分的に犯罪者扱いしている。ほとんどの女性は初犯で釈放されるが、年間30~60人の女性が判決を受け、その多くは適切な法的代理人を利用できないでいる。このアプローチの不当性と非効率性を認めたうえで、『評価報告書』の執筆者たちは無認可売買春の非犯罪化を主張しているが、女性が逮捕と罰金の危険を冒すほどの絶望のレベルを問うことはしていない。
執筆者たちは当然のことながら、ドイツの義務的売買春認可制度に由来するデータの取り扱いに懸念を示している。ドイツ政府は法律により、最後の認可更新から2年後にすべての個人情報(氏名、住所など)を削除する義務を負っている。しかし、警察署や税務署はもっと長期間データを保持することができるし、実際そうしている。特に地元の税務署(Finanzamt)は、登録データが税務署の職員に渡されるため、PPAの恩恵を受けている。税務署は、違反行為を発見すると、しばしば女性を潜在的な 「脱税者」として追及する。
本報告書は、PPAの実施におけるこうした矛盾を強調しているが、売買春を「労働」と定義したことが、公的機関によるこうした扱いの直接の原因であるとは結論づけていない。
売買春における「安全な職場」という夢物語
その意図とは裏腹に、PPAは「犯罪のない安全な」売買春施設で「働く」女性の「権利」を保証していない。現在までに、およそ2300の売買春ビジネスが政府認可の申請に成功しているが、並行して規模不明の闇市場が繁栄し続けている。たとえば、ベルリンには98の認可売春店があるが、少なくともそれと同数の違法売春店がネット上で宣伝されている。同様に、PPAは、定額制の「ヤリ放題」オファー、いわゆる「輪姦パーティー」、妊娠後期の妊婦の露骨な広告など、非常に搾取的な慣行を禁止しようとしたが、こうした広告や慣行は婉曲的な表現で存続し、もう少し秘密の場所で行なわれている。本報告書は、被買春妊婦のための専門的な緊急サービスを創設するよう国に求めるのではなく、搾取者が他に選択肢のない女性たちを売春させ続ける方が人道的であると結論づけている。
売春店の営業許可を取るためには、経営者は前述のような違法な「ビジネスモデル」を拒否し、自分自身と、コック、清掃員、受付係、警備員などのスタッフの身元調査を受けなければならない。しかし、当局が個人の過去の犯罪記録にアクセスできるのは限られているため、犯罪歴の確認には依然として欠陥がある。例えば、2012年に人身売買業者や重犯罪で刑に服した者がいたとしても、地元警察による積極的な介入がないかぎり、当局は売春店開業の許可を与える可能性がある。同様に、犯罪歴のある人物は、別の人物(多くの場合、加害者の妻)を使って認可申請を行ない、摘発を逃れることが多い。この最初の認可申請プロセスで、地元当局は売春店スタッフも審査するが、その後採用されたスタッフはその後3年間は審査されない。本報告書の執筆者たちは、売春店の警備員が身体的暴行の犯罪歴を持っていることが多いことを認めているが、最終的には、警備がいない方が悪い選択肢であるとして、この雇用実態に対する寛容さを推奨している。
『評価報告書』の独自のデータによれば、政府が売春店の認可を却下するのは、組織犯罪を対象とした法律を含む刑法よりも、むしろ建築法やゾーニング法のほうがはるかに多い。認可売春店システムにおける政府の犯罪摘発の甘さを補強するために、執筆者たちはドイツの厳しい建築法の規制緩和を提唱し、「法を遵守する買春者」を引きつけ、認可を受けていない競合店に打ち勝つことを期待して、売春店が認可を受けていると宣伝することを奨励している。
売春店は2年ごとに安全検査を受けることが義務づけられており、とくに緊急ボタンシステムについては検査が義務化されているが、本報告書はその意味を探っていない。もし買春者が女性に対して暴力やその他の人権侵害を行なうことが知られているのでなければ、なぜ女性が緊急ボタンを利用する必要があるのか。また、この報告書は、昨年、認可を受けた売春店の約84%で、女性が非常ボタンを使用していなかったという独自の調査結果も検証していない。報告書によれば、緊急ボタンを使用することで発生する費用は女性自身が負担しなければならず、ほとんどの場合、売春店の警備員を呼び出すだけである。警備員は間違いなく、買春者の責任を追及するよりも売春店の評判を守ることに関心がある。
売春店の女性たちを保護するためのもう一つの措置として、PPAは売春行為がなされる部屋と女性の休憩所や寝床とを分離することを義務づけている。この法律が可決されたとき、多くの批判者が警告したように、これは女性の経済的負担を増加させるだけであった。なぜなら、女性は、しばしば劣悪な環境で売春店の経営者に貸し出される部屋やアパートの家賃を支払わなければならなくなったからである。実際には、合法売春店の中の女性たちは、売買春の部屋で寝食をすることがいまだに多い。
被買春女性の歪んだ健康観
被買春者の全体的な健康状態を把握するため、調査回答者に「非常に良い」から「非常に悪い」までの尺度で健康状態を自己評価してもらったが、非常に主観的な結果となっている。より包括的で正確なアプローチであれば、フェミニスト社会学者のシュレットル&ミュラーが2004年に行なった、ドイツにおける売春当事者女性の健康と福利に関する画期的な研究を反映させることができたかもしれない。この研究では、一定の厳密な方法に基づいて正確な症状について質問し、その結果、調査対象女性の慢性疼痛、うつ病、自殺念慮、不安、薬物乱用の割合が高いことが判明した。この報告書では、ある程度、薬物使用について調査し、コカインとアンフェタミンの消費率が高いことを発見したが、調査対象者がなぜハードドラッグをこれほど大量に消費するのかについては質問しなかった。さらに、アルコール、タバコ、鎮痛剤、抗うつ剤などの使用についての調査も省かれている。また、女性の健康に関する項目では、妊娠後期の女性たちの売買春が胎児だけでなく自分自身にも有害であるという主張に疑問を投げかけているが、それは、無数の医療専門家の警告や評価とあからさまに矛盾している。
全体として、評価書の健康に関するセクションは、性感染症(STI)に焦点を絞ったままであり、売買春が精神的・身体的健康に与える影響の全容についての議論がおろそかになっている。この報告書は、買春者がコンドームなしの性行為あるいはコンドームの完全性が客によって妨げられる性行為(途中から装着するなど)を頻繁かつ執拗に要求していることに懸念を表明している。執筆者たちは、コンドームなしの売春を要求することを犯罪化することが実際に賢明なのかどうか疑問に思っているが、それにもかかわらず、「売春者」に自らの健康を維持する方法に関する情報を提供することが、彼らの健康を促進する上で最も効果的なアプローチであることを示唆している。
暴力と人身売買における性的人身売買業者の役割をホワイトウォッシュ
本報告書では、商業的性産業を支える原動力である買春者(執筆者たちは「客」と呼ぶ)についてはほとんど触れていない。最新の調査によれば、ドイツ人男性の約25%が、買春に少なくとも一度はお金を払ったことがあり、4%が過去1年間にお金を払ったことがあると報告している。調査によれば、売買春の中の女性たちに対する犯罪の主な加害者は買春者であるにもかかわらず、報告書はそのような犯罪を無視または軽視している。売買春における暴力全般に関する報告書のセクションは短く曖昧で、「彼らはただ抱き合って話をしたいだけだ」「性行為購買者は人身売買の兆候を日常的に目にすることはない」といった、性行為を購入する男性に関する一般的な神話を補強している。
この『評価報告書』の執筆者たちは、ドイツの性売買における暴力の現状を評価するのに、警察、裁判所、社会サービス提供者への独自の調査を避け、一つの方法しか使っていないように見える。つまり、過去12ヵ月間にハラスメント、窃盗、強盗、暴行、性犯罪の被害に遭ったかどうかについて、調査対象者の自己申告に頼っているのだ。このアプローチはジェンダーに基づく暴力調査のベストプラクティスに合致していない。経験豊富な研究者たちは、ほとんどの被害者が性犯罪の文脈における「力の行使」のような特定の法的定義を認識しているとは想定していないし、性暴力の被害者であることがスティグマをもたらすことも認識していない。この報告書とは対照的に、2004年のSchröttle & Müllerの研究では、犯罪の種類を尋ねるのではなく、広範かつ詳細な一連の具体的な出来事(例えば、「誰かに腕をひねられたか」、「誰かに体を露出されたか」、「誰かに首を絞められたか」)について参加者に尋ねている。この調査方法の違いが、「過去12ヶ月間に犯罪の被害に遭った」と答えた回答者が、「Schröttle & Müller」では66%であったのに対し、「評価」では25%にとどまったことの一因である。報告書の共同執筆者の1人はフェミサイドの研究経験があるにもかかわらず、2002年以降ドイツの売買春の現場で100件以上の殺人事件が発生し、その多くが買春者によるものであることが独自調査で判明しているにもかかわらず、報告書は売買春に関連した殺人事件にはまったく触れていない。
結論
ドイツの売春者保護法(PPA)が全体的に成功しているという本報告書の主張は、方法論に深刻な欠陥があり、信頼性に欠けるデータ、そして売買春システムに関する執筆者たちの偏った仮定に基づいている。彼らの方法論は、売買春制度の原因と結果、そして暴力、性的暴力、人権侵害、組織的犯罪ネットワークとの関連を無視している。本報告書にはさまざまな欠陥があるにもかかわらず、そこでの調査結果は、ドイツの規制体制に関連する将来の法改正に大きく影響することになり、したがって性的搾取のリスクをさらに増大させる可能性がある。
法律が制定される前のデータが不足していること、ドイツの被買春者の人的構成を代表していない調査サンプルを用いていること、性売買に陥る根本的な原因を取り上げていないことなどから、PPAに対する報告書の肯定的な評価は、おおむね根拠のないものである。また、売春に内在する複雑で残酷な現実(その中には、すべての売春者に安全と健康のリスクをもたらす買春者の態度や行動も含まれている)を認めることも、分析することも避けている。さらに、PPAの目標のひとつは、性的人身売買業者の捜査と訴追を成功させるための手段を提供することであったにもかかわらず、記録された人身売買事件の大多数において、ドイツ政府が性的人身売買で起訴された加害者に有罪判決を下すことができない状態が続いていることについても、報告書は触れていない。
本評価報告書の「売春者」サンプルの調査対象者は、ほとんどが性売買の合法化を推進する団体やネットワークによって配布された、オンライン、匿名、自記式アンケートを通じて募集された。報告書もPPAも、ドイツにおける性売買は主として、買春者との性行為を「自由でエンパワー的な」選択として行なう自発的な中産階級の「売春者」によって成り立っているという前提に立っている。
報告書の執筆者たちは、本来、現在のドイツにおける売春従事者の人口構成を適切に代表する当事者たちに対して、トラウマに配慮した(trauma-informed)対面式の聞き取り調査を行なうべきだった。執筆者たちは、被買春者の圧倒的多数が移民女性であり、暴力や性的搾取に対する脆弱性が深刻であるという事実を看過している。さらに、本報告書は、売春店経営者、買春者、売買春の合法化を求める団体など、性売買の保護と発展に個人的・経済的に大きな利害関係のある諸個人や諸団体からのデータや証言に依拠している。
本報告書は、被買春者たちが最初に接触することが多い行政や社会福祉関係者からの情報提供を退けている。その一方で、こうした最前線の提供者が被害軽減の無益な試みに費やす時間と労力は並々ならぬものであることを示しており、こうした努力が、必要な人々の大多数に届いているというエビデンスはほとんどない。
『評価報告書』の執筆者たちは、売買春をジェンダーに基づく暴力や差別の一形態としてとらえることを拒否し、「選択」と「同意」という有害な枠づけをしているため、この売買春や性的搾取のシステムに対処できないような表面的な改善策を推奨している。その種の表面的な変更には、政府職員の研修の改善、データ入力とセキュリティの変更、認可申請時の人身売買の認識と対応の改善、認可制度の簡素化などが含まれる。報告書はまた、義務登録率を高める手段として、被買春女性たちに対するスティグマを減少させるための一般市民の再教育を求めている。これらの対策はいずれも、ドイツの性売買の中のほとんどすべての女性たちが、法執行機関やドイツ政府関係者との交流を恐れる移民であり、借金による束縛を受け、売春店主を含む第三者の搾取者によって組織的に強要されていることを考慮していない。
『評価報告書』はその核心において、売買春の中の人々、特に女性と少女たち、そして社会全体に多大な影響を及ぼす政策について、包括的で客観的な評価を行なっていない。売買春を不可避で、中立的で、管理可能なものとみなすアプローチに異議を唱えようとしないことは、残虐な性売買のサバイバーだけでなく、ドイツ国民に対しても重大な不利益をもたらす。ドイツ人の大多数は売買春を暴力や違法行為の媒介とみなしており、この見方はドイツ政府や本評価の結論とは厳しく対立するものである。
ドイツ政府がPPAと『評価報告書』に関する独立委員会を組織する際、国がサバイバーとアボリショニストにこれらの議論に貢献する平等な機会を与えることが決定的に重要である。性売買の経験を持つサバイバーを含め、こうした専門家を組織的に排除することは、売買春の美化された危険な物語を助長し続けるだけであり、すべての人のための平等、正義、尊厳を確保するというドイツ国家の目標の達成を妨げるものである。
2025年9月1日発表
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