【解説】以下は、私たちの会が加盟している女性人身売買反対連合(CATW)が、アメリカの大物ラッパーで音楽プロデューサーのショーン・コムズ(別名ディディ)に対して、売買春を目的とした移送罪で、わずか50ヵ月の実刑判決が出たことを受けて出した声明の全訳です。この事件についてはすでに、テイナ・ビエン・アイメ「愛の名の下での暴力と支配──キャシー・ベンチュラの勇気ある証言が教えるもの」、「CATWの声明──私たちは、ショーン・コムズ(ディディ)の性的人身売買事件に関する判決に納得せず、サバイバーとともに闘い続ける」を紹介しています。
2025年10月3日、ニューヨーク州ニューヨーク発
金曜日の午後、音楽とエンターテインメントの大物ショーン・コムズ(別名ディディ)に、マン法違反の売買春を目的とした2件の移送罪により、禁固50カ月の判決が言い渡された。この刑期は、政府が推奨していた11年を大きく下回り、最高刑の20年(マン法違反の各訴訟で10年)を大幅に下回るものであった。
判決に先立ち、アルン・サブラマニアン連邦南部地裁判事は、コムズの元ガールフレンドのカサンドラ ・ヴェンチュラ(別名キャシー)と 「ジェーン・ドウ 」の数週間にわたる証言に配慮したことを強調し、コムズの手によって受けた残忍な肉体的、性的、心理的虐待の数年間について詳述した。
裁判長は証言台に立ったサバイバーたちに直接こう語りかたけた。「あなたたちは、被害者でありながら透明で無力だと感じ、沈黙の中で苦しまなければならなかった何百万人もの女性たちに語りかけた。密室での暴力は永遠に隠されたままである必要はないことを、あなたは彼女たちに、そして世界に伝えた。あなたが手を差し伸べた人の数は計り知れない」。
裁判官は、コムズが女性たちにさせた 「フリーク・オフ 」〔ディディが主催した乱交パーティの名前〕やホテル泊を「親密な合意の上での体験、あるいは単なる『 セックス・ドラッグとロックンロール』 の話」と決めつけようとする弁護側の試みを退けた。
キャッシー・ヴェンチュラは、コムズの量刑判決に先立ち、判事に宛てた手紙の中でこう書いている。「陪審員は、被告が私に対して行使した力と強要のせいで、私が猟奇的行為に及んだことを理解していなかったし、信じていなかったようですが、私はそれが真実であることを知っています」。「彼の量刑は種々の証拠と被害者としての私の生きた経験の現実を反映したものであるべきです」。
性的人身売買の罪でコムズを有罪としなかった7月の陪審員の評決は、私たちの文化が、権力と影響力を享受する男性に反射的に同調する一方で、こうした男性による虐待の証言に勇敢に名乗りを上げる人々には厳格な精査と懐疑を加え続けていることを明らかにした。実際、法廷の内外を問わず、話題の多くはキャシーとジェーンの同意をめぐる議論に集中し、性的暴力と搾取の文脈では同意は無関係であることを無視していた。
コムズらのケースは、性的人身売買の仕組み、すなわち搾取業者がいかに強制、操作、脅迫、権力と脆弱性の乱用を用いるかを理解することが、一般の人々にとって依然としていかに難しいかを示している。
「私たちの法律や文化が女性に対する暴力を容認し、虐待の連鎖を『情熱的な関係』とレッテルを貼ったり、女性の『同意』によって性的搾取を定義したりするかぎり、私たちはサバイバーを失望させ続けるだけでなく、無数の女性と少女が将来的に犠牲になることに加担することになるでしょう」と、CATWのタイナ・ビエン=アイメ事務局長は語る。