【解説】以下は、私たちも加盟している女性人身売買反対連合(CATW)が最近発表した声明の全訳です。ここで言われている「Tier 2 監視リスト」とは、アメリカ国務省が発表する『人身取引報告書』に登場する分類で、人身売買対策の最低基準を満たしていないものの、改善努力は行なっている国の中から特に懸念される国が指定されるものです。最新の報告書で、南アフリカが「Tier 2 監視リスト」に格下げされたことを受けて、CATWと、南アのアボリショニスト団体であるエンブレイス・ディグニティ(Embrace Dignity)は共同で声明を発表し、北欧モデルの一種である「サンカラ平等モデル」を採用するよう強く呼びかけています。
ニューヨークとケープタウン、2025年10月21日
2025年9月に発表されたアメリカ国務省の最新の『人身取引報告書』(TIP報告書)において、南アフリカは「Tier 2 監視リスト」に転落した。この4段階中3番目のランクは、人身売買根絶の取り組みが人身売買被害者保護法の下で定められた最低基準を満たしていないことを同国に警告するものである。
南アフリカを特別審査の対象にすることにした根拠として、TIP報告書は、昨年、被害者の特定と事件捜査が急減し、起訴件数が減少し、人身売買業者への取り組みの証拠が提出されていないことを指摘している。
報告書はまた、南アフリカが被害者と見られる人を処罰の対象とするのを防ぐための措置を講じておらず、人身売買サバイバーを適切なサービスに効果的に紹介するために必要な警察訓練も提供していないことを強調している。
同じぐらい深刻な問題として、報告書は、政府の腐敗と共謀、とりわけ警察や入国管理官による腐敗と共謀が人身売買業者の活動を助長し、重大な懸念を引き起こすに至っていると指摘している。南アフリカ警察が性的人身売買の場として把握している売春店であっても、警官の黙認のもとで運営されているものがいくつも存在するという。
TIP報告書は、南アフリカ政府に対し、女性および被買春者すべてを保護し、売買春システムへの新規参入を防止し、性行為の購入を犯罪化することで需要に対処する法律を制定するよう求めるものであり、時宜にかなっている。西ケープ州高等法院で2026年5月に審理される予定の裁判(「S.H.およびセックスワーカー教育・擁護タスクフォース(SWEAT )」対法務大臣ほか)は、「南アフリカの現行法の下で、性的サービスの販売、販売の申し出、購入を犯罪化すること」の憲法上の正当性を争っている。不可解なことに、南アフリカ政府は SWEAT が求める救済に反対しないことを決定した。南アフリカは現在、売買春のあらゆる側面を犯罪としており、性売買の中の女性たちに深刻な差別的影響を及ぼしており、この法律は改正されなければならない。しかし、南アフリカで性行為の購入を非犯罪化することは、TIP報告書の憂慮すべき所見と数十億ランド〔1ランドは約8円〕規模の搾取的性売買の両方に取り組むための解決策にはならない。
南アフリカ政府にとって、売春に従事する人々の逮捕、嫌がらせ、投獄をなくすことは喫緊の課題だが、彼女らは圧倒的に黒人や被選挙権を奪われた女性、少女、性的マイノリティの人々である。国家が性行為の売買、とりわけ買春を合法化すれば、性的人身売買が増加するだけでなく、法執行機関は性的人身売買事件の捜査や被害者の特定に苦慮することになる。
買春行為を非犯罪化した他の国々の例で明らかなように、性的人身売買、買春ツアー、組織犯罪は、国家が公認した売春需要の増大に応じて幾何級数的に成長している。売買春、買春、性的人身売買のこうした結びつきは、買春者がいなければビジネスも成り立たず、利益も得られないという単純な経済モデルからして明らかである。
南アフリカでは、被買春女性たちの70%以上が性暴力を含むさまざまな暴力の被害に直面している。加害者は、男性買春者、性売買業者であり、多くの場合、警察もそれに関わっている。南アフリカはこうした人権侵害を阻止する解決策を模索しなければならない。
「サンカラ平等モデル」として知られる北欧モデル型の法的枠組みは、被買春者の逮捕や投獄をなくすことで、売買春の中で売買されている女性たちを保護し、トラウマに配慮した包括的な医療サービスやその他のサービス(現時点ではおおむね提供されていない)を提供する。
同時にこの法律は、買春者や搾取者に対し、彼らが性行為のために売買する人々に対して引き起こしている広範な被害や犯罪に対する責任を負わせる。世界中の9つの国と地域で制定されているこの法的モデルは、性的人身売買を防止する強力なツールとしても機能している。
南アフリカが人身売買を防止し根絶するための措置を講じない場合、その深刻な結果として、さまざまな形態の対外援助が制限される「Tier3」にまで格下げされる危険性がある。
南アの売買春サバイバー、女性の権利・人権擁護団体は、南アフリカ憲法、世界人権宣言、そして同国が批准している国際規約の基本原則に合致する「サンカラ平等モデル」を採用するよう南アフリカ政府に強く求めている。私たちは彼女たちと連帯し、行動を共にするものである。