【解説】本稿は、このサイトでもたびたび登場しているイギリスのラディフェミ系ジャーナリスト、ジュリー・ビンデルさんの最新記事です。
ジュリー・ビンデル
2024年8月4日
私がグローバルな性売買に反対するキャンペーンに費やしてきた数十年間、売買春の中の女性たちは、買春客を覚えきれないほどの無数の言い方で形容するのを耳にしてきたが、ここではその一部だけ紹介しておこう。「惨めで、哀れで、グロテスク」、「現金を差し出す強姦魔」、「サディスティックな怪物」等々。
ここで引用した3人は、人身売買されたわけでも、売春店に閉じ込められたわけでも、ラジエーターに鎖で繋がれたわけでも、運び屋のバンの中で銃を突きつけられたわけでもない。彼女らはみな、認可を受けたマッサージパーラーやサウナ風呂で働いており、ビジネスマンを装ったピンプに搾取されていた。
男性が女性の体の身体内部にアクセスすることで得る一方的な性的快楽にお金を払うことは、しばしばハンバーガーを食べることやペディキュアを塗ることと同一視されている。
イギリスでは売買春そのものは違法ではないが、車をゆっくりころがして被買春女性を物色したり、売春店を経営することなど、ある種の関連行為は違法である。しかし、路上や公共の場でないかぎり、セックスを売買することは違法ではない。さらに、人身売買された人やその他の方法で強要された人とのセックスに対価を支払うことは、厳密には違法だが、取り締まられることはまずない。売春店は通常、マッサージパーラーやサウナ風呂として認可されているが、警察が立ち入り検査をすることはめったにない。つまり、ピンプや買春者は罰を受けることなしに行動できるが、女性たちは大きな代償を払うことになる。
性売買ロビーは、国連、世界各国の議会、学界に浸透し続けている。国連機関は加盟国にピンプの非犯罪化を求めており、ベルギーは2022年にこれを実現した。いわゆる人権団体が、最も周辺化された女性や少女への抑圧と搾取を推進するのは、私にはまったく途方もないことに思える。
1999年のコソボで、私は運転手から、チャリティー団体や国連組織のオフィスの近くに売春店が建てられていることを聞かされた。彼らは反人身売買対策に取り組んでいるにもかかわらず、そこに駐在する男性の多くが売春婦を頻繁に利用していたのだ。2018年には、オックスファムのハイチ責任者であるローランド・バン・ホウベンメイレンと他の支援活動家たちが、慈善団体の資金で賄われた施設で、未成年を含む被買春女性を虐待していたことが報じられた。
売買春の包括的非犯罪化は、女性たちの保護を強化するものではなく、むしろ市場の拡大につながる。それは、合法的な赤線地帯や屋内市場を必然的に超えて市場を広げる。このシステムは「職場」における権利を意味しない。ピンプと買春者は依然として残忍で容赦ないからだ。ピンプはビジネスマンとみなされ、女性たちが受ける必然的な虐待は「職業病」以外の何ものでもないと考えられてしまう。女性たちが売買春から離脱するための支援はほとんど存在しなくなる。
そのことを私が知っているのは当然である。私は非犯罪化の効果をこの目で見てきた。私は性売買に関する研究調査で、ニュージーランドを含む世界中を飛び回ってきた。2003年に非犯罪化されたニュージーランドの性売買は、売買春規制のゴールドスタンダードモデルとして、売買春推進運動家たちに称賛されてきた。2018年、ニュージーランドの移民局は、移住希望者のための「雇用スキル」のリストに「セックスワーク」(売買春はますますそう表現されるようになっている)を追加した。
アメリカでは、反売買春運動家が、半ダースもの州で売買春非犯罪化法案と闘っている。オーストラリアでは最近、ほぼすべての州で性売買が非犯罪化され、同国のクイーンズランド州は国内で4番目に非犯罪化された。
フランスは2016年、北欧モデルとして知られる法律を導入し、性を買うことを違法とする国(スウェーデン、ノルウェー、カナダ、北アイルランド、アイルランド共和国、イスラエル)のリストに加わった。これにより刑事責任は買い手に移り、買い手は捕まれば起訴されるが、セックスを売る側の女性は処罰の対象ではなくなる。
この問題は常に論争の的となっており、「セックスワーカー」権利擁護運動家たちは、ピンプ、売春店経営、車を使った被買春女性の物色などを含む性売買全体を非犯罪化することがより良い解決策であると主張してきた。
しかし、当事者女性の大多数にとって、売買春は危険で、屈辱的なものだ。それはけっして単なる仕事のひとつではない。「幸せな娼婦(ハッピーフーカー)」――そんな女性が本当に存在したと仮定しても――一人につき、毎日何十回と見知らぬ男と性的接触をさせられ、日常的に殴られ、レイプされ、恐喝され、HIVや梅毒に感染させられ、安い酒とドラッグに溺れる日常を送らざるをえなくなっている何千人もの女性たちがいるのだ。ピンプや売春店経営に関する法律が撤廃され、男性がセックスにお金を払うことが社会的に正統化されることで、売買春は不可避であるという見方がさらに定着しただけだった。
売春は最も古い「職業」だと言われるが、私は最も古い「抑圧」であると呼びたい。売買春は金儲けのための商売である。ロンドンからケープタウンまで、どの赤線地帯もピンプ、売春店経営者、ギャング、犯罪シンジケートによって支配されており、その表向きの顔は、「エスコート・エージェンシー」(デリヘル)やストリップ・ジョイント(ストリップ店)といったビジネスを運営するセックス利得者たちの少し体裁が良いだけのロビー団体である。
しかし、スイスのジュネーブで見たような売買春のノーマル化には、ドイツでもオランダ(いずれも数十年前に性売買を合法化)でも出会ったことがない。2013年まで、スイスでは男性が16歳の少女にお金を払って性行為をすることさえ完全に合法だった。その2013年、フェミニストや児童保護擁護団体からの圧力により、法定年齢がようやく18歳に引き上げられた。
2014年、ラ・パクレット(受刑者のための社会療法部)の受刑者たちは、「息抜き」のためにジュネーブ近郊の地方拘置所にいる被買春女性を「訪問」することを許された。その男たちの多くは、有罪判決を受けた性犯罪者だったのにだ。
売買春を生きのびてきた女性たちは、何度も何度も私に、それは金を払ったレイプだと言った。お金を払ってセックスする男性は、性的従属を買っているのだ。買わなければ得られない「同意」は同意ではない。私が出会った何百人ものサバイバーたちの誰もが、売買春における深刻な暴力、虐待、貶めを経験している。また、何十人もの買春者にインタビューしてきたが、その全員が女性蔑視の態度を示していた。女性を商品として扱うには、まずその女性の人間性を奪う必要がある。
いわゆる進歩主義者(左派とされる人々)は、いつから女性抑圧の原因であり結果でもある構造や実践そのものを支持するようになったのだろうか? 今日の若くミドルクラスで、大学教育を受けたフェミニストたちは、ピンプや買春(性購買)よりも、性売買の廃止を訴えるアボリショニストたちにむかっ腹を立てる傾向が強い。数え切れないほどの「進歩的」学者たちは、「セックスワーク」は女性を「エンパワーさせる」ものであり、単なる「選択」であると主張している。
「売買春の非犯罪化」とは別の言い方をすれば、女性の身体に対する狩猟解禁(オープンシーズン)である。オランダを見てみよう。そこでは、女性は飾り窓の中に立って、買われるのを待つという屈辱に苦しんでいる。 オランダは2000年に売春店を合法化した。政府はこれで女性たちが安全になり、人身売買業者がいなくなると約束した。しかし、実際はその逆だった。
性売買が不可避だとして受け入れる必要はいささかもない。女性の身体の売買を全面的にノーマル化すること以外の選択肢は存在する。北欧モデルがそれだ。北欧モデルのアプローチが売買春の中の女性たちの数を減少させたことは評価されている。多くの性売買サバイバーを含むアボリショニストからは、この法律をグローバルな規模で導入すべきだという声が上がっている。
もしあなたが買春者なら、女性や少女の不幸を売買する市場を支え、それを拡大することに寄与している。戦争で荒廃した国や貧しい国から、危険な犯罪者たちによって、需要を満たすために女性たちが送り込まれている。養護施設の少女たちはピンプに狙われ、手なずけられ、売買春に入らされている。
いつの日か、売買春の中で虐待されてきたすべての女性たちが起ち上がることを願っている。私の空想の中では、まるでシュールな悪夢の中でのように、彼女たちは買春者たちを一人ずつ持ち上げ、ワニと毒蛇だけが住む島に突き落とすのだ。何といっても、それが売買春の中の女性たちが住むことを余儀なくされる世界なのだから。
出典:https://juliebindel.substack.com/p/if-sex-is-work-then-rape-is-merely