ドルチェン・ライドホルト「ラテンアメリカのアボリショニスト指導者、テレサ・シアウリス逝去」

【解説】女性人身売買反対連合(CATW)のラテンアメリカ地域の指導的人物であったテレサ・ウジョア・シアウリスさんが先月28日に亡くなられました。このサイトでも、シアウリスさんの論考を一つ翻訳紹介しています。以下は、「サンクチュアリ・フォー・ファミリーズ」の創設者でありCATWの国際理事の一人であるドルチェン・ライドホルトさんによる追悼文です。ドルチェンさんの許可を得て、ここに訳載します。

 2025年9月28日、女性人身売買反対連合(CATW)の理事会メンバーであり、CATWラテンアメリカの事務局長であったテレサ・ウジョア・シアウリス(1949年12月31日~2025年9月28日)が、一人娘であるグラシエラの自宅で亡くなった。しばらく前に、母親の安らかな死を看取ったところだった。

 聡明で有能な弁護士であり、非常に活動的で長年にわたるフェミニスト・アボリショニスト運動の指導者であったテレサは、私たちの活動や運動への貢献は数え上げればきりがないほど多く、多岐にわたっている。彼女は、20年以上にわたってCATWのラテンアメリカ地域での活動を率いてきた。私は彼女に初めて会ったのは、1990年代後半、国連においてだった。私たち女性の置かれている諸問題とそれに関わるグローバルな政治環境に対する彼女の深い理解に感銘を受け、私たちの仲間にならないかと尋ねた。彼女は快諾し、創設者であるベネズエラ人エコノミスト、ゾライダ・ロドリゲス・ラミレスの死後、最終的にCATWラテンアメリカの指導を引き継いだ。

 20年以上にわたって、私は何度もメキシコのテレサのもとを訪ね、資金提供者のために彼女の活動について報告した。いっしょにメキシコ中を旅したが、その中には、組織犯罪ギャングと政府内のその協力者たちが活動している地域もあった(彼女は定期的に殺害予告を受けていた)。そうした中で、私は彼女の活動を直接見聞した。多くの政府指導者との最高レベルの会議を戦略的に成功させ、メキシコ中の教職員組合の教育者から同盟運動の活動家に至るまで、無数の関係者を対象に運動を構築し、彼らにインパクトのある研修を行なった。これらの人々はみな、テレサの歴史、専門知識、非の打ちどころのない左翼的業績と資格に大きな敬意を示した。

 テレサは、私がこれまで参加した中で最も参加者の多い記者会見をお膳立てし、またパワフルで参加者の多いさまざまな会議を見事に組織した。彼女は1999年に私が参加したメキシコシティでの人権会議を組織し、そこでは主要な人権運動指導者たちが一堂に会し、アボリショニズム(性売買の廃絶)を課題の中心に据えた。ちなみに、その出席者のひとりが、メキシコのセックスワーカーのリーダーを自称するアレハンドラ・ギルで、彼女はテレサと私を、明らかに性売買を目的として経営していた売春店のツアーに連れ出した。ギルは後に性売買で有罪判決を受け、今では15年の刑に服している。

 テレサは数年間、メキシコでシェルターを運営し、人身売買のサバイバーに包括的なサービスを提供していた。テレサはメキシコと米国、そしてラテンアメリカ全体の法律と法制度、人権に関する諸文書や仕組みについて豊富な知識を持っていた。 ハーグ条約の問題では、ドメスティック・バイオレンス・サバイバーの専門家証人を務め、メキシコの刑事・民事訴訟では人身売買サバイバーの代理人を務め、性売買組織の有罪判決につながった案件ではサンクチュアリ・フォー・ファミリーズの弁護士と協力した。 コロンビアの人身売買サバイバーのクライアントの双子の娘が人身売買業者に誘拐され、行方不明になったとき、テレサはメキシコの連邦検察官との強いコネクションを駆使して、メキシコシティの売春店で少女たちの居場所を突き止め、遺された母親と再会させる手助けをした。

 テレサは、国連女性差別撤廃条約(CEDAW)委員会の会合でシャドー・レポート〔政府代表による正式の報告とは別に、NGO団体などが独自に発表する報告〕を指導的立場で行ない、CEDAWの一般勧告に重要な意見を述べた。メキシコの立法府を説得し、性的暴力と性的人身売買の被害者の権利を促進する法律を成立させた。彼女はラテンアメリカ全土でサバイバーや草の根リーダーと協力した。2018年、私はサンパウロで、アリアーヌ・シルバを含むブラジルのフェミニスト指導者たちとともに彼女が主催した会議に出席した。

 最近メキシコシティで開催された「シャドー・カンファレンス」で目撃されたメキシコのフェミニストたちの性売買廃絶への強いコミットメントと熱狂は、テレサの遺した遺産の大きさを示す一例にすぎない。 テレサは単独で、メキシコにおける売買春の完全非犯罪化に対する強力な反対派を組織し、その推進派の努力を見事に阻止し続けた。

 以下に、テレサの略歴の一部と彼女の業績を紹介する。

生い立ちと教育

  • 1949年12月31日、メキシコシティに生まれたテレサ・シアウレスは、法律学と教育学を学んだ。
  • 在学中、彼女はすでに活動家として活動しており、20歳で労働組合の事務局長に選出されたが、この地位は彼女の父親を失望させたと語っている。
  • その後、パリ・ソルボンヌ大学やニューヨーク大学などでジェンダー、法律、人権の学位を取得した。

キャリアと活動

  • 初期の弁護士キャリア: テレサは労働組合のコンサルタントとして法律活動を始めた。幼い少女のレイプに関わる初期の事件が彼女に大きな影響を与え、メキシコの家父長制的な法制度の中で女性の権利を擁護することに生涯を捧げるようになった。女性の権利擁護を専門とするメキシコ初の女性弁護士の一人として知られている。
  • フェミニストの法廷闘争と成果: フェミニスト運動に参加して以来、テレサは虐待に対する法廷闘争で何百人もの女性の弁護を務め、女性を刑務所から解放し、加害者に有罪判決を勝ち取ることに貢献してきた。彼女は、メキシコの裁判所で女性の「性と生殖に関する諸権利」を擁護した最初の女性弁護士である。1980年代後半から1990年代前半にかけてメキシコで女性の法的保護を推進し、レイプに対する刑罰を強化し、レイプ犯の抜け穴をふさぐ法律を成立させた。ポピュラー・ウーマン・ディフェンダーズという学際的組織を設立した。弁護士、心理学者、ソーシャルワーカー、医師などの専門家と協力し、ジェンダーに基づく暴力に関する研修プログラムを開発した。
  • 人身売買に反対する活動: テレサは、女性に対する暴力の一形態とみなす人身売買と商業的性的搾取との闘いに焦点を当てるよう、アドボカシー活動を拡大した。
  • CATW-LAC; 2003年、テレサは「ラテンアメリカ・カリブ諸国における女性と少女の人身売買に反対する地域連合(CATW-LAC)」の指導的地位に就任した。国際的なCATWの地域支部であるCATW-LACは、メキシコシティに本部を置き、ラテンアメリカ25ヵ国26のNGOのネットワークとともに活動している。女性や少女に対する人身売買の被害について少年や青年を教育する予防プログラムを開発した。彼女はワールドカップの開催期間中、女性の性売買に関する問題認識を広める啓発キャンペーンを行なった。このキャンペーンは、アルゼンチンの「ジェンダーの視点を持つジャーナリスト国際ネットワーク」などのメディアで取り上げられた。テレサは数十年にわたり国連の女性の地委員会(CSW)会議に出席し、外交官やNGOリーダーたちに、女性の人権にとって売春廃止が重要であることを啓蒙する活動を行なった。
  • 立法と政策活動: ジアウリスは、メキシコやその他の国の連邦法や州法のコンサルタントを数多く務めている。また、人身売買防止に関する州政策や国家計画の立案にも携わっている。
  • セックスワークの需要防止: ジアウリスは、性的搾取の需要側に取り組むCATW-LACのキャンペーンを指導している。メキシコでは、若い男性、タクシー運転手、警察を対象に、商業的性行為による被害について教育するプロジェクトを実施している。
  • 国際舞台での擁護活動: 米国移民審判所や国連で、ジェンダーに基づく暴力の被害者を弁護している。

栄誉と評価

  • 2011年、テレサは人身売買とジェンダーに基づく暴力との闘いにおける40年にわたる活動に対し、グライツマン国際活動家賞を受賞した。
  • 2025年には、フェミニズムと人権の闘いにおける「揺るぎない力」とインスピレーションとして、『フェミニズム・インク』誌から表彰された。

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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