ミーガン・マーフィー「同意だけが問題なのか――看過される性的搾取の本質」

【解説】以下は、カナダを拠点とするラディカル・フェミニズムのオンライン雑誌『フェミニスト・カレント』の主催者ミーガン・マーフィーさんの最新論考です。筆者から許諾を得て、以下に全訳を掲載します。小見出しはわれわれによるもの。ちなみに、マーフィーさんは、「トランス差別」としてTwitterアカウントをバンされていましたが、イーロン・マスク氏によるTwitter買収後、現在ではアカウントが復活しています。

ミーガン・マーフィー

『フェミニスト・カレント』2023年2月10日

  ディープフェイクポルノの悪夢

 先週、アトリオック(ブランドン・ユーイング)という名で知られる男性Twitchストリーマーが、2人の女性Twitchストリーマーのディープフェイクポルノ(AIによって作成された本物そっくりのフェイクポルノ)を観ていたことが発覚し、スキャンダルに発展した。この2人の女性ストリーマーは当然ながら動揺し、その1人であるポキメインは、「同意なしに人を性的に扱うのはやめて。ここできっぱり言っておく」とツイートした

 この論争は、人々をディープフェイクポルノ販売サイトへと誘導し、他の女性TwitchストリーマーたちのAI生成ポルノも発見された。その一人スウィート・アニタはこうツイートした。「私は文字通り、セックスワークに行かないことで数百万ドルを逸することを選び、代わりにそこらへんのチートなポルノ中毒者が私の同意なしに体を求めてくる…。こんなとき、泣いていいのか、物を壊していいのか、笑っていいのかわからない」。

 QTシンデレラ――自分のディープフェイクポルノがサイトで売られているのを発見したもう一人のストリーマー――は最も取り乱しているように見えた, 彼女は涙を流しながらこの問題に関する動画を配信した。

 「インターネットなんてクソ、常に女性を搾取し、客体化しているのもクソ…。何千人もの人にそれを見せたアトリオックもクソ。そのウェブサイトから私の写真をわざわざDMで送ってくるやつらもクソ。お前ら全員、ほんとクソだ」。

 「…これが暴力を受けたと感じることなんだ。利用され、自分の意思に反して裸の自分がネット上にばらまかれるのは、こういうことなんだ」。

 「…自分を売ったり性的な目で見られることで利益を得ていない女性について考えることができないっていうなら、それはあんた自身の問題。あんたは女性をモノとして見ている。そんなことをしていていいはずがない」。

 アトリオックは涙ながらに謝罪文を掲載し、これは「パターン化された行動」ではなく、「たった1本の動画を観ただけだ」と釈明した。それは午前2時のことだったと説明する。妻は外出中で、アトリオックはポルノハブ――「いつものエロ、普通のサイト」――を見ていて、「すべてのクソビデオにある広告をクリックした」ら、「ディープフェイクもの」に飛んだと言う。アトリオックは深く動揺し、「Twitchにいる女性がより安全に感じられるように」と願う男として、自分の行動が「最低」だったとし、「こんなものは支持しない…。後悔している、もう一生、二度とやらない」と付け加えた。

 ディープフェイクポルノがなぜ不愉快なのかは明らかだ。自分はそんなことをしてもいないのに、卑劣で屈辱的で生々しい行為に及んでいる自分の動画が、オンラインで何千人もの人に見られているのを発見したとしたら、と想像してみてほしい。あなたはこれらの動画をコントロールすることができず、削除することもできない。それだけでなく、どこかのいかれた連中がこれでお金を稼いでいるのだ。信じられないくらい混乱するだろう。間違いなく侵害されたように感じるだろう。よくわかる。おそらくほとんどの女性がそうだろう。

  同意と客体化

 しかし、その後の反応は奇妙なものだった。

 「客体化(モノ扱い)」に対する文句はあったが、それは同意の欠如と、女性がポルノから報酬や「利益」を得ていないという事実にのみ結びつけられた。

 QTシンデレラ、Twitchで最も視聴されているストリーマーの一人であるハッサン・パイカー、ウィル・ネフ、マイク・マイラクが参加したポッドキャストの討論では、何が起こったのかが話し合われた。そこでは、QTシンデレラから、心理的にどれだけひどい影響を受けたかが説明された。だがそこに参加した男たち(パイカー、ネフ、マイラク)は、「客体化」と非良心的なディープフェイクをひどいと非難する一方で、無害とみなしたポルノと売買春について20分にもわたって持論を展開したのだ。

 パイカーは、アルテミスというドイツの巨大売春店を訪れたことがあるという話をし、それが2016年に搾取と人身売買が横行しているという理由で強制捜索されたことを、インターネットが忘れさせてくれないと訴える。実際には脱税を理由に強制捜索されたと彼は言うのだが、この容疑も売春店の搾取構造と関係がある。アルテミスは売春店で働く女性たちを「自営業者」としていたが、実際は「労働時間、料金、特定の性行為を行なうよう指示された正規の被雇用者」であった。多くは売春店の中で暮らしていた。売買春があるところにはどこでも人身売買や搾取がある。これはドイツの巨大売春店のすべてに当てはまる。実際、「プッシークラブ」という定額制の売春店チェーンでは、2009年のオープン日に1700人もの男性が入店のために列を作ったが、1年後には人身売買を理由に閉鎖された。有名な売春店チェーン「パラダイス」の経営者マイケル・ベレティンは、2015年に人身売買、売春の強要、詐欺の疑いで逮捕された

 左派は合法化によって「女性の安全が守られる」と主張するが、実際は売買春が増えれば増えるほど、ますます人身売買、虐待、搾取が増えるだけだ。なぜなら、誰かが売春店を埋めなければならないが、志願してくる女性の数は常に足りないからだ。ドイツの有名な合法売春店には、需要を満たすために人身売買されたルーマニア人女性であふれている。その一部は、ヨーロッパ各地で誘拐されたロマ民族の子供である。ロマの女性や子供たちはヨーロッパで最も貧しく、最も周辺化され、最も差別され、最も脆弱な人々である。報道によれば、彼女たちは「動物のように扱われている」。2019年、『ガーディアン』は、「売春が合法化されて以降、性産業が巨大な成長を遂げ、女性に対する需要を急増させた」と報じた。アウグスブルクのヘルムート・スポーラー主任警部は、ドイツの性売買で働く女性の90%以上が南東ヨーロッパとアフリカから来ており、半数は21歳以下だと推定している。このような売春店に行く男性はみな、搾取に参加し、女性の人身売買を支援しているのだ。

 「多くのポルノ女優とファックした」パイカーは、ネフによれば、性産業への自分の熱狂的執着が「セックスワーカーを守る」ことと同じだと主張し続け、それに対する批判を「アメリカが非常にピューリタン的で家父長的」であることのせいにしている。

 お金を払ってセックスしたことがあるかと聞かれたパイカーは、「ベルリンのアルテミスという売春店に行って、そこのワーカーたちとセックスしたことがある。隠し立てなんかしない。別に気にしねえ」

 何と言っても、セックスワークは仕事だ(Sex work is work)、何ら恥かしいことも、スティグマもない、というわけだ。

 売買春やポルノ(「セックスワーク」に商標変更された)をノーマルなものにし、「脱スティグマ」させようとする「進歩的」な動きのおかげで、男は女性にお金を払ってセックスすることを恥じる必要がないばかりか、誇りに思うことさえできるようになった。「俺たちは彼女たちを助けているのだ。家父長制と戦っているのだ!」と。

 実のところ左派は、お金を払うことが同意と同じだと決めつけているだけだ。その女性たちがなぜ売春店やポルノの撮影現場に行くことになったのか、そのお金は誰のふところに行くのか、お金と引き換えに男性にされたことをどう感じているのか、それが将来的にどう影響するのか、といった疑問は抱かない。彼らが望むのは良心の呵責が晴れることであって、倫理ではない。「セックスワーク・イズ・ワーク」というカルト的マントラや、「同意」についての批判的思考の停止が、現実に取って代わられる。現代の左派道化師たちのイデオロギーは、ポルノを利用したりセックスを買ったりする男性に、自分がフェミニストのヒーローであり、射精するたびに女性をエンパワーしていると思い込むことを可能にしている。

 パイカー、ネフ、マイラクたちの間の会話全体は、彼らのいつもの決まり文句についていかなる洞察も欠いている。「同意」は、「家父長制」とか「ピューリタン」といった1年目のジェンダー研究で覚えるようなジャーゴンをいくつか入れた自己満足的な集団オナニーの道具となっており、内省や真の分析の代わりに用いられている。

 ネフは、ポルノスターに実際に会い、普通の人間として関わってみると、もはや彼女らを使って「自慰」することができないことに気づき、困惑しているようだった。

 このような関係を構築することのできる人であれば誰でもたどり着く結論は、ポルノグラフィは「同意」の有無にかかわりなく、女性を「客体化」するものだということだ。ここでの真のポイントは、ポルノに登場する女性たちを、家族、感情、利害、自分自身の望みといった複雑でセクシーでないものを持つ完全な人間としてではなく、生きたセックス人形として扱い、そう見ているということである。これらの女性たちが、ポルノを観ている男たちにとって現実の完全な人間(彼女たちはもしかしたら実際には、あまり好きになれず、厄介で、人に迷惑をかけ、あるいは非常識な人かもしれないし、あるいはペニスを喉に突っ込まれる以外の性的嗜好を実際に持っているかもしれないが)であったら、そのファンタジーは壊れてしまうだろう。

 客体化は同意とは何の関係もなく、見る人が対象をどう見るか(その結果、どう扱うか)に関係するのである。そして、はっきりさせておきたいのは、これは、「女性に魅力を感じる」という話でないということだ。もちろん、男は女性に魅力を感じる。それは素晴らしいことだ。だが、『義父と叔父がティーンのベビーシッターを犯す』みたいな作品で、自分の彼女や妹が輪姦されるのを見たくないのには理由がある。あなたが身近に知り、そして愛している女性は、あなたにとって人間であり、したがって、あなたは彼らの感情や幸福を気にかけているし、彼女たちが敬意をもって扱われるよう望んでいる。

 さて、ポルノハブで最も検索されているポルノスター、ラナ・ローデスとデートしたマイラクは(彼女が、ポルノは禁止されるべきだと言って、わずか8ヶ月で業界を去った後も)、自分のコンテンツでポルノスターを宣伝していることでネット上の「PTAのママ的」な人々にいじめられていると他の共演者に訴えた。

 パイカーはマイラクを擁護し、「反セックスワークの感情は常にあるよね。でも、マイラクはアダルトワーカーを人間扱いしている」と言う。まるで、ポルノの中の女性を観てシコっている男たちと以外に、これらの女性を「人間扱い」することのできない誰かがいるかのようだ。本当の問題は、マイラクがポルノ中の女性たちを「人間扱い」しているかどうかではなく、彼が、女性を虐待し搾取する業界を宣伝し、ポルノ業界が女性にとって楽しくてクールな場所であるという考えを(とくに、ティーンエイジャーを中心の視聴者に対して)宣伝していることなのだ。

  「ポルノは終身刑」

 マイラクは実は、他の誰よりもこのことを知っておくべき人物である。

 彼がデートしたというポルノスター、ラナ・ローデスは19歳のときにポルノの世界に入ったが、自分が何に足を踏み入れようとしているのかわからず、『ガールズ・ネクスト・ドア』〔ヒュー・ハフナーが製作していたアメリカのテレビシリーズ〕で見た「グラマラスで美しい」プレイメイトたちの足跡をたどるのだと考えていた。彼女は、見知らぬ男たちと性行為をすることを余儀なくされるとは知らなかったし、トラウマを残すような(しかしTwitchの白馬の騎士たちはきっと「同意の上」と呼ぶだろう)シーンをさせられるとは夢にも思わなかった。

 ローデスは、他の多くの人々と同じく、ポルノ業界全体とポルノスターとしてのキャリアが圧力と強制に基づいていると説明している。2021年のインタビューで、彼女は『プレイボーイ』にこう語っている

 「この業界に入ってから、複数相手のセックスは絶対にやらないとか、これはやらないとか言っても、無駄だということはよく知っているでしょう。エージェントの人は時間をかけて、一種の、えーと何という言葉だっけ、グルーミング? もっとやるように言いくるめてくるわけ。…『いいか、いけてるふしだら女はみんなこれをやるんだ。そうやってみんなに愛されるんだ。これをやったら、あれもこれもやらなきゃいけない』。誰も失望させたくないなら、結局、いつかやることになるんです」。

 ローデスはもともとトラウマを抱えていた少女だったが、ポルノでさらにトラウマを抱え、利用され、虐待され、唾を吐きかけられた。もちろん、お金は多少残ったが、パニック障害、不安障害、性欲ゼロの状態に陥った。業界を去った後、彼女は業界の女性たちが隠すべき真実を堂々と語り、そしてこう言った。「この業界は誰のためにもならないと思う。違法にするべき」。彼女は、自分が「サーカスの演技」をしているように感じ、この業界には「ドラッグとアルコールの乱用がはびこっている」と表現している。

 若い女性たちが、ますます過激なことをするよう強要され、何が起こっているのか理解する機会さえ与えられないうちに、安全地帯から引きずり出され、立て続けに苦痛、暴力、トラウマになる映像の撮影をするよう圧力をかけられ、ちゃんとやらないとお金を払わないぞとか、将来の仕事を失うぞとか、このシーンを撮りきらないと撮影現場にいる全員が1日分の仕事を失うことになるぞと脅される。こういう状況における「同意」はジョークでしかない。そのビデオや画像は、彼女がそれを望むと望まざるとにかかわらず、永遠にネット上に残るのだから、「同意」は実際に跡形もなく消えてしまう。

 ローデスはポルノを「終身刑」と呼び、「私はそれから隠れることができないし、どこに行っても私の映像を観た人がいる」と言う。

  普通のポルノの真実

 Twitchのウォーク〔リベラルで「意識高い系」の意〕な男女がディープフェイクポルノをめぐって非難と涙の謝罪をする一方で、性産業によって人生を破壊された女性の生身の身体、生身の人生は、「同意」で終始する分析によって無視されている。

 このスキャンダルに対する感情的で劇的な反応を見るのは興味深い(そして苛立たしい)。私の考えでは、ディープフェイクポルノは確かにモラルに反し、ポルノ文化における憂慮すべき新機軸を示すものだが、「普通のポルノ」はもっとひどいものだ。私たちが言っているのは、営利目的で、世界中で何十万人もの女性や少女が虐待され、搾取され、トラウマを負わされていることだ。

 この業界には情状酌量の余地がいっさいない。誰が何を「選択」し、「同意」したかは問題ではない。これは、観ている個人、あるいは観られている個人だけの問題ではない。これは、女性や少女がその限界を超えて操られ、利用され、搾取され、虐待され、強制されることによって繁栄している数十億ドルの産業についての話だ。それは、世界中のすべての少女と女性に影響を与えるだけでなく、男性にも、彼らとその周囲の女性や少女との関係にも影響を与える。

 QTシンデレラ自身もこのことはわかっているようで、2021年にTwitchに現れ始めた「ホットタブストリーム」について苦言を呈し、このプラットフォームの女性たちが自分自身の性的でポルノ的な動画をアップしており、他の女性ストリーマーにも同じようなプレッシャーを与えてしまうと説明している。

 「嫌がらせを受けたり、夜遅いからホットタブで裸になれと言われたりするのはうんざり。……ただチャットしているだけなのに、周囲にホットタブの他の女の子たちがいるから、期待されてしまう。疲れはてた。ただパーカー着てYouTubeの動画でも見てたい」。

 これはあなただけの問題でも、彼女だけの問題でもない。ポルノは巨大な産業であり、世界中の無数の人々によって消費され、私たちが見るもの、するもの――オンライン、広告、ポップカルチャー、インスタグラムやTwitterなど――のすべてに深く組み込まれている。それはごくノーマルなものとされ、完全に避けることは不可能だ。最近の子どもたちは、早ければ11歳からポルノを視聴しはじめ、セクシュアリティとは何かさえ知らないうちに、自分のセクシュアリティを形成していく。男性は、スクリーンで見たファンタジーや行為に、女性のパートナーが参加するよう期待する。若い女性は、自分自身の欲望、喜び、感情的・心理的な幸福を無視して、ポルノで目にしたものにもとづいて、男性が望んでいると思うことにもとづいて、男性のために演技をする。パイカーやその仲間の説教好きな男たちは、「ピューリタンで家父長制的」な家庭で育った人たちだけが女性を客体化すると主張したがる。一方で彼らは、女性の客体化から利益を得るために存在する産業を推進し、そうすることで信奉者と利益を増大させているのだ。

 パイカーは、ウォーク的な分析の全体を要約して、QTシンデレラにこう言っている――「それは同意がないからだよ。君は同意していない、完全に君のコントロールの外にあった、それが問題なんだよ」。だが、それが問題のすべてではない。問題はポルノそのものであり、男性がポルノによって、どんな女性でも手に入れることができると信じ込まされてきたことだ。そして、「同意」なるものが対話を終わらせることを許しているかぎり、この問題は何も解決されないだろう。

出典:https://www.feministcurrent.com/2023/02/10/its-because-theres-no-consent-thats-what-the-problem-is/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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