非犯罪化は被買春女性の健康リスクを減らさない――『ランセット』誌に対する売買春サバイバーの公開書簡

【解説】国際的に権威のある医学雑誌として有名な『ランセット』誌は同時に、売買春の非犯罪化を早くから提唱し、性別のセルフID制を主張するwoke系の雑誌としても有名です。このサイトでもすでに『ランセット』誌に対する批判的記事を掲載しています。このミソジニー医学雑誌は最近、再び「セックスワークの全面的非犯罪化によってセックスワーカーの健康リスクを低める」という趣旨の編集部論説を発表しました。それに対して、売買春サバイバーであるエスターさんは公開書簡を発表し、同時にそれへの国際賛同署名を求めています。ぜひご署名ください。署名はここから。

『ランセット』編集長リチャード・ホートン様

 親愛なるホートン様

 私の名前はエスター、売春の経験があります。2023年6月10日に発表された『ランセット』誌の「EUにおけるセックスワーカーの健康を守る」という編集部論説に対する応答として、この公開書簡を書いています。

 売買春の合法化や非犯罪化は、需要の増加によってその急速な拡大を招きます。それに伴い、女性の供給を増やす必要があるため、より周辺化された女性や少女たちが売買春にますます引き込まれ、人身売買も増加します。売買春の市場は、被害者を最も多く売春に引き込んだ連中の手に集中することになります。彼らは、強要という手段を使ったり、たくさんの収入が得られるとだましたり、売買春の実態を美化したりして、女性たちを引き入れるのです。そして実際に売られているのはセックスではなく、性行為をコントロールする権利なのです。

 買い手にとってコストが下がるということは、売買春の中の女性たちの報酬が下がるということであり、その結果、需要がさらに増え、こうして悪循環が続くことになります。被買春女性たちは、競争力を維持するために、当初は持っていた境界線〔コンドームなしの性行為はしないなど〕を取っ払うことを余儀なくされるか、あるいはそうすることを強制されることになります。したがって、売買春を非犯罪化しても、売買春の中の女性たちの健康リスクや生命・身体へのリスクが減ることはありません。

 自由化(合法化であれ、完全非犯罪化であれ)により、性行為の購入価格が33%も低下することが研究で確認されています。しかし、売春店のオーナーは、女性に課す料金を下げないのです。つまり、女性はより多くの売買春に耐えなければならず、必然的に性感染症やその他の身体的・精神的な害にさらされるリスクが高まるのです。

 性売買を完全に非犯罪化または合法化した国では、性的人身売買を禁止する法律が維持されていても、それを実際に施行するのは困難です。性的人身売買のほとんどは発見されることなく見過ごされ、捜査への熱意もあまりありません。

 売買春への強要や、競争に勝つための危険な行為を強いられることは、非犯罪化後も依然として多く、その多くはピンプや売春店経営者からもたらされます。彼らは、女性が売春店で買い手を確保し続けられるかどうかに関して権力を握っています。この権力は、買春者から受けた暴力について女性に警察に訴えることを躊躇させます。売買春に携わっている女性の数や子供の搾取に関する体系的なデータ収集は、依然として不十分なままです。

 同誌が非犯罪化の模範国として推奨しているニュージーランドは、人口500万人以下の小さな国で、独特な孤立した島国です。それに対して合法化の典型国の一つであるドイツは、ヨーロッパ大陸の中心という地理的な位置、約8400万人の人口を持つ経済大国であるということから、同国での性売買の合法化によって、「ヨーロッパの売春宿」と呼ばれるほどの買春大国に変貌を遂げました。性産業は、ドイツの産業の中で唯一、従事者の数について信頼できる統計がない産業です。タイム誌は、ドイツを「世界の安売り売春の中心地」と呼び、フロリダから来たある買春ツアー客の、「売春婦のアルディ〔ドイツの格安スーパーマーケット〕」というセリフを引用しています。

 現在、ドイツで起こっている諸問題は、その立法そのものについて何をなすべきかがあまり認識されていませんが、この業界の巨大さ、周辺化された女性が簡単に搾取されること、警察やその他の当局が法制度を盾に搾取者の責任を追及することが不可能であることにあると広く認識されています。

 これらの要素はすべて、合法化と同様に完全な非犯罪化にも当てはまります。

 このため、売春に携わる人々の経済的利益や安全への懸念と、ピンプや売春店経営者など、より高いレベルでこの産業を促進し、最大の利益を上げている人々(人身売買業者や商業用セックスサイトを所有する企業を含め)の利益とが一致しないのはそのためです。

 北欧モデルは、売買春が個人にとっても社会全体にとっても有害であり、男女間の不平等の原因であり結果であると理解しています。同モデルは、社会規範や人々の行動を変えることで、買春需要を減らそうとします。

 スウェーデン、ノルウェー、フランスなどの「北欧モデル」諸国では、ドイツ、オランダ、ニュージーランドの合法化国・完全非犯罪化国よりも、売買春に関わる人口の割合がはるかに少ないのです。このことは、北欧モデルが性産業を封じ込めるうえで有効であることを示唆しています。それは、たとえ性産業の規模を劇的に縮小させなかったとしても、少なくともその成長を阻止する上で有効なのです。

 北欧モデルは、完全な非犯罪化と同じく、売買春そのものをより安全にするものではありません。なぜなら、そもそも売買春を女性にとって安全なものにすることはできないからです。しかし、北欧モデルがうまく実施されれば、需要を減らすことによって、売買春の規模や新たに売買春に引き込まれる女性の数を減らすことができます。また、売春に巻き込まれた人たちにそこからの離脱の道を提供することもできます。

 欧州安全保障協力機構(OSCE)の反人身売買コーディネーターであるアンドレア・サルボーニは、人身売買を撲滅するための現在のOSCEの戦略を失敗と考え、その代わりに性的人身売買を助長する需要に取り組むことが必要だと提言しています。売買春の需要は、国内で性的搾取や人身売買を助長しているのと同じ需要なのです。

 需要の問題に取り組むべき時が来たのです。

敬具

エスター

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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