南アフリカの性売買サバイバーが大統領に宛てた手紙

【解題】以下の手紙は、南アフリカ共和国の性売買サバイバーであるミッキー・メジさんが、自国のラマポーザ大統領に宛てた手紙です。ミッキー・メジさんは最初、セックスワーク派の団体のスポークスパーソンでしたが、セックスワーク派団体が売買春の中の女性にとって何ら本当の助けになっていないことに気づいて、熱心なアボリショニストに転じた女性です。現在、南アフリカでは、売買春の完全非犯罪化の導入がめざされており、メジさんをはじめとする南アフリカのアボリショニストやその諸団体(代表的なのは、エンブレイス・ディグニティ Embrace Dignity)は積極的にそれに対抗する運動を展開しています。ここで紹介する手紙もその一環です。

 親愛なる大統領

 私は南アフリカの女性で、性売買がもたらす害悪を直接経験しています。私は、売買春によって台無しにされた人生の断片を拾い上げようとしているサバイバーとして、 そして、個人としての価値を取り戻すための一部として、 この手紙を書いています。私は、今から64年前、アフリカ女性へのパス法〔アパルトヘイトの一環として、1952年成立した、南アフリカに居住する18歳以上の黒人に身分証の携帯を義務づけた法〕の拡張に抗議してユニオンビルまで行進した勇敢な女性たちを記念する多くの人々の一員として、今日、あなたにこの手紙を書いています。

 彼女たちは当時の首相ヨハネス・ストレイダムに嘆願書を手渡して、こう唱和しました。「女を叩くことは、岩を叩くことだ」。

 何十年も前に2万人の黒人女性が届けた請願書に書かれていた暴虐(パス法によって引き起こされる暴虐)が、売買春システムをめぐって今日あなたの注意を喚起している事態と似ていることは、この民主主義政府を告発するものではないでしょうか。

 私は、性売買のサバイバーの運動であるクワネレを代表して、そして何十万人もの女性を代表して発言しています。彼女たちは、売買春が仕事などではなく、私たちの社会によって周辺へと追いやられた多くの女性たちにとって生きていくために最後に残された選択肢であると感じています。全員とは言わないまでも、私たちの大部分にとっては、これは選択(choice)の問題ではありません。搾取的な性産業と、私たちがコントロールできない状況によって引き起こされた女性の弱い立場を食い物にする男たちが、私たちを〔餌食として〕選んだのです。私はここに、私の個人的ヒストリーを添付しておきます。あなたはたぶんこれまでをそういう話を聞いたことがないだろうと思います。https://wp.me/p7OMJc-3xn 私の話は、他の多くの女性の話と同じように、子供たちのために食卓にパンを置きたいと思っていたのに、そうする経済的手段を持っていなかった女の物語です。

 今、全国各地で、特に恵まれない背景を持つ貧しい黒人女性が、性産業で彼女たちを買春する男たちや、私たちの弱い立場を利用するピンプによって、買われ、売られ、搾取され、殺害されています。

 売買春の被害は、性別、階級、人種の不平等と深く結びついており、売買春産業は世界で最も極端な差別システムの一つです。その被害者は圧倒的に女性であり、そして圧倒的に貧しい人々です。彼女たちは、世界の特定の地域に住む女性の不利な地位、女児が不釣り合いに狙われる幼少期の性的虐待、 貧困によって引き起こされる自暴自棄など、多くの要因によって弱い立場に置かれています。いったん売買春に入ると、女性の地位はさらに低下し、生活の見通しはより急激に狭められてしまいます。買春された女性たちの中でも、売買春の中で最も有害で安全でない行為に最悪の形でさらされているのは、多くの場合、貧しい国々から人身売買されてきた不法移民の女性たちです。売買春は、残酷で定着した不平等の原因であり、その結果でもあります。

 私は、アフリカの女性を性産業による貶めから救済するために団結している黒人女性グループを率いています。私たちはアフリカ全土の女性を代表しており、都市から町まで、保護区から村まで、幅広い層の女性たちが参加しています。私が2017年に設立したサバイバー運動のクワネレは現在、南アフリカの7つの州で活動しており、会員数は700人近くに達しています。私はまた、2012年にアイルランドで結成され、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、デンマーク、ドイツ、南アフリカで活動しているサバイバー主導のネットワーク、SPACE International にも所属しています。また、私が設立し、現在は事務局長として率いているサービス・アドボカシー組織「サバイバー・エンパワーメント&サポート・プログラム」の代表としても発言しています。

 長年にわたり、アフリカの女性は、彼女たちを犠牲にする法律の下で苦しんできました。この搾取的なシステムで売買される人々の犯罪化を含む売買春システムの完全犯罪化は、すべての被買春女性に苦しみをもたらしてきました。

 家宅捜索、逮捕、警察による虐待、留置所での日々、性的搾取――これらがこの法律が女性たちにもたらしたものです。処罰と悲惨さ――犯罪のゆえではなく、彼女たちを売買春の搾取にさらされやすい地位に置くような社会制度の失敗のゆえにです。

 私たちアフリカ女性は、この法律が私たちや家庭、子供たちに与えている影響を十分すぎるほど知っています。私たちは、私たちを買う男たちと同じではないし、同じであってはなりません。

 売買春は肉体的にも精神的にも壊滅的な影響を私たちに与えます。私たちは毎日のように逮捕され、中には殺される人もいます。9ヵ国(カナダ、コロンビア、ドイツ、メキシコ、南アフリカ、タイ、トルコ、アメリカ、ザンビア)の、売買春の中にいる854人のうち、71%が売春中に身体的暴行を経験し、62%が売春中のレイプを報告しています(メリッサ・ファーリーらによる2003年の研究)。89%が「売春をやめたいが、経済的に生ていくための他の選択肢がない」と回答しています。貧しい女性にとって合理的な仕事の選択肢として売買春を正常化することは、売買春から逃れたいという彼女たちの強い願望を見えなくしてしまいます。売買春の中の女性は、自分たちに対するレイプが問題ではないかのように扱われています。例えば、ベネズエラ、エルサルバドル、パラグアイでは、被害者が売春女性であれば、強姦罪の刑罰は5分の1に軽減されてしまいます。多くの人々は、被買春女性がレイプされた場合、レイプは仕事の一部であり、レイプは自業自得、あるいはレイプを自ら求めたものださえ思い込んでいます。

 主流メディアは、女性には選択の余地があり、売買春が完全に非犯罪化されれば、被買春女性の助けになると言いたがります。主流メディアが大統領であるあなたに伝えていないのは、金を払うという特権と引き換えに買春者たちは、その購入した女性たちに骨折や、脳への損傷、 肛門裂傷などを負わせていることです

 こうした話は主流メディアでは語られていませんが、お金を払った後、そのドアが閉まった背後で実際に起こっていることなのです。

 そして私たちは、生涯に渡る深刻な精神的・肉体的トラウマを被ります。被害のリストは、栄養失調、歯の損傷、性感染症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、自殺念慮、薬物の乱用、アディクション、不安、うつ病、等々、このリストは長く続きます。

 性的人身売買と売買春とは不可分に結びついており、売買春への市場がなければ、性的人身売買も存在しないのです。

 この国の憲法は、平等や人間の尊厳への権利、生存権、搾取からの自由への権利を謳っています。私たちの憲法は、最も進歩的なものの一つであると世界的に称賛されていますが、民主主義がすべての人の生活を向上させるという約束は、被買春女性の場合には何の役にも立ちませんでした。

 1949年、国連総会は、人間の尊厳に対する明白な侵害である売春とそこからの第三者の搾取に注意を払いました。1949年12月2日の「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する国連条約」の前文において、締約国は、売春は「人間の尊厳・価値とはあいいれない」ものであると指摘しています。その結果、国連は、あらゆる形態の売春と闘い、買春された人々への援助を確保することを約束しました。

 1979年、「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(CEDAW)の第6条は、締約国に対し、「あらゆる形態の女性の売買及び女性の売春からの搾取を抑止するためのすべての適当な措置」を取ることを明示的に要求することで、この方針を強化しました。

 また国際人権法は、売買春を人権侵害と規定しています。

 わが国で民主主義が出現してから26年、この国の政府は売買春の制度を廃止して上記の政策方針に沿う試みを何らしてきませんでした。

 大統領、一方で、売買春を非犯罪化すべきだという議論が盛り上がる中で、売買春を推進しつつ、どうやって私たちはその頭を堂々と上げていることができるでしょうか? 私たちは、他の人間の搾取のために扉を大きく開けようと言うべきですか。本当ですか?

 政府が2020年5月に発表した「ジェンダーに基づく暴力とフェミサイドに関する国家戦略計画」案は、ノジズウェ・マドララ・ラウトレッジ〔Embrace Diginity の創設者〕がこの案に対する回答の中で述べているように、重大な「欠陥がある」ものです。「その欠陥は、『セックスワーク』――売買春のシステムが家父長制、階級差別、性差別、人種差別を含む諸抑圧のシステムの一部を形成しているため、そういう言い方が好まれている――の非犯罪化のための暗黙の勧告である」ことです。 大統領の理解のために、彼女の声明全文をここに添付します。Embrace Dignity は、「ジェンダーに基づく暴力とフェミサイドに関する戦略計画」の致命的な欠陥に対して、首尾一貫した合理的な解決策を提案しています

 Embrace Diginity の創設者であるマドララ・ラウトレッジは、さらに次のように述べており、私たちも同じ意見です。「私たちは、買われ、売られ、搾取された人々が非犯罪化され、代替の雇用形態を見つけるために支援されなければならないことに同意するが、性搾取産業全体をも非犯罪化するための呼びかけにはまったく同意しない。貧困、幼少期の性的虐待や遺棄、または人種やジェンダーの不平等などの要因によって引き起こされる弱い立場を悪用する者たちは、犯罪化されたままであるべきだ。売買春という抑圧的システムを廃止するための包括的な戦略の一環として、需要を抑止し、売買春からの離脱を支援することに焦点を当てることは、売買春システムに内在する暴力に対処するための唯一効果的な戦略である」。

 大統領、私たちは売買春の末端にいた女性であり、医療や教育、経済などの社会経済的サービスがほとんど届かないところにいた女性です。

 私たちは、すべての女性に対するこの侮辱を終わらせるために、平等法を採択し実施するよう、あなたとあなたの内閣に懇願します。女性と少女の売買春は、すべての女性と少女への侮辱です。

 私たちが欲してるのはコンドームではありません。私たちが望んでいるのは、男たちがお金のために私たちとセックスすることが許されるようになったおかげで警察が手出ししなくなることでもありません。私たちが望んでいるのは教育であり、他の市民のように雇用市場に入るためにエンパワーされることであり、ビジネスを始めるために、融資を受ける資格を得ることです。

 そして、上に示したように――世界の非常に立派なさまざまな組織による売買春に関する政策方針を通じて――これらの機関は私たちに同意しています。

 国際人権法では、売買春は人権侵害とされています。人権とは、性別、国籍、居住地、性別、民族、宗教、肌の色、その他の区別にかかわらず、すべての人間に固有の権利のことです。したがって、人権は無差別的なものであり、すべての人間が人権を受ける権利を有し、人権から排除されることはありえないということを意味しています。

 したがって、大統領、一方で、他の人々の人権と尊厳を侵害するシステム〔売買春〕の合法化を求めながら、すべての人の人権と尊厳を主張することなどできないのです。

 忘れてはならないのは、アパルトヘイトは人権侵害の最も粗野な形態であり、それゆえこの国や世界の他の国々は、腕を組んで傍観してはいなかったし、アパルトヘイトの害を和らげることに腐心するようなことはしなかったということです。今日の状況〔アパルトヘイトの廃止〕を達成するために、多くの血が流されました。私たちは、被買春女性を搾取するシステムのサイクルを断ち切るよう、大統領に切にお願いします。

 大統領、私たちは他の市民と同じ人間なのです。

 出典:https://uncensoredopinion.co.za/mr-president-prostitution-is-a-violation-of-human-rights-abolish-it/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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