【解説】南アフリカ共和国では何年も前から、現行の売春処罰法(買春者だけでなく、性の売り手である女性をも処罰の対象とするもの)の改定が問題になっており、非犯罪化か北欧モデルの導入かをめぐって、性産業の利益を代弁するセックスワーク派勢力(主流左派政党や主流フェミニスト団体、主流人権団体を含む)と、性売買サバイバーを中心とするアボリショニスト系の女性団体とのあいだで、激しい攻防が繰り広げられてきました(サバイバーによる手紙を参照)。しかし、ついに南アフリカ政府は、売買春を全面的に合法化する非犯罪化法案を導入する方向を決定し、先月、その法案をパブリックコメントにかけ、先週、法務大臣は記者会見を開いて、同法案の導入を目指す立場を表明しました。こうした事態を受けて、南アフリカと国際的なサバイバー団体は、非犯罪化法案の導入に反対する緊急国際署名を提起しています。
以下に署名を呼びかける声明文の全訳を掲載しますので、ぜひご署名ください。締め切りは2022年12月20日です。署名はこちらから。
P.S. さらにいっそう広く署名を集めるために、締め切りを2023年1月5日まで延長するとのことですので、まだ署名されていない方はぜひ署名してください!
国際署名に向けた声明文
2022年11月30日、ロナルド・ラモラ司法・刑務所大臣は、売春に関するすべての刑事犯罪条項を廃止する法案をパブリックコメントにかけ、大臣はこれを「セックスワークを非犯罪化する」のための法案と特徴づけました。
とりわけ、同法案は、「売春施設の所有と経営(売春目的または人の訪問のために維持または使用される家または場所を含む)」と「18歳以上の人の性的サービスに従事する」ことを禁じた条項を廃止するものとなっています。この法案は、実質的に、買春、売春施設の経営、売春の周旋を含む、性売買全体を非犯罪化するものです。
私たち、世界各国の女性・人権擁護団体、第一線のサービス提供者、性売買のサバイバーのリーダーたちは、南アフリカ政府に対し、この法案に反対する意見をここに提出します。
私たちは、この法案に反対する性売買のサバイバーと南アフリカ国民に連帯します。
売買春は「セックス」でも「労働」でもなく、暴利をもたらす性的搾取のシステム
売買春は、女性に対する男性の暴力と差別の最も残酷な形態の一つです。報告書によると、南アフリカでは13万1000人~18万2000人の人々が売春に従事しており、そのほとんどが経済的・社会的に権利を奪われた黒人女性であり、暴力、性的・心理的暴力、レイプ、人間性の剥奪、そして死の危険にさえさらされていると推定されています。南アフリカが性売買を非犯罪化すれば、その数は何倍にも増えることでしょう。
もし南アフリカが性的行為の購入(買春)を非犯罪化し、性売買を合法化すれば、間違いなく、「保護、安全、正義」を確保するとか、「ジェンダーに基づく暴力やフェミサイドと闘う」といった目標を達成することはできないでしょう。法務大臣の想定に反して、法案は売買春の中にいる女性たちにより多くの安全、医療へのアクセス、スティグマの除去を提供することはありません。
本法案は、売買春システムがどのように機能するかを理解していない。売春への需要が性産業を推進している
性産業は、需要と供給、そして利益のインセンティブという経済方程式によって成立する市場です。性産業の関係者たち(売春店の経営者、ピンプ、エスコートサービス会社、ポルノ業者、オンラインの性的搾取サイトの提供者、その他の搾取者たち)は、最も弱い立場の人々、とくに女性と子どもを買春者に周旋することで(ピンプ行為、性的人身売買)、公認された性的需要を満たしているのです。買春者のお金がなければ、数十億ドル規模の世界的な性産業はそもそも存在しません。
売春への需要を合法化することで、法案は南アフリカにおける性産業、買春ツァー、性的人身売買を拡大させる
政府が性売買を非犯罪化した場合、もはやそれをコントロールすることはできません。法案は、路上売春から個人宅の売春宿、すべての商業的性売買施設の経営に至るまで、あらゆる形態の性売買における搾取者の利益追求を認めるものです。また、南アフリカはアフリカの買春ツァーの中心地となり、世界的な性的人身売買の目的地となるでしょう。
さらに、性売買を非犯罪化することは、政府が性的人身売買と戦うための手段を弱めることになります。たとえばニュージーランドは、20年前に性的行為の購入と性売買を非犯罪化して以来、性的人身売買を起訴して性的人身売買の犯人に有罪判決を下すことをまったくしなくなり、性的人身売買の被害者も確認しなくなりました。その結果、子どもの性的人身売買が横行するようになり、処罰を受けることなく野放し状態です。本法案が可決されれば、南アフリカでもこのようなことが起こるでしょう。
本法案は、女性を暴力、健康への悪影響、スティグマから保護しない。売買春は本質的に暴力的であり、スティグマを与える
本法案は、売買春に内在する暴力と差別を抑制することはできないし、変えることもできません。報告書によれば、南アフリカの性産業に従事する女性たちは、ハイレベルの暴力と外傷性ストレス障害にさらされています。これらの殴打、レイプ、刺傷、虐待、性的強要の責任は、買春者、売春店の経営者/管理者、その他の搾取者にあり、〔性売買を禁じている〕法律にあるのではないのです。 性売買を非犯罪化する法律は、南アフリカの最も貧しい人々に、取り返しのつかない被害と公衆衛生上の危機を引き起こすことでしょう。
本法案は、基本的人権原則および国際法の下での南アフリカの義務に違反している
本法案は、基本的人権の原則と国際法に対する南アフリカ政府の公的約束を深刻に毀損するものです。南アフリカは世界人権宣言を採択し、1949年の人身売買禁止国際条約、女性差別低条約(CEDAW)、子どもの権利条約、パレルモ議定書、アフリカ連合の諸条約、マプト議定書、その他の国際・地域文書を批准しています。これらの条約は、南アフリカ政府に対し、女性と子どもに対する虐待と暴力と戦い、究極的にはそれらを根絶し、性的人身売買を防止し、特に女性と子どもに対する売春搾取を抑制する義務を負わせるものです。
売買春制度は植民地主義の遺産であり、家父長制の現われである。これを非犯罪化することは時代に逆行する行為である
南アフリカ政府は、売買春が17世紀の植民地主義の遺産であり、ヨーロッパ人入植者によってこの国の沿岸にもたらされ、快楽と利益のために黒人女性を強姦し、搾取し、人身売買したことを忘れてはならりません。
この法案は、すべての国民に「人間の尊厳、平等の達成、人権と自由の向上」を保障した南アフリカ憲法の約束を破る、あの暗い歴史の一章を再現するものなのです。
ネルソン・マンデラが言ったように、「女性と少女が暴力的に攻撃されるたびごとに、私たちの人間性は低下する。女性たちが男性の求めによって無防備な性行為を強いられるたびごとに、私たちの尊厳と誇りは破壊される。女性たちがセックスのために自分の生を切り売りさせられるたびごとに、私たちは生涯刑務所に入るよう宣告される。私たちが沈黙する一瞬ごとに、私たちは女性たちに陰謀を企てているのだ」。
南アフリカは、性の買い手の責任を問う進歩的な法律を制定し、売春をしている人たちだけを非犯罪化し、包括的なサービスを提供しなければならない
私たちは、売買春の中にいる人々を犯罪者として処罰している現行法を改正しなければならないという法務大臣の意見に同意します。誰も自分自身が搾取されたことで逮捕・投獄されるべきではありません。売春を犯罪化している制度の下では、警察は売買春の中にいる女性やその他の人々に嫌がらせをし、逮捕し、残忍な行為をすることが知られていますが、一方で、彼女たちを買っている男性たちはほとんど逮捕されることはありません。しかし、性売買を非犯罪化することは解決策ではありません。
私たちは南アフリカ政府に対し、第三の選択肢を検討するよう求めます。すなわち、性行為のために売買されている人々のみを非犯罪化する一方で、買春者と搾取者に対して、彼らが引き起こしている痛ましい被害と彼らが犯している犯罪の責任を追及する法律を制定することです。これは、アボリショニスト/平等モデルとして知られているものです。また、このアボリショニスト/平等モデルは、政府が被買春者たちに包括的な医療サービス、教育の機会、離脱戦略を提供することを義務づけています。
私たちは、南アフリカが、男女平等と人権を支持するアボリショニスト/平等モデル立法を採用するアフリカ初の国となることを強く求めます。また、この法律は既存の文化的パラダイム――女性を二級市民扱いし、搾取者や買春者の意のままに売買され、暴力を受ける商品とみなすパラダイム――を変える有効な手段にもなるでしょう。今こそ、このような進歩的立法を制定する時です。
南アフリカは、サバイバーと連帯するべきであって、性産業と連帯するべきではありません。
反対に同意
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アボリショニスト/平等モデル立法の採用を求めます。
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