ジュリー・ビンデル「性売買サバイバーの発言を封じようとする誹謗中傷が失敗に終わる」

ジュリー・ビンデル

『インディペンデント』2019年11月11日

【解題】これは、2019年11月11日に『インディペンデント』のオンラインページに掲載されたジュリー・ビンデルさんの記事である。レイチェル・モランさんはアイルランドの売買春サバイバーで、売買春からの離脱後、2013年に回想録 Paid for: My Journey through Prostitution: Surviving a Life of Prostitution and Drug Addiction on Dublin’s Streets を出版した。この著作は大きな反響を呼び、各国語に翻訳されて、世界的ベストセラーとなった。キャサリン・マッキノンさんはこの著作について「当事者としての自分自身の経験を現在の論争の文脈を踏まえて分析し、すべての哲学的テーマを扱いつつ、売買春に関する最良の分析を提供している」と激賞している(2019.8.28)。アイルランドが北欧モデル立法を導入することができたのは、この著作、およびモランさんが設立したサバイバー団体 SPACE International の運動のおかげでと言っても過言ではない。当然、モランさんにはセックスワーク派からの猛烈なバッシングと攻撃があり、その一環として、モランさんの著作はすべてでっち上げだという誹謗中傷もなされた。モランさんはやむをえす裁判に訴え、そして見事に勝利を収めた。

 性売買のサバイバーであるレイチェル・モランが『Paid For(私は買われた)』という回想録を出版したとき、彼女が性的搾取の現実を暴露したことに怒りをおぼえる人間がいることを十分承知していた。ピンプや売春店の経営者、そして買春者たちは、彼女が「世界最古の抑圧」の蓋を開けたことをまったく喜ばなかった。しかし彼女がまったく予想しなかったのは、ある女性から、モランは嘘八百にもとづいてあの本を書いたと繰り返し中傷され、その女性を名誉棄損で訴えなければならなくなったことだ。

 その人物ゲイ・ドルトンも売春婦であり、モランが売買された場所の一つ、ダブリン南海岸の赤線地帯で売春をしていた。ドルトンはモランが自分のライフヒストリーを丸ごとでっちあげたのであり、そもそも売買春などしたことはないと繰り返し主張した。こうした極端な主張に対して、本日、ダブリン巡回裁判所の裁判官は「虚偽で、侮蔑的で、名誉棄損的」だと認める判決を下し、ドルトンは今後この主張を繰り返すことを法的に禁止された。

 1989年、モランが13歳だった年、彼女の父親は自ら命を絶った。母親も深刻な精神疾患に苦しんでいて、いっしょに暮らすのはいっそう困難になった。モランはまもなくして家出し、ホステルや、公営の簡易宿泊施設やDV被害者向けのシェルターなどを出たり入ったりしたが、やがて路上で暮らすホームレスになった。すぐにモランは売買春に引き込まれた。彼女の人生は男たちの暴力と虐待、薬物依存につきまとわれ、住居を転々とする暮らしだった。7年後の1998年、モランは薬物依存を断つことができ、売買春から抜け出した。彼女は学業に戻り、ダブリン市立大学でジャーナリズムの学位を取得し、回想録『ペイド・フォー(私は買われた)』の執筆を開始した。書き上げるには10年もの歳月を要した。

 モランはまたたくまに国際フェミニスト運動の中で敬愛される象徴的人物となり、彼女の本はアメリカ、オーストラリア、ドイツ、イタリア、韓国など、世界各国で出版された。モランは本の出版に先立つ1年前に、性売買サバイバーによって構成された団体、SPACEインターナショナルを立ち上げた。SPACEは団体として成長し、モランはその代表理事に就任した。設立から今日までの8年間のうち最初の4年間は資金援助なしに活動したが、性売買のサバイバーとフェミニスト団体とを結びつけるという優れた戦略のおかげで存続することができた。フェミニスト団体は、モランの『ペイド・フォー』を読んで感銘を受け、サバイバーたちの声を聴きたいと願った。モランとその仲間たちはフェミニストのスペアルームやソファで眠ったり、安宿に寝泊まりした。そうやって彼女たちは、性売買に内在する虐待について、できるだけ多くの人々に手弁当で広げていったのである。

 こうした活動の歴史――完全に草の根のフェミニスト闘争――を知れば、モランに対する誹謗中傷がなおさら不当で侮辱的なものであることがわかるだろう。自分の過去をでっち上げるどころか、モランは他の女性たちに同じ目にあってほしくない一心で、苦痛に満ちた売買春の真実を暴露したのである。それによって利益を得るどころか、スウェーデンのマルメで開催されたフェミニスト会議で初めて私が出会った時、モランは食事代にすら事欠いていた。私はモランに、運動を始めた当初のこと、ゼロから団体を立ち上げることの大変さについて尋ねた。

 「本を出版する1年前の2012年にブログを開設したのですが、それを読んだ世界各地の人々に招かれて世界各地を旅することになりました。旅の中で、ヨーロッパでも北米でも、とても素晴らしい女性たちに出会うことができました。そして何より私が強い印象を受けたのは、ヨーロッパの白人女性だろうと、アメリカの黒人女性であろうと、カナダの先住民女性だろうと、私たちはみな同じことを語っていたことです。これらの声がひとつに合わされば、どんなに大きな力になるかは明らかでしょう。しかし、真っ先に私たちが直面したのは嘘と中傷でした。これは今も続いています」。

 そのような中傷のひとつが、ドルトンによって発せられたものだ。ドルトンは、SPACEインターナショナルの女性たちは「強欲で悪質な詐欺集団であり、セックスワーカーの生活をその魂ともども売り飛ばした」と主張した。

 「私たちの団体の女性たちのことをあんな風に言われて、とても気分が悪くなりました」とモランは話す。「SPACEインターナショナルの女性たちはみな性売買を生き抜いた人たちです。そしてその多くが、今も売買春の中にいる女性たちに最前線で支援を提供しています。私たちが語っていることを私たちがどうやって知ったのか、その理由は簡単です。それは私たち自身が経験したことであり、また他の女性たちが経験しているのを目にしてきたことだからです。性売買を美しく粉飾する手法は、私たちには通用しません。だから私たちの発言をまるっきり嘘だとして否定しなければならなかったのです。私たちの声は、主流の政治的言説にとって危険で強力なものだったのです」。

 自分の主張の正当性が最終的に認められたことについてどう思うか尋ねると、モランは「私はいつも事実を語っていたので、言い分が認められるだろうとわかっていました。わからなかったのは、ドルトンに実際に法廷内で会えるかどうか〔裁判が実際に開かれるかどうか〕でした。ありがたいことにその日がやって来て、メディアは今では、私が最初からわかっていたことを報道するようになっています」。

 モランは法廷に2通の宣誓供述書を提出した。1通は彼女の元養母のもので、モランが未成年だった1992年に売春店で逮捕された後、裁判所の指示の下、彼女を保護した。もう1通は彼女を逮捕した風紀犯罪取締課の警察官のものだった。

 でも、ドルトンだけの問題ではないですよねと尋ねると、「その通りです」とモランは答えた。「ある女性が別の女性について悪意ある噂を流したという単純なものではありません。そんなものよりもはるかに射程が広く、はるかに悪質です。これは何年間も集中的に行なわれたいやがらせキャンペーンで、何百人もの人間、何千ものツイート、無数の動画とブログの投稿、虚偽の主張と名誉毀損、そして私の住所を公開するぞという明白な脅しを伴っていました」。

 このような誹謗中傷のいくつかは今もまだ付きまとっている。私自身も、モランのことを紹介する記事をイギリスの大手新聞に掲載しようとしたら、「彼女の信憑性についてはいろいろと取り沙汰されている」からという理由で掲載を拒否されたことがある。「世界の歴史において、男性による暴力を告発した女性は誰もがその信憑性を疑われてきました」とモランは語る。「そうした雑言よりもずっと不愉快だったのは、フェミニストを自称する一部の女性たちがこの噂を信じて、それを拡散したことです。この人たちは、辞書で『フェミニスト』という言葉の意味を調べるか、鏡を眺めるか、おそらくその両方を同時にやった方がいいでしょうね」。

 ダブリン巡回裁判所に提出されたドルトンの精神科医の手紙の中で、ドクターは彼女のことを「病気」だと記し、裁判所に寛大な配慮を求めた。ドルトンについて今どう思っているか尋ねると、「少しだけ同情しています」とモランは答えた。「彼女は利用されたと思います。この件で明らかにされたのは、これが精神疾患の持ち主からの長期間におよぶイジメであり、まったく見知らぬ他人〔ドルトンのこと〕からの悪口雑言であったこと、その主張するところがアイルランドの法廷で名誉毀損と認められたことです。世間によく知られていないのは、グローバルな性売買推進派の連中がいかによってたかって彼女の精神的不安定さを何年にもわたって利用し、私の無防備さにつけ込んできたかということです。連中は、一人の女性を傷つけるために別の女性を利用したのです。連中は自分たちのやっていることを十分にわかっててそうしたのです」。

出典:https://blogs.spectator.co.uk/2019/11/the-failed-attempt-to-silence-sex-trade-survivor-rachel-moran/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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