オランダの連立与党CDAが売買春に関する北欧モデル型立法を議会に提出

 複数の新聞記事(『NLタイムズ』『デイリーメイル』『ダッチニュース』など)の報道によると、買春大国であるオランダの連立与党を構成しているCDA(キリスト教民主同盟)は、議会に売買春に関する北欧モデル型の立法(売り手の女性は処罰されず、支援と保護の対象とされ、買い手と業者が処罰される)を提出しました。

 同法案の責任者であるCDAの女性議員アン・クイク氏は、「売買春は定義からして不平等です」と記者に語り、「売春させられているのは、ほとんどが女性であり、不平等に扱われています」と述べ、さらに次のように語ります――「ほとんどの売春女性は、実際には自分の目の前にいる男たちとセックスをしたいとは思っていません。しかし、それでもセックスがなされるのは、お金を払われるからです。だから、そこでの同意は買われたもので、女性は商品になっているのです。今日の時代においてもはやそんなことは許されるべきではありません」。

 またクイク議員は、これまでのオランダの合法化政策が売買春の中の女性を何ら保護せず、むしろ虐待と人身売買が横行していることを指摘しています。

 「赤線地区を見てください。売春女性の95%は東欧の貧しい地域から来ています。路上で自分の娘に売春の仕事をさせたいかと尋ねられたら、誰もがノーと答えるでしょう。しかし、私たちはヨーロッパの貧しい地域の若い女性にこの仕事をさせているのです。これは偽善です。」

 彼女が所属する政党はキリスト教系の政党ですが、彼女自身はこの法案は、セックスは家庭内だけで行なわれるべきだというキリスト教的価値観に基づくのではなく、売買春の中で虐待され差別されている女性を保護し解放するためのものであると明言しています。

 また、彼女が提案している法案は、古い禁止主義(売り手も買い手も同じように処罰の対象とするアメリカで主流の法体系)の法体系ではなく、1999年に成立したスウェーデンの買春者処罰法を参照にした北欧モデル型の立法です。「売春を完全に根絶することは不可能でしょうが、政府はそれが起こらないように最大限の努力をすべきです」とクイク議員は述べています。

 オランダは、ドイツやスペインと並んで、ヨーロッパにおける売春合法化の最先端国であり、首都アムステルダムの有名な赤線地区にあるいわゆる「飾り窓」は観光の目玉となっています。そして、昨今、あまりにも世界中から大量の観光客が赤線地域に押し寄せたため、アムステルダムの市長は赤線地帯の縮小ないし廃止を検討せざるをえなくなったほどです。その飾り窓にいる女性たちの多くはオランダ市民ではなく、東欧から来た若い貧しい女性たちであり、また現地女性も含めてそのほとんどにはいわゆるピンプ(売春女性を支配下に置いてその稼ぎをかすめ取る男)がついています。

 世界に冠たる売買春大国であるオランダが北欧モデル型立法を導入すれば、世界の流れに画期的な変化をつくり出すでしょう。しかし残念ながら、他の連立与党は、売買春を禁止しても「地下に潜る」といういつもの陳腐な議論(実際にはまったく証明されていない)をたてにとって、この法案に反対しているため、今国会で成立する見込みは低いとみなされています。しかし、これは単なる第一歩です。北欧モデル型立法を成立させたイスラエルでも、北欧モデル型立法の支持派は最初はまったくの少数派でした。左右を超えて多くの政党に働きかけ、世論を形成し、メディアに訴えるという地道な努力を通じて、議会で圧倒的多数派になったのです。

 売買春の合法化政策は世界的にすでに破綻しています。売買春を合法化したどの国でも、人身売買が横行し、女性たちの人権は踏みにじられ、買春者たる男たちは日常においても女性蔑視の姿勢を平然ととるようになっています。「セックスワーカー」の安全性は何ら高まっていないし、それどころか売買春の中の女性が殺されたり暴力を受けたりする事例が増えています(ドイツの事例は、以下の記事を参照。マヌエラ・ショーン「『合法化は売買春の安全性を高める』という神話」)。この問題に対しては、北欧モデル型立法しか解決策はありません。

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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