【解説】この論考は、アトランタでの銃撃事件を受けて、オーストラリアのアボリショニスト団体「オーストラリア女性人身売買反対連合(CATWA)」の代表であるティガン・ラーリンさんが執筆し、オーストラリアの『The Conversation』に掲載されたもので、筆者の許可を得てここに翻訳を紹介します。
オーストラリアはこれまでもこのサイトで何度も紹介しているように、多くの州で売買春が合法化ないし非犯罪化されており、その多くでアジア人女性が人身売買されています。オーストラリアの白人男性の多くは若いアジア人女性を蔑視し、売春婦(ないし潜在的な売春婦)とみなしており、白人男性にはこれらの女性たちを性的に使用する権利があると考えています。このような、人種差別、ミソジニー、男性の性的特権との結合こそが、アトランタ事件の背景にあるものであり、オーストラリアでも共通した問題であるとラーリンさんは指摘しています。
ティガン・ラーリン
『カンバセーション』2021年3月23日
先日、米国のアトランタで発生したマッサージパーラーでの銃撃事件は、オーストラリアでも深刻な警告となるべきものだ。この事件で、韓国系女性4人と中国系女性2人を含む8人が亡くなった。
米国当局は、この21歳の白人男性による襲撃の正確な動機を解明しようとしているが、彼には買春者であった可能性が高い。「Asian Women for Equality」などのフェミニスト・グループは、この種の暴力の背後にある重要な要素として、ミソジニストの人種差別をただちに指摘した。同グループのメンバーの一人、スザンヌ・ジェイはこう語っている。
「男性は売春産業によって訓練されており、不平等な状況下でオーガズムを得ることを奨励され、許されているのです。これは、こうした男性に対処しなければならないアジア人女性にも影響を与えています。」
フェミニストたちは、「グローバルな性売買はますます、すべてのアジア人女性の人間性を奪うことに貢献している」と論じている。実際、報道によると、アトランタ銃撃事件の容疑者は、自分の「セックス依存症」の「誘惑」をなくすための一種の復讐だったと説明している。
オーストラリアにおけるマッサージビジネスの仕組み
米国と同様、オーストラリアの「マッサージパーラー」も、アジア人女性の売買春に関係している。私が研究している都市メルボルンでは、表向きはマッサージ業を装いながら、違法な性的サービスを提供するこれらの施設が、売春店の大半を占めている。
オーストラリアの商業的性売買は、各州と準州のレベルで規制されており、その結果、さまざまな立法モデルがパッチワークのように存在している。ヴィクトリア州では、違法なマッサージパーラー店が合法的な売春店の5倍も存在すると推定されているが、メルボルンのマッサージパーラーに関する私の調査はこの推定を裏づけている。
ヴィクトリア州のセックスワーク法の主な目的は「セックスワークのコントロール」であるにもかかわらず、ビクトリア州の売春店の大半は、合法的なマッサージビジネスを装って営業することで、法律上の要件と規制を回避している。マッサージビジネスは、通常、ほとんどの自治体で一般小売施設とみなされており、認可や登録を必要としていない。
また、オーストラリアの性産業は、性的な人種差別の文化に大きく依存している。私の調査の一環として行なわれたオンラインのマッサージパーラー広告の分析によると、広告には一般に性的なものを暗示するポーズをとったアジア人女性の画像が多数掲載されている。また、「韓国、香港、台湾、シンガポール、ベトナム、中国、マレーシアの若くて美しい経験豊富な女の子たち」など、人種や民族を強調した表現も普通に見られる。
広告に加えて、私はオンライン上の買春者のレビューフォーラムも調査した。これらの掲示板では、「民族、外見、胸の大きさ」、「女性の体の部位の評価」、受けた「サービス」などを記述するよう男性に促している。このようなレビューは、女性を侮蔑し貶めるものであるだけでなく、この業界に蔓延する性的な人種差別的ステレオタイプを助長するものでもある。オーストラリアの合法的な売春店の買春者レビューに関する最近の研究では、「買春者は、女性に対する性的侵害や暴力の物語を積極的に構築し、ノーマルなものにしている」ということが明らかにされたが、それも驚くべきことではない。
売買春における性的な人種差別の影響
このような露骨な人種差別、ミソジニー、男性の性的特権は、マッサージパーラーのオーナーやその客たちに限ったことではない。それは、ヴィクトリア州の「セックスワーク規則(Sex Work Regulations)」にも組み込まれている。この最新版では、広告で「性的サービスを提供する人の人種、皮膚の色、民族的出身」について言及することができるようになった。これは、ヴィクトリア州の性産業が、マイノリティ女性をエロティックな「他者」として合法的に宣伝することを意味する。
オーストラリアの性産業が推進するこの性的な人種差別のノーマル化は、より広い範囲に影響を及ぼしている。たとえば、韓国系カナダ人の医師、アリス・ハンは、ニューサウスウェールズ州で、12時間の間に2回もセックスワーカーかどうか尋ねられたことをABCに報告している。これは、オーストラリアのアジア人女性に対する「侮蔑的なステレオタイプ化と人種的プロファイリングのパターン」の典型であり、より広くアジア人女性を売春に関連づけるものだと彼女は述べている。
また、オーストラリアの性産業は、その存続のためにアジア人女性の移民と人身売買に依存している。実際、オーストラリアの性産業には、性的搾取を目的とした現代の奴隷制度が蔓延している。これらの事例は合法的な売春店と違法な売春店の両方で発見されており、この国の売春法制が完全に失敗していることを示している。
このことは、ヴィクトリア州で提案されている完全非犯罪化のモデルに疑問を投げかけるものだ。このモデルは、売買春で搾取される人々だけでなく、ピンプ、売春店オーナー、買春者など、売買春で利益を得る人々を非犯罪化しようとするものである。
進むべき道
オーストラリアは、ジェンダー平等の観点から売春に取り組むという点で、世界の国々からますます遅れをとっている。実際、国連の女性差別撤廃条約委員会(CEDAW)は、オーストラリアが売春の需要を減らすための要件を満たしていないとして、一貫して非難している。売買春の基盤となっている人種差別、ミソジニー、男性の性的特権の絡み合いに対処するために、オーストラリアは新しい国家的枠組みを採用しなければならない。北欧モデルないし「平等」モデルは新しい進むべき道を提供している。売春に従事する人々を非犯罪化するが、彼らを搾取する人々は非犯罪化しないという道だ。このモデルは、世界中の売買春のサバイバー団体や反人身売買組織から支持を得ており、性産業に従事する人々をサポートし、転職を支援する手厚い社会的サービスを含んでいる。
われわれは、売買春が、世界で最も疎外されている女性や少女を虐待することで成り立っていることを知っている。オーストラリアの性売買の最前線で苦しんでいるのは、主にアジア人女性や移民の女性たちだ。社会が性暴力を容認している事態に対処するために国民的な議論がなされるのは当然のことだが、オーストラリアの性売買と深く結びついている性差別、ミソジニー、人種差別を無視することはできない。
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