先日(2021年8月13日)、オーストラリアのビクトリア州政府(アンドリュース労働党政権)は、売買春の完全非犯罪化を正式に決定し、年内に既存の法律の改廃に関する法案を議会に提出する方針を決めました。もともと同州では売買春は合法化をしていましたが、それからさらに推し進めて、売買春に関するいっさいの特殊規制(たとえば路上売春に対する規制、学校近くでは営業できないというゾーニング規制、犯罪歴のある者は売春店を経営できないこと、など)を撤廃するとのことです。その口実はもちろん、性産業を他のどの産業とも同じ扱いにすることで、セックスワーカーがより安全になり、スティグマが取り除かれるというものです。しかし、たとえセックスワーク論を認めたとしても、政府が規制しなければしないほど、その中の労働者がより安全になるというのは、まったくもってネオリベ的な発想です。
ビクトリア州の労働党政府は、性産業出身で別の党の議員であるフィオナ・パッテンを責任者にして、性産業に関する方針を議論する検討委員会のようなものを立ち上げ、その中で「討議」をしていましたが、結局、パッテンの主張通り、売買春の完全非犯罪化を決定しました。その過程で、オーストラリアのアボリショニスト団体であるCATWオーストラリアは非犯罪化反対の意見書を提出しましたが、もちろん一顧だにされませんでした。また、この審査過程において、性産業から離脱したサバイバーの話を聞く機会ももうけられませんでした。最初から非犯罪化を決定する予定であり、体裁を作るためだけに諮問委員会を立ち上げたのですから、当然です。そして、パッテンがまとめた審査報告書は、CATWオーストラリアの要求にもかかわらず、公表されていません。
ビクトリア州の労働党は驚くほどのネオリベ政党であり、ドラッグの自由化、安楽死の自由化、性別変更の自由化(セルフID!)などを推し進め、最後の仕上げとして、今回の売買春の完全非犯罪化を決定したわけです。ネオリベ化した欧米主流左翼の悲惨な実態が、ここにもはっきりと示されています。
P.S. オーストラリアのアボリショニストが中心となって、ビクトリア州政府の首相であるアンドリュース労働党党首に宛てた国際書簡への緊急国際署名が8月22日から始まっています。ぜひご署名ください。署名はこちら。締め切りは8月27日です。
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