キャロライン・ノーマ「性的虐待をアジア人女性にアウトソーシングしてきたオーストラリアの歪んだ歴史」

【解説】以下の論考は、各州で売買春を合法化しているオーストラリアが、歴史的にアジア人女性の犠牲のもとに、オーストラリアの白人男性の「性的権利」を保護してきたことを厳しく指摘する記事です。オーストラリアはジェンダー平等の先進国だと一般に思われていますが、実際には、性差別と性虐待をアジア人女性にアウトソーシングしてきただけなのです。しかし、このようなアウトソーシングには限界があり、現在、オーストラリアで、政治家や議会スタッフによる性的暴行事件や性的スキャンダルで全土が揺れていることに表れているように、結局、「鶏はねぐらに帰って」来ます。アジア人女性に対する搾取の歴史を清算し、売買春の合法化政策を根本的に変えないかぎり、問題は解決しないと筆者は訴えます。

キャロライン・ノーマ

『ABC』2021年3月31日

 オーストラリア人は、性産業に対する寛大で偏見のない態度を誇りに思っている。実際、売買春を「セックスワーク」として法律に明記したり、連邦政府の人身売買防止法からそれを完全に除外したりするほど、誇りに思っているのだ。性産業の客に対する寛容な国民性は、満足できるサービスを与えなかった女性を訴える男の権利や、その「人種、肌の色、民族的出自」を合法的に宣伝された女性を買う権利を男性に与える法律に反映されている。買春客だけでなく、ピンプも広範に受け入れられている。2009年以降、ニューサウスウェールズ州のすべての議会は、行政区域内のどこかでピンプの営業を認めなければならず、規制当局は「商業的な性サービス施設に確実性を与え、他の商業施設との公平な扱いを保証する」よう求められている

 このような売春に対する寛大な見方は、オーストラリア男性市民の買春の歴史から生まれたものである。この歴史は、基本的にアジアと結びついており、オーストラリア人は、使用される身体がアジア人のものであるかぎり、「セックスワーク」に対して寛大な態度をとることが容易であると考えているのだ。

 オーストラリア人男性は、第2次世界大戦中、中東でオーストラリア軍が認可した売春宿を通じて女性や少女を買春していたが、産業化された買春に初めて進出したのは、1946年から1951年にかけての日本占領においてであった。その後、朝鮮戦争では現地の女性を、休暇中には再び日本の女性を性的に利用した。その10年後の1962年から1972年にかけてのベトナム戦争では、アジアのさまざまな女性を買春した。その中にはタイ人も含まれており、1980年代のセックス・ツーリズム・ブームの中で、タイ人女性は再びオーストラリア人男性の餌食となった。その後、1990年代以降は、オーストラリアの都市部で「マッサージパーラー」へとアジア人女性が人身売買されるようになり、現在、メルボルンでは、州政府が認可した売春店の5倍の数の売春店があると言われている。最も直近では、コロナパンデミックのもと、オーストラリア人男性が、フィリピンで男たちが子供を性的に虐待する様子をオンラインで有料視聴したり、ポルノ制作のためにタイの子供たちをリクルートしたりしている。

 売買春に対する国民の態度という点では、オーストラリアはアメリカとの共通点が多い。アメリカでもアジア系の「マッサージパーラー」が林立しており、最近、それらのマッサージ店で女性たちが大量に銃で殺害された事件をきっかけに、女性の性的人身売買の問題が全国的に話題になった。ある人身売買防止団体のCEOは、「アメリカで『アジア系マッサージ・パーラー』という概念が存在するのは、アジア人女性はエキゾチックで従順で交換可能であるという考えに基づいた、反アジア的な人種差別に根ざしている」と説明している。言いかえれば、何十万人もの女性の人身売買や売買春を行なう施設が現代のアメリカで放置されているのは、そこで売買されているのが永遠のアジア人「芸者」だからだ。

 オーストラリアでは、性産業に従事するアジア人女性に対する同様の残虐行為を目の当たりにしても、同じような国民的議論は起こらない。2015年にはティナ・ファンがホテルの部屋で殺害され、2012年にはシドニーの売春店から出てきた韓国人女性つけられ最近の裁判では、アジア系パーラーのマネージャーが「怯えている」若い女性を「新しい競走馬や新しい犬」のように訓練するよう指示されていたことが明らかにされた。オーストラリア人は、売買春の人権侵害を認めると「性的サービス」に対する自己満足に満ちた自信満々の態度が損なわれるため、こうした重大な犯罪に反応しようとしないのだ。

 しかし、このようなリベラルな態度は、性産業の主要部分を占めるアジア人女性を犠牲にしてこそ保たれている。オーストラリアという国は、自国の男性たちが何十年にもわたってアジア人女性を性的に利用してきたという歴史をただの一度も反省したことがない。このような歴史的に培われた性的権利の前提に挑戦するどころか、オーストラリア政府は今日でも性産業の規制を緩和し、人身売買防止法を水で薄めている。

 オーストラリアが性奴隷制をアジア人女性にアウトソーシングすることは、リベラルなエリートたちにとって実に都合がいい。彼らは「セックスワークは仕事だ(Sex work is work)」と自分たちに言い聞かせ、オーストラリア人男性たちの間で強まっている、学校、家庭、職場が彼らのポルノ的娯楽のための売春施設のようになるべきだという考えに何も異議を唱えようとしない。アトランタのマッサージパーラーでアジア人女性たちが撃ち殺された数日後、オーストラリアのテレビタレントたちは、売買春に関する自国の標準的な路線を思い出させるためにSNSに登場した。

 このような介入は、アジア人女性に犠牲を強いることでオーストラリア人男性に許されてきた性的権利について、長い間待ち望まれていたはずの国民的討論の機会を効果的に封じ込めるものだ。

 しかし、今や、地元のオーストラリア人女性や子どもたちにとって鶏がねぐらに帰ってきつつある。ベトナム戦争以来、オーストラリア人男性に認められてきた性的権利が、人身売買されたアジア人女性によってはその弊害を吸収できない職場や家庭にまで波及している。このような状況は、現在、オーストラリア人女性たちの間で社会的な不安を引き起こしているし、そうであるべきだ。しかし、今回は、金の支払いと引き換えに性的虐待に黙従してきた姉妹たちを犠牲にして、オーストラリア人女性の不安を解消することはできない。オーストラリア人男性のグロテスクに歪んだセクシュアリティに対抗するためには、アジア人女性に対する歴史的な不正を認識し、売買春、ポルノ、その他の商業的性暴力に対してゼロ・トレランス政策を新たに実行する必要がある。この抜け道をふさぐことによってのみ、私たちは国境の内外で弱い立場にある女性たちを守り、オーストラリア人男性が長い間侵害するのを許してきたアジアの女性や子どもたちに償いをすることができるのだ。

出典:https://www.abc.net.au/religion/australia-outsourcing-sexual-abuse-to-asian-women/13284728

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

キャロライン・ノーマ「性的虐待をアジア人女性にアウトソーシングしてきたオーストラリアの歪んだ歴史」」に3件のコメントがあります

  1. 以前、ネット上で見た某性教育の論文で、オーストラリアの売買春について、現地で見学したらしい方が、日本と違って暴力と無縁ということを驚嘆していた内容があって憮然としたことがありました。よそから見学し、取材する人に本当の実情をいう経営者、当事者がいるわけないと思いました。現在、それは削除されています。キャロラインさんの論文こそ実情であり、事実であると思います。いくら労働といってパラダイムにしても、搾取、差別の事実があるのだから、合法化に驚嘆すべき事ではないと思います。

    いいね: 1人

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。