【解説】現在、アメリカのルイジアナ州で、売買春の完全非犯罪化を求める法案(HB67)が提出されており、現地時間の5月4日に公聴会が開かれる予定になっています。ルイジアナのアボリショニストとサバイバーの連合団体である「ルイジアナ・サバイバーズ・ジャスティス連合」は緊急の反対声明を発表し、この声明への署名を求めています。以下に声明の全文を訳しました。署名はルイジアナ在住でなくても可能ですので、ぜひご署名ください!
ルイジアナ州の売買春非犯罪化法案(HB67)に反対する声明
「ルイジアナ・サバイバーズ・ジャスティス連合」と州内および全米の仲間たちは、現在、刑事司法行政委員会で審議中の下院法案67号(HB67)に反対します。私たちは、人身売買および売買春の被害者と、最も疎外されたコミュニティにサービスを提供しているさまざまな地域団体ないし全国団体の連合体です。私たちは、人身売買や売買春だけでなく、子どもや家族、ドメスティック・バイオレンス、性的暴行、移民、少年司法、児童福祉、LGBTQ+、メンタルヘルス、有色人種コミュニティなど、性産業と交差する多くの分野に精通しています。
私たちは、HB67の影響とその予想される結果に深い懸念を抱いています。人身売買のサバイバーとそのアドボケートたちは、性産業における搾取と暴力の諸形態について直に知っているにもかかわらず、この法案の作成過程でまともな相談を受けませんでした。私たちがとくに強い懸念を抱いているのは、提案されている改正案が、性的搾取者である買春者、ピンプ、売春店経営者を非犯罪化するものだからです。
私たちは、ルイジアナ州および全米で最も疎外された人々を支援するサバイバー、アドボケート、組織の集合体ですが、これは偶然ではありません。ルイジアナ州の人身売買サバイバーの44%が黒人女性ですが、黒人女性は州の人口の19%しか占めていません。実際のところ、性産業は、有色人種、移民、住居のない人、里親に養われている若者、LGBTQ+の人々、女性、子ども、そして幼少期に性的虐待を受けた経験のある人など、最も弱い立場にある人たちを搾取することで成り立っているのです。この法案が可決されれば、ルイジアナ州では、これらのコミュニティのニーズや脆弱性を利用した虐待を容認することになります。
なお改善の余地があるとはいえ(とくにサバイバー保護の面で)、ルイジアナ州は人身売買サバイバーを保護するための既存の法律が全米で評価されており、今になってこれまでの数十年の努力を取り消すべきではありません。
おそらく今回の法案は、性売買に従事している人々を保護し支援するという、私たちも共有する目的のために提出されたものだと思います。しかし、その解決策は、これらの人々を搾取する側を非犯罪化することではありません。私たちはすでに、アメリカ国内や他の国々で同様の法律を制定した地域や国で、完全な非犯罪化がどのような弊害をもたらしたかを目にしてきました。たとえば、ロードアイランド州が1980年から2009年までの約30年間、屋内売春を非犯罪化したところ、組織犯罪、人身売買、暴力が大幅に増加したことがわかりました(Melanie Shapiro, and Donna M. Hughes, Decriminalized Prostitution: Impunity for Violence and Exploitation, Wake Forest Law Review, vol. 52, 2017)。米国で唯一、合法的な売春店が認められた管轄区であるネバダ州は、違法な性売買の割合が最も高い地域です。
米国以外を見ても、性売買が完全に非犯罪化ないし合法化されているニュージーランド、ドイツ、オランダの3ヵ国では、性的人身売買が増加し、売春への需要が高まり、性産業における暴力が増加しています(https://www.equalitymodelus.org/why-the-equality-model/)。 この3つのうち、ニュージーランドは、HB67で提示されている完全非犯罪化のアプローチに最も近いモデルを持っています。ニュージーランドは2003年に性産業を非犯罪化する法律を制定して以来、路上売春が増加し、中国、香港、台湾、韓国、タイ、ベトナムからの人身売買された女性たちの目的国となり、主に先住民族、マオリ族、太平洋諸島の少女を対象とした子どもの性売買の発生国となっています。当初、完全非犯罪化を支持していたニュージーランド女性協議会は、後に「13歳や14歳の少女が路上で体を売っているのをいまだに目にしている」と指摘し、子どもの人身売買への影響に懸念を示すようになっています(http://www.stuff.co.nz/national/727258/Men-the-only-winners-of-Prostitution-Reform-Act)。
現実には、買春者が人種差別的な性行為ないし暴力的な性行為を目的としていても(性売買ではそういうことはよくあることです)、被害者の大半は「ノー」と言うことができません。しかし、買春者、ピンプ、売春店経営者などの搾取者は、立場の弱い諸個人、つまり「ノー」と言える安全性や特権を持たないそういう個人を大量に見つける必要があるのです。ニュージーランドで見られるように、ルイジアナ州で完全な非犯罪化が実現すれば、私たちの州内の肌の色が濃い女性や少女、有色人種のコミュニティ、最も弱い立場の人々が需要を満たすために人身売買されることになるでしょう。
性売買と人身売買を切り離すことはできません。性売買が盛んなところでは、性的人身売買も盛んです。ルイジアナ州では2020年に、人身売買の被害者と確認された、あるいはそう推定された被害者が927人いたと報告されています。HB67が可決されれば、2021年にはその数がいっそう増えることになるでしょう。
売買春の完全非犯罪化は、国が保護を義務づけられている最も弱い立場の人々を完全に見捨てることになるのであり、そのことを示す圧倒的な量のエビデンスを無視すべきではありません。この法案が成立すれば、ピンプ、人身売買業者、買春者は大いに喜ぶことでしょう(Tina Frundt & Yasmin Vafa, “There’s a way to decriminalize prostitution without putting women at risk”, The Washington Post, August 3, 2019)。このことは、この法案が成立することで最も利益を得る立場にあるのは誰なのかに関して、私たち全員への警告となるはずです。
私たちは、ピンプ、買春者、売春店のオーナーが堂々と営業できるようにすることをルイジアナ州が検討しているのを傍観することはできません。私たちはサバイバーにとっての正義を中心とした法律を検討することを委員会に求めます。それは、搾取者の責任を追及し、サバイバーに包括的なサービスを提供すること、搾取されたサバイバーが逮捕されるのではなく支援を得ることができるような法です。完全非犯罪化策の失敗とは対照的に、「北欧モデル」ないし「平等モデル」と呼ばれるこのアプローチは、ノルウェー、アイスランド、スウェーデン、フランスなど7ヵ国で成功しています。その結果、買春需要の減少、性的人身売買の減少、サバイバーへのサービスの増加などの成果が得られています。これらと同じように、私たちの州では、性的搾取が奨励されるのではなく、防止される場所でありたいと考えています。私たちは、最も弱い立場にある人々が保護され、搾取者が責任を問われるルイジアナ州を信じています。
サバイバー・リーダーを含む運営委員会の連絡先は以下の通りです。
Louisianaequalitymodel@gmail.com
出典:https://docs.google.com/document/d/1-R9FpxIyYipZo5NJJzSIKlFpXGzaet9-rSXbySvjdMc/edit
署名はこちらから
P.S. 5月4日に公聴会が開かれ、性産業の完全非犯罪化を求める法案に対する異論がサバイバーや反人身売買団体から多数出され、委員会はこの法案を議事日程から外すことを決めました。つまり、非犯罪化法案は敗北したのです!(2021年5月15日)