【解説】ロンドンに拠点を置くアダルト系の OnlyFans(オンリーファンズ)というサブスクリプション型動画投稿サイト(登録者であるサブスクライバー(購読者)がクリエイターをフォローし、クリエイター(アダルトコンテンツではたいてい女性)とやり取りしながら、クリエイターの作った動画を課金に応じて閲覧したり、特別の動画をリクエストしたりできる仕組み)は、今年の10月1日から性的に露骨なコンテンツを排除するとの決定を発表しましたが、セックスワーク派の団体やメディア、クリエイターたちから一斉に反発を受け、すぐにこの方針を撤回しました。この事態は、性産業が今なお社会の決定権を握っている事態を赤裸々に示すものです。以下では、この顛末に関するキャサリン・マッキノンさんの『ニューヨーク・タイムズ』記事を訳出して紹介します(表題はわかりやすいものに変更)。
キャサリン・マッキノン
『ニューヨーク・タイムズ』2021年9月6日
私たちは、ポルノが作り出した世界に生きている。30年以上にわたり、研究者たちは、ポルノが消費者たちを暴力に対して鈍感にさせ、レイプ神話をはじめ女性のセクシュアリティに関するさまざまな嘘を広めていることを明らかにしてきた。ポルノは、そうやって自らをノーマルなものにし、いっそう普遍的で、押しつけがましく、危険なものとなり、私たちをこれまで以上に密接に取り囲み、文化を手なずけ、人々がその被害を認識することさえ困難なものにする。
この成果の一例が、メディアが売買春やポルノに従事する人々を「セックスワーカー」と呼ぶ習慣がますます強固になっていることだ。彼女たちになされているのは、親密さや相互性の意味でのセックスでもなければ、生産性や尊厳の意味での労働でもない。売買春のサバイバーたちは、それを「連続レイプ」と考えているので、「セックスワーク」という言葉をガスライティング〔嘘を本当だと思わせる誘導行為〕だとみなしている。「売買春という『仕事』の実態が明らかになると、合法的な仕事とのいかなる類似性も粉々に崩壊する」と2人のサバイバー、エヴリナ・ジオッベとヴェドニタ・カーターは書いている。「簡単に言えば、あなたが『高級』コールガールであろうと、路上で客を物色する娼婦であろうと、『デート』の時には、ひざまづいたり、仰向けになったりして、男に好きなように体を使わせなければならない。そのために彼はお金を払っている。売買春を他の仕事と同じであるかのように装うことは、それがこれほど深刻なものでなければ笑うべきことだったろう」。
「セックスワーク」という表現は、買春されている人々が、事実上他に選択の余地がないことを本人が実際に望んでやっていることであるかのように見せる言葉だ。つまり、貧困、ホームレス状態、子供の頃の性的虐待、人種差別による被害、まともな収入の得られる仕事からの排除、不平等な賃金などが、この仕事を「選ぶ」上で何の役割も果たしていないかのように。彼女たちはポルノが言うとおりの存在であり、買春に用いられることにしか価値がないとされる。
先月、ロンドンに拠点を置くサブスクリプション型動画サービスの OnlyFans(オンリーファンズ)が、「性的に露骨なもの」をプラットフォームから排除すると発表したが、猛烈な批判にさらされて、ただちにこの方針を撤回した。これは、ポルノの力を再び明瞭に示す出来事だった。「OnlyFans は、アダルト・エンターテイナーやセックスワーカーにとって安全な場所を提供していると高い評価を受けている」と『ブルームバーグ・ニュース』は述べた。長年ポルノを擁護してきたアメリカ自由人権協会(ACLU)によると、「OnlyFans のようなテック・プラットフォームが、自らをサイバー上での言論や活動の許容範囲の決定者とみなすようになると、セックスワークはスティグマを着せられ、労働者の安全性が低下することになる」。いや、反対だ。性産業こそが女性の安全性を損なっているのだ。性的虐待を仕事として正当化することで、OnlyFans のような動画投稿サイトが、経済的に追い込まれた人々にとってとりわけ魅力的なものとなってしまう。
OnlyFans は、ポルノ需要が急増したパンデミックの最中にすっかり有名になった。多くの人々がネットを使って生計を立てるようになり、ドメスティック・バイオレンスが爆発的に増加し、女性は男性以上にさえ経済的な生活手段を失い、不平等がいっそう拡大した。OnlyFans は、ソフトな売買春によって媒介されたニッチなポルノサイトであり、このようなメカニズムをうまく利用することができた。
通常のポルノにとっての OnlyFans は、売買春にとってのストリップのようなものだ。つまり、入り口となる活動であり、直接的な接触による搾取から隔離されているかのように見える性的陳列であり、経済的に追い込まれて代替手段がほとんどない人々の一時的な収入獲得手段である。生産者と消費者の双方にとって、安全性という幻想と、嫌だったら断れるという幻想を提供している。しかし、ポルノコンテンツの禁止という提案に対する猛烈な反発は、ポルノの世界では露骨なセックス――ほとんどの場合、女性の身体ないし女性化された身体の性的消費――だけがよく売れるということを改めて明らかにした。OnlyFans の最初のいわゆるコンテンツ・クリエイターであるダニー・ハーウッドは、『ニューヨーク・タイムズ』紙にこう語っている。「サブスクライバーはいったん〔あるクリエイターの投稿動画の〕すべてを見たら、次の〔より過激な動画を投稿する〕クリエイターに移る」。実証的な研究でもこのようなメカニズムが報告されている。
OnlyFans は、(今は撤回されている)禁止措置を打ち出した動機を、プラットフォームでの支払い手続きをするクレジットカード会社の方針に従うためだと述べているが、大手クレジット会社から決済を拒否されたポルノハブと共通する要素が露見するのを回避しようとしていたと考えることもできる。OnlyFans では、サブスクライバーはクリエイターに対してまるで自分のガールフレンドであるかのような幻想を持っているのだが、そのような幻想を可能としている条件――クリエイターの若さ、主体性の不足、貧困など――が露呈するかもしれない。実際すでに、近親姦、獣姦、子どもの性虐待などの審査がまったく不十分であるとの告発がなされている。最近、韓国でなされた訴えでは、OnlyFans が未成年者の動画を閲覧させていたとされている(ちなみに、その際、OnlyFans は、「当社のポリシーに対するいかなる違反も容認せず、ユーザーの安全と安心を守るためにただちに行動を起こす」と述べていた) 。ピンプや人身売買業者が、無知に付け込まれた人、立場の弱い人、自暴自棄な人をリクルートして、画面外で強要しているのかどうか、そして性産業でよくあるように、ピンプが収益を没収したり、かすめ取ったりしているのかどうか、このことについて知るすべはない。また、OnlyFans はクリエイターが得る報酬の20%を取っているが、これはいわばピンプの取り分だ。
OnlyFans のこの提案されたルール〔ポルノコンテンツの排除〕をめぐる議論では、未成年の若者がサイトで搾取されるのを防ぐことがこれまで可能だったかどうかについては触れられていない。思春期前の子供だったら可能だったかもしれない。しかし、思春期を過ぎたほとんどの人は、いわゆる「同意ある大人」として提示することができる。ほとんどの女性は未成年のときに性産業に参入するが、その脆弱性こそが彼女たちの魅力や市場での有用性の中心となっている。ポルノそれ自体が保護され、大人の売買春が容認されているかぎり、子どもを性的搾取から守ることはできない。なぜなら、これらの人々〔大人と子ども〕は時間軸上の2つの地点――時にこれは1日しか違わない〔成人年齢になる前日と当日〕――にいる同じ集団であり、時には同時に両方の地点に属している――子どもが大人として提示され、大人が子供として提示されるというように――人々だからだ。
同じく、強要されたり、ピンプに支配されていたり、騙されたり、性的な姿を盗撮されたりした人々への関心も、この議論には含まれていなかった。一度提案されて撤回されたルールに関するコメントの多くが声高に訴えていたことは、クリエイターには販売する権利があり、消費者にはそれを購入する権利があるというものだった。その一方で、強要され、暴力を受け、搾取され、監視されている人々は、自分の意思に反して売買されているものに対して有効な権利を持っていない。侵害されている人々が、性別やエスニシティに基づく有効な権利と平等を持たないかぎり、これらのサイト――ポルノハブやシーキングアレンジメント〔ラスベガスを拠点とする「パパ活」用の出会い系サイト〕、その他の周辺サイトを含む――を通じて虐待を受けたサバイバーたちは、盗撮、強要、その他あらゆる方法でのセクシュアリティの収奪にさらされ続けることになる。
米国のいくつかの州は、自分の許可なく性的コンテンツを作られたりシェアされたりした人々に法的手段を提供しているように見える。しかし、実際には、コンテンツそのものに対処できる有効な方法を提供しているところはほとんどない。よりまともな保護があるカリフォルニア州でも、法的要件は、これらの映像物が制作・配布されている実際の状況の多くを反映していない。
カリフォルニア州の基準と免除規定は、性産業が搾取的な行為に対する責任を逃れる力をむしろ強めている。たとえば、成人に適用される人身売買禁止の民事法は、「わいせつ」なものに限定されているが、この基準は年季の入った連邦検察官でも証明が難しいことで有名だ。「同意」の要件は、偽の同意にもとづく動画が一般的であるという事実を無視している。心に深い傷を負った多くの被害者にとって時効の期間はあまりにも短すぎる。「同意」の上で送信されたものや、誰によってであれ過去に流布されたものに対する責任が免除されているため、「リベンジポルノ」法はほとんど役に立たない。ディープフェイク禁止法は、本人の動画だと偽って提示された人々(多くの場合、有名人)を保護することだけを目的としており、セックスに利用された人々を保護するものではない。おそらく OnlyFans は、このような法律がザル法であることを改めて確認した上で、自ら提案した禁止ルールの撤回を決定したのだろう。
今年、シリコンバレーのサンノゼに住むカリフォルニア州上院議員のデーブ・コーティスは、この問題を解決するために、著作権法、名誉毀損法、人身売買禁止法の最良の特徴を結合した、実行可能で効果的な法案を提出した。この法案が可決されれば、ネット上の性的人身売買被害者――その裸体画像や性的動画を撮られたり流布された未成年者、強要されたり騙されたりした成人、盗撮の被害者――には、民事上の法的請求権が発生する。警告がなされると、人身売買業者や加害者はそのコンテンツを削除するか、アクセス可能な状態が2時間続くごとに10万ドルを支払わなければならない。
この法はどこでも成立させることができる。先に述べたような形で性的人身売買の被害を受けた人は、許可なく作成ないし配布された画像を差し止めるために訴訟を起こすことができる。この空間で自由に行動していると思われる人々―― OnlyFans の「セックスワーカー」が全員そうであるとメディアはやみくもに主張しているのだが――も、そうでない人たちも、ようやく本当の意味での保護を受けることができ、吹聴されている「行動の自由」を現実の足がかりにして、ポルノが私たちの世界を作りだす力を弱めることができる。
出典:https://www.nytimes.com/2021/09/06/opinion/onlyfans-sex-work-safety.html