オーストラリアではほとんどの州で売買春が完全に合法化され、アジア人女性に対する買春が平然と行なわれ、オーストラリアの景観を汚しているが、昨年末、この実態について『ジ・エイジ(The Age)』紙とその協力チームが最新の調査を行なった。
それによると、組織犯罪者集団と協力する移住斡旋業者が手配したビザで、中国やタイなどの国からオーストラリアに多くの女性が人身売買されてきている。時には私立大学も、学生ビザを提供するための詐欺に手を貸すことがある。オーストラリアに入国すると、モーテル、「アジアン・マッサージパーラー」、郊外のアパートなどを通じて、オーストラリア全土でピンプ行為(売春の斡旋)が行なわれている。これらの性売買はいっさい隠されておらず、女性たちは公然と宣伝され、郊外や商業地域で売春させられている。全国で活動するシンジケートは、地元の元締めに指示して、これらの「怯えた」若い女性を「新しい競走馬や新しい犬」のように調教する。こうして彼女たちは、その後、何千人ものオーストラリア人男性に買われて、レイプされたり、ポルノで見られるようなさまざまな快楽のために使用されるのである。
これらアジア人女性の売買は、地下の秘密でもなんでもない。被害者は公然とウェブサイトで売りに出され、買春者たちは、その身体と価格についてネット上のフォーラムで盛んに議論している。彼女たちを助けるようなことは何もなされていない。ビクトリアとニューサウスウェールズの州政府が、性産業の規制を撤廃したことで、売買春に対する責任をすっかり放棄したからだ。その結果、10年以上も前から、オーストラリアは、組織犯罪者たちが好んで選ぶ絶好の人身売買目的地となった。そこには法的規制がなく、需要が多く、利益率が高く、女性売買への取り締まりも緩い環境が提供されていることを承知しているからだ。
政府は、この人身売買について知りながら、それを止めることはほとんどしていない。ニューサウスウェールズ州の「売春店規制」を評価するために、2015年に議会委員会が立ち上げられたが、同委員会は、「規制が存在しないせいで、セックスワーカーが騙されてオーストラリアに連れて来られ、意に反して拘束され、同意していないサービスの提供を強制される事態を促進していることを強く懸念する」と驚くほど率直に認めている。委員会は、警察や社会福祉団体から、英語がほとんど話せず、自分の居場所もわからない女性が、商業地にある賃貸ビルで、列をなす客たち相手にセックスさせられているという話を聞かされたが、結局何もなされなかった。
国際機関は何十年も前から、オーストラリアの自由放任の性売買を批判してきた。1995年以来、繰り返し女性差別撤廃条約(CEDAW)委員会は、オーストラリアの「人身売買と売春に起因する搾取と戦うための包括的アプローチの欠如」、「女性が売春に入るのを防ぎ、売春需要に対処し、売春での生活をやめたいと望む女性を支援するための有効な戦略とプログラムの不在」、「人身売買業者の起訴と有罪判決の低い割合」などを指摘している。オーストラリアは、国内のアジア人セックス市場に批判が及ぶと、「セックスワークは仕事だ(sex work is work)」という選択の自由論を持ち出す国として国際的に知られている。
この擁護論は同国の政治家たちによって積極的に用いられ、2014年から2022年にかけてビクトリア州の議員であったポルノ業界団体の元代表(フィオナ・パッテン)が、その中心的な役割を果たした。労働党政府の支援を受けていたフィオナ・パッテンは、ビクトリア州の性産業に対するほぼすべての法的・規制的な制約を排除することに成功した。彼女は、地方自治体からの反対を押し切ってまで、これを断行したのである。自治体は今では、ビクトリア州の郊外や地方で無制限に営業している売春店やその他の性産業に個別に対処することを余儀なくされている。
このことから生じる問題は多様かつ深刻である。たとえば、2020年にビクトリア州郊外における住宅火災で、そこに住む若い夫婦と生後3週間の赤ちゃんが焼け死ぬという痛ましい事件が起きたが、これは、シェアハウスをしていた男性が自宅で買春をし、その家に派遣された被買春女性が火をつけたことで起こった。この男は、彼女を買春した後、金を払わなかったばかりでなく、彼女の所持金すべてを盗んで逃げた。彼女はその報復として家に火をつけたのだ。2021年の別の事件では、16歳の少女が2019年からビクトリア郊外の売春店で働いていたことが発覚した。この売春店は、国家から許可を得て堂々と営業していた。こうした深刻な問題が繰り返し起こっても、州政府は動こうとしない。
昨年発表されたオーストラリアの「女性と子どもに対する暴力をなくすための国家計画」では、「セックスワーカー」に言及しているが、同国のアジア人性売買被害者には触れていない。アルバニーズ労働党政権は女性に対する暴力を根絶したいと考えているようだが、『ジ・エイジ』紙の暴露に対しては、話題を巧みに変えて、「移民への搾取は許されない」と発言している。しかし、この国で蔓延しているアジア人性売買は、オーストラリア人の女性観や人間観が何であるか示すバロメーターと見るべきだろう。2020年、CEDAWは「女性と少女の性的搾取の需要」の原動力として、「男性の支配や権力の主張、家父長的な性別役割の強制、男性の性的特権、強制、支配に関する規範や固定観念」を名指しした。アジア人女性が暴力を引き受けていることで、「国家計画」はこの問題から目をそらすことができるのだ。だが、彼女たちがこむっている苦境こそ、オーストラリア全体をむしばむミソジニーの核心をなすものと見るべきであろう。
オーストラリアはほぼ全国どこでも、性産業の商業活動の大部分を合法化ないし非犯罪化する法的アプローチを採用しているため、誰も彼女たちの苦境に目を向けない。性産業の買春客たちは、ほとんどお咎めなしで行動することが許されており、性的人身売買に対する規制さえ、その大部分が単なる「強制労働」に対する法律に置きかえられている。そのため、女性を性産業に引き込むのに用いられる人身売買業者の特有の手口(被害者を借金漬けにすることなど)は、オーストラリアの反人身売買法ではもはや重視されておらず、起訴を容易にする特徴とはみなされていない。
オーストラリアは国家レベルで、国内の男性や海外の人身売買業者に対して、女性の性的搾取は国家が対策を講じるべき行為ではないというメッセージを送っている。売買春を非犯罪化すれば性産業に従事する女性が救われるという考え方は、オーストラリアの経験からして、完全に間違っていることがわかる。売買春の非犯罪化は、女性の助けになるどころか、ピンプや人身売買業者の利得活動が保護され、被害者の福祉が完全に無視されるような法的・社会的環境を作り出しているのである。
歴史上、少なくともペニシリンが発明される以前は、オーストラリアをはじめとする国々には、性病の蔓延という全社会的な問題の存在ゆえに、売買春に対して行動を起こさなければならないとする発想がそれなりにあった。その解決策はしばしばひどいものだったが(隔離された病院の設立など)、少なくとも売買春が社会問題ないし公衆衛生上の問題であることは、公式には認識されていた。しかし、現代の西側諸国は、もはや売買春を問題視することはない。スウェーデンのように買春を人権侵害として理解する国もあるが、オーストラリアのように女性の性的搾取を人権侵害という観点から理解する歴史がなかった国において、売買春の合法化は、女性たちを――たとえ彼女たちが性産業を通じて人身売買や暴力、病気、怪我をしたとしても――まったく無保護のままに放置しているのだ。
アジア人女性の(地下ではなく)地上での性売買を全国的に許しながら、女性に対する暴力の問題にまともに取り組むことなどできない。オーストラリア政府は、家庭や職場における「尊重しあう関係」を男性に求めているが、その同じ男性が30分単位で女性を予約して性行為に及ぶことができるとき、それは空虚に響く。売買春が女性に対する暴力の一形態であり、これを根絶しなければならないという認識を持たないかぎり、女性に対する暴力の問題は解決しないし、国際的な性的人身売買業者や犯罪組織に対して、その活動に有利な環境を提供しつづけることになる。この暴力をアジア人女性にアウトソーシングしても、それがミソジニーの問題であることに変わりはない。性産業の合法化は、彼女たちの運命を、自由意志と同意にもとづくとされている「セックスワーク」という建前の内部に封じ込めるだけである。その建前のもとで、彼女たちは悲惨な暴力にさらされ続けているのだ。