レイモンド・ロッタ「性的搾取の『産業化』と帝国主義的グローバリゼーション」

【解説】本稿は、アメリカの左翼組織「Revolutionary Communist Party (USA)」のサイトに2021年10月に掲載されたレイモンド・ロッタによる長大な理論的論考「The “Industrialization” of Sexual Exploitation, Imperialist Globalization, and the Descent Into Hell」の全訳です。同サイトの編集部の許可を得たうえで、ここに掲載します。この団体について私たちはつい最近まで知らなかったのですが、売買春をはじめとする性的搾取産業の発展と帝国主義的グローバリゼーションの発展とを結びつけて論じている点で、きわめて慧眼で問題の本質に迫る考察を行なっていると思われたので、ここに訳出することにしました。マルクス主義左翼としては非常に珍しく、セックスワーク論を明確に批判するとともに、シーラ・ジェフリーズをはじめとするラディカル・フェミニストやアボリショニストの文献を用いており、この点でも筆者の良心と公平さがうかがえます。

 なお、これと似た視角からの分析としては、メリッサ・ファーリーさんの「つながりを理解する――資源採掘、売買春、貧困、気候変動、そして人権」があるので、それもぜひ参照してください。

レイモンド・ロッタ

Revcom.us., 2021年10月20日

 この研究論文は、階級構造の変化や政治的・イデオロギー的発展、特にファシズムの台頭に影響を与えた過去50年間におけるグローバルな社会的・経済的変化と社会的諸闘争に関するボブ・アヴァキアンの分析によって促されたものである。本稿における私の出発点は、この広範な分析の一部をなす。

「第三世界における伝統的な小規模農業の多くが破壊され、都市人口が劇的に増加したこと(米国やその他の帝国主義諸国でも同じ)。そのせいで、膨大な数の人々が「フォーマル経済」の内部で仕事を見つけ出すことができなくなった。このことは、非合法経済の成長と、それに基づくギャング(特に第三世界では麻薬カルテル)の成長をも促進した。非合法経済としてはとりわけ麻薬取引が重要だが、それと並んで、人身売買、とくに売買春、「性産業」、文字通りの性奴隷制の下で深刻な被害に遭っている女性や少女の人身売買が大きな位置を占めている。」(強調引用者。以下同じ)[1]

 本稿では、売買春と女性の人身売買のグローバルな成長の諸要因を検討し、それを推進している主要なダイナミズムと歴史的諸要因を探求していく。

I.序論――本稿の理論的枠組み

 女性(および幼い少女と少年)の商業的な性搾取は、巨大な規模に達している。婉曲的に「グローバル性産業」あるいは「グローバル性売買」と呼ばれるものは、個々の国民経済と帝国主義世界経済全体から見てきわめて利潤の上がる部門に発展してきた。「性産業」は、売春店、路上売春、エスコート売春〔日本で言うデリヘル〕、ストリップクラブ、マッサージパーラー、ポルノ、軍隊による売買春、そしてグローバルな「セックス観光」などを包含している。性的搾取という言葉は、「自営」で報酬を得る「セックスワーカー」から、国境を越えて人身売買されて売春施設で性奴隷とされる誘拐された子どもに至るまで、さまざまな活動に適用される。

 ますます統合され不平等になっていく帝国主義世界経済の中で、貧しい第三世界の女性たちは、豊かな帝国主義国に誘い出され、人身売買される。売り飛ばされたり、誘拐されたりして、軍隊やギャングによって性的に搾取される。あるいは、帝国主義支配下の開発という抑圧と歪みの結果、生存戦略として売買春に引き込まれたりする。

 この性的搾取の規模と恐怖は、物質的なものと文化的・イデオロギー的なものという2つの大きな要因によって覆い隠されている。

 第1に、グローバル化した性的搾取の供給、マーケティング、貨幣化のための複雑で重層的な合法・非合法の諸手段が存在する。インターネット決済の仕組み、海外の「セックスワーカー」からグローバルサウスの政府に流れる外貨、ポルノ「エンターテイメント」を提供する通信会社、拡大する「セックス観光」と結びついた国際なホテル・レジャー産業とその旅行者を運ぶ航空会社、これらの部門に資金を貸しつける銀行、「貨物」が世界の安価労働力のサプライチェーンと商業的性搾取に同時に役立つ密出入国業者などである。

 それと同時に――そしてこれがこの搾取を覆い隠す第2の要因なのだが――、女性の性的貶めや暴力的従属は、現代の経済生活と文化の所産としてますますノーマルなものとされている。ファッションとして、儲かるポルノとして、「性教育」として、雇用として。そして、政治的・知的な言説の領域では、性的服従は、女性の側での「選択」と「主体性」の表現として破廉恥にも合理化されてきたのである。レイプ、性的強要、性的侮辱は、「セックスワーク」という職業カテゴリーに折り込まれ、覆い隠されている。

 本稿は、「セックスワーク」――それが「同意による」ものであれ「同意のない」ものであれ――とは、その本質において、男性支配に対する女性の市場化された性的貶めと組織された性的服従であるという理解から出発する。本稿は、なぜそうであるのかを明らかにし、その分析の過程で、なぜ「セックスワーク」という概念がぞっとするほどミスリーディングで有害であるのかを手短に論じる。

II.グローバルな商業的性搾取に関するいくつかの重要な諸事実

最近の推計によれば、世界には4000万から4200万人の売春婦がおり、その75%は13歳から25歳である[2]。国際的な性的人身売買とは、拉致、力の行使、強制、詐欺、騙しの手段で人を奴隷にすること、および1カ国または複数の国の国境を越えて個人を移送することを指す。

 「売買春の産業化」とは、この搾取が大規模かつ、組織的・集中的に行なわれ(合法的事業体と犯罪組織の両方を通じて)、世界的に広く普及するようになった状態を指す[3]。人、物、自然、思想など「あらゆるものの商品化」が浸透している帝国主義的グローバリゼーションは、価格付けされ、出荷され、販売される人間をグローバルに売買する触媒となってきた。

 科学的経済学の言葉としても、残酷な比喩としても、性的搾取と奴隷化のための女性と子どもの「サプライチェーン」について語ることができる。

・1990年代にはすでに、商業的性搾取は、フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシアの国民所得の2%から14%を占めていた[4]。1990年代のタイでは、20万から80万人の売春婦が18歳未満だったと推定されている[5](世界のほとんどの地域で、売春は「公式に」違法であり、データの多くは、しばしば乱暴に偽装された形態ゆえに、本質的に限定されものだ)。

・1985年には約2万5000人だった中国の売春婦は、2000年には400万~600万人に上ると推定されている[6]。1976年に中国で社会主義の転覆と資本主義の復活が起こり〔毛沢東の死去と文化大革命の終焉を指している〕、それに伴う資本主義的な農村再編は、中国の農村に経済的・社会的二極分化を引き起こし、女性には大きな負担がのしかかるようになった。この激変は、農村から都市への歴史上最大級の人口移動をも促した。中国の売買春は急成長する沿岸部に集中し、農村部からの女性移住者は性的搾取の主要な供給源となっている。

・世界の性的人身売買の被害者の約70%はアジアにいる。主要な国は、インド、中国、パキスタン、タイ、バングラデシュである[7]。

・旧ソヴィエト圏の経済が1990~91年に崩壊した結果、絶望した女性たちが必死に仕事を求め、国際人身売買業者の餌食となる新たな主要な供給源となった。1991年から1998年の間に、約50万人のウクライナ人女性が性的搾取のために西側諸国に人身売買された[8]。

・西ヨーロッパでは、最近の大量移住の波がやって来る以前から、売買春の65%がアフリカや中・東欧からの移民であったと推定されている[9]。ナイジェリアとガーナは、若い女性とティーンエイジャーが性的搾取のためにヨーロッパに売買される主要なアフリカ諸国だ。何度も売り買いされ、オークションで競り落とされ、訓練キャンプで「下ごしらえ」され、肉体的にも精神的にも破壊され、彼らは奴隷のレベルにまで落とされている。彼女たちは、第三者の所有物であり、ピンプによって管理されている。

・2016年、現代の奴隷制/人身売買被害者の総発見件数は4000万人以上と推定されているが、そのうちの約70%は女性と少女だ。約2500万人が強制労働、1500万人が強制結婚のために人身売買されている。強制労働の範疇のうち、約500万人(その99%は女性と子ども)が性的搾取へと人身売買(ないし強制)されており、そのうちの100万人以上が子どもである[10]。人身売買とは、営利を目的とした搾取のために、強制、詐欺、または欺瞞によって人間を募集、移送、輸送、および隠匿または受け取ることである。

注:帝国主義国と第三世界のトランスジェンダーと性別不合者が性的人身売買と身体的・性的暴力に対する脆弱性に関連して直面している特別な状況は、今後の分析で扱われる予定である。

・人身売買は、その収益規模で測ると、違法薬物と偽造〔ブランド品などの偽造〕に次いで世界第3位の犯罪活動である[11]。

・性的人身売買は莫大な利益をもたらす。強制的な性的搾取は、2010年代の初めの時点で年間990億ドルを生み出していた[12]。現代の奴隷制について国連の顧問を務めるある学者は、2019年の英国『オブザーバー』紙のインタビューで、建設、農業、鉱業に売買された労働者の「搾取に対するリターンが低い」ことに比べて、「性的人身売買に対する投資収益」は約1000%だと推定している。このような収益性は、「被害者が1日に最大20回売られ、被害者1人当たり数十万ドルとは言わないまでも、数万ドルの利益を生み出すことができる」ことと結びついている[13]。

・2018年には米国で推定9000件の違法スパが営業していた。25億ドルの違法マッサージ店「産業」が米国で急成長している[14]。それは、米国内と世界の両方から、人身売買された女性や少女の「需要」の主要供給源である。米国に流入する人身売買の被害者総数は、確実なところは不明である。アジア、ラテンアメリカ、東ヨーロッパから毎年5万人の女性と子どもが米国に連れてこられ、使用人や売春婦として働かされていると見積もる人もいる[15]。違法マッサージ店に関して言うと、報告されている人身売買被害者の大多数は中国と韓国の出身である[16]。米国出身の若い女性は、しばしば虐待する親や親戚から逃げ出し、人身売買のネットワークに巻き込まれる。

III.第三世界における女性の疎外と絶望を促す経済・社会的要因の第一考察

 女性の性的従属は、搾取的で階級分断された家父長制的社会の歴史的・構造的特徴である。この女性従属の特殊な形態と性別分業におけるその具体的な表れは、伝統、文化、法律、家父長的家族と相互作用しつつ、支配的な生産様式に根ざしている

 現代の「グローバル性産業」は、近代家父長制社会における売買春の「いにしえの慣習」の継続として単純に、あるいは主として理解することはできない。より具体的には、このような女性の性的隷属と貶めの形態は、搾取の世界システムとしての後期帝国主義の作用によって深く形成され、大規模に拡張し、グローバルに統合されていったのである。そこにあっては、豊かな抑圧諸国と貧しい被抑圧諸国との分裂が、第三世界の資源の略奪、市場の浸透、労働の超過搾取を伴う帝国主義的蓄積の規定的特徴となっており、それはまた、資本主義=帝国主義の世界システムと結びついた社会的・文化的要素によっても形成されている。

A)土地強奪、農村の貧困、女性

 第三世界における伝統的な自給自足経済の弱体化と破壊――そこでは、人々は家族や地域の生存の必要性を満たすために農業に従事している――は、女性たちに計り知れない影響を与えた。彼女たちは、ケア提供者として、土地を追われた先住民として、農村から都市へ、ある都市から別の都市へ、雇用機会の限られた移住者として、そして絶望的な状況下で自ら進んで、あるいは人身売買の犠牲者としてグローバルな移民の流れに巻き込まれる。農民や農家の土地が失われたことがその大きな要因となっている。

 2000~2010年の10年間に、グローバルサウスでは8100万エーカー以上もの土地(ポルトガルの面積にほぼ等しい)が、企業と国家という国外投資家に売却された[17]。これは、「土地強奪(land grabbing)」と呼ばれているものである。

 このようにして強奪された土地(大規模な買収と定義されている)の多くは、パーム油や大豆など、収益性の高い商業作物(しばしば輸出向け)を生産する工業規模のプランテーションに転用されている。これらの「強奪」の中には、バイオ燃料(サトウキビなど)の栽培や、儲けになる炭素「オフセット」(帝国主義企業や帝国主義国が化石燃料の生産と燃焼を続けながら、炭素を吸収する木をグローバルサウスに植えることでダメージを「相殺」するという詐欺)のための植林が含まれている。このような土地強奪の中には、地価の上昇を見込んで買収するための単なる投機的な投資もある。そして、2000年から2010年にかけてのこれらの農地取引の3分の2は、深刻な食料不安を経験している国々で発生したものである[18]。

 20世紀後半の大部分は、第三世界の諸政府によるダムや道路、工業の拡大、鉱山採掘への投資――それは、帝国主義国に支配された金融機関である世界銀行と国際通貨基金(IMF)によって財政的に支援され、強力に推進されてきた――が、農民を土地から追い出す主要な役割を担っていた。最近の土地強奪のジャガノートは、グローバルサウスにおける「開発」の名のもとに行なわれている大量移住の第二波である。

 多くの自給自足農家(家族で消費するための食料、あるいは家計を維持するために販売する作物を栽培している農家)が、耕作した土地に対する所有権を法的に認められていないため、土地なし状態が広がっている。他の農民や農家の場合、強制的に立ち退きを迫られており、この動きは国家によってバックアップされている。女性は伝統的な漁業や採集活動からはじき出されている。それと同時に、国際通貨基金(IMF)と世界銀行は、被抑圧諸国に融資を行なっている。その際、地元の自給自足のための農業から、特定の輸出用作物や切り花などへの転換が条件となることが多い。

 このようなことはすべて、農村部の女性を経済的にさらに周辺化する結果を招いている。そして、これらの破壊的な経済的諸力は、既存の女性従属関係や新しい形態のジェンダー差別と相互作用し、女性に新たな負担と圧力を与えている[19]。

 農村の貧困、アグリビジネスによる零細農業の変容と破滅、土地、水、資源に対する環境ストレス、軍事紛争は伝統的な仕事と家族のパターンを大きく変え、グローバルサウスの農村から人々の大量移動を促進している。

B)売買春とインフォーマルな都市経済

 売買春は、合法・非合法にかかわらず、強制労働または「自発的」労働として、規制のない非正規労働のグローバルなインフォーマル経済の不可欠な要素であり、グローバルサウスの被抑圧諸国における雇用と生存の支配的形態である。

 売買春は、スラム街やインフォーマルな居住地、工場の敷地、農園、拡大する観光地の周辺(観光ガイド、麻薬販売人、露天商などとともに)に見られる。外国の鉱山会社や伐採業者は、労働者への「サービス」として買春地域を設けることが知られている。外国資本に便宜をはかる経済特別区(あるいは輸出加工区)は、売買春の主要な拠点となってきた。現在では約4000ヵ所もそういう地域が存在している[20]。

 インド第二の都市ムンバイでは、地方から移住してきた女性たちが売春店や路上で性的サービスを売っている。しかし、「交換」のもう一つの一般的な形態は、建設や家事など他の収入を得る活動を提供する非公式の日雇い労働市場で起こる。都市で自分と家族を養い、屋根と水を得るための売春婦たちの奮闘は、警察による迫害、不法占拠者の居住地に対する容赦ない取り壊しがなされる中で行なわれている[21]。

C)移住、人身売買、売買春

 第三世界における伝統的な自給自足経済が根こそぎにされ、世界の特定の地域、特に西ヨーロッパや北米における有給の雇用と安定した収入という「プル要因」が、貧困にあえぐ労働者を移民の流れや人間の密入国に引きずり込んでいる。密入国は人身売買と重なるが、監禁や奴隷化を伴う人身売買とは異なる。

 国境を越えた移住は、アグリビジネス、気候危機、地域・地方紛争、極度の貧困によって伝統的な経済から追い出された女性たちの生存戦略にとって不可欠なものとなっている。そして、こうした移民の流れは、低コストで搾取できる「潜在的な性奴隷」の供給に拍車をかけるのである(密入国業者は現在、西ヨーロッパへの「非公式の」移住――安全や生活のために必死で国境を越えること――の約90パーセントを担っている)[22]。

 第三世界の移民労働者による海外労働は、母国の家族への「送金」(収入の一部)の流れを生み出している。この送金は、グローバルサウスの経済を活性化させるのに役立っている。拙論「米国における帝国主義的寄生性と階級的社会構成の変化」は、移民労働者の送金が今日の帝国主義世界経済において果たす役割がいかに巨大で、それが被抑圧国経済への年間海外直接投資をも上回っていることを詳しく論じている[23]。

 第三世界の被抑圧諸国における安価な労働力の需要と供給は、現代の人身売買の原動力となっている。この安価な労働力への需要が、この人身売買を遂行し「統制」している犯罪シンジケートの活動を大きく後押ししてきた。実際、建設業、製造業、「接待」業、農業、漁業など、人身売買された労働力が入っていないグローバルな帝国主義的「サプライチェーン」経済は存在しないといっても過言ではない。帝国主義世界経済においては、「合法」と「非合法」の経済活動がますます深く絡み合っている。

 この悪循環を性的搾取の領域で考えてみよう。ある女性がタイで家事労働者として海外に派遣され、その後、他の国に人身売買されて「セックスワーク」を強要される。彼女は奴隷になる。売買春の「稼ぎ」の大半はピンプや人身売買業者に流れるが、農村に住む家族には一定の仕送りができるようになっている。要するに、お金はタイ経済に還流し、その大規模な「売春部門」(これについては「IX」で詳しく述べる)を持つタイ経済を支える。これが、今日における帝国主義支配下での従属的発展のマトリクスなのである。

IV.第三世界における略奪、追放、「過剰」人口

 「性産業」の成長とグローバル化には、きわめて重要な「サプライサイド」が存在する。とくに第三世界(だけではないが)においてそうなのだが、追放され絶望した人々の巨大な貯水池が、世界帝国主義システムのフォーマルな経済構造に吸収されないでいる。ここでいう「フォーマル」とは、給与や労働時間が定められており、労働条件についてある程度の公的規制があることを意味する。むしろ、抑圧された人類の大部分は、不安定(プレカリアス)な生存様式に追いやられている。この点をもっと掘り下げてみよう。

A)生産手段からの農民生産者の分離

 過去50年間、生産手段から労働者を(しばしば暴力的に)分離する現代的形態が起こっており、第三世界の何億もの農村居住者の生活を荒廃させている。

 このような略奪のプロセスは、第三世界における歴史的に前例のない猛烈で混沌とした都市化の過程と「メガシティ」の出現に関連しており、巨大なスラムとそれを取り巻く、地方からの移民が住む不法占拠者(スクウォッター)の居住地が広がっている。

 では、「生産手段から労働者を分離する」とはどういうことか?

・問題となっている労働者は、主に小作農や、小さな土地の区画を所有するか借りている農民、あるいは共同体の――あるいは「慣習的」と呼ばれる――所有地の一区画を利用する農民である。

・小作農から分離されている(剥奪されている)のは、土地と、それに付随する道具と、水へのアクセスという主要な生産手段である。

 労働者はどのようにして生産手段から切り離されるのだろうか? 分離のプロセスには、さまざまな要因が複雑に絡み合っている。

・1950年代と1960年代に始まった第三世界での、大規模で、より高度に機械化され、技術的に進んだ農業の導入(ハイブリッドの新品種を含む)が、国内外の大手販売業者ないし販売経路への束縛をもたらし、小規模生産者を破壊している。

・グローバルで帝国主義的なアグリビジネスとの競争。

・帝国主義と国家が推進するインフラ開発(大規模農業生産のためのダム、道路、貯蔵施設の建設など)を通した農民の土地の膨大な乗っ取り。

・国際的な民間投資家グループ、外国政府、国内エリートによる「土地強奪」で、地元の農業をパーム油などの工業用プランテーション生産と鉱山事業に転換すること。

・水利権の喪失。

・世界銀行のような国際的な「開発」機関および融資機関からの圧力とそれによって課された政策。それは、帝国主義国からの輸出品に市場を開放させるが、たとえば、アメリカのトウモロコシが地元メキシコのトウモロコシ生産を下回り、台無しにするような状況をもたらす。また、小規模生産への政府の財政支援を削減することを条件に融資がなされる。

・帝国主義的アグリビジネスに農民を拘束する「知的所有権」による種子と肥料の私有化。

 零細農民や零細農家の略奪には、土地剥奪の「合法的」方法と非合法的方法、すなわち経済的圧力と、剝き出しの暴力が用いられてきた。第三世界の大地主や地方自治体・全国政府は、軍隊や民兵、ギャングや暴力団を投入する。彼らは、地元の農民や部族、先住民が代々所有し農耕してきたが正式の私的所有権を有していない土地を購入したり、強制的に奪い取るための法的根拠となる正式の所有権を設定する。同時に、農民・小作人の間での競争は、生産性、土地の広さ、労働者を雇う能力において、一部の農民を優位にする。

 ここで、事態を明瞭に示す一つの統計を紹介しよう。1983年の時点では、世界の労働者の大半はまだ農業に従事していた(その圧倒的多数はグローバルサウスに位置する)。しかし、2010年代に入ると、農業に従事しているのは世界の労働者のわずか25%だけになった[24]。ここに、グローバルサウスで進行中の土地剥奪の現実がある。農業以外の新しい仕事は、土地から分離された人々を吸収できるような規模ではどこでも創出されていない。

B)1700年代から1800年代にかけての産業革命で起こったことと同じではない

 この生産手段からの労働者の分離は、ヨーロッパで数世紀にわたって起こった農民の土地からの追い出しと、18世紀後半から19世紀にかけてイギリスを中心に爆発的に展開した産業革命の経験を単純に再現したものではない。当時は、労働集約的な資本主義的産業化の過程が起こっていた。資本主義的生産は、農村から流入した新しい農工業プロレタリアートの成長を促した。そして、イギリスの綿工場のような大規模工場生産は、あらゆる恐ろしい条件を伴いながらも、新しいプロレタリアを大量に吸収していった。

 しかし、今日の帝国主義支配の条件下では、グローバルサウスの被抑圧国における経済発展は、帝国主義の必要性に従属し、それによって歪められ、帝国主義世界経済の浮き沈みに対して非常に脆弱で、それに縛りつけられている。これらの国々は、かつての産業革命を「再現」しているわけではない(もっとも、かつての産業革命自体、世界的な奴隷貿易と植民地支配と不可分であり、その影響は今なお被抑圧諸国に残っているのであるが)。

 今日の資本主義世界経済においては、第三世界における、略奪され土地から切り離された農民は、その多くが工業的な大量生産システムに組み込まれてはいない。農業から離れた人々――農業から強制的に引き離されたのであれ、抑圧的な条件の下で離れることを「選択」したのであれ――、その大多数は標準的な工業やサービスの仕事を見つけることができない。彼らは過剰人口となる。ここで言う「過剰」とは、高い出生率や生活資源の絶対的な不足による「人口余剰」という意味ではなく、利潤を追求する資本主義の労働力需要に対して相対的に「過剰な人類」という意味である。

 注目すべきことに、この40年間というもの、第三世界では製造業の生産が大規模な拡張が見られた。これは、資本主義的帝国主義諸国からの外国投資の増大および生産のアウトソーシングと大いに関連している。これは、現代の帝国主義世界経済の規定的特徴であり、帝国主義資本の高い収益性にとって不可欠である。しかし、第三世界における新しい大規模生産能力は、大部分が一部の国に集中している。帝国主義国の投資とアウトソーシングも、そして現地の製造業能力の拡大も、第三世界において新たに都市化した人口の大部分には雇用を生み出していない[25]。

 ここに重要な歴史的傾向がある。グローバルサウスのほとんどの地域で、農村から都市への大規模な人口移動は、労働時間や賃金がちゃんと定められ一定の法的枠組みの中で運営されているフォーマル経済の産業やサービスへの大規模な移動ではなかったのである。

※ 台湾や韓国は、しばしば「発展の奇跡」として、他の第三世界諸国が見習うべき「新興工業国」の第一波に挙げられる。しかし、これは特殊なケースである。1945年の第2次世界大戦終結後の台湾と韓国の産業発展は、米国のアジアにおける冷戦対立、特に毛沢東率いる革命中国に向けられた「最前線」国家としての戦略的役割と不可分であった。台湾と韓国は、外国からの援助、融資、投資、そして米国市場への特別なアクセスを持つ、特権的な新植民地主義的「従属国家」として建設された。こうして両国は日米の多国籍企業による産業投資移転の好適地となった。そして、この経済・産業の高度成長は、従属国家が自国民に対して行なった野蛮な弾圧を軸にして遂行されたのである。[26]

 世界の低中所得地域の雇用の約70%は、不規則で不安定な(しばしば一時的な)仕事であるインフォーマル経済であり、その多くは自営業や日雇い労働で、時間や賃金、安全・衛生の保護などの公的規制が定められていない。その職業は、露天商、建設労働者、無数のサービス業(携帯電話の修理など)、家事労働者、ゴミ拾いなどであり、それはしばしば偽造品の取引などの違法行為と重なっている。インドでは、農業以外の雇用の80%が非正規雇用であり、アフリカでは農業以外の雇用の85%が非正規雇用である。世界のインフォーマル労働力の90%以上がグローバルサウスに存在する[27]。

C)追放と放逐

 サスキア・サッセンは、『放逐――グローバル経済における暴力性と複雑性』〔日本語訳は、『グローバル資本主義と「放逐」の論理』明石書店、2017年〕の中で、資本主義的帝国主義の発展が、貧困にあえぐ膨大な人々を経済活動に「組み込む」ことから、20世紀末に加速し、21世紀にも続く、土地、雇用、家庭から人々を大規模に「放逐する」ことを特徴とするものへと世界的に移行しつつあることについて分析している。サッセンは、第三世界における故郷に帰ることのできない追放された人々――「そうした人々の生まれ故郷は今や戦場、プランテーション、鉱山、あるいは死んだ土地となっている」――と、グローバルノースにおけるそれと類似した変化、すなわち「最近まで犯罪への対応措置であった収監(その犯罪が本当に行われたか、そうでないかを問わず)が、今では人々を大規模に収容するものになっている」(大規模収監)こととの間にグローバルで動的な結びつきがあることを指摘している。そして、「その先陣を切っているのが米国である」としている。

 さらに彼女は、とくに本稿の核心と関連する点だが、次のように述べている。

家屋や土地や雇用からの放逐には、犯罪ネットワークや人身売買業者が暗躍する空間を広げる効果もあり、さらに企業・政府を間わず、外国の買い手による土地や地下の水資源へのアクセスを促している。[28]

D)スラムの惑星

 これはマイク・デイヴィスによる本のタイトルであり、ここで議論されている現象を理解するために重要な分析を提供している。終章は、パトリック・シャモワゾー〔カリブ海のフランス領マルティニーク島の小説家〕の小説『テキサコ』からの刺激的な一節で始まる。「工場も作業場もなく、仕事もなければ雇い主もいないプロレタリアが、ハンパな仕事をとっかえひっかえしながら、必死で生き延びようと、燃えさしの灰を縫う一本の小径のような人生を送っている」[29]。「ハンパな仕事」とは、「インフォーマル経済」のことである。テキサコとは、カリブ海のマルティニーク島の首都にある不法占拠者の集落の名前である。

 起こっていることのすさまじさ、速さ、痛ましさは、いくら強調してもしすぎることはない。都市に住む世界人口の割合は、1960年の34%から2000年の47%、2018年の56%へと急上昇した。世界の都市人口の75パーセント以上は、グローバルサウスの都市に住んでいる。2015年にはすでに、世界の都市拡大の40パーセントがスラム地域で起こり、サハラ以南のアフリカでは、人口の60パーセント以上がスラムで生活している。2019年には、10億人以上、つまり地球上のほぼ7人に1人が、都市部のスラムやいわゆる「インフォーマル居住地」は――劣悪な衛生環境、汚染された水、貧弱な医療サービスなどとともに――、圧倒的にグローバルサウスのメガシティやその周辺に集中している[30]。

 農村から都市への放逐された人々の移動――第三世界のある国から別の国への移動、そして帝国主義諸国への移動――は、売買春のグローバリゼーションとあらゆる点で結びついている。

E)そして地球温暖化

 経済、社会、政治、そして根本的に異なるはるかに良い世界を求める革命は、地球環境の危機と切っても切り離せない関係にある。地球温暖化は、干ばつや砂漠化などを通じて、第三世界の農業に不釣り合いに大きな影響を及ぼしている。地球温暖化は、グローバルサウスの都市やスラム街、不法占拠者の居住地における環境ストレスを強めている。それは、追放、大量移住、そして「過剰人類」の出現という力学をいっそう複雑にしているのだ。

V.アイとメアリーが語る地獄とロヒンギャ難民が直面する悪夢

 ミャンマーで一人の女性が彼女の家族に近づいてきたとき、アイはまだわずか14歳だった。彼女は、アイがバンコクで働けると告げた。極度の貧困にあえいでいたアイは、この申し出を受け入れ、両親の許可を得て、妹といっしょにタイに渡った。しかし、同地に到着するとすぐに男たちに引き渡され、売春店の店主に売られていった。

 その後、3年間、音信不通だったが、ある日、売春店の手入れを受けた際に発見された。彼女は他の100人の女性と共に売春店の5階に監禁されていた。昼から夜中の2時まで働かされ、毎日12人から20人の男性にサービスすることを強制されていた。少女たちには番号のついたシャツが渡され、自分の番号が呼ばれるのを待つ間、テレビを見るのが日課だった。女性と少女はガラスの壁で客の男たちから隔てられていて、男たちは気に入った女の子を指名すると、6ドルの料金を払って、30分間その子と過ごす。女性や少女たちは、その「仕事」に対して1日たった1ドルしか受け取っていなかった[31]。

 メアリーは、ナイジェリアのエド州出身の将来有望な高校生だった。彼女は大学へ行くことを夢見ていた。16歳のとき、ある女性が彼女の母親に近づき、仕事を探すために10代の若者をイタリアに連れて行くと申し出た。メアリーの家族は、これで貧困から抜け出せると思い、その申し出を受け入れるようメアリーを強いた。しかし結局、メアリーは売春に人身売買された。3年間、体を売ることを強要され、銃で脅された。逆らったらどうなるかという見せしめとして、もっとずっと若い女の子たちに対する残忍な性行為(にんじんを膣に激しく挿入するなど)を見させられた。

 メアリーは、強制捜査の結果、ようやくナイジェリアに送還された。しかし、メアリーの家族は彼女を冷たく突き放した。それはもう20年前のことだ。現在、状況ははるかに悪化している。移民危機の混乱に乗じて、ギャングがより多くの女性、しかもますます若い少女たちを性的奴隷として「売っている」。彼女は、「今の若い女の子たちは、自分たちが何に巻き込まれているのか、自分よりも知識がある」と振り返った。しかし、「彼女たちは、自分もそうだったが、たとえそこから抜け出すことができたとしても、自分が受けるであろうトラウマのひどさを知らないのです」[32]。

 ミャンマーから逃れてきた若いロヒンギャ難民が、隣国のマレーシアに渡ってきた。彼女は、迫害され、悪魔化され、ミャンマーから追放された何十万人の一人だ。マレーシアに入ってすぐのキャンプで、彼女や他の少女たちは、最初、他の男に売られて強制結婚させられる。しかし、一定期間が過ぎると、この「夫」は少女たちを他の男に売り渡す。中には、家事労働者や債務労働者になる人もいる。より高い賃金を約束する人身売買業者が、こうした10代の若者や若い女性を強制売春に誘い込む。他のロヒンギャの女性たちは、タイの水産業に押し込められることもある。この業界は安価な奴隷労働に大きく依存しており、女性たちは生命を脅かす労働条件や性的虐待にさらされる。この業界は、米国の食品小売業に貢献している。

 バングラデシュは現在、ロヒンギャ族の主な移住先となっており、過去数十年間に逃れてきた何十万人もの人々を含め、約100万人が暮らしている。ロヒンギャの人々は無国籍であり、合法的に仕事を見つけることができないため、女性や少女は特に性的人身売買の危険にさらされている。一部の人々は、バングラデシュのいわゆる「売春村」に流れ込み、そこでバングラデシュ人女性や10代の若者たち(中には13歳の子供も)といっしょに売春させられる。

 バングラデシュでは売買春は合法だ。人身売買された女性や子どもたちが次々と売買春の世界に流れ込んでくるため、少女たちは、彼女たちを搾取してお金を稼ぐ側にとって使い捨ての存在になってしまう。若い女性たちの中には、これ以上続けられないと絶望し、リストカットしたり、自殺する者もいる。国内最大の売春村で月に1人が自殺している。これらの女性たちは公営墓地に埋葬することが禁じられているため、この状況に対処するため私設墓地がつくられ、間に合わせの葬儀がなされている[33]。

 帝国主義グローバリゼーションが深化するにつれ、新たな性的人身売買ルートが出現している。メキシコ人女性は米国とメキシコの国境の町へ、ネパール人女性はインドへ、ナイジェリア人女性はイタリアへ、アジア人女性はオーストラリアの炭鉱の町へ人身売買されている。

VI.「セックスワーク」論のウソ

 フェミニズムの一部の潮流や「ウォーク(woke)」的アイデンティティ政治から発せられる多くの合理化論が言うのと違って、「セックスワーク」が特定の種類の単なる「仕事」ではないことをはっきりと理解し、そう言わなければならない。それは、「取引」のより凶悪な形態でさえない。売春のための人身売買は「労働のための移住」の変種ではない。ピンプや人身売買業者によるレイプや集団レイプによって売春を強制され始められるなど、女性の身体に実際に行なわれること、そしてそれに伴うあらゆる身体的・心理的影響を踏まえるならば、「セックスワーク」が仕事の一種ではないことは明らかだ。売買春へと人身売買されることは、「毎日多くの男たちに性的に利用され、どんな行為もどんな男性も拒否できず、監視者の管理下に置かれ、偽の負債を返済し終わるまで(この負債そのものが人身売買業者によって作り上げられ、日々、生活必需品への支出のせいで膨れ上がり続ける)支払いを受けないという経験」である[34]。そして、グローバルな売買春に対する「セックスワーク」パラダイムを支持する者たちには、第三世界のこの恐怖を考慮しようとしない帝国主義的・排外主義的盲点が存在する。

 「セックスワーク」を擁護する立場から、しばしば次のように論じられる。たしかにそれは侮辱的行為だが、資本主義下のあらゆる仕事も同じだ、と。これに答える形で、当サイト(revcom.us)がこの主張の問題点を指摘する記事を掲載している。

「たしかに、世の中には本当に侮辱的で搾取的な仕事がたくさんある。多くの人の人生がこのように浪費されるのは、まったくもって異常であり、不必要なことだ。……他方で、男性が売買春やポルノで女性や若い女性を購入する場合、購入されるのは、彼女の性的奴隷状態と貶めである。……彼は、女性を見下し、侵害し、殴り、侮辱し、屈辱を与えることができるという経験にお金を払っているのだ。」(強調は引用者)[35]

 「セックスワーク」擁護派のもう一つの議論の筋は、女性が男性の性的快楽と引き換えに自分の身体を交換する取引は――路上売春婦であれ、「高級」エスコート嬢であれ、パフォーマーであれ――、実際のところ、グローバル化した商業と自己宣伝の世界における女性の「主体性」、「選択」の一形態であるというものである。この考え方にあっては、何らかの自覚的な選択がなされていることそれ自体が重要となる。だがこれは妄想と自己欺瞞の一種である。

 本稿での分析が示しているように、より大きな経済的・社会的な力が、女性の「選択」、とりわけ貧困にあえぎ居場所を奪われた女性たちに与えられる「選択」の幅を設定し、制限しているのである。帝国主義的蓄積の作用と家父長制の社会構造が、こうした選択肢を根本的に条件づけている。そして、ボブ・アヴァキアンが「選択と…ラディカルな変革について」という論文で力強く説明しているように、たしかに人々は選択をするが、それは「これらの選択肢を持つことを選択しているという意味ではない」[36]。

 「セックスワーク」を「選択に基づく」という理由で合理化する議論に対する批判は、売買春が「個人の意志によってではなく、関係によって生み出される」ことを重要なポイントとしている。「つまり、男性の買春者と被買春女性がいなければ、売買春は存在しない」[37]。

 売買春の本質的に抑圧的な性質を認識し、それを売春婦の非犯罪化という正当な要求と結合させることが必要だが、しかし、これは問題の終わりではない。

 女性の性的搾取と抑圧は、このシステムを打倒し、すべての搾取と抑圧を根絶する共産主義革命によって終わらせなければならず、またそれによってのみ終わらせることができる。言いかえれば、すべての伝統的な所有関係、すべての伝統的な考え方や価値観を根本的に断ち切るために、この革命を意識的かつ集団的に作り上げ、それを遂行することこそ、「主体性」、大文字の「解放の主体性」の意味することなのである。

VII.過去20年間に急成長したグローバルな不法経済の重要な構成要素としての性的人身売買

 分析の決定的なポイントに目を移そう。帝国主義グローバリゼーションは、合法と非合法のグローバルな労働供給ネットワークを絡み合わせるだけでなく、両者の区別を曖昧にする一種の「グローバル・アーキテクチャ」を促進した。漁業、コバルト採掘、金採掘、木材取引など、多くの合法的な産業においても、違法経済がその周辺で流通し、そこに入り込んでいる。金融の分野では、「合法的」な銀行取引が「影の」銀行取引やマネーロンダリングに流れ込んでいる。

 世界の違法経済は2兆2000億ドル規模と評価されている[38]。世界の違法経済について研究した『グローバルな違法経済――国際組織犯罪の軌跡』によれば、「新世紀の初めに開発された不透明なグローバル銀行システムは、合法的利益と非合法的利益の両方を結びつけて、10億ドル規模のアンタッチャブルな資産を生み出した。その一方で、それを利用するアクターたちの権力と影響力は強化された」[39]。そしてデジタル技術とデジタル商取引のツールは同時に、ミクロな違法活動と大規模な違法経済(麻薬、武器、人身売買)を推進し、それをカモフラージュするのに利用されてきた。人身売買業者への支払いは、取引の痕跡を残さず行なうことができる。

 こうしたことはすべて新型コロナ・パンデミックによっていっそう悪化している。

「数十年にわたるグローバリゼーションと貿易の自由化により、富と権力に大きな格差が生まれた。コロナウイルスのパンデミック以前から、合法的な経済活動で働く機会はすでに減少していた。パンデミックの結果、特にインフォーマル経済で働く人々にとって、状況はさらに悪化した。……こうした状況のもとで、違法経済はますます拡大し、それがサービスを提供し、ますます多くの人々を(しばしば強制的に)雇用する事態になっている。」[40]

 先に述べたように、帝国主義支配下の第三世界の経済発展による混沌とした都市化の傾向は、フォーマル経済が雇用を提供できないことと相互に関連している。スラムやインフォーマルな都市居住地では、国家はガバナンスやサービス、安全を提供することができな い。水や、暖房や調理用燃料としての木炭などの必需品に対する需要も、規制のない経済状況のもとでは満たすことができない。この真空地帯に、犯罪集団や地元のギャングが入り込み、無規制な市場をますます取り入れるようになっている。新型コロナ・パンデミック期間中には、ギャングが保健衛生上の検疫を実施した例さえある。

 地下の違法経済が拡大し、雇用と所得創出のための「代替空間」が提供される。売買春は、この急成長する「代替」経済の主要な構成要素である。ギャングや犯罪集団は、若者や極度に周辺化された人々を引き込み、他の活動へと拡大し、人身売買業者や移民の密入国業者、そしてグローバルな「性産業」と絡み合っている。

VIII.性産業、メイド、輸出加工、そして「セックス観光」の台頭

A)第三世界における女性のフォーマル経済への参入と撤退

 2001年の研究論文「性産業、メイド、輸出加工――ジェンダー化されたグローバルな生産ネットワークのリスクと根拠」は、過去30年間にわたり、第三世界の多くの女性が、この研究のタイトルにある3つの部門に引き込まれ、それぞれの間を移動してきたことを明らかにしている[41]。

 生産の帝国主義的アウトソーシングは、輸出加工区の成長を促し、その収益性と競争力は、超過搾取可能な労働者としての女性に依存している。しかし、「底辺に向かっての競争」――より安価な労働を求める帝国主義のあくなき追求――は、生産の絶え間ない競争的な移動と配置をもたらす。台湾、韓国、シンガポールなどにおける衣料品やその他の消費財の生産アウトソーシングの第一波は、バングラデシュや中国など他の地域を中心とする第二波に道を譲り、これらの工場の多くが閉鎖されるに至った。

 外注・下請け工場での雇用は、過酷であると同時にきわめて不安定である。このことは、女性労働者とその家族の脆弱性をいっそうひどくしている。同時に、1980年代に始まり今日までさまざまな形で続いている、帝国主義金融機関による緊縮財政と構造調整の押しつけは、その結果としてベーシックサービスの削減やその民営化をもたらし、家計を維持するための手段をかき集めるよう女性に大きな圧力をかけている。

 工場で働く女性の中には、家事代行サービスや売買春などのインフォーマル・セクターに戻る人や、海外に移住してこれらの仕事に就く人もいる。しかし、いったん売春をするようになると、多くの女性は、スティグマ、「資金提供者」(しばしば人身売買業者)への蓄積債務、犯罪組織による妨害などのゆえに、この状態から抜け出せず、そこに留まらざるをえなくなるのである。

B)東莞の事例

 中国の東莞市は、香港に隣接する中国南沿海部の巨大な輸出製造業地帯である珠江デルタの中心に位置している。今世紀に入り、東莞は「東洋のアムステルダム」と呼ばれるようになり、市内には約30万人もの売春婦がいた。公式には違法だが、ある推定によれば、売買春は市の収入と雇用の10パーセントを占めていた。

 国内の移住労働者の役割は決定的なものだった。中国内陸部の貧しい農村から何十万人もの女性が、東莞のように急成長する諸都市の安価な労働力の製造工場でのより賃金の高い仕事を求めて沿海部に集まってきた。東莞の売春婦の約90パーセントは、もともとこうした工場での仕事を求めていたのだが、その仕事に就けなかった人か、あるいは聞いていた仕事とは違うものであったことを後で知った人たちである[42]。

 売買春は、このような状況下での機会と強制の仕事となった。これらの「セックスワーカーたち」に対する需要は、同じく内陸部からやってきた男性出稼ぎ労働者(女性よりもずっと数が多い)から来ているが、この沿海都市で商売をするためにやってきたビジネスマンからも来ていた。

 2007~2009年の世界的不況で中国の輸出ブームが減速し、労働集約的でないより高度な製造業に移行したため、女性の雇用機会が減少し、売春婦として働く女性が増えた。売春店の経営者や人身売買業者は、誘い込み騙すことのできる自暴自棄になった女性たちの貯水池を増やしていった。政府は取り締まりを開始したが、この産業は消滅せず、単に運営方法を変えただけだった。そして東莞は、ネット上の「セックス観光」ガイドの高揚した言葉によれば、依然として中国の「罪の街」なのである。

C)世界の「セックス観光」と米軍の形成的役割

 シーラ・ジェフリーズによる適切で挑発的なタイトルの本とそのきわめて価値ある分析である『インダストリアル・ヴァギナ――グローバル性売買の政治経済学』は、次のように述べている。

「軍事売買春は、20世紀後半における売買春のグローバル化と産業化において最も重要なベクトルであった。20世紀の巨大な工業化された軍隊は、売買春が軍事的準備のために必要であることを理解していた。……日本軍が採用したものと同様の規模の売買春〔1930年代と1940年代に日本帝国主義が占領した国と地域における女性の集団売買春と性的奴隷化〕は、第二次世界大戦後の東南アジア全域で米軍の休暇と保養(R&R)体制の一部であった。それらは、韓国、タイ、フィリピンで発展し、それらの国の経済の重要部門となった巨大な性産業と女性売買の基礎となった。その規模の大きさから、軍事売買春は、売買春のグローバリゼーション――すなわち、貧しい国々の女性や子どもという性的プロレタリアートに対する豊かな欧米諸国のメンバーによる性的搾取――の決定的側面の跳躍台になったとみなすことができるだろう。……軍事売買春がその国の売買春の産業化を引き起こした後、地元の女性や少女はグローバル性産業の原材料になり、国内の地元産業とセックス観光産業で売買されるだけではなく、世界中の売買春へと人身売買されていった。」[43]

 本サイト(revcom.us)の「アメリカの犯罪」シリーズに、「アメリカのベトナム戦争と女性の性的隷属」という回があり、南ベトナムで「巨大な売買春経済」が形成されたことを記録している。アメリカによるジェノサイド的戦争の10年間(1965~75年)に、約40万~50万人のベトナム人女性とベトナム人少女が売春婦にされた[44]。

 米兵に奉仕するための性的搾取は、タイにも広がり、ますます組織だったものとなり、「産業化」されるようになった。このことは、1967年にロバート・マクナマラ国防長官が推進した米タイ協定に明記されている。タイ政府は経済援助と引き換えに、一時的に休暇中の米兵に性的R&R(「休暇と保養」)を提供することに同意し、タイの「セックス観光」に公的な許可と外的な後押しを与えたのである[45]。これがすべて200万人ものベトナム人を殺害した10年に及ぶ活動の一環なのだ!

 性的人身売買は米軍の「伝統」としてその後も継続された。たとえば、2003年のアメリカのイラク侵攻後、バグダッドの「グリーンゾーン」では、ベラルーシ、中国、イラン出身の女性がアメリカの下請け業者によって売買され、売春婦として働かされた[46]。

 それと同時に、大規模な軍事売買春は、それ自身の「乗数効果」をもたらした。ベトナム戦争中の軍事売買春の「ブーム」、東・東南アジアの米軍基地と、その後の同地域での「セックス観光」の発展との間には、きわめて明確な関係がある。ジェフリーズは次のように書いている。

「1970年代以降のアジアにおけるセックス観光産業の発展は基本的に、米軍の軍事売買春によって築かれた基盤にもとづいている。タイ、フィリピン、韓国などでは、それは米軍の休暇と保養(R&R)を提供するために売買春が発展した場所で始まっており、それらの国のGDPにかなりの割合を占めるに至るまで成長した。実際、貧しい国々の政府は、外貨獲得の手段として、意図的にセックス観光を発展させた。

 買春ツァーは、軍事売買春が存在したアジアの国や地域だけで発展してきたわけではない。男性が個人またはグループで、遊びや仕事、スポーツ大会や政治集会などのために旅行するすべての地域で、売買春産業が発展している。彼らは、女性を売買することを目的として訪れる観光客であったり、買春と一体化しているカジノを利用するために訪れたり、ビジネスマンや男性スポーツ愛好家が旅行の一環として普通に女性を買春することもある。豊かな世界には、アムステルダムや米国ネバダ州のような買春観光地がある。また、貧しい国でも、ジャマイカのように、軍事売買春の経験がなくても、経済発展のための手段として買春ツァーを利用し、地元の女性たちを搾取される資源として市場に配置している国も存在する。」[47]

 実際、1970年代後半、ジャマイカは国際通貨基金(IMF)から融資を受けた。融資は「政策改良」と引き換えであった。この「改良」は、ジャマイカ経済を帝国主義世界市場のニーズに合わせて方向転換させることを求めるものだった。これは、まず輸出主導型の製造業を推進することで実現した。この短期間の取り組みは、もっと安価な生産拠点との競争に直面したことで崩壊した。続いて、カリブ海や東南アジアで、「エキゾチック」で「従順」な女性の身体を提供する観光の促進――「楽園の商品化」――が行なわれた。

 ジャマイカ出身の作家ニコル・デニス=ベンは、2016年の小説『ヒア・カムズ・ザ・サン』において、それが現地の人々にどのような結果をもたらしたかその一端を捉えている。この小説と登場人物の選択についての解説で、彼女はこう指摘している。

「ジャマイカでは上昇移動が非常に難しく、そのため多くの労働者階級のジャマイカ人が国外に去っていく。だが、残った人たちは生活していくための方法を見つけなければならない。私の小説では、マーゴットはホテルの従業員としてのわずかな給料を売春で補わなければならなかった。ジャマイカのように観光が第一の収入源である国では、権利を剥奪された人々はそうやって身銭を稼ぐ。しかし、ホテルはそれで得た利益を、私たちや私たちの社会のために使っているわけではない。」[48]

 これをより抽象度の高いレベルで捉えてみよう。国際観光(商業的セックスへの容易なアクセスという暗黙の「魅力」を伴う)は、帝国主義的投資家と国際金融機関の後押しにもとづいて、ますます多くの第三世界政府によって、経済成長の一形態として、「戦略的開発活動」とみなされるようになった。

 若い女性たちの多くは、スキルを必要とするセクターから排除され、絶望的な状況に直面している子どもたちとともに、観光業のインフォーマル・セクターに職を求める。そして、多くの被抑圧国では、インフォーマルな観光産業は、女性や子どもの「性売買」産業と不可分の関係にある。欧米資本――ホテルチェーン、航空会社、船会社など、数え上げればきりがない――は、女性の性的隷属と貶めの上に存在し繁栄しているこの大きな「グローバル産業」から莫大な利益を得ているのである。

 「セックス観光」は帝国主義諸国の一特徴でもある。これらの国々における合法・準合法の売買春の「サプライチェーン」(グローバルな「原材料」)には、外国人売春婦が中心的な位置を占めている。売買春が合法で、首都アムステルダムでの「買春ツァー」が主要な「観光名所」になっているオランダでは、国内の売春婦の60〜75%が移民と推定されている[49]。

D)ビジネス売買春

 第三世界では、先に分析したようなやり方を通じて、とりわけ「セックス観光」によって売買春が常態化しているとすれば、帝国主義諸国においては、取引の場やビジネス・エンターテインメントにおいて、売買春は新しいいっそうノーマルな形で定着している。東京から上海まで、ロンドンからアメリカの諸都市(たとえば、商業コンベンションに大きく依存しているアトランタのような都市)に至るまで、「ビジネス売買春」は巨大な成長を遂げ、国際的な「ビジネス・ネットワーキング」の中心的存在になっている。

 この「性産業」部門は、あからさまな売買春、ストリップクラブ、マッサージパーラー、そして世界的な「セックス観光」センターで構成されている。それは、商業を追求する男性たちの結びつきの特殊で排他的な様式として機能する。それは、企業のあらゆる階層における男性の特権を体現し、強化する。「ガラスの天井」の仕組みについて研究した多くの文献は、こうした嫌悪すべき儀式が、専門職女性がキャリアアップに必要な「インフォーマルな社会的ネットワーク」にアクセスする上での大きな障害になっていると指摘している[50]。

IX.寄生文化、男性特権の暴力的再要求、そしてグローバル化した売買春

 この研究論文では、主にグローバルな「性産業」の「供給(サプライチェーン)側」に焦点を当てた分析を行なってきた。しかし、「需要」側、つまり女性の性的従属と貶めに対する(増大する)需要と、その無数の形態での実現についてはどうか? 何がこれに影響を与え、形成してきたのだろうか。この問題は、それ自体、より詳細な研究とより深い総合を必要とする。以下は、予備的な考察であって、さらなる研究のための一里塚となるものである。

 グローバリゼーションと売買春について研究しているオーストラリアのある学者は、挑発的な問いを投げかけている。彼女はこう書いている。

「売春婦やそれを組織する人身売買業者の説明には、貧困、離散、女性の自暴自棄がいつも引き合いに出される。……しかし、こうしたグローバルな発展と並行して、この50年間にグローバルな性産業が急成長を遂げたとすれば、この時期、いったい何が、より多くの男性たちをしてこれほど頻繁に女性を買春せしめたのだろうか? 言いかえれば、何が男性の買春需要を加速させたのか。……何が男性の間に、セックスを買うことは合理的であり、望ましいとさえ思われるようなファッションを引き起こしたのか。」[51]

 この研究者が正しく指摘しているように、われわれは生物学的で「本質主義」的な男性の性衝動や、男性の中に眠っている何らかの「潜在的な買春需要」を扱っているのではない。そして、彼女が「消費者としての男性の日常生活の文脈の中で女性や子どもたちがありふれた形で性的に売買されていることは、19世紀や20世紀のジェンダー化された反奴隷制運動が防ぐことができなかった21世紀の現実である」[52]と指摘するとき、彼女は重要なポイントをつかんでいる。彼女が「ありふれた」という言葉を使ったのは、もちろん、女性に対する性的搾取や暴力の日常化、その常態化(ノーマライゼーション)を強調するためである。

 ボブ・アヴァキアンは、このことを解明し理解するための分析ツールを提供してきた。彼は、この状況を根本的に変えることのできる新しい共産主義を導く唯一の革命の立案者だ。新しい共産主義は、女性の解放を、あらゆる抑圧と搾取から人類を解放するための21世紀の革命の中心的で試金石となる問題と位置づけている。

 われわれは、「2つの時代遅れ」が相互に衝突する世界に生きている。すなわち、一つは、帝国主義システムの時代遅れの経済と文化、支配層であり、もう一つは、植民地化され抑圧された人類の中の歴史的に時代遅れとなった階層のものの見方を反映した反動的原理主義である[53]。〔欧米諸国の〕ポルノグラフィと〔イスラム原理主義国の〕ヴェールとがぶつかっているが、どちらも女性の非人間化であり、その現代的形態と中世的形態に他ならない。

 われわれは、帝国主義の中心地における極端な寄生と特権の世界に生きている。それは、けばけばしい「性的エンターテインメント」を含む、無駄で有害で、人をマヒさせる消費主義の世界であり、また、第三世界における「成長産業」としての「セックス観光」の世界なのである。

 アヴァキアンが強調しているように、実に多くの点で、根底にある経済的諸力と深い社会的文化的な変化と闘争が、家父長制家族、そして総じて家父長制的な諸関係一般に大きな緊張を与えている[54]。帝国主義諸国でも被抑圧諸国でも、伝統的な社会の絆や役割が破砕されつつある。農民の女性は、第三世界の輸出加工地帯にある衣料品工場や電子工場で、超過搾取された賃金労働者となっている。アメリカでは、前の世代には専業主婦だった女性が、今では男性よりも多く大学を卒業している。家庭も変化している。共働き、女性世帯主家庭が多数派となり、それとともに伝統的なジェンダー役割に対する文化的な挑戦が起こっている。

 しかし、こうした経済的・社会的諸変化は、支配的な経済的・社会的・イデオロギー的諸関係の、そして家父長制的な社会編成の殻(および鎧)の中に封じ込められ、それに制約されたままである。このことは、帝国主義諸国と被抑圧諸国の両方において、異なった形で、しかし深く相互に関連した形で適用される。それはとりわけ、帝国主義的グローバリゼーションの諸過程とその文化的現われが一つの原因となっている。

 以上の観点から、今後の研究のためのいくつかの追加的な考察点を挙げておこう。

・女性に対する家父長制的支配の伝統的でかつて安定していた形態が損なわれ、侵食されたことに対する――そして家庭、職場、社会全般で感じられる「男性の地位の喪失」に対する――「男性の報復主義(Male revanchism)」の問題。レイプや集団レイプを含む女性に対する暴力は、男性の特権、権利、地位の再確認に不可欠な役割を果たし、それを脅かすものに対する「罰」としても機能する。

・世界規模でのポルノの大量生産、普及、消費。このグローバル産業における性的人身売買の大きな役割。そして、ポルノが少年や男性一般に、何が許容され、どのように価値づけられているかについて「教育し」、社会化し、習慣化していること。これらは、女性の極度の商品化と客体化を強化している。

 ボブ・アヴァキアンは、ポルノグラフィと「絞首刑の絵葉書」――20世紀初頭の黒人男性に対するリンチの生々しい写真が描かれた絵葉書で、サディスティックな罰と身体損壊の「記念品」として売られていた――とのあいだに残酷な類似性があることを指摘している[55]。これらの絵葉書のように、ポルノグラフィは生身の人間に対する暴力を加え、それを合理化し、それに喜びを感じるように仕向ける。

 ポルノが若者のセックスに関する主要な情報源であることを示す複数の調査研究があり、特にインターネットポルノを見る若い男の子が、そのセックスの描写を「本物だ」と考えていることを示している[56]。平等や相互の愛情、相互の快感に基づいた同意などどうでもいいという態度が醸成されるのだ。

 もう一つのきわめて重要な事実は、アメリカが、ポルノとその支配的なテーマ――ミソジニー、性暴力、人種差別、新植民地主義的な性的征服――のグローバルな生産、普及、グローバルな「主流化」のリーダーであるということだ。世界のポルノ産業は約970億ドルを生み出し、米国には世界のポルノウェブサイトの約60パーセントが存在している[57]。

・女性と子どものグローバルな売買を増幅するインターネットの役割。米国と西ヨーロッパの「セックス観光」と性産業中心地、「ビジネス売買春」、国内のエスコート売春会社、「見返り付きデート」等々。サイバー接続は、商業的なセックスの場への需要とアクセスを「刺激」してきた。インターネットは、実際、特に帝国主義諸国において、男性にポルノを提供する主要な手段となっている。そして、少なくとも、サイバーテクノロジーは、売買春と性的人身売買を促進するとともに、それを偽装するのである。

[1] “NEW YEAR’S STATEMENT BY BOB AVAKIAN: A New Year, The Urgent Need For A Radically New World-For The Emancipation Of All Humanity, January 2021″ www.revcom.us. Bob Avakian, “Commodities & Capitalism—And the Terrible Consequences of this System: A Basic Explanation”; Bob Avakian, “Why The World Is So Messed Up, And What Can Be Done to Radically Change This—A Basic Scientific Understanding”; and Raymond Lotta, “Imperialist Parasitism and Class-Social Recomposition in the U.S. From the 1970s to Today: An Exploration of Trends and Changes.”

[2] この4000万~4200万人という推定値は、パリに本拠を置くScelles財団が作成したグローバルな売買春に関する包括的な研究に記載されている。Catherine Goldmann, Current Assessment of the State of Prostitution, 2013 (Paris: Scelles Foundation), p. 5.

[3] グローバルな売買春が「産業化」の力の影響を受けているという点に関する初期の理論化は、以下に見られる。Kathleen Barry, The Prostitution of Sexuality (New York: NYU Press, 1996).

[4] International Labor Organization, “Sex Industry Assuming Massive Proportions in Southeast Asia,” Press Release, August 19, 1998.

[5] Brian M. Willis, Barry S. Levy, “Child prostitution: global health burden, research needs, and interventions,” The Lancet, Vol 359, April 20, 2002, p.1417; Patricia D. Levan, “Curtailing Thailand’s Child Prostitution Through an International Conscience,” American University International Law Review, Vol 9, No.3 (1994), pp.869-870. 2007. タイの売買春者の約40%は18歳未満と推定されている。以下を参照。ECPAT, Global Monitoring Status of Action against Commercial Sexual Exploitation of Children, Country report of Thailand, 2011, p, 13. ウィリスとレヴィは、ブラジルにおける今世紀初頭の児童売買春を10万~50万人と推定する研究を引用している。

[6] HIV and AIDS Data Hub for Asia-Pacific, China: Sex Work and HIV/AIDS, 2010, Table 1, p. 2.

[7] International Labor Organization, Global Estimates of Modern Slavery: Forced Labor and Forced Marriage (Geneva: 2017).

[8] International Organization for Migration, Information Campaign Against Trafficking in Women from Ukraine-Research Report (Geneva: 1998).

[9] PICUM, Safeguarding the Human Rights and Dignity of Undocumented Migrant Sex Workers (Brussels: 2019), p. 9.

[10] Global Estimates of Modern Slavery, pp. 9-11. より多くのデータと分析は、以下にある。UN Office on Drugs and Crime, “Executive Summary,” Global Report on Trafficking in Persons, 2020 (New York: 2020).

[11] Channing May, Transnational Crime and the Developing World (Washington, D.C.: Global Financial Integrity, 2017), Table XI.

[12] International Labor Organization, Profits and Poverty: The Economics of Forced Labor (Geneva: 2014), Table 2.1, p. 13.

[13] 以下の記事で引用。Corinne Redfern, “The Living Hell of Young Girls Enslaved in Bangladesh’s Brothels,” Guardian, July 6, 2019. 以下も参照。Siddharth Kara, Modern Slavery: A Global Perspective (New York: Columbia University Press, 2017).

[14] Polaris Project, “Hidden in Plain Sight: How Corporate Secrecy Facilitates Human Trafficking in Illegal Massage Parlors,” April 2018, p. 1.

[15] Cesar Chelala, “Child Trafficking: A Global Scourge,” The Globalist, July 16, 2019.

[16] Cara Kelly, “13 Sex trafficking statistics that explain the enormity of the global sex trade,” USA Today, July 30, 2019.

[17] Kate Geary, Our Land Our Lives: Time Out on the Global Land Rush, (Oxford, UK: Oxfam International, 2013). 小農擁護団体GRAIN.orgは、グローバルな土地強奪に関するデータベースを管理している。サスキア・サッセンの以下の著作も参照。Saskia Sassen, Expulsions: Complexity and Brutality in the World Economy (Cambridge: Belnap Press, 2014) 〔サスキア・サッセン『グローバル資本主義と「放逐」の論理――不可視化されゆく人々と空間』明石書店、2017年〕, chapter 2, “The New Global Market for Land.”〔第2章「新しいグローバルな土地市場」〕 土地の払い下げ、抵抗、紛争に関する分析は、『農民研究ジャーナル』の各号を参照。同誌の特集号「新しいエンクロージャー(The New Enclosures: Critical Perspectives on Corporate Land Deals)」(第39巻3-4号、2012年)には、アフリカにおける土地強奪に関する諸論文が収録されている。また、同誌の特集「中国とインドにおける農村の土地略奪(Rural Land Dispossession in China and India)」(第47巻6号、2020年)も参照。タイ、カンボジア、ミャンマーについては、以下を参照。Local Act Thailand, “Land Grabbing and Impacts to Small-Scale Farmers in Southeast Asia Sub-Region,” (April 2015).

[18] Geary, Our Land Our Lives.

[19] たとえば、以下を参照。Michael Levien, Gender and Land Dispossession: A Comparative Analysis, (New York: UN Women, 2017).

[20] UNCTAD, Enhancing the Contribution of Export-Processing Zones to the Sustainable Development Goals (New York: United Nations Publications, 2015), Preface.参照。

[21] ストリートの調査研究としては、以下を参照。Svati P. Shah, Street Corner Secrets: Sex, Work and Migration in the City of Mumbai (Durham: Duke University Press, 2014).

[22] United Nations Office on Drugs and Crime, “Migrant Smuggling FAQs,” 2018.

[23] Raymond Lotta, “Imperialist Parasitism and Class-Social Recomposition in the U.S. From the 1970s to Today: An Exploration of Trends and Changes,” revcom.us, March 22, 2021.

[24] Aaron Benanav, “Automation and the Future of Work-2,” New Left Review 120, Nov.-Dec. 2019, p. 119.

[25] 産業革命との違いについての重要な分析としては、以下を参照。C. Scherrer, “Superfluous Workers: Why SDG 8 [Sustainable Development Goals] Will Remain Elusive,” in M. Kaltenborn, et al. (eds), Sustainable Development Goals and Human Rights, Volume 5, (Springer: 2020); D. Rodrik, “Premature Deindustrialization,” Journal of Economic Growth, Vol. 21, No. 1 (2016). また、イギリスを筆頭とする初期の資本主義的工業化諸国は、過剰労働者を吸収して経済・社会の緊張や対立を緩和するための、北米などへの大量移民(1815年以降)という歴史的に重要な「安全弁」を持っていた。

[26] 以下を参照。George Aseniero, “South Korean and Taiwanese Development: The Transnational Context,” Review (Fernand Braudel Center), Vol. 17, No. 3 (Summer 1994); Martin Hart-Landsburg, Korea: Division, Reunification, and U.S. Foreign Policy (New York: Monthly Review Press, 1998).

[27] International Labor Organization, “More than 60 percent of the world’s employed are in the informal economy,” Press Release, April 30, 2018.

[28] Sassen, Expulsions, pp. 16, 89.〔前掲サッセン『グローバル資本主義と「放逐」の論理』、33頁、114頁〕同書の結論も参照。

[29] Mike Davis, Planet of Slums (New York: Verso, 2006).〔マイク・デイヴィス『スラムの惑星――都市貧困のグローバル化』明石書店、2010年。冒頭の引用個所は、邦訳の264頁〕

[30] 都市に関するデータとして以下を参照。United Nations Department of Economic and Social Affairs, 2018 Revision of World Urbanization Prospect (New York, 2018); United Nations Statistics Division, “Sustainable Cities and Communities,” (New York: United Nations Department of Economic and Social Affairs); UN Population Division, “World Urbanization Prospects,” 2018 Revision; David Satterthwaite, “An Urbanizing World,” International Institute for Environment and Development (London), April 9, 2020.

[31] アイの物語は以下の著作で語られている。Kathryn Farr, Sex Trafficking: The Global Market in Women and Children (New York: Worth Publishers, 2005). 彼女の本名は変更されている。

[32] メアリーの物語は以下から。Adaobi Tricia Nwaubani, Kieran Guilbert, “Migrant Crisis Fuels Sex Trafficking of Nigerian Girls To Europe,” Reuters, May 31, 2016. 彼女の本名は変更されている。

[33] 以下を参照。Chris Buckley and Ellen Barry, “Rohingya Women Flee Violence Only To Be Sold Into Marriage,” New York Times, August 2, 2015. バングラデシュの「売春村」で人身売買された少女たちの体験は、以下で語られている。Redfern, “The Living Hell of Young Girls Enslaved in Bangladesh’s Brothels.” 以下も参照。Tania Rashid, “Inside the Bangladesh Brothels Where Rohingya Girls Are Suffering,” PBS NewsHour Report, April 26, 2018.

[34] Sheila Jeffreys, “Prostitution, Trafficking, and Feminism: An Update on the Debate,” Women’s Studies International Forum, 32 (2009), p. 319.

[35] Sunsara Taylor, “Questions About ‘Feminist Porn,’ the Nature of Truth, ‘Sex Work,’ and Socialism Encountered on a Liberal Arts College Campus,” revcom.us, February 21, 2014.

[36] 以下を参照。Bob Avakian, “More on Choices…And Radical Changes,” revcom.us, January 28, 2013.

[37] “Discourse Surrounding Prostitutional Propaganda Online: An Analysis,” in Sexual Exploitation: New Challenges, New Answers, 5th Global Report (Paris: Scelles Foundation, 2019), p. 5.

[38] Pamela Coke-Hamilton, “Illicit Trade Endangers the Environment, the Law, and the Sustainable Development Goals,” (Geneva: UNCTAD, July 18. 2019).

[39] Global Initiative Against Transnational Crime, The Global Illicit Economy: Trajectories of Transnational Organized Crime (Geneva: March 2021), p. 31.

[40] Global Illicit Economy, p. 36.

[41] Jean Pyle, “Sex, Maids, and Export Processing: Risks and Reasons For Gendered Global Production Networks,” International Journal of Politics, Culture, and Society, Vol. 15, No. 1 (2001).

[42] Palash Ghosh, “Prostitution Thriving in China: The Dark Underbelly of Economic Prosperity,” International Business Times, May 7, 2013.

[43] Sheila Jeffreys, The Industrial Vagina: The Political Economy of the Global Sex Trade (London: Routledge, 2008), pp. 107, 119. ジェフリーズは、第二次世界大戦後、米軍基地が押しつけられたフィリピンで、米軍のために設けられた売買春システムについて論じている(pp. 118-119)。米軍は、その主要な海・空軍基地周辺に性病検査を制度化し、売買春(と基地周辺に発達した「売春街」)を広げた。

[44] “American Crime, #8: America’s War in Vietnam and the Sexual Subjugation of Women,” revcom.us, March 4, 2021.

[45] 1967 年の米タイ協定については、以下を参照。Emily Nyen Chang, “Engagement Abroad: Enlisted Men, U.S. Military Policy and the Sex Industry,” Notre Dame Journal of Law, Ethics & Public Policy, Vol. 15, No. 2 (2001), pp. 40-41.

[46] Debra McNutt, “Privatizing Women,” Counterpunch, July 11, 2007.

[47] Jeffreys, The Industrial Vagina, pp. 130-132.

[48] Island Outpostings, “Interview: Nicole Dennis-Benn’s Debut Novel is a Love Letter to Jamaica.”

[49] Anna Tokar, et al., “‘I don’t want anyone to know’: Experiences of obtaining access to HIV testing by Eastern European, non-European Union sex workers in Amsterdam, the Netherlands,” PloS One, 15 (7), July 7, 2020.

[50] たとえば以下を参照。Sheila Jeffreys, “The Sex Industry and Business Practice: An Obstacle to Women’s Equality,” Women’s Studies International Forum, Vol. 3, No. 3 (May 2010). ジェフリーズは、米国の主要市場におけるストリップクラブの支出の40%がビジネス目的であることを示す研究を引用している。

[51] Caroline Norma, “Globalization and Prostitution,” Entry in Global Encyclopedia of Public Administration, Public Policy, and Governance (Springer International Publishing, 2018).

[52] Norma, “Globalization and Prostitution,”

[53] 以下を参照。Bob Avakian, “From Bringing Forward Another Way: Bob Avakian on The Two “Historically Outmodeds,” revcom.us, December 4, 2015.

[54] 以下を参照。Bob Avakian, New Year’s Statement 2021; and Raymond Lotta, Imperialist Parasistism and Class-Social Recomposition, Section 6. Available at revcom.us.

[55] “More Postcards of the Hanging—The Horrors Perpetrated Against Women Under This System,” From Sampler Edition: Break ALL the Chains! Bob Avakian on the Emancipation of Women and the Communist Revolution, pp. 7-9. Available at revcom.us.

[56] Maggie Jones, “What Teenagers are Learning From Online Porn,” New York Times, February 7, 2018; Peggy Orenstein, “If You Ignore Porn, You Aren’t Teaching Sex Education,” New York Times, June 24, 2021; Sandra Laville, “Most boys think online pornography is realistic, finds study,” Guardian, June 14, 2016.

[57] NBC News, “Things are Looking Up in America’s Porn Industry,” January 20, 2015; Felix Richter, “60 Percent of Porn Websites are Hosted in the U.S.,” Statista, August 21, 2013.

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。