売買春の非犯罪化はサバイバー団体がとるべき立場ではない――100人以上の性売買サバイバーが「全米サバイバーネットワーク」の誤った立場に反対する公開書簡に署名

(ワシントンD.C.) 2023年1月に発表された全米サバイバーネットワーク(NSN)の報告書『ケア、自己決定、安全――人身売買を防止するためのコミュニティ中心の公衆衛生的アプローチ』に示された誤った意見に反対する公開書簡に、米国内の100人以上の性的人身売買・性売買サバイバーらが署名しました。

 この報告書は、売買春を「ワーク(仕事、労働)」と分類することで売買春のシステムをノーマルなものとし、売買春を合法化するよう求め、さらに買春者やピンプを含めすべての性的搾取者を非犯罪化するという同ネットワークの以前からの危険な目標課題を推進するものです。

 本書簡の署名者たちは、買春者やその他の搾取者の手によってレイプや暴行、数え切れないほどの貶めの行為に耐え、性産業で売買されることの破壊的な影響を身をもって知っています。同ネットワークの報告書は、数十億ドル規模のグローバルな商業性産業を称賛していますが、全米の売買春および性的人身売買のサバイバーたちは、この残忍な搾取システムを防止し、終止符を打つよう国家に求めています。最も効果的な解決策の1つは、買春者や利得者たちに対して、彼らが与える痛ましい被害の責任を負わせることです。公衆衛生的アプローチは、被害者やサバイバーだけを非犯罪化し保護することに専念するべきであって、彼女らの人生を破壊した連中を非犯罪化するものであってはなりません。

 性売買の被害をあいまい化し、その非犯罪化を求める同ネットワークの取り組みは、法の支配と人権原則の枠組みの中で、性的人身売買と性売買の被害者とサバイバーに奉仕する価値観ではありません。

 より詳細な情報については、下記までご連絡ください。World Without Exploitation -の平等モデル・キャンペーンマネージャー、アリサ・バーナード。Alisa@worldwe.org

 以下、「性売買を非犯罪化する全米サバイバーネットワーク(NSN)の立場に反対する性売買サバイバーからの手紙」の全文と、署名者リストの一部(翻訳では割愛)を掲載します。

性売買の非犯罪化を求める全米サバイバーネットワークの立場に反対する性売買サバイバーからの手紙

 2023年1月、全米サバイバーネットワーク(NSN)は報告書『ケア、自己決定、安全――人身売買を防止するためのコミュニティ中心の公衆衛生的アプローチ』(以下、NSNレポート)を発表し、人身売買や性的搾取にどう対処しどう定義するべきかに関する意見をまとめました。

 私たち、以下に署名する性売買サバイバーは、またしても全米サバイバーネットワーク(NSN)によって軽侮され、間違って代表されていることに気づきました。私たちは、NSNが私たちの代弁者ではないことを改めて表明します。

 私たちがNSNに異議を唱え、その宣言を拒否するのは、今回が初めてではありません。2022年5月、NSNは、以下のことを主要目的とする声明を公表しました。(1)性売買を抑制し性売買を防止する需要削減戦略と呼ばれるものを非難し、(2)性売買と闘い性的搾取のサバイバーのために尽力するサバイバー主導の組織を含む諸組織、提唱者、活動家を否定し、(3)ピンプ行為〔人に売春させてそれで金を儲ける行為〕、売春店の経営、買春を含む、性売買全体の合法化と非犯罪化を求めることです。

 今回のNSNレポートは、(1)売買春や性的搾取をノーマルなものとし、(2)売買春を「ワーク」として推進しその合法化を求める用語を使うことで、性売買の中にいる人々が被る破滅的な被害を隠蔽し、(3)疎外された人々を性売買に追いやる根本原因を無視しています。そうすることで、NSNは結局のところ、それが奉仕すると称する人々〔サバイバー〕を裏切り、事実上、買春と性売買そのものを支援することになっているのです。

 売買春および人身売買のサバイバーは、圧倒的多数が有色の女性たちである人々の売買を防止し、それに終止符を打つことを望んでおり、そのための最善の方法は、性売買におけるすべての搾取者と利得者の責任を追及することであることを身をもって知っています。NSNレポートは、買春と売買春のシステムを称賛していますが、これは私たちが全身全霊を込めて拒否する立場です。

 私たちは性売買されていた時期に、集団で売り買いされ、レンタルされ、何千ものレイプや暴行を生きのび、買春者や搾取者の手によって数え切れないほどの貶めの行為をこうむってきました。しかしそれらの行為はすべて罪を問われませんでした。私たちは売春をやめるための手段も権利も否定されてきたのです。

 さらに、NSNレポートは、ヨーロッパによる植民地化の歴史と、アメリカ大陸におけるアフリカ人の人身売買に言及していまぜん。NSNは、性売買を支える文化的・制度的要素が、人種差別、ミソジニー、国家公認の暴力や差別に根ざしていることを理解していません。快楽と莫大な利潤のために組織化された性暴力と性的搾取のこの遺産を証明するのは、今日の性売買においても先住民、黒人、褐色の女性や少女が不釣り合いに大きな割合を占めているという事実です。こうした力の不均衡とそれを支えている人種的要素は、今日の売買春のシステムでも変わりなく続いているのです。

 私たちは、売買春が「被害者のいない犯罪」などではないことを身をもって知っています。なぜなら、私たち一人ひとりが、長期にわたる身体的・心理的被害を経験し、現在もなお経験し続けているからです。私たちの多くは性売買の被害者に直接の支援を提供する仕事をしていますが、支援対象である人々が被っているこうした人権侵害の継続を日々目の当たりにしています。

 私たちは、NSNレポートが「セックスワーク」「セックスワーカー」という言葉を使い、売買春を労働の一形態とみなし、性売買を非犯罪化するよう求めていることを断固として拒否します。NSNが売買春を「性的労働」と特徴づけたことは、買春者と商業的性産業へのまたとない贈り物です。

 私たちは、売買春や商業的性行為が「セックス」でも「ワーク」でもなく、ジェンダーに基づく暴力、差別、種々の社会経済的不平等(性別、ジェンダー、人種、民族、貧困、子ども時代の境遇などに関連したそれ)に根ざした搾取システムの原因であり、その結果であることを知っています。

 NSNレポートは、人間(主として有色の女性)の商品化、および性行為の購入を容認する有害な文化的態度を永続させる土台を打ち固めるものです。売買春は、米国における他の労働形態と比較可能なものではないし、ましてや正当化されることなどありえません。

 NSNレポートは「性売買」を「エスコートサービス、路上でのセックスワーク、ポルノ、エキゾチックダンス、性的マッサージ、ネット配信、テレフォンセックスなどのさまざまな形態の性労働」と定義しています。また「性売買には第三者によるサポート、たとえば、市場で性売買を宣伝、輸送、マネージャー、バーテンダー、ピアサポートなども含まれる」と述べています。

 業者にやさしい(pimp-friendly)NSNの定義に反して、性売買は、オンラインでもオフラインでもあらゆる形態の売買春を推進する数十億ドル規模のグローバルな商業性搾取であり、買春者の払うお金から莫大な利益を得ているのです。買春者の懐から流れ出るこのお金こそが、性的人身売買に絶えず燃料を注ぎ、そのインセンティブを作り出すものに他なりません。

 私たちは、NSNが推進する性売買を非犯罪化ないし合法化しようとするいかなる試みにも、強く緊急に反対することを表明します。その性売買には、ピンプ行為、売春店の経営、「買春ツァー」、買春行為などが含まれ、それらはいずれも性的人身売買を促進するものです。

 誤解のないようはっきりさせておきますが、私たちは、人身売買されたかどうかにかかわりなく、売買春において売り買いされている人々がその売春行為によって逮捕されたり処罰されたりすることはけっしてあってはならないし、むしろ包括的でトラウマに配慮したサービスを提供し、彼女らが望むのであれば性売買から抜け出す現実的な選択肢が提供されるべきであると信じています。

 NSNは、私たちが性的人身売買と売買春とをいっしょくたにしているという誤った想定をしていますが、NSNはこの両者の間の複雑なつながりを理解していないのです。また、両報告書〔今回の報告書と2月の報告書〕におけるNSNの言明の多くは、米国の連邦法およびその政策、ならびに性的搾取を目的とした人身売買を規制する国際法に反しています。

 性売買の中にいるすべての人が人身売買されたとはかぎりませんが、性売買は性的人身売買が起こる場であり、あらゆる場合において、買春者は人身売買の被害者である人と「望んで参加している人」とを区別していません。彼らが与える暴力と非人間化は、どちらの場合でも同じです。

 NSNレポートは「搾取を防ぐために真の主体性を育む」ことを目的としていると主張していますが、実際には、二者間の不平等な権力を前提とした性行為の交換に「主体性」が存在することはめったにありません。売買春では、買春者の払うお金こそが同意を決定するのです。その同意は彼のものであって、私たちのものではありません。

 この書簡で述べた種々の理由により、私たちは、NSNレポートが性売買、性的人身売買、性的搾取の複雑な仕組みと、それが個人と社会に及ぼす破滅的な影響について、一般の人々の理解に有害な影響を及ぼすと考えます。私たちは、性売買が誰によっても、またどのネットワークによっても、容認されたり、賞賛されたり、合法化ないし非犯罪化されるのを黙って見過ごすことはしません。あまりにも多くの命が危険にさらされているのです。

(署名者略)

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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