ベルギー法は「世界初の快挙」か、それとも男の性的権利の何度目かの神聖化か?

【解説】以下は、ベルギーのアボリショニスト団体イサラが世界に向けて発表した声明です。ベルギーの新しい売買春法(売買春をセックスワークとみなして完全合法化し、それを労働法上の保護を与えるというもので、完全にセックスワーク論にもとづいたもの)についてはすでにこのAPP国際情報サイトでも何度か批判記事を掲載していますが(ベルギーの新しい売買春法をめぐる事実とフィクションミーガン・マーフィー「セックスワーク論がもたらすディストピア――ベルギーの新しい労働法が意味するもの」ベルギーがドイツに続いて性産業を非犯罪化したことへのCATWの抗議声明)、今回は、ベルギーのアボリショニスト団体自身による声明です。

 「世界初の快挙」! ベルギーの新しい法律について、各国のメディアは熱狂的にこう報じた。2024年12月1日より、「セックスワーカー」は雇用契約を結べるようになった。このような「活動」に普遍的に見られる虐待を制限したいというその意図はなるほど歓迎すべきものだが、女性の性的奴隷制に基づく「活動」を正統化するという点においては、その無邪気な観念論に賛同することは難しい。

 これによってピンプ〔ポン引き〕は公認の起業家となり、「セックスワーク」は、美容師や配管工と同じように、正統な仕事となる。ベルギーのイサラ協会〔ベルギーのアボリショニスト団体〕は、草の根の経験から、同法の建前は女性の権利にとっての真の後退を覆い隠すものであると指摘する。同法は、この「活動」に内在している暴力に終止符を打つのではなく、「客(クライアント)」とピンプによる性的搾取を合法化し正統化するものである。

 イサラを含む9つの草の根団体がこの法律を廃止するようベルギー憲法裁判所に訴えを起こし、この立法に関する真の議論を始めるための必要な一歩を踏み出した。

 この「仕事」の条件はあまりにも受け入れがたいものであるため、契約書には例外事項が数多く盛り込まれている。この契約に署名した人物は、理論上は「客」を拒否したり、いつでも性的な行為を中止したりできる。だが、「客」が王様であり、ピンプが詐欺や汚職に関与していることも多い売春店の論理をまったく知らないのでないかぎり、不安定な状況に追い込まれている弱い立場にある女性たちが、労働法の尊重を要求する権限を持っているなどと一瞬たりとも信じることはできないだろう! 「客」を怒らせることは「ボス」を怒らせることである。彼女らにとって、それは危険なことであり、時に命取りになる。実際、ベルギーの法律では、「ワーカー」が助けを求めることのできる「緊急ボタン」の設置を明示的に規定している。

 この法律は、当事者を支援する寛大な提案であるかのように装っているが、実際には、ピンプや人身売買業者を優遇するものとなっている。なぜなら、需要があるかぎり、彼らは無尽蔵に存在する外国人女性、移民、あるいは、近親姦・レイプ・あらゆる種類の暴力によって弱者となった女性たちの中から「志願者」を見つけ出そうとするからだ。売買春のサバイバーであり活動家でもあるパスカル・Rは、「身分証明書の没収、薬物の使用、暴行、脅迫」といった「彼らの強制手段」をよく知っており、今後もこうした手段が使われ、人々に契約書への署名を強制し続けるだろうと述べている。

 売春を他の職業と同様に職業として認めようとしてきたドイツでは、その失敗は著しい。搾取者にとって都合の良い法環境下では、ごくわずかな「セックスワーカー」しかその名称を名乗ろうとしない。大多数は地下に潜ったままであり、人身売買業者が売春婦を密輸し、この国を「ヨーロッパの売春店」にしている。「いつか私たちは恥じ入ることになるだろう」という見出しが、2023年の『シュピーゲル』誌を飾った。

 さらに、ベルギーの法律には一つの「細部」が欠落している。買春「客」がそれだ。彼らこそ、永遠の「男の性的権利」を享受し、家父長制の根幹をなしているものだ。大いに喧伝されたあの「緊急ボタン」こそ、買春客が引き起こす暴力が周知の事実であることの証拠だ。#MeToo運動、セクハラ非難、性差別的および性的暴力の急増に対する男性の責任を求める声が叫ばれている時代に、この「欠落」が示す異常性をどうして見逃すことができようか?

 マザン事件〔妻を薬物で眠らせて、インターネット募集した70人に上の男たちにレイプさせていたフランスのマザン村で起きた事件〕では、女性を性的に隷属させるために手段を選ばない男たちの無責任さが厳しく批判されたが、売買春の中の女性たちに金銭と引き換えに強制的に承諾を取り付けるよう男性たちを煽ることに問題はないようだ…。セクシュアルハラスメントに応じることが職業サービスとなった場合、働く女性たちが払うことになる代償がどれほどのものになるか想像できるだろう。社会全体で正当な行為として認識されている行為を、なぜあえて非難することができるだろうか?

 CAPインターナショナルが言うように、「この新しいベルギー法は、家父長制的で人種差別的、階級的抑圧を永続させるシステムを合法化するだけだ。この法律は、最も周辺化された女性たちの商品化を強固にし、ピンプと『客』の力を強化する」。イサラは、「彼らが必要としているのは雇用契約ではなく、売買春から抜け出すための長期的な支援だ」と主張する。

 今日、国際的な諸文書は、暴力や人身取引に基づくシステムを助長する者を抑止し、さらには処罰する必要があるという緊急の課題に取り組むことを一致して要求するようになっている。これこそ、2016年にフランスが選択した道であり、同国では被害者保護的で進歩的なアボリショニスト法が適用されている。この法律は、売買春から抜け出したいと願う人々(被買春当事者の大半)を支援することに焦点を当てている。具体的には、国家が資金援助する退路を用意することで、滞在許可証の取得、宿泊施設、社会・経済的支援、研修へのアクセスなどを提供している。同時に、もはや社会が望まない性差別的・性的暴力のシステムを支える男たちを処罰の対象とする。このアプローチの真の先駆者であるスウェーデンは、1999年から同様の法律を実施しており、性的行為への需要の減少につながっただけでなく、社会の意識や考え方も変えた。ベルギーも、この法律から学ぶべきだろう。

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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