ベルギーの新しい売買春法をめぐる事実とフィクション

【解説】以下の記事は、私たちがいつもお世話になっている Nordic Model Now! のサイトに掲載された最新記事を、同サイトの許可を受けたうえで翻訳したものです。性産業を非犯罪化したベルギーについてはすでに、このサイトでもいくつか記事をアップしていますので(ミーガン・マーフィーの記事CATWの抗議声明)、それを参考にしてください。

2024年12月11日

Nordic Model Now!

 「ベルギーのセックスワーカーが世界初の法律により産休と年金を取得」といった最近の見出しに目を向けると、ベルギーが女性にとって前例のないポジティブな進歩を遂げていると考えるのは無理もない。しかし、実際にはちょっと違う。

 同様の法律はドイツやニュージーランドで長年施行されているが、根本的に搾取的で危険な行為を雇用法の枠組みに無理やり当てはめても、ウェイトレスや医療従事者の部門のように健全で敬意に値するものに変えることはできなかった。そうなるだろうと考えるのは、世間知らずの子どもにとっては魅力的だろうが、大人にとっては無責任極まりない、ある種の魔法のような考え方の表われである。

 しかし、しかし、あなたはこう思うかもしれない。BBCが、女性を安全にし、「顧客」を拒否できるようにし、福利厚生や年金を与えると言っていた。まさかあのBBCが、そんな間違いをするはずがなかろう! しかし、実際には、既得権益層が流す情報に大手メディアが踊らされるという歴史は新しいものではない。 たばこ王やアスベスト王たちが、どれほど長い間、多くの人々の目を欺いてきたかを考えてほしい。 それに、この問題に関して、BBCが公平な報道をしてきたという実績があるわけでもない。

 ポルノ産業で富を築くのは、その材料となる女性たちではなく、第三者の人々である。つまり、ピンプ、売春斡旋業者、人身売買業者、売春店の経営者、そして、暴力的でミソジニー的、人種差別的なポルノや、男性が性的に利用したり虐待したりするためにレンタルできる膨大な数の女性のカタログを流布する大手ウェブサイトである。

 たばこ王やアスベスト王と同様に、ピンプや業者は、さまざまな機関、政府、さらには国連機関さえも手中に収めている。また、彼らは、女性団体に資金援助を行なう大規模財団のほとんどすべてを手中に収めることに成功している。オープンソサエティ財団やその子会社、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団、ママキャッシュ、フォード財団、そして国連資金団体などの資金提供団体は、資金提供を受ける条件として「セックスワークの非犯罪化」への支持を求めることが多い。

 その結果、これを支持しない女性団体は資金不足に陥り、特にグローバル・サウスに位置する団体はウェブサイトを運営するリソースをほとんど持たないため、国際的にほとんど知られていない。そのため、性産業のロビイストたちは「セックスワーカーが主導するすべての団体」が「セックスワークの非犯罪化」を支持していると、真顔で主張できるのだ。しかし、もちろん彼らは、これによって、ピンプ(現在では「マネージャー」と再定義されている)や売春店の経営者、広告、買春者などを含む業界全体を非犯罪化することを意味しているとは説明しない。彼らは、もちろん性的人身売買は違法であると声高に言うかもしれないが、ほとんどの人身売買業者が罪に問われずにすむように再定義したことについては言及しない。

 こうしたさまざまな利点――マスメディアの買収、主要機関の掌握、推進団体たちへの手厚い資金援助など――にもかかわらず、ここ数年、ピンプや業者たちは深刻な後退に直面している。

 昨2023年9月には、EU議会が、売買春を暴力の一形態であり、男女間の根強い不平等が生み出した原因であり結果でもあると定義する決議を採択し、加盟国に北欧モデル型のアプローチを採用するよう促した。

 今年2024年、国連の女性に対する暴力に関する特別報告者であるリーム・アルサレムは、売買春も女性と少女に対する暴力の一形態であると定義し、北欧モデルを提唱する画期的な報告書を国連に提出した。彼女はこれに続いて、売買春から抜け出そうとする女性たちの苦闘と、彼女たちが切実に必要としている支援に関する優れた政策意見書(ポジション・ペーパー)を発表した。今年さらに、欧州人権裁判所は、フランス北欧モデル法が欧州人権条約に違反していないとの判決を下した。

 これらの事態は、言説を支配することに慣れていたピンプやその応援団にとって明らかに大きな打撃となった。しかし、彼らの当面する問題はもっと過去にまでさかのぼる。15年ほど前には、彼らはドイツをすべての国が手本とすべきモデルとして持ち上げていた。しかし、「クリーンで効率的」な大規模売春店を多数擁するドイツでは、毎日およそ100万人もの男たちが金を払って性行為をしていたのだが、実際にはそれほどクリーンなわけではないことが明らかになった。それらの巨大売春店には、ほとんどが東ヨーロッパやサハラ以南のアフリカの最貧地域から人身売買された移民女性たちが大量におり、想像を絶するような恐怖を味わっていることが判明した。また、そこでは組織犯罪シンジケートやバイクギャングがほぼ支配的な地下組織が横行している。個々の女性と社会の両方にとって、これらの問題は無視するにはあまりにも深刻なものだったので、ピンプたちは方針を転換した。

 ドイツにあるのは〔非犯罪化ではなく〕合法化だ、と彼らは言う。これは、性産業のチアリーダーであるフランキー・ミレンが説明したように、「セックスワークは政府によって管理され、特定の州が定めた条件の下でのみ合法である」ことを意味する。「セックスワーカー」にとって本当に最善なのは、2003年にニュージーランドで実施されたように、ミレンが言うところの「売春に特化したあらゆる法律の撤廃」を含む非犯罪化であると主張した。 ニュージーランドの人口の少なさと地理的な孤立により、ただでさえ資金不足に悩んでいる売買春廃止派の団体が、非犯罪化モデルの成功を誇張する主張に十分異議を唱えることが難しかった。このことはピンプ・ロビーにとって実に好都合だった。

 しかし、私たちはその主張に異議を唱えた。そして、ますます多くのニュージーランドの女性たちが、現地の制度を経験し、その現実について勇気を持って声を上げ始めている(末尾のリンク参照)。こうして、徐々にではあるが、ニュージーランドの制度も完璧とはほど遠いという事実が知られるようになった。

 ドイツのアボリショニストたちは、さまざまな体制下で売買春の当事者となった女性たちをめぐる、ピンプと買春者の殺人事件の件数をまとめた。 私たちはそのデータの一部をグラフ化してみたが、それを見ると、売買春を非犯罪化したニュージーランドや合法化したドイツ、オランダでは、北欧モデルを採用しているスウェーデン、ノルウェー、フランスよりも、殺人事件の件数がはるかに多いことが明らかだ。

 この事実に基づいて、北欧モデルの方が女性にとって安全であると主張したくなるかもしれない。しかし、売買春は世界で最も危険な職業であり、それを安全にするものは何もない。しかし、北欧モデルがうまく機能している場合、業界の規模と当事者女性、そして性行為を購入する男性の数を減らすことができる。これはありがたいことに、殺人事件の減少にもつながる。

 つまり、一言で言うと、ピンプと業者たちは深刻な広報問題を抱えていたのだ。彼らの解決策は? そう、ベルギーだ! ベルギーは2022年に売買春を非犯罪化し、大いに絶賛された。ヨーロッパで初めて売買春を非犯罪化した国だ! 啓蒙的なヨーロッパ革命の始まりだ!云々。

 しかし、それから1年余りが経った今、ベルギーは「セックスワーク」に関する追加の法律を可決した。この法律が施行された直後、BBCやその他のメディアが勝利を祝う記事を出した。しかし、ちょっと待ってほしい。売買春に特化した法律が存在しないことが、完全な非犯罪化の重要な特徴ではなかったのか? ということは、ベルギーではもはや「非犯罪化」ではなく単なる「合法化」が行なわれたということになるのではないのか? その通りだ。しかし、ピンプや業者とその支援者たちには厄介な事実がある。彼らが「非犯罪化」だと言うのであれば、それは非犯罪化なのだ、よろしいか?

 ベルギーの「セックスワーカー」支援団体であるEspace Pは、新しい法律の全文を英語で公表している。この法律は、通常の従業員向けの社会保障給付へのアクセスを認める合法的な雇用契約を規定しており、さらにいくつかの特別な保護も規定している。これは、ベルギー政府が、売買春を、いくつかの追加的な保護措置を必要とするとはいえ、通常の仕事として認識していることを意味する。

 保護措置の要となる規定は、「雇用主」が「セックスワーカー」に対して、特定の「顧客」との「関係を持つこと」や特定の行為を強制することはできないというものであり、そのような拒否は「雇用契約違反」とはみなされず、「セックスワーカー」にとって雇用に関連するいかなる不利益ももたらしてはならない、とある。しかし、もし彼女がこの拒否権を6か月間に10回以上行使した場合は、法律により調停サービスが提供され、解決が図られる。

 これが実際にどのように機能するかはまだわからない。売買春のサバイバーであり、Nordic Model Nowの政策専門家であるエスターは懐疑的だ。買い手からの需要による市場原理や強制を無視しており、それが売春店のオーナーが考える通常のサービスにどのように影響するのか不明だ。特定の行為(アナルセックスやフィスティングなど)を拒否する女性は、それが通常のサービスとして見なされるようになると、買い手がつかなくなる可能性が高い。売春店のオーナーはそれに対してどう対応するのか。オンラインポルノで普及した危険な性行為を女性が拒否した場合、売春店の経営は成り立つだろうか?

 これは、OnlyFansの女性たちが、競争相手やお金を稼ぐ必要に迫られて、より過激なことを強要される状況と似ている。人身売買業者は、自分たちが管理する女性たちを雇用契約なしに強制的に働かせることで、他の売春店を出し抜こうとする。これは、2階層システム(「合法化」のもとで起こると、ピンプやその応援団たちが訴える主なことの1つ)につながるか、あるいは、売春店の経営者が、自分たちの雇う女性たちが、ニュージーランドで起きているように、その行為を絶対に拒否しないように説得力を駆使する、という結果になるだろう。チェルシー・ゲデスが証言したようにだ。

 エスターは次のように要約している――「買い手と2人きりになった女性が、これで性行為を拒否できるようになるだろうか? このような法律を起草する人々は、強制や性産業が実際にどのように機能しているのかをそもそも理解していない」。

 また、ベルギーの社会保障制度では、自らの意思で仕事を辞めたり、提示された仕事を断ったりした場合は失業手当を受け取ることができないという点も懸念される。売買春が正式に普通の仕事として認められた今、このことは何を意味するのだろうか? 失業中の女性たちは売春店での仕事を強制されるのだろうか? そして、売春店から逃げ出した女性たちは失業手当を拒否され、意に反して売春を強制されることになるのだろうか? 特定の性行為を拒否する「権利」は、かかる状況下でどのような意味を持つだろうか? 私は、どんな顧客との「関係を持つ」ことも拒否でき、なおかつ報酬を受け取れるという意味ではないと思う。

 この記事では、売春を合法化するシステムに内在する矛盾のほんの一部を取り上げたに過ぎない。エスターは、売買春が現代の健康と安全に関する基準、雇用規制、平等法にけっして適合しえないことを、他の多くの人々や事例について幅広く論じてきた。適合できるかのように装うことは、他の労働者にとって悪影響を及ぼし、特に女性にとっては基準の緩和につながる可能性が高い。もし「セックスワーカー」が雇用契約の一部としてフェラチオを行なっている場合、他の企業の経営者が、重要な顧客やマネージャーに対するフェラチオをあなたの職務内容の一部として追加することを阻止できるものが何かあるだろうか?

 全体として、この新しい展開は、声高に宣言されたはずの解放とはかけ離れている。実際には、この法律は、男性が女性に性的に近づく権利を法的に保証し、女性を男性に従属する立場に位置づけるものである。これは、現代の平等主義的な民主主義社会の理想とは相容れない。だからこそ、私たちは北欧モデルを求めるのである。

出典:https://nordicmodelnow.org/2024/12/11/belgiums-new-prostitution-legislation-separating-fact-from-fiction/

【ニュージーランドのサバイバーの証言】

(APP国際情報サイトに掲載されたもの)

Nordic Model Now!に掲載されたもの)

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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