ベルギーがドイツに続いて性産業を非犯罪化したことへのCATWの抗議声明

【解説】ベルギーは先月(2022年3月)刑法を改悪し、ピンプ行為(女性に売春させてその稼ぎを巻き上げる行為)と売春店の所有・経営を合法化しました。すでにそれ以前からベルギーでは基本的に売買春は合法化されていましたが、今回、一部の都市ですでに実施されていたより全面的な合法化政策(そのせいで多くの人身売買事件が起きている)を全国的に実施するものです。これは、すでにそれをやって失敗したドイツ売買春政策をまねたものであり、ウクライナ戦争による大量の避難民の発生と、その中の若い女性と少女を狙ってドイツの性産業が活発に活動している中、ベルギーはドイツの後を追って、国際的人身売買のための拠点国にしようとしているのです。このことに対する女性人身売買反対連合(CATW)が抗議声明を3月31日に出したので、その全訳を以下に紹介します。

CATWインターナショナル

 ニューヨーク、パリ、2022年3月31

 2022年3月18日、ベルギー議会は、連邦法務大臣フィンセント・ファン・クイッケンボーンが出した提案に基づき、売買春関連を含む多くの「性的問題」において刑法の改正を承認した。ベルギーでは1995年にすでに売買春制度が合法化されていたが、今回の刑法第380条から382条の改正では、「異常に」高い利益を得た場合を除き、ピンプ行為〔女性に売春させてその稼ぎの一部を第三者が取得する行為〕や売春店の所有・経営を非犯罪化する。

 また、売春店オーナーや買春者が、16歳から18歳の未成年者の子供を使用したり買春したりしても、その子供の年齢を知らなかったと主張できれば、その年齢の子供であってもその売買春を認めるなどの改悪も行なわれた。国際法では、性産業に従事する18歳未満の者は、性犯罪に遭った子供であるとされている。ベルギーの改悪では、こうした子どもたちは、ピンプや「客」が自分が未成年であることを知っていたことを証明しなければならないが、これはほとんど不可能な基準である。

 また、多くのヨーロッパ諸国がオンラインでの性的搾取の抑制に苦慮しているときに、ベルギーの刑法改悪は、インターネット上での売春の広告を認めたが、その広告の中には性的人身売買を助長する「サイト」にリンクを貼っているものもある。

 改悪後も買春は依然として非犯罪化されたままだが、買春者は、ベルギーの売春市場が拡大し飽和状態になることで、オンラインでもオフラインでもより低価格で買春することができるという利益を得ることになるだろう。性産業は、被買春者を、性別、体格、人種、民族、妊娠の有無、ジェンダー・ステレオタイプで分類することで、客の嗜好に合わせた差別的なカテゴリー分けをしているが、それは、買春客を獲得する上で重要なマーケティング的価値を持っている。

 今回の改悪が「歴史的な一歩」であるとする一部の主張とは反対に、ベルギーはヨーロッパで初めてピンプ行為を非犯罪化し性産業を合法化した国ではない。ベルギーの改悪刑法は、ドイツにおいて2002年から2017年にかけて存在した売買春法を模倣している。性売買の合法化も非犯罪化もその法的枠組みはあまりにもよく似ており、両者を区別することに意味はない。

 ベルギーとドイツの売買春法はそれぞれ、性売買を合法的な産業として位置づけ、そこで買春されている人々を「労働者」ないし「個人事業主」と定義し、第三者である搾取者を「雇用者」ないし善意のビジネスオーナーと分類している。ベルギーもドイツも、売春を雇用の選択肢として法的に位置づければ、州や国のさまざまな給付金を利用できるようになると約束し、「倫理的」な売春店経営者のみが許可されるると称している。しかし、このような非犯罪化の結果、ドイツはメディアによって「ヨーロッパの売春宿」と呼ばれるようになり、組織犯罪が蔓延し、弱い立場にある人々の系統的な非人間化と性的搾取がいっそう進行するようになったし、そのように国際的に認知されている。新たな改悪によって、ベルギーも間もなくドイツが歩んできた道を踏襲することになるだろう。

 ドイツと同様、ベルギーでも売春に従事する人は法的に認められた雇用契約を結ぶことができ、「セックスワーカー」として正式に登録することができるようになる。ドイツでは、20万人から40万人もの人々が売買春の中にいると推定されているが(ほとんどが女性)、売春店やエスコート型売春会社と完全な「労働契約」を結んでいるのは、その1%程度でしかない。2018年に行なわれた政府の調査では、種々の社会保障を利用するために「売春婦」として登録したことが確認できたのは、わずか76人にとどまっている。このように登録に消極的である理由としては、売春に固有のスティグマの存在や、ドイツの売春店にいる女性の大半が東欧や南半球から連れてこられた非正規の外国人女性であることなどが挙げられている。休日、傷病手当、産休、年金、その他の付加給付を利用できるようになるとの主張はすべて、単なる想定にとどまっている。

 このパターンは、間違いなくベルギーでも見られることになるだろう。2008年時点ですでに、ベルギーの性産業に従事する女性の60%が外国人かつ非正規滞在者であると推定されているが、近年、近隣諸国でもこの数が増加しているため、現在の割合はさらに高くなっているだろうし、今回の改悪でいっそう拍車がかかる可能性は高い。

 ドイツは自国の売買春法が惨憺たる失敗であったことを公に認めた。そして、ドイツ国民の80%は、この法律が所期の目的を達成していないと考え、86%が売春を野放図な搾取と関連づけている。そこでドイツは2017年にこの法律を一部改正し、売春店の開設や運営などに関する規制を強化した。売春店オーナーは「家主」として登録されるものの、実際には女性に特殊で残酷な行為を押しつけていることがわかったからだ。ベルギーは合法売春店で起こりうる性的人身売買を取り締まると約束しているが、ドイツで明らかになったのは、こうした捜査には費用がかかり、何年もかかる努力が必要であって、さらに被害者が証言に消極的であることなどのさまざまな理由から、実際に訴追されることがほとんどないことが明らかになっている。

 「環境災害、経済格差、戦争(現在のウクライナ戦争を含め)によって世界中の何百万人もの人々が弱い立場に置かれている現在、ベルギーが性犯罪者や売春店オーナーにこのような贈り物をすることは衝撃的です」と、女性人身売買反対連合(CATW)の事務局長、テイナ・ビエン・アイメは語る。「この刑法改悪により、ベルギーは性売買をさらに拡大し、買春者にさらに力を与え、利益のために貧しい有色人種の女性を性的に搾取する植民地勢力としての地位を確保することになるでしょう。しかしそれもまた残念ながら『史上初』ではありません」。

 しだいに多くの国が売買春を性別に基づく暴力と差別の搾取システムであると認識しつつあり、その結果、買春されている人々を非犯罪化し、その人々にサービスを提供すると一方で、買春者やその他の加害者には被害に対する責任を負わせる法律を制定している。「北欧モデル」「アボリショニスト・モデル」、あるいは「平等モデル」と呼ばれるこのような法律を制定した地域には、スウェーデン、アイスランド、ノルウェー、北アイルランド、カナダフランスアイルランドイスラエルが含まれる。

 しかし、ベルギーにおける今回の刑法改悪の本当の歴史的意義は、ベルギーが国際法の下での義務や人権原則を支持するという公約からさらに遠ざかったことである。ピンプ行為を非犯罪化し、買春行為(これこそが性的搾取を助長するものだ)をターゲットにしないことは、1949年人身売買禁止条約2000年のパレルモ議定書女性差別撤廃条約(CEDAW)子どもの権利条約にまとめて違反するものだ。

 ベルギーはまた、CEDAW委員会の2020年の「国際移住の文脈における女性及び女児の人身取引に関する一般勧告38号」、また、2014年の「性的搾取と売買春、および男女平等へのその影響に関する欧州議会決議」を始めとする欧州議会決議(加盟国に対し、性売買、ジェンダーに基づく暴力および差別を防止し、これらの人権侵害の被害者およびサバイバーを保護する法律および政策の制定を呼びかけている)をも反故にしている。欧州議会は、すべての加盟国に対し「北欧モデル」を制定するよう勧告している。

 「もし売春が『選択』であるならば、それは他のいかなる選択も与えられていない女性たちによって系統的になされた『選択』です。身体的な強要によってであれ、社会経済的な強要によってであれ、売買春で得られる性行為は常に強制されたものであって、性の自由とは正反対のものです。肉体的な欲求にもとづくのではなく立場の弱さを利用されることでなされる性的行為の繰り返しこそ、性的暴力を構成する当のものなのです」とCAPインターナショナル事務局長のジョナサン・マクラーは語る――「したがって、この法律に見られる認識は、ベルギーにおける売買春と人身売買の現実から完全に切り離されています。この法律は、現在戦争から避難してきているウクライナ人女性を含む、すべての不安定な移民・難民の女性に対する裏切りであり、彼女たちは、ベルギー政府から見捨てられた結果、ピンプと性産業のネットワークの支配に対していっそう脆弱になるでしょう」。

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投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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