ニューヨーク州議会に北欧モデル型立法案が上程へ!

 『ニューヨーク・ポスト』の記事によると、今週(日本時間で1月26日からの週)、ニューヨーク州のリズ・クルーガー上院議員が州議会に北欧モデル型の立法案(Sex Trade Survivors Justice & Equality Act)を上程する。これは画期的な動きだ。

 アメリカでは、ネバダ州を除いて、ほとんどどの州でも売買春は売ることも買うことも処罰の対象であるという、いわゆる禁止主義の法体系が存在している。ニューヨークでも同じだ。しかしこれは、自分の性を売ることを余儀なくされている貧困層の女性たちを逮捕と処罰に直面させ、その生活をいっそう過酷なものにしている。そのため、これまで多くの方面から批判がなされ、さまざまな改革が提案されてきた。

 その中で代表的なものが、リベラル派の民主党が執拗に制定を求めている売買春の完全非犯罪化路線だ。これは、自分の性を売らされている女性たち(あるいは一部の男性やトランスジェンダー)だけでなく、彼女たちを買っている男たち(買春者)や、彼女たちに売春させて金を儲けているピンプや売春業者をも非犯罪化し、その活動を合法化しようとするものである。

 このような完全非犯罪化路線は、ドイツやオランダやオーストラリアなどいくつかの国ですでに実施されているが、まったく失敗した政策体系である。それは買われている人々(被買春者)の安全性をけっして高めず、需要を爆発的に増大させて、人身売買を拡大する結果になっただけだった。

 現地時間1月25日午前の記者会見において、売買春サバイバーといっしょにクルーガー上院議員が発表した法案は、そうした完全非犯罪化路線とは一線を画すものだ。それは、スウェーデンやノルウェー、アイスランド、アイルランド、フランス、イスラエルなどですでに導入されている北欧モデル型の立法である。それは、売買春の中にいる人々(買われている人々)を非犯罪化して手厚い支援の対象にするとともに、他方で、買春者と業者への処罰は維持する。

 法案の作成を支援した性的人身売買サバイバーであるクリスティアン・エドゥアルドは、『ニューヨーク・ポスト』紙に次のように語っている。

 「この法案は、サバイバーの声に耳を傾け、信じることで作られたもので、それがこの法案の素晴らしいところです。他の空間では、性売買のサバイバー、人身売買のサバイバー、売買春のサバイバーは、多くの場合、話を聞いてもらえません…。刑事司法制度を変えることが必要であり、政策的にそれを達成するには、サバイバーの話を聞くことが必要なのです」。

 1年以上かけてこの法案を準備したリズ・クルーガー上院議員は、売買春の中にいる人々の大半は、強制やあるいは経済的絶望状態からそこに入っているのであって、望んで性産業に入ったわけではない。クルーガー議員はポスト紙に次のように語っている。

 「私たちは、これらの人々に刑事罰や刑務所の代わりに、医療、精神的なケア、サービスを提供することで、そうした生活から抜け出し、よりよい選択肢を得られるようにしたいと思っています。…彼ら・彼女らを助けることができるはずなのに、何世代もの若者たちの人生が破壊されているのです」。

 ポスト紙によると、法案には、現在性産業に従事している人々への社会的サービスの拡充と、彼女たちが「売春勧誘」罪に問われないようにする保護措置とが含まれている。また同法案は、申請の必要なしに現在犯罪歴に記録されている売春罪と徘徊罪をすべて記録から消去し、さらに搾取者に命じられて人身売買サバイバーが犯した他の諸犯罪も記録から消去することを求めている。 

 現在、15歳未満の子供から――あるいはスクールゾーン内で18歳未満の誰かから――セックスを購入した買春者は、子供が未成年であることを知らなかったと主張する「無知の抗弁」を用いることが許されているが、クルーガーの法案は、買春者をターゲットにする新しい方策を導入することでこの抜け穴にも対処する。

 また同法案は、買春者への処罰として、禁錮や懲役のように刑務所で時間をすごす刑罰ではなく、最高5万ドルの、収入に応じた罰金刑を導入する。

 法案の作成を手伝った「サンクチュアリ・フォー・ファミリーズ」の弁護士であるアレクシ・マイヤーズは言う、「私たち誰もがはっきりと知っているように、買春者こそが性産業の需要をつくり出しているのであり、買春者が存在しなくなれば、ピンプも存在しないし、搾取のための市場がなければ、搾取もできないのです」。

 ポスト紙によると、クルーガーは、売買春を完全に非犯罪化したい人々の大規模な連合があるため、法案が「物議をかもす」ことを認めている。実際、同法案は、ジュリア・サラザール上院議員(民主党、ブルックリン選出)とリチャード・ゴットフリード下院議員(民主党、マンハッタン選出)が2019年に提出した、売買春の完全非犯罪化を求める法案と直接競合するものでもある。

 しかし、クルーガーは、彼らの法案は2年間も委員会で眠ったままであるし、彼女の法案と違って通過する可能性は高くないと主張する。 

 「私のアプローチの方がオプションとしてより現実的だと思う」とクルーガー上院議員は言う。「もしかしたら、彼らも私の法案に賛同してくれるかもしれない」。

P.S. その後、新型コロナ問題などさまざまな事情で、実際に州議会に上程することがなかなかできず、実際の提出が大幅に遅れたが、2021年4月1日(日本時間)にようやくニューヨーク州上院に同法案が提出された。

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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