オーストラリア・ビクトリア州政府による完全非犯罪化方針に抗議する国際書簡

【解説】すでに8月14日にこのサイトでお知らせしたように、オーストラリアのビクトリア州政府(アンドリュース労働党政権)は、性産業出身の議員を責任者にした委員会での検討を経て、同州が長年来とってきた性産業の合法規制政策(売買春を合法化したうえで、売春店に自治体への登録を義務化し、営業時間帯や営業場所、営業様態などを規制する政策)を、完全非犯罪化政策(さまざまな規制をすべて取っ払う自由化政策)に置き換えることを決定しました。

 既存の合法規制政策のもとでは、多くの売春店がその規制を守っておらず、自治体に登録している合法店の何倍もの数の違法店が存在していました。そこでビクトリア州政府は、違法店を取り締まるのではなく、そもそも登録義務などの規制を撤廃して、違法性をなくしてしまうというネオリベ的「解決策」に出たのです。

 こうしたビクトリア州政府の動きに対して、オーストラリアのアボリショニストたちは、アンドリュース政権に対して抗議の国際書簡(以下に全文を翻訳)を作成するとともに、世界中のサバイバーおよび支援団体・人権団体の署名を添えて提出するキャンペーンを開始しました。

(P.S. その後、200以上の団体の署名を付けて、国際書簡はビクトリア州の労働党首相に送られました)

オーストラリア・ビクトリア州における性産業の非犯罪化法案を非難する国際書簡

――ビクトリア州首相労働党党首ダニエル・アンドリュース議員宛 て――

 以下に署名した者は、世界中の人身売買、売買春、ポルノの被害者、および、女性の権利および人権の擁護者、そして最前線でのサービス提供者です。各団体には、女性や少女、子ども、移民、性的少数派の人々の平等と権利のために闘っているグループやネットワークを代表する、サバイバーを含む国内・国際メンバーとパートナーが何百人も参加しています。  

 私たちは、ビクトリア州政府が、合法化された売買春制度の悲惨な失敗が報告されていることへの解決策として、性産業を非犯罪化する法律を提案していることに、集団的な懸念を表明します。

 あなた方の報告書から示唆されているように、現在行なわれている性産業の完全非犯罪化に関する立法審議は、公けの情報欠如や情報操作、透明性の欠如、民主的プロセス・人権・法の支配への無関心の中で行なわれています。

1994年ビクトリア州売春規制法の失敗は非犯罪化では解決できない

 ビクトリア州の「1994年売春規制法」(2010年以降は「1994年セックスワーク法」)は、売春店を合法化したうえで規制し、売買春を管理し、売買春を「地上」に引き上げ、職場の権利と保護を実現し、女性の状況を改善することを目的としていました。しかし、この法律はすべての点で失敗したとあなた方は報告しています。

 この27年間、ビクトリア州では、合法化政策は性産業を管理するというその所期の目的を達成するのではなくますます性産業を拡大すること役立ってきました。登録された売春店1軒に対して、無許可の「マッサージ・パーラー」が5軒以上あります(メルボルンだけでも、合法売春店90軒に対して、違法売春店が500軒あります)。売春店、特に無許可の「マッサージ・パーラー」にはアジアや太平洋諸島出身の外国人女性が大勢いることから、人身売買が行なわれていることが推測されますが、ほとんど処罰は下されていません[1]。

 あなた方の公式報告書は、メルボルンで合法化がどのように、そしてなぜ失敗したかについて説明しています。あなた方は、売春の中にいる人々は、暴力、根強い差別、コミュニティ内でのスティグマを経験しており、彼女らは自分の人生について選択することができず、さらにその安全と福利が慢性的に危険にさらされていると述べています[2]。

 売買春とは、実際には、売春店のオーナーやその他の搾取者たちが買春者から利益を得るための複雑な搾取のシステムです。合法化の失敗を、それのよりひどい形態である非犯罪化で解決することは、指摘されている被害や人権侵害を幾何級数的に増大させることになるだけでしょう。

 2019年11月、あなたのビクトリア州労働党政府は、性産業の非犯罪化についての検討を行なうと発表しました[3]。ビクトリア州は現在、売買春が、州に登録された売春店を超えて繁栄すること、すなわち路上や個人のアパート、オーナーが運営する小規模な事業所で営業することを認めようとしています。

 この非犯罪化の取り組みは、ビクトリア州議会議員のフィオナ・パッテン氏が主導しています。報道によると、パッテン議員の長年のパートナーであるロビー・スワン[4]は、ポルノ産業の有名なロビイストであり、「アダルト産業」の主な業界団体であるエロス協会[5]を設立しています。つまり、非犯罪化によって大きな金銭的利益を得る性産業そのものが、今回の法案の立案者であると考えられるのです。

 しかし、数十億ドル規模のグローバルな犯罪ビジネスである性産業を、非犯罪化によってコントロールすることはできません。アンドリュース首相、性産業があなたをコントロールしているのです。

売春は仕事でもなく、セックスでもなく、不可避でない

 私たちビクトリア州のアボリショニストの仲間たちは次のように述べています。「売買春は不可避であるという前提は、男性にはセックスをする権利があるということ、および、(ほとんどの)女性は喜んで売春に参加しているので被害者なき犯罪であるという、2つの相互に関連した『(オーストラリア人の)核心的な信念』に基づいている」。

 あなたは次のような核心的な信念に挑戦しなければなりません。すなわち、主に有色人種で、平等にふさわしくないとみなされた女性たちの階級を、政府が性産業のために切り離し、脇に置く権利があるという確信です。また、さまざまな形態の強制や、選択の余地の不在という条件がなければけっして性行為をしないであろう人々との性行為を購入する権利を男性に与えてきた有害な文化的慣行にも取り組まなければなりません。

 性売買問題に本格的に取り組むためには、ビクトリア州政府はオーストラリアの植民地主義者=入植者の歴史と向き合わなければなりません。それこそが、売買春を「必要悪」とし、後に「仕事」とする倫理観を生み出したのです。 しかし売買春はけっして不可避なものではなく、以下に見るように入植者によって発明されたものなのです。

売買春を推進してきたオーストラリア歴史

 18世紀のオーストラリアでは、植民地主義者による先住民族女性の性的搾取、レイプ、拷問が蔓延していました。この流刑植民地は、まさにオーストラリアの男たちが売春店やその他の場所でこれらの女性と性的接触をする国家公認の権利を享受できるよう、特別の売春システムを組織したのです。アボリジニの女性たちが男性の売春需要を満たせなくなると、オーストラリアはその需要を満たすために、イギリスから女性受刑者たちの性的人身売買を組織しました。

 このような歴史と、性産業を非犯罪化しようとする貴政府の現在の計画とは、まっすぐ一本の線でつながっています。入植者たちは、先住民の女性を性的客体(セックス・オブジェクト)として描き出すという性差別的で人種差別的なステレオタイプを推進しました。今日、中国、タイ、韓国、フィリピン、太平洋諸島出身の女性たちは、合法・非合法の商業的セックス施設に圧倒的に多く存在しています。政府は、買春者がこれらの人々に人種差別的な性的接触をすることを正当化し、何世紀も前にあなた方が搾取した先住民族の女性に対してそうしたのと同じように、彼女らにとっても売春が望ましいものであるという物語を紡ぎ出しています。

 あなた方の合法・非合法の売春店にいる女性たちは、第三者である搾取者の支配下にあります。彼女たちが売春に至るまでの道のりには、幼少期の性的暴力、貧困、州の寄宿舎、追放、世代間の虐待、構造的不平等など、性的搾取につながるすべての脆弱性の歴史があります。 また、被買春者たちの人種、性別、民族がなんであれ、買春者はこれらの人々を売春のための商品にしています。

 社会は、「同意」の物語を織り交ぜることで、これらの虐待に対処することを避けています。同意は、たとえまれにしか起こらないとしても、搾取や性的暴力の状況では、法律や人権の原則に照らして無意味なものです。

 先住民やその他の女性に対する性的搾取や貶めの歴史を今日まで継続しているのは、オーストラリアだけではありません。外国人、とくにヨーロッパの入植者に侵略されたすべての大陸では、系統的な非人間化、ジェノサイド、人身売買の歴史が共有されています。  

 しかしながら、この恥ずべき遺産を支持するのではなく、売買春の中にいる人々を保護し、性産業の受益者たちを取り締まる進歩的な法律を制定することで、1994年の失敗した売春法を修正することは十分可能です。

失敗した1994年売春法に対する人権に基づく解決策

 1999年、スウェーデン政府は、男女平等の実現とすべての人の人権を守るために、売買春で売買される人々だけを非犯罪化し、売買春からの離脱を含むサービスを提供するとともに、買春者やその他の加害者に責任を負わせる先進的な法律を可決しました。これはスウェーデン・モデル、北欧モデルと呼ばれ、現在では7ヵ国[6]が、性的搾取のない世界を目指すスウェーデン方式に従っており、これを「平等モデル」と呼んでいます。一方で、ニュージーランドにおける「完全非犯罪化」という失敗した枠組みに従った国はありませんでした。

 新型コロナによるパンデミックの期間中、世界中でオンライン、オフラインを問わず、商業的性搾取が急激に増加しています。 世界的な健康危機の最中に売春の規制を緩和することは、ビクトリア州における性産業の破滅的な拡大をもたらし、いかなる正義にも囚われない少数の人々の莫大な利益のために、さらに人々の生活を破壊することになるでしょう。

 アンドリュース首相、あなたにはまだ、法の支配を維持し、売買春が繁栄している土壌たるこの絶え間ない非人間化の過程に対して、情熱を持って取り組む時間があります。どうか、すべての人にとって平等な社会をめざして努力し、性売買そのものを拒否する世界的に増えつつある国・地域に加わってください。

原注 

[1] 2021年の米国人身売買報告書によると、オーストラリアにおける「人身売買の有罪判決率は依然として低く、まれに有罪判決を受けた場合でも、寛大な刑罰によって抑止力が弱まり、人身売買撲滅のための広範な努力が損なわれる可能性がある。また、オーストラリア政府は、人身売買業者が狙う可能性のある脆弱なグループを十分に審査していない」(U.S. Department of State, 2021 Trafficking in Persons Report: Australia, Office to Monitor and Combat Trafficking in Persons, https://www.state.gov/reports/2021-trafficking-in-personsreport/australia/

[2] Premier of Victoria, The Hon Daniel Andrews, ‘Review into Decriminalisation of Sex Work,’ 26 November 2019, https://www.premier.vic.gov.au/review-into-decriminalisation-of-sex-work-0

[3] Ibid. 

[4] “An Enduring Relationship: Politics, Porn, Fiona and Robbie,” Joy, 21 May 2015, https://joy.org.au/wordforword/2015/05/anenduring-relationship-politics-porn-fiona-and-robbie/; Katie Lalor (with Ginger Gorman), “Pornography, Sex and Censorship,” ABC Local, 23 May, 2012, https://www.abc.net.au/local/stories/2012/05/23/3509073.htm

[5] https://www.eros.org.au/about/the-eros-association/

[6] アイスランド(2008年)、ノルウェー(2009年)、カナダ(2014年)、北アイルランド(2014年)、フランス(2016年)、アイルランド共和国(2017年)、イスラエル(2018年) 。

 以下のサイトから署名できます→署名サイト

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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