ABCの最新の記事や『ワシントン・ポスト』の10月18日の記事よると、スペインの首相でスペイン社会労働党の党首であるペドロ・サンチェスが、ヴァレンシアで3日間にわたって開催されたスペイン社会労働党の大会最終日において、売買春は女性を「奴隷化する」ものであり、その「廃絶」を目指すと高らかに宣言した。すでに同党の2019年の総選挙マニフェストにおいて、売買春は「貧困の女性化の最も残酷な一側面であり、女性に対する暴力の最悪の形態の一つ」とされていた。
スペインでは1995年以来、売買春は合法化されており、そのせいで、スペイン全土に膨大な数の売春店が存在している。国連によると、スペインの売春産業の規模は2016年時点で約5000億円であり、約30万人もの被買春女性がいるとされている。そしてその多くは外国人女性である。
2009年のかなり古い調査によっても、スペイン男性の3割から4割は買春経験者であり、この数字は今日でははるかに高くなっているだろう。そのため、スペインは、同じく売買春が合法化されているドイツと並んで、「ヨーロッパの売春宿」と不名誉な名称を頂戴している。
スペインでも、法律上、強制売春や、売春を通じた性的搾取、ピンプ行為〔女性に売春をさせてその儲けを懐に入れる行為〕などは違法とされているが、このような曖昧な規制はほとんど役に立っていない。売買春そのものが合法であるかぎり、その合法性の看板に隠れていくらでも強制売春も人身売買もなされるからである。
2018年のリベラル系日刊紙『エル・パイス』の12月の記事によると、スペインの警察は2017年に、1万3000人もの人身売買被害女性を確認しており、そのうちの少なくとも80%が、自らの意思に反するかたちで第三者によって搾取されていた。スペインでは、合法性の看板のもと、マフィアをはじめとする組織犯罪者集団が売買春産業に深く関与している。売買春を合法化すれば地下に潜らなくなるとか、組織犯罪の関与がなくなるとセックスワーク派は主張するが、実際はその逆であることをスペインの実態は示している。
少し古い記事だが、2012年のCNNの記事では、スペインの犯罪組織が女性たちにバーコードの入れ墨をして管理している実態が暴かれている。
「スペインの警察当局は24日、首都マドリードで2つの売春組織を捜索し、組織に捕らわれていた19歳の女性を救出したと発表した。女性は、組織から逃れようとして失敗し、手首にバーコードの入れ墨を入れられていた。
このバーコードの入れ墨は女性の身分証と、組織の「所有物」であるという証明証の役割を果たしていた。またバーコードの下には、女性が組織に負っている借金の額の入れ墨もあったという。
また女性は組織に捕らわれている間、殴られたりむちで打たれたりして複数の傷を負い、さらに逃亡しようとした罰として頭髪と眉毛を剃られていた。」
BBCの記事によると、スペインで性産業について詳しいジャーナリストは、「スペインの売春の95%は自由ではなく、社会経済的な条件や脅迫などの圧力により、何らかの形で強制されている」と述べている。性的人身売買により、スペインでは毎日700〜800万ユーロの収入があるといい、スペインはドイツに次いでヨーロッパで2番目に大きな売春市場であり、「国際的なマフィアにとってはパラダイスである」と表現している。
売買春そのものに取り組まないかぎり、人身売買も強制売春も本当の意味で防ぐことはできない。その有効な法的手段となるのは、売春業者と買春者を処罰の対象とし、被買春女性を支援と保護の対象とする北欧モデル型の立法だけである。
先の『エル・パイス』の記事によると、スペイン社会労働党もこの北欧モデル型立法の導入を検討しており、3年前の時点ですでに法案の作成に取り組んでいる。だからこそ、スペインのサンチェス首相は売買春の「非合法化」などという言葉を使うのではなく(BBCの記事ではそのように不正確に表現されていたが)、「廃絶する(abolish)」という言葉を用いたのである。
このように社会労働党は北欧モデルに熱心だが、いっしょに連立政権を組んでいる左派のポデモスがこの問題に不熱心であり、実際に法律が成立するまでに道のりはまだ遠いと考えられている。
なお、スペインの売買春・性的人身売買の実態と、それと闘うスペインのフェミニスト団体の地道な取り組みについては、APP研の『論文・資料集』第12号でも紹介したので、ぜひ読んでほしい。
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