ジュリー・ビンデル「売買春のない世界を想像しよう」

【解説】以下は、数日前にスペイン社会労働党の党首でスペイン首相のペドロ・サンチェスが売買春の廃絶を党大会で訴えたことに関するジュリー・ビンデルさんの最新記事です。

ジュリー・ビンデル

『クリティック』2021年10月20日

 売買春に内在する諸問題を解決するためにはどうすればいいのか。スペインの首相、ペドロ・サンチェスにはいくつかのアイデアがある。彼は最近、3日間にわたる社会労働党大会の最終日になされたスピーチにおいて、売買春に巻き込まれた女性たちが被っている虐待や奴隷状態について発言し、スペインで蔓延している性産業の廃絶を約束した。

 サンチェスは、「北欧モデル」型立法の導入を真剣に検討している。それは、買春を犯罪化することで買春客を抑止し、それと同時に、売買春の中にいる女性たちを非犯罪化して、彼女たちに離脱プログラムを提供して支援する法律である。

 この法律は、1999年にスウェーデンで初めて導入された。それは2つの目標を持っている。買春に対する需要を抑制することと、男女平等を促進することだ。多くのフェミニストは、買春は男性による女性への暴力の一形態に他ならないと考え、長年にわたってこの法律の導入に向けて闘ってきた。1984年、ストックホルムの悪名高い路上売買春地帯の近くで首を切られた状態で発見された、路上売春婦の若い女性、カトリーヌ・ダコスタの未解決殺人事件は、買春者に焦点を当てるキャンペーンをさらに後押しした。 

 ダコスタ殺害の容疑者たちが無罪になると、フェミニストたちはスウェーデンの都心部をデモ行進し、嘆願活動を繰り広げ、テレビ番組に出演したりして、女性たち、とくにダコスタのような弱い立場の女性たちが不当に扱われていることに抗議した。この事件をきっかけにして売買春に関する法律が改正されたのである。 

 サンチェスがスペインにおける性売買に憂慮している理由は理解できる。1995年にスペインが性産業を非犯罪化するという悲惨な決定をして以来、売買春は大ブームとなり、少なくとも30万人の被買春女性が売買されているという。合法化やその同類である非犯罪化は、売買春特有の問題を解決するどころか、むしろ悪化させていることを示す多くの証拠がある。ある大規模な研究が結論づけているように、国境を越えた女性の人身売買、暴力、HIV感染、その他の関連するさまざまな犯罪はすべて、この制度のもとで増加している。

 非犯罪化は売買春をノーマルなものにし、より多くの男性がセックスにお金を払うことに抵抗を感じなくなる。2011年の国連の調査によると、スペインの成人男性の40%近くがセックスを購入したことがあり、スペインはタイ、プエルトリコに次ぐ世界第3位の売買春拠点国となっている。

 この数十年間に、直接の経験を持つ女性たちが性産業のサバイバーとしてカミングアウトして性売買の実態を告発するケースが増えているにもかかわらず、売買春は当事者である女性たちの「選択」と「主体性(agency)」の問題であるという見方が今なお主流になっている。男性がお金を払って性行為をするのを阻止しようとすると、「障害者はどうなるのか」とか、「でもそれは無害だし、女性は他にどうやってお金を稼ぐのか」という声が上がるのだ。

 これを解決するには、私が長年携わってきたように、性産業から脱出したいと願う女性たち(大多数だ)が、尊厳を持って支援を受けられるような政策と実践を展開することだ。 

 しかし、女性が売買春から脱出するのを支援する上での障害と最善の方法に関するこの種のものとしては最大の研究に従事していた時にわかったことだが、売買春推進派のロビイストの多くは、ある学術書に書かれているように、女性が売買春をやめるのを支援することは「人間の尊厳を冒涜すること」だと主張している。

 性売買の廃絶を求める私のようなフェミニストと、売買春を有効な選択肢と考える人々の間で戦争が起きている。これは、フェミニストのアボリショニスト(性売買廃絶論者)が、「堕落した女性」を「救済」し、セックスにお金を払う男性を「悪者」にしたいと考えているという、広く信じられている信念によって煽られている。しかし、これは真実からかけ離れている。唯一の解決策は性売買そのものに終止符を打つことだ。歴史が証明しているように、売買春を安全なものにすることはできない。だからこそ、それは廃絶しなければならないのだ。

 現在、アイルランド、北アイルランド、フランス、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、イスラエルなど、世界の多くの国で北欧モデルが導入されている。調査研究から、このアプローチによって、被買春女性や売買春の数が減少し、男性がお金を払ってセックスをすることを容認する文化が変わりつつあることがわかっている。多くの性売買サバイバーを含むアボリショニストは、このモデルを世界的に導入することを求めている。 

 私は何十人もの売買春から脱出した女性にインタビューしてきた。彼女たちは、乾いた傷ついた膣が複数の男たちによって貫かれる痛みについて語っている。男の精液やその他の体液が顔の近くにかかることの恐怖。男のひげで頬から血が出るまで強くこすられること。無理にキスをしようとしてくる男の舌から逃れようとして、首が痛くなることを彼女らは語る。口内に問題が生じて、食べたり飲んだり子供にキスしたりすることができなくなっていることについて。これは、私たちがよく耳にする「セックスワーク」という美化された言葉で片づけられるものではない。

 北欧モデルは、2010年以降のフェミニストによる議会へのロビー活動のおかげでイギリスでも導入されそうになったが、機運が高まってきた頃、キース・ヴァズ議員が議長を務める下院内務委員会が売買春に関する中間報告を発表した。それは、北欧型アプローチを拒絶し、性産業の非犯罪化を推奨するものだった。この報告書が発表されてから3ヵ月後、ヴァズ議員自身が買春者であることがタブロイド紙によって暴露された。機会は失われたが、フェミニストたちは闘いを続けている。 

 この週末、イギリスでは売買春犯罪に関連する新しいキャンペーンが開始された。この「HOPE(History Of Prostitution Expunged売春歴の抹消)キャンペーン」は性売買のサバイバーが主導しており、その一人がフィオナ・ブロードフットだ。早くも1999年に、フィオナと私はまさにこの種のキャンペーンについて語り合っていた。被買春女性が、かつて買春されていたこと(しかもしばしば子供の頃)に関わる前科を開示しなければならないことがあまりにも多いことについて話しあったのだ。その時、私たちは、虐待の被害者である女性ではなく、その問題を引き起こしている男たちに焦点を当てる必要があると話した。北欧モデルと「HOPEキャンペーン」は、すぐれて現実的な問題に対する真の解決策を提供している。私たちは、売買春のない世界を想像することができるし、そうしなければならない。そのための方法はまさにサンチェスが提案しているものだ。

出典:https://thecritic.co.uk/imagine-a-world-without-prostitution/

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投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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