テイナ・ビエン・アイメ「平等に向けた歴史的一歩――スペイン首相、売買春の廃絶を約束」

【解説】すでに、このサイトで2回にわたって紹介しましたが(10月18日10月21日)、今年10月におけるスペイン社会労働党(PSOE)のサンチェス首相は同党の党大会で売買春の廃絶を約束しました。今日紹介するのは、このことの歴史的意義について女性人身売買反対連合(CATW)の代表理事であるテイナ・ビエン・アイメさんが最近書いた記事です。

テイナ・ビエン・アイメ(CATW)

『WOMEN’S’ eNews』2021年12月8日

 スペインのペドロ・サンチェス首相は今年10月の社会労働党(PSOE)大会の閉会演説で、「売買春は女性を奴隷化する行為だ」と述べた。サンチェスがさらに、世界最古の構造的抑圧の形態の一つである売買春の廃絶を呼びかけると、会場は総立ちになって拍手を送った。

 スペインは1995年に売買春を非犯罪化したが、同国の刑法条項ではそのことにまったく触れていない。売春に従事することが問題なのか、それとも「仕事」なのかについて、法律は沈黙している。他人の売買春から利益を得ること、すなわちピンプ行為は禁止されているが、商業的な売春店を経営することは合法である。

 性行為の購入と、安易なビジネスとしての売春店の普及を認めることで、スペインは売買春、人身売買、自由な性的搾取の商売を爆発的に増やすための完璧なレシピを作り上げた。なぜなら、市場の論理は、需要と供給の数学的ダンス、そして利潤を求めるインセンティブに依存しているからだ。性産業も例外ではない。

 スペインが売買春から不当利益を得ることや性的人身売買を犯罪としたことはさして重要ではなかった。国家が男性による買春を容認しさえすれば、性的人身売買業者やその他の搾取者たちは、オンラインでもオフラインでも、この需要を確実に満たすことができるからだ。

 スペインは世界で3番目に大きな売買春市場だ。2010年の国連の推計によると、スペインの男性の39%が生涯に買春した経験があり、これは世界平均の19%と比較してもかなり大きい。このような大量の買春者のおかげで、スペインの性産業は265億ユーロ(約300億ドル、3兆円)もの産業に膨れ上がった。

 この「ビジネス」が必要とする肉体のキャラバンは、90%程度が不法滞在の外国人女性で構成されており、彼女らはみな人身売買業者や売春店に対する借金を負わされており、国家の目と鼻の先で買春がなされている。

 ブラジルや中国の最も貧しい地域、ナイジェリアやタイの小さな村、ブルガリアやハンガリーの最も荒廃した地域から来た女性たちが、高価な航空券を自分で買って未知の地域に行き、売春店や路上で自分たちの体に挿入する男たちの無限の列を求めてスペインにまでやって来たと考えるのは、馬鹿げた幻想である。

 このような神話――あるいは無関心――は、売買春がもたらす痛みや非人間性に対して人を無頓着にさせる。このような神話は、同意やエンパワーされた主体性(agency)なる空想的物語を編み出すのに役立つだけであり、男たちには女性に対して(彼女らにどんな被害があっても)性的アクセスやハラスメントをする既得権があるかのように言いなす口実になるだけである。 

 アルゼンチンのサバイバーのリーダーであるアリカ・キナンは次のように語る。

 私が世界の果ての街、ウシュアイア〔アルゼンチンのフエゴ島に位置するリゾートタウン〕の売春宿に閉じ込められていたとき、スペイン海軍の船員と出会いました。彼は滞在中、毎晩、私を買っていきました。私が日々命の危険にさらされているこの場所から逃れたいという私の絶望的な気持ちを知った彼は、私にスペインでのより良い場所を提供してあげると言いました。

 しかし、バルセロナに到着すると、彼は私が持っていたすべてのペソを奪って、いちばん近い売春店「ミスター・ダラー」に連れて行きました。そこでは状況は同じぐらいひどいか、もっと悪いものでした。なぜなら、私の奴隷所有者である彼が隣で寝ていたからです。

 サンチェス首相は、売買春システムを廃止するための解決策をまだ公言していないが、その目標を解く鍵のひとつは、彼の手中に、すなわち彼自身の党内にある。スペイン社会労働党(PSOE)の女性リーダーたちは、アボリショニスト・モデルないし北欧モデル、あるいは平等モデルと呼ばれる法律を提唱している。この法律は、売買春の中で売買されている人々だけを非犯罪化し、彼女らに必要なサービスを提供する一方で、買春者と業者を加害者として処罰する。

 国際人権法とフェミニズムの原則に基づいたこの法律は、性的人身売買を防止するためのツールでもある。2014年、欧州議会は、売買春は「人間の尊厳に対する侵害」であり、男女平等を達成する上での決定的な障壁であると認識し、「平等モデル」の制定を加盟国に促した。

 ことあるごとに性産業を擁護しそれの非犯罪化を要求しているアメリカの社会民主主義政党(アメリカ民主的社会主義者:DSA)と違い、スペイン社会労働党(PSOE)はフェミニスト宣言を発表し、売買春を「貧困の女性化の最も残酷な側面の一つであり、女性に対する最悪の暴力の一つである」と明言している。

 スペイン東部のカステリョ州の議員でPSOEの副スポークスマンであるスサーナ・ロスは、「売買春がなければ人身売買もない」と述べ、だからこそ立法府は売買春に終止符を打つべきだと述べている。社会労働党は売買春廃止論者(アボリショニスト)であると定義した上で、スサーナ・ロスは売春を利用する男性を「ピンプ〔女衒、業者〕のように嫌悪すべき存在」だとし、女性や少女を搾取する罪を犯していると述べた。

 世界で最も強力なフェミニスト運動の一つであるスペインのフェミニスト運動は、DVやレイプ、性的暴行と同様に、売買春は権力の乱用であり、性的支配の表現であり、男性優位であるということをその主張の核心に据えている。

 1999年、スウェーデンは、売買春が男性による女性への暴力であることを法的に認めた最初の国であり、同国は、他の形態の性差別や望まないセックスに対処することと並んで、この売買春に対処することを明確にした。それと同時に、数百億ドル規模に達するグローバルな性産業が獲得する儲けのほとんどは、性行為を購入する人々の財布から生み出されているのであり、したがって、スウェーデンは性行為の購入を処罰することで、性的人身売買をも抑制しているのである。

 現在、世界で最も包括的な売買春廃止法を持つフランスをはじめ、スウェーデンに続いて6つの国と、イギリスの一部である北アイルランドがアボリショニスト立法を制定している。フランスは、刑法だけでなく、移民法、教育法、保健法など8つの法律を改正し、売買春が社会に与えるコストの大きさを認識するとともに、被買春者や性的人身売買被害者が人生を立て直すのを手助けする必要があるとの政治的意思を示した。

 フランスでは、わずか5年の間に、ピンプや人身売買業者に対する法的処罰が54%増加し、8000人の買春者が逮捕され、罰金を科せられた。これらの罰則による収入は6000〜8000万ユーロに達し、そのうち1400万ユーロが被害者への補償やサービスを提供する予算に充てられた。

 フランスでは、1946年に政府が売春店の存在を「国辱」と呼んでそれを禁止したが、何十年もの間、フランスの買春者は、フランス国境に近いスペイン・カタルーニャ州のジローナ県ラジョンケラに集まって、そこで売買春を続けた。ラジョンケラは「セックスのスーパーマーケット」として知られており、橋の下やロータリー、巨大な売春店など、いたるところで女性に対する買春が行なわれている。このフランスとスペインの国境地帯では、東欧やグローバル・サウスからやって来た女性たちを買うことが、若い男性にとっての汚い通過儀礼となっている。

 スペインの警察は、買春の相手が人身売買被害者である可能性が高いことを買春者に伝えるキャンペーンを開始した。このキャンペーンはさらにもう一歩進んで、売買春を斡旋・周旋することが犯罪行為であることを一般の人々に教え、フランスや他の国が制定したような進歩的法律を制定することが、平等を実現するために不可欠であることを強調する必要がある。

 これらの法律が売買春を地下に追いやるとか、個人を傷つけるというセックスワーク派の主張は、事実に基づかないし、理にかなってもいない。合法であれ非合法であれ、売買春は常に目に見えるものである必要がある。買春者はそれをネットで簡単に見つけることができるし、子どもたちは通学路でそれを日常的に目にしている。

 そして、売買春が奥の部屋や駐車場の車の中で被買春者に与えている暴力とトラウマは、合法であっても、地下にとどまっている。その暴力は、カメラを持った買春者や業者がそれを撮影してポルノにすることで、しばしば記憶に残る。

 500年前、スペインや他のヨーロッパ諸国は、それらが植民地化したすべての地域に売春制度を持ち込んでいった。何世紀にもわたって、彼らは性的欲望と国家の経済成長のために、先住民や褐色の女性や少女たちを売買し搾取してきたのだ。今日、これらの忘れ去られた人々の娘たちの娘たちが、ラジョンケラやその他の何千もの売春店の競売場に並んでいるのである。スペインは売買春を廃絶する法を制定することで、これらの真実を和解させなければならない。売買春は少しずつ行なわれるフェミサイドであり、それを終わらせるべき時がついにやって来たのだ。

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投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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