アメリア・ティガナス「売春店という強制収容所を逃れて」

【解説】以下の記事は、冒頭のジュリー・ビンデルさんの「まえがき」にあるように、ルーマニア出身で、売買春が合法であるスペインで5年間にわたって売買春に従事させられた性売買サバイバー、アメリア・ティガナスさんの証言です。原題は「性売買産業の裏の顔」。

ジュリー・ビンデル/アメリア・ティガナス

『Truth dig』2018年9月11日

 アメリア・ティガナスは、ルーマニア出身の性売買サバイバーだ。現在も住んでいるスペインで売買春の中にいた。 ティガナスは、2015年からFeminicidioのオンライン・トレーニング・プラットフォームのコーディネーターとして、売買春、人身売買、その他の女性に対する暴力の防止と啓発のためのプロジェクトに参加し、性売買廃絶のキャンペーンに取り組んでいる。彼女は現在、スペインで殺害された被買春女性の数を記録する活動を行なっている。

 ティガナスは、女性や少女の性的搾取に関する論考をいくつか発表している。また、過去2年間で、スペインとアルゼンチンで100回以上の講演やワークショップを行なっている。私はティガナスに、国が認可した売春店で人身売買や虐待を受けたことや、売買春から脱出した後の彼女の人生や活動について話を聞いた。彼女の証言を以下に紹介する。――ジュリー・ビンデル

※   ※   ※

 私は17歳のとき、ルーマニア人のピンプ〔ポン引き、女衒〕からスペイン人のピンプに300ポンド〔約3万5000円〕で売られた。しかし、新しいピンプが私を買った後、旅費、書類代、洋服代、そして彼らが私を入れた「施設」の費用を支払った後、私が新しいピンプに支払うべき借金の総額は3000ポンド〔約35万円〕だと言われた。多くのルーマニア人女性と同様に、私も経済的貧困だけでなく、社会的排除や、13歳で何度もレイプ被害に遭ったことで社会的烙印を捺され、まったくの無防備な状態だった。

 私は14歳で学校を辞め、16歳で家族と別れて工場で働き始めた。私が育った社会は家父長制が徹底していて、彼らにとって私はすでに人間のくず、悪い女だったのだ。

 ピンプたちは私を捕まえると、スペインで売春婦になることがいかにいいことかを語った。短期間で大金を稼げるというのだ。しかし、私を待っていたのは、彼らが言っていたようなことではなかった。だが、その時の私はまだ知らなかった。

  売買春に引き込むための罠

 私を騙すのは簡単だった。なぜなら彼らは、それ以前にすでに私を「ビッチ」呼ばわりしたり性的に暴行したりして私の人間性を奪いとっていたからだ。私はそれ以外のいかなるものも望むことができなくなっていた。ピンプは人を巧みに操り、心理的な虐待を行なう。最悪の罰は、たいてい肉体的なものではない。頭に銃を突きつけられたり、脅されたり、鎖に繋がれたりすることはなかったが、彼らは私を心理的に破壊したのだ。

 他の売買春サバイバー同様、私も売春店を強制収容所と定義している。昼間はポルノ映画を見させられ、厳しい管理のもとで食事や睡眠をとらされる。愛情あふれた笑顔でいるよう求められる。そうすることで、売春店やピンプの評判が良くなるからだ。私たちは常に役割を演じなければならず、買春客が要求する通りに服を着たり、別の名前を名乗ったりしなければならない。そして、買春客から性的拷問を受けたのと同じベッドで寝なければならないのだ。

 ピンプは、スペイン人の買春客が、明らかに暴力を受けた形跡のない、良好な状態の「商品」を求めていることを知っている。彼らは「幸せな娼婦」を求める。というのも、身体的な暴力と人身売買とを直接結びつけるメディアや啓蒙キャンペーンのおかげで、買春者たちは自分が女性を性的に搾取するマフィアの一部であると感じたくないからだ。しかし、買春客もまた、女性の身体に性的にアクセスするという特権を手放したくはない。そこで彼らは、諸機関やメディア、政治家、社会一般の支援を受けて、売春店にいる売春婦たちはみな幸せで、自分の意思でそこにいるのだと自分を欺くのだ。

 大きな観光地であるアリカンテの最初の売春店に連れて行かれたとき、そこには私と同郷〔ルーマニア〕の女の子たちがたくさんいたことに驚いた。同じく驚いたのは、延々と12時間も仕事をさせられることだった。夕方5時の開店から早朝5時の閉店まで、休む暇もなく続けられ、それが週7日続くのだ。仕事を休めば罰金が課せられ、それが借金に加算される。

 ピンプたちは、借金を返せば利益の50%をもらえると言っていた。短期間で大金を稼ぎ、早期に引退できるのだから、文句を言うなと言われた。しかし、3週間経って、借金をすでに返した後でもそんなことにはならないことがわかった。

 売買春では、すべてが女性からお金を奪うように仕組まれている。私たちに残るのは、疑われないよう家族に仕送りをするためのお金だけだった。ぎゅうぎゅう詰めの部屋で寝て、粗末な食事をしているにもかかわらず、法外な値段の罰金や宿泊費、維持費を請求された。高価な服や化粧品を売りつけられ、ドラッグを買わされた。それを買春客に売りつけてよりお金を稼ぐためだ。

 彼らはできるだけ早く私たちをドラッグづけにしようとした。最初はアルコールで、次にコカインだ。ドラッグと酒はいつでも手に入る状態だった。最初はそれらを摂取するよう圧力をかけられるのだが、やがて精神的に拷問から逃れようとして自ら摂取するようになった。

 お金が与えてくれる自由と自律という偽りの約束を信じていたからこそ、残酷な行為に何とか耐えようとした。売春店では自分のアイデンティティを失う。私たちは個性のない、交換可能で使い勝手のよい存在なのだ。

  買春客の3つのタイプ

 私の経験から、買春客には3つのタイプがあることがわかった。

 1つは「プテロ・マホ(善人ぶる客)」(「プテロ」は被買春女性がよく使う言葉で、「買春者」や「買春客(john)」という意味)で、あれこれと話しかけてくるタイプの客だ。私は彼らとても親切にしなければならず、愛と賞賛を込めて、笑顔で耳を傾け、相手を承認してやらなければならない。私にとって、その状況は最もイラつかせるものの一つだった。このタイプは身体だけでなく、精神的にも私を強制的にそこに居させようとする。それは私にとっても、大多数の売春婦にとっても拷問だ。このタイプの買春客は、身体だけでなく、魂や感情、愛情も買いたがる。売ることができないものを買いたがるのだ。彼らは自己欺瞞など気にしない。どれほど私が無力感と怒りでいっぱいになったことか、それは言葉で言い表せないほどだ。この種の買春客は、私たちにいいことをしたと思われたがっており、それゆえ私たちは彼に感謝しなければならないと思っているのだ。しかし、彼らは、私たちが彼の望むような役を演じることができないと、愛情のこもった「ボーイフレンド」から豹変して、最も暴力的な方法で「くそビッチ」「嘘つき」「詐欺師」と呼ぶようになる。

 「マッチョ・プテロ(マッチョな客)」は要領を得た客だ。この種の客はお金を払って、さっさと挿入して、帰っていく。その場合、少なくとも私たちは精神的に自分のいたい場所にいられる。この種の買春客にとって、娼婦はペニスを挿入するための穴のある肉体でしかない。私たちが何を考えているかなんて気にしない。私たちはポルノ映画のように彼のために演技をしなければならない。あえぎ声、笑顔、そして自ら参加しているふりをする。そして、彼らは去っていき、私たちは体を蹂躙され、痛みを感じながら残されるのだ。このタイプの買春客は、友人たちと群れをなして売春店を訪れ、集団セックスを求めることがよくある。たいていは1人の女性相手にそれを求めるのだ。ほとんどの場合、この種の客は自分たちの求めるものを手に入れる。というのも、ピンプに借金を負っている女性たちは、ピンプに従わなければならず、より残虐な行為に応じざるをえないからだ。

 ピンプが私たちを殺さなくても、第3のタイプの買春客が私たちを殺す。それが「ミソジニストのプテロ」だ。このサディストが行なう肉体的・精神的な拷問は、語りつくせないほどのものだ。噛まれたり、つねられたり、叩かれたり、侮辱されたり、辱められ、無価値なものに貶められる。彼らは私たちに痛み、屈辱、恐怖を与えれば与えるほど、喜びを感じるのだ。

 買春客というのは、女は自分の欲望を満たすために存在すると考える独りよがりの男たちだ。彼らは、政治家、裁判官、警察官、検察官、ジャーナリスト、労働組合員、労働者、ビジネスマン、医師、教師、スポーツ選手、既婚者、独身者であり、そして老若を問わない。彼らはあらゆる社会階層の人々である。このような多種多様な男たちがこれほど一体と化すのは、売春店の他のどこにもない。

  お金の流れ

 私は5年間、「売買春システム」に囚われていた。私たちが稼いだお金はピンプに奪われ、そのお金は自治体や国の財政、検察に利益をもたらす。売買春システムからのお金は、結局、国の経済に利益をもたらしているのだ。これは文字通り、女性のバックから得られたお金だ。

 だから私は「売買春システム」と言っているのだ。これが、あなたの暮らしている「コミュニティ」なのだ。国家とその諸機関がそれを許しているのは、このシステムが国に経済的利益をもたらしているからである。忘れてほしくないのだが、ルーマニアは、ヨーロッパ連合(EU)の内部において性的搾取のための女性たちの重要な供給国なのだ。

 被買春女性が引退するたびに、少なくとも3人の女性が新たに売春店に連れてこられる。売春婦というのは、性産業によって必要とされるため、産業規模で「作られる」のだ。ピンプたちは、若い女性たちに売春婦になることが一番のチャンスだと信じさせるために、多額の資金を投じている。

 スペインは最近、買春ツァー客のパラダイスとなっている。ここでは、路上売春、売春店、個人のアパート、オンライン広告など、あらゆるタイプの売買春に簡単にアクセスできる。同国は世界中の買春客にとって安全な避難所となっている。2017年には8200万人もの観光客がスペインを訪れ、経済に大きく貢献した。そのお金の一部は、人身売買や売買春から来ている。買春ツァーは人身売買を養い、維持している。たとえば、バレアリック諸島、カナリア諸島、カタルーニャは、買春ツァーの目的地だ。スペインの売買春と人身売買からの収入は、GDP(国内総生産)の一部となっているのである。

  売買春の中で殺害され女性たち

 Feminicidio.netのデータベースでは、2010年から2018年の間に、人身売買の過程で行方不明になった人を除いて、被買春女性の42件のフェミサイド(女性殺し)を記録している。

 私は生き残ったので自分の話をすることができるが、話すことができない人たちを想像してほしい。ドラッグ中毒、虐待、拷問で亡くなった人たち、そしてこれから殺される人たち….。売買春の中のフェミサイド被害者たちは、男性による暴力の忘れられた犠牲者だ。彼女たちは使い捨ての女性とみなされている。彼女たちは残酷に殺され、破壊された遺体はしばしば空き地やコンテナ、ゴミ袋の中で発見される。それらは性犯罪であるにもかかわらず、法律や人々によってそのように認識されていない。

 スペインでは、フェミニストたちの間で、ギャングによるレイプや女性への虐待について多くのことが語られ、行動に移されている。これは良いことだ。社会的な認識が変わりつつあるのだ。しかし、売春店で行なわれている性的暴力はあまり問題にされていないようだ。「良い」女性と「悪い」女性、つまり重要な女性とそうでない女性がいるという神話があり、二重モラルがいまだ存在している。これは、男女間の不平等を強化し、私たちの解放を不可能にしている。

 スペインは、タイ、プエルトリコに次いで、世界で3番目に売買春の消費が多い国だ。スペインでは、性産業が広く普及し、標準化されている。売買春それ自体は犯罪ではないが、職業的な活動としても規制されていない。しかし、「他人に売春させること」や「性的搾取」は犯罪であるが、ほとんど起訴されていない。

 さらにそれに加えて、スペインは近年、多くの移民を引きつけている。人種差別的な移民規制政策は、人身売買業者を助けている。なぜなら、不法に国境を越える必要のある人々を手助けしているからだ。不法に入ってきた連中はしばしば若い女性の人身売買を行うようになる。

 多くの移民が人身売買業者に捕まり、スペインで強制的に搾取されている。人身売買業者は悲惨な貧困状態にある女性を利用し、その女性たちは借金でがんじがらめにされる。

  どのように性売買と闘うべきか

 Feminicidio.netでは、人身売買や性的搾取と闘うためにいくつかの提案をしている。

  •  私たちは、被害者の特定、保護、補償という3つの要素に基づいた、人身売買に対する包括的な法律の採択を求める。
  •  売春店における性的搾取が容認しなくなるなら、人身売買の90%が根絶されると主張する専門家もいることからして、ルフィアニスモ(ピンプ行為)、ローカリア・テルセリア(第三者による搾取)、プロクセニスモ・ノンコアーシティボ(非強制的なピンプ行為)の犯罪化と処罰を盛り込んだ刑法改正を提案する。
  •  学校のカリキュラムに、人身売買や売買春に関する啓発と予防を盛り込む。
  •  メディアは、売買春システムにおけるフェミサイドを他のタイプのフェミサイドと同じように報道し、公式な数字として認識されるようにすべきである。人身売買と売買春のケースを人権の観点からフォローし、情報の取り扱いにおける歪んだ描写、操作、センセーショナルな表現を避けるよう求める。また私たちは、売買春の消費者や若者を対象としたキャンペーンを展開し、売買春の消費のリスクを抑制し、正しい情報を提供したいと考えている。
  •  私たちの新しいプロジェクト「Sexual Geo-violence」は、さまざまなタイプの性的暴力を記録している。性暴力、売買春、ポルノの間には関連性がある。
  •  警察に対する研修計画の策定は急務であり、臨床心理学、人類学、社会学、犯罪学などの学際的な対処法を取り入れる必要がある。

 フェミニスト運動は、売買春システムにおけるフェミサイドの犠牲者たちのおかげをこうむっている。それは、売買春が最終的にどのようにして人々の命を奪うことになるかを示している。私たちは、共通の目的を達成する方法を見つけなければならないし、この問題を根本的な原因から解決しなければならない。

  被買春女性に対する公共政策と公的支援

 私は北欧モデルを全面的に支持する。私は、一人の女性として、フェミニストとして、売買春と人身売買のサバイバーとして、そしてアボリショニストのNGO(非政府組織)である「ラ・スール」のメンバーとして、このモデルを支持する。Feminicidio.netは、各国が女性の性的搾取で利益を得ているかぎり、そして男性がお金を払って女性の身体にアクセスできるかぎり、そして彼らが私たちのセクシュアリティと生殖能力から利益を得ているかぎり、真の平等を達成することはできないと理解している。

 人身売買や売買春から脱出するためには、経済的な援助だけではなく、公共政策を構築する必要がある。私はサバイバーとして、お金よりも必要なものがたくさんあることを知っている。売買春をしていた女性には、仕事を見つけて経済的に自立するためのセラピー、教育、トレーニングが必要だ。また、私たちは買春されていたことで社会からの隔絶、孤独、スティグマを強いられてきた。このことは、社会全体があるがままの私たちを進んで受け入れる必要があることを意味している。私たちは、女性たちを奴隷にしたり人間性を奪ったりするために作られたシステムの勇敢なサバイバーなのだ。私たちには、家父長制による暴力から解放された生活を送る権利がある。

 私は5年経って、自分が騙されていたことを理解し、売買春システムから抜け出すことができた。そのおかげで私は救われ、自分の夢を追い続けることができるようになった。静かな生活を送りたい、家を持ちたい、家族を作りたい、勉強したい、「何らかの存在」になりたいという願いだ。あまりにも長い間「何ものでもない存在」だったからだ。

 性売買が合法化されている国では、人身売買が増加し、ピンプが起業家となり、男性はお金を払って女性の体に挿入しても何の問題もないというメッセージを受け取るようになる。それと同時に、残虐で卑劣な性行為への需要も増大している。私はいつも、女性が売買春から解放されることに反対する人がいることを不思議に思っている。娘たちにどんな世界を残したいのか?

  進むべき道

 アボリショニストの運動は成長している。売買春の存在が真の平等を達成することを不可能にしていることを理解している多くの女性たち(政治家、裁判官、警察、ジャーナリスト、ビジネスウーマン、労働者、学生)が日々増えているからだ。これらの人々は、売春婦が「他者」であることを受け入れず、私たちはみな女性であると考えている。

 また、男らしさが自分に課すものに従うことを拒否する男たちもいる。ラウラ・セガトが著書『冷酷さの対抗教育学』で述べているように、「今日、多くの男性が暗黙の協定から離脱して、社会を変革する道を示している」。

 人々が見ていないのは、売買春の合法化と標準化が、一部の女性を物象化し非人間化するのではなく、すべての女性を物象化し非人間化していることだ。男性が一部の女性の身体に金銭でアクセスできるという事実は、彼らの生活の中で他の女性に対する虐待や侮辱を強めることになる。神話の一つに、買春客はごく普通の生活を送っているというものがあるが、実際には、買春客は家庭で妻や娘といっしょにいるときでさえ、虐待者であり女性差別者でありつづけている。

 私たちアボリショニストはこの戦争に勝つだろう。だからこそ私たちは声を上げ、私たちの運命は男性に性的に奉仕することだと主張する倒錯した強力な大富豪たちの業界と対峙するリスクを冒すのだ。それは長く続く厳しい闘争であり、おそらく売買春の廃止が達成されたとき、私たちの多くは生きていないだろう。しかし、売買春のない世界を実現する運動に参加したことを誇りに思うだろう。売買春のない世界とは、ケア、相互の欲求、共有された喜び、倫理、愛、承認、まっとうな扱い、平等な機会が生活の中心を占める世界である。

出典:https://www.truthdig.com/articles/the-underbelly-of-the-sex-trade-industry/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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