ジュリー・ビンデル「ギレーヌ・マクスウェルの犯罪を可能にしたもの」

【解説】2021年12月29日、アメリカのニューヨーク連邦地裁の陪審団は、大富豪のジェフリー・エプスタインによる性虐待・性的人身売買に関与したとして、エプスタインの元恋人ギレーヌ・マクスウェル被告に有罪の評決を下しました(有罪の評決にもとづく量刑言い渡しの判決日は未定)。検察は、マクスウェルとエプスタインの両被告が共謀して、1994年から2004年にかけて、ニューヨーク、フロリダ、ニューメキシコなどで、若い女性たちをエプスタイン被告との性的関係に誘い込んだと主張。裁判では4人の女性が、マクスウェルがエプスタインによる性虐待を助長したり、時に自らも虐待に参加したと証言しました。この事件は日本でも大きな話題になりましたが、有罪の評決を受けて、ジュリー・ビンデルさんが書いた最新の記事を紹介します。

ジュリー・ビンデル

『アンヘルド』2022年1月4日

 今回、ギレーヌ・マックスウェルに有罪の評決が出たことは、フェミニストを二分した。彼女が無実であるとまで主張する人はさすがにいないようだが、彼女はジェフリー・エプスタインに強要され、虐待され、哀れな少女たちを誘い出してレイプや売春をさせた召使にすぎないと主張する人もいる。また、彼女は被害者であると同時に加害者でもあり、彼女の行動は父親である故ロバート・マクスウェルから性的虐待を受けていたことが直接の原因であると言う人もいる。

 私の考えはいたってシンプルだ。たしかに、彼女が父親から虐待を受けていたことを示す証拠はあるし、エプスタインが彼女に対して一定の力と支配力を持っていたことは明らかだ。しかし、マクスウェル自身、計り知れないほどの特権と権力を持った女性だった。彼女が有罪になったのは、エプスタインと関係したからではなく、若い女性たちに売春に引き込んだからだ。マクスウェルはけっして被害者ではない。

 彼女は自分自身の権力によって堕落したのであり、父親の代わりにエプスタインに従属するようになった単なる「ファザコン」ではなかった。彼女は自ら破滅の道をたどった一個の主体であり、その富と階級的優位性を利用して虐待を遂行していた。マクスウェルは、被害者に対してほとんど敬意を払っていなかった。貧しく、高い教育を受けておらず、立場の弱い若い女性たちを、マクスウェルが「クズ(scum)」と呼んでいたことが裁判で明らかにされた。これは、英国で起きたグルーミング・ギャング事件を彷彿とさせる暗澹たる事実だ。この事件では、少女たちは「売春というライフスタイル」を自ら「選択」した「厄介な尻軽女」とみなされていた。

 ロッチデールやロザラムでの事件と同じように、エプスタインとその仲間たちに提供された少女たちは、ほとんどが恵まれない環境にあった。彼女たちは「使い捨て」とみなされていたので、加害者たちは、被害者が声を上げても、信じてもらえない可能性が高いことを知っていた。

 売買春は、そこに引き込まれるのが誰であっても、同じレベルへと引きずり落す。エプスタインとマックスウェルの被害者たちは、英国のグルーミング・ギャング事件の被害者と同じように、他の女性への虐待に加担することになった。被害者は、他の女性たちを連れてくるよう説得されたが、それは彼女たちが脅され、恐怖に囚われているからだ。私は、自分の代わりになる人を募ることでしか売春から逃れられない絶望的状況にあった女性たちにたくさんインタビューしてきた。こうして、売春させられた被害者がピンプになってしまう。最終的に性産業から抜け出したときに感じる罪悪感は、売買春そのものの悪夢と同じくらいのトラウマになる。

 しかし、これらの事件で本当に心が痛むのは、被害者が軽視され、無視され、消されていることだ。レイプされた若い女性たちはみな、報道はもちろん、裁判中でさえもほとんど言及されることがない。そして、エプスタインとマクスウェルが共謀して破滅させた膨大な数の人生についても、ほとんど知られていない。

 報道によれば、エプスタインは1日に3回も女性や少女にセックスを要求したという。合意の上でのことではないとすると、1年に1068件のレイプがあったことになる。また、エプスタインは30〜40年にわたって少女たちを虐待していたことが知られており、レイプや性的搾取の件数はそれだけで3万件以上にのぼると考えられる。私たちはこれらの被害者たちの名前も知らない。

 彼女たちに起こったことを説明するためには、使われる言葉と同様に、名称も重要だ。私たちは、「トラフィッキング」という言葉を使うことで、彼女たちの人間性を奪っている。「トラフィッキング」とは、ピンプが被害者を強制的に性売買に従事させるためのプロセスにすぎない。この言葉は、起こったことの過酷な現実を覆い隠してしまう。私たちは、この種の虐待をありのままに呼ぶ必要がある。「児童レイプと児童買春」だ。マクスウェルとエプスタイン、そして英国のグルーミング・ギャングたちは、一方的な性的欲求を満たすために他の人間を商品化した。それは、輸送の問題ではなく、人権侵害なのだ。

 商業的性搾取と闘う組織「女性人身売買反対同盟(CATW)」のエグゼクティブ・ディレクターであるテイナ・ビエン・アイメは、エプスタイン/マクスウェル事件にずっと注目してきた。「今回の評決は、結論ではなく、説明責任を果たすための第一歩と考えなければなりません」と彼女は言う。「エプスタインとマクスウェルは、王子から大統領、慈善家から政治家まで、世界で最も権力のある男性たちに、カクテルギフトとして多くの少女たちを提供していました。マクスウェルは性的人身売買で信じられないほど大きな成功を収めた人物であり、今回の事件全体は、グローバルな性売買の原動力となっている男性の買春需要に対処することがいかに困難で、そしていかに重要であるかを浮き彫りにしています」。

 彼女は正しい。ミソジニーな右派とリベラルな左派の両方が、性売買に対して集団的寛容さを示し、女性身体の販売と消費を容認しているのであり、このことがこの問題の中心にあるのだ。これは、最も弱い立場にある人々に対する性的虐待だ。しかし、エプスタインに「ペドファイル」というレッテルを貼ってすますことは、彼が自分では制御できないほど若い女性に惹かれていたことが原因であるかのように示唆し、それが大規模な商業活動であったという事実を曖昧にしてしまう。そしてギレーヌ・マックスウェルは常にエプスタインのそばにいて、彼に協力していた。

 彼女はけっして強要された「侍女」ではなかったが、便利な使い走りであった。エプスタインが自殺した後、マクスウェルはサバイバーたちにとって唯一の焦点となった。しかし、彼女が有罪の評決を受けたことは、被害者である4人の女性たちの言い分が信じられたことを意味するにすぎない。だが他のサバイバーたちはどうなるのか? 彼女らの正義はどこにあるのか?

 もしマクスウェルが加害者たちの名前を具体的に挙げていたらどうか? マクスウェルが、エプスタインを通じて人間商品を買っていた連中のことを、彼らがどんなに権力者で有力なコネのある連中であっても、法執行機関にちゃんと伝ええていたとしたら? そうすれば、沈黙している女性たちにとっても、ある種の区切りをつけることになるだろうし、また、一定の意味のある抑制にもなるだろう。食後のご馳走として子供をレイプするために金を払う男たちの中で考え直す者も出てくるかもしれない。そして、すべてのフェミニストはそれが良いことであることに同意するだろう。

出典:https://unherd.com/2022/01/we-all-enabled-ghislaine-maxwell/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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