ジュリー・ビンデル「売買春の非犯罪化を煽動するロンドン現代美術館」

【解説】以下の論考は、イギリスのラディカル・フェミニストでアボリショニストであるジュリー・ビンデルさんの最新の論考です。

ジュリー・ビンデル

『アンヘルド』2022年2月4日

 ある買春客は言う、「リラックスしたいから、売春婦のところに行くんだ。俺の家の近くには小さく素敵な店があって、そこでは一律料金を払えば、飲み放題でハンバーガーも食べられるし、相手できるかぎり何人の女性ともセックスできる。そこには東洋系の女の子がいて、コンドームなしでも喜んでやってくれるんだ」。

 私がこの買春客に出会ったのは、ニュージーランドのオークランドで性産業について調査しているときだった。ニュージーランドは非犯罪化の聖地と言われている国だ。男たちはそれを大いに気に入っているかもしれないが、女たちはそうではなかった。「私は今までに何度もレイプされました」とリンジーは私に語った。「私たちを傷つけることを楽しむ人は何人もいて、最近では、やり終わった後に私の顔を殴って笑いながら逃げていったやつがいました」。

 大きな繁華街の売春店で働いていたカーリーは、たとえ店のルールがあっても、買春客はみんなそれを無視すると語った。「ピンプはどうすると思います? ピンプは、無防備なセックスをした男性により多くの料金を請求するだけ。だってやつらが手に入れたいのはそれだから。ピンプを合法的なビジネスマンに変えれば、女の子の扱いを良くすると考える人がどうしているのか、私にはわかりません。まったく理解できない。むしろ扱いは悪くなっています」。 

 多くの人は、性産業の「非犯罪化」によって、売買春の中の女性たちの生活が良くなると思っている。しかし、そうはならない。それと類似の「合法化」と同じく、それは彼女たちの生活を悪化させている。なのでなおさら、今月末にロンドン現代美術館(ICA)で開催される高度に政治的な展覧会「非犯罪化された未来(Decriminalised Futures)」に公的資金が投入されていることに驚かされる。

 「セックスワークの完全非犯罪化は、世界中のセックスワーカーの権利運動を団結させる叫びである」と現代美術館のウェブサイトに書かれている。「この旗のもと、セックスワーカーとそのアライたちは、労働者の権利、搾取の廃止、犯罪の廃止のための闘い、そして貧困に対処するための真の対策を求めて、たゆまぬ努力を続けてきた」。

 この「『セックスワーカーの権利』運動の祭典」には、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカなどの国から13人のアーティストが参加し、性産業の非犯罪化キャンペーンの歴史を紹介している。 

 この展覧会の主要な支援者の一つが、合法化ロビー団体への世界最大の資金提供者であるオープン・ソサエティ財団(OSF)であるのは、何ら驚くべきことではない。また、SWARM(Sex Worker Advocacy and Resistance Movement)も参加している。同団体は「セックスワーカーの権利が、人種的正義、移民の権利、反緊縮財政、労働者の権利、トランスの権利、その他多くの運動やキャンペーンのための闘争と密接に結びついていることを強調することを目的としている」という。

 この議論は、「セックスワークは仕事/それを合法化せよ」論にもとづいている。凡庸なリベラルな立場によくあることだが、これは事実ではなく空想に基づいている。売買春は仕事ではないし、女性の体の中を仕事場として合法化しようとする試みはすべて失敗している。 

 私は世界の性産業をよく知っている。私はアメリカ、ドイツ、スイス、オランダの合法的な売春店や路上の容認地帯を取材してきた。性を売る女性、買春客、ピンプ、売春店オーナーと多くの時間を過ごしてきたが、女性にとって非犯罪化のメリットは逮捕されないということだけだ。しかし、売春が仕事になってしまい、買春客はサービスにお金を払っているにすぎないと仮定することによる破壊的な効果を理解すると、そのメリットも色あせる。

 2000年に性産業を合法化したオランダは、それがいかに無残なものであったかをすぐに悟った。オランダの政治家たちは、約束されたメリットが何も実現されていないことを公に認めはじめた。国境を越えた女性の売買、未成年の少女の売買、それに伴うドラッグの売買、ピンプや買春客による女性への暴力や殺人など、性売買市場の暗黒面が軽減するどころか、その逆のことが起こった。合法化された直後、米国国務省は、オランダを世界の人身売買被害者の出身国のトップ5にランク付けした。

 合法化されたことで、合法的な売春店や路上の売春容認地帯と並んで違法部門も成長し、ピンプたちは増大する需要に応えるために人身売買の商品を他国から輸入した。 同じようなことがオーストラリアのクイーンズランド州でも起こった。合法的な売春店で発見された人身売買の女性の数は、違法な売春店で発見された女性の4倍にも上ると報告されている。 

 非犯罪化も合法化も、売買春を減らしたり終わらせたりする結果にはならなかった。むしろ、どちらのアプローチも、売買春は避けられないものだという考えを定着させてしまう。SWARMを含む売買春推進活動家によれば、今日の模範国は、リンジーとカーリーがひどい目に遭ったニュージーランド・モデルである。 

 2003年、ニュージーランドは性産業を非犯罪化した最初の国となったが、その法律は議会でわずか1票差の賛成多数で可決された。ニュージーランドで売春店を開くための申請書はわずか2ページで、ロンドンのバタシー・ドッグス・アンド・キャッツ・ホーム〔動物保護施設〕からペットを譲り受けるための申請書よりも3ページも短い。 

 ニュージーランドの反性売買運動家による情報公開請求によると、合法的な売春店は定期的に検査されると地方自治体が約束していたにもかかわらず、2003年から2015年の間にニュージーランド全体で検査されたのはわずか11回のみで、そのすべてが一般市民からの苦情に起因するものだった。その一方で、性産業にいる女性たちの若年化は進んでおり、男性たちはコンドームなしのセックスを要求している。 

 レイチェル・モランは、ベストセラーとなった回想録『お金で買われて――売買春の経験』の著者であり、現在は性産業に関する神話を払拭するためのキャンペーンを積極的に展開しているが、彼女はICAの展覧会に激しく反対している。 

 モランは、「非犯罪化された未来」展について次のように述べている。「アートそれ自体は別にしても、政治的な目的のために公的資金を使って展示される場合には、それが現実に即したものでなければならないはずです。この展覧会には『暴力描写』が含まれていることが警告されていますが、この展覧会の政治的目的――売春店オーナーやピンプの完全な非犯罪化を求めるキャンペーン――については何も警告されていません。この知られざる目的が意味しているのは、それが視覚的に提示された政治的プロパガンダだということです」。

 この展覧会は、「セックスワーカーは働いている(sex workers work)」「フェラチオは本当の仕事だ(blow jobs are real jobs)」と唱えるリベラル・フェミニストやヒゲ面の男たちに歓迎されるに違いない。なぜなら彼らは、実際には女性よりも男性に奉仕する似非フェミニズムに与しているからである。そして、この展覧会で作品が紹介されているアーティストの大半が、「they/them」という代名詞を名乗っており、「she/her」という代名詞を指定しているうちの1人がトランス女性であることは、実に示唆的である。売買春推進派とトランス活動家/クィア活動家は、同じ讃美歌を歌うほどに深く絡み合っている。 

 しかし、虐待を受けた女性たちが集う無数の売春店があるこの都市には、性産業の浄化されロマン化されたバージョンなど存在しない。売買春から被害を取り除くことに関しては常に議論の余地があるとはいえ、売買春を正当化しノーマル化するようなプロパガンダはきわめて危険だ。このような展覧会を開催することで、ICAはこの世界最古の抑圧を受け入れることに向けた実に強力な政治的声明を発しているのである。この企画に費やされたお金が、性産業から抜け出す女性を助けるために使われなかったことは残念でならない。

出典:https://unherd.com/2022/02/the-dangers-of-decriminalising-prostitution/

★関連文献(ジュリー・ビンデル

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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