ジュリー・ビンデル「組合では売買春の中の女性を守ることはできない」

【解説】以下は、イギリスのアボリショニストの活動家・ジャーナリストであるジュリー・ビンデルさんの最新記事です。そこにあるように、イギリスの公共サービス労働者の労働組合である「ユニゾン」(組合員数130万)が先週、北欧モデルへの支持を撤回して、セックスワーク論にもとづく決議を採択しました。それに対するビンデルさんの批判記事です。

ジュリー・ビンデル

『メールプラス』2022年2月21日

 売春を組合化することが可能だと信じるには、何よりもまず、女性の身体が適正な職場であり、労働者の権利さえあれば性産業特有の暴力や虐待に終止符を打つことができると信じなければならない。

 英国最大の労働組合の一つであるユニゾン(Unison)は、明らかにこのたわごとを鵜呑みにした。先週、ユニゾンは、買春者の犯罪化(「北欧モデル」として知られているもの)への支持を撤回する決議を採択した。北欧モデルとは、1999年にスウェーデンで初めて実施されたことからその名が付けられたもので、性産業に関する多くの問題を解決するための抜本的なアプローチをとっている。

 その主な内容は、買春客(ほとんどが男性)を犯罪化し、性を買われる側(ほとんどが女性)を非犯罪化するものだ。これに加えて、性産業からの離脱を希望する人々をサポートするための離脱戦略も用意されている。これは、1999年以降、ノルウェー、アイルランド、フランス、カナダ、イスラエルなど、多くの国で実施され、成功を収めている。

 しかし今やユニゾンは、このアプローチは女性にとって有害であり、「セックスワークは労働だ(sex work is work)」と説得された後、女性の身体の売買は単なる労働であるというアプローチを採用することを選択した。

 これは女性の権利にとって恐ろしいニュースだ。信頼のおけるあらゆる調査が示すように、北欧モデルは暴力を減らし、スティグマを女性から買春男性へと移し、被買春者が性産業から離脱するのを助ける。なぜ北欧モデルへの支持を撤回するのか? 組合の仕事は搾取を防ぐことであって、搾取を助長することではないはずだ。

 それに、売春の組合化は以前から試されており、完全な失敗であることが証明されている。2003年、英国で3番目に大きな組合であるGMBは、性産業の全面的な非犯罪化を求めるロビイストたちから、売春は仕事であり、「労働者の権利」が女性たちに新しいユートピアをもたらすと説得された。しかし、同労組の支部が存在していた期間、それは主として、売春に従事している人々ではなく、「エロティック・ダンサー」を代表していた。この支部は、「セックスワーカー」にとっては何の役にも立たない、ピンプの代弁者のような存在だった。

 2000年に性産業を合法化したオランダには、「レッド・スレッド」という今は亡き組織があった。それは崩壊するまで労働組合を装っていた。1987年からオランダ政府からの資金援助を受けていたが、2009年に閉鎖された。当時、オランダで売買春の中にいた推定2万5000人のうち、同組織に属していたのは最盛期でもわずか100人ほどだった。組合員のために法廷で争うでもなく、性産業に従事する人々の生活にほとんど何の変化ももたらさなかった。興味深いことに、レッド・スレッドが政府からの資金援助を受けられなくなったのは、オランダで合法化が大失敗だったことを示す証拠が出てきたのと同じ頃だった。

 「セックスワーク」の組合化を支持する主張は、事情を知らない人には説得力がある。売春は仕事であり、労働者には権利があり、その権利を確立し保護する必要があるというわけだ。たとえばGMBは、売買春の中にいる女性たちに他の職業と同じ保護を提供できると主張した。しかし、性産業にいる女性たちは他の労働者と同じような問題に直面しているのだろうか、そして組合は本当に変化をもたらすことができるのだろうか? 労働組合運動の役割の一つは、労働者の連帯を促すことである。しかし、売買春の中にいる人々の多くは、しばしば混沌としたライフスタイルを送っているため、女性同士の不信感や競争が助長されやすい状況にいる。そして、雇い主はいったい誰なのか? ピンプや売春店のオーナーか? この連中を管理職と呼んで正当化すること(組合をつくる場合には当然そうなる)は本当に許されることなのか。

 売買春の中にいる女性たちの職業上の危険性は、他の「仕事」とは異なる。HIV、薬物・アルコール中毒、社会福祉施設による子供の連れ去り、買春客やピンプによる暴力と性的暴行、レイプ、そして死さえも。このようなことが、はたして職業上の危険性として受け入れ可能なものだろうか? 女性労働者を代表する組合の主な仕事は、セクシャルハラスメントや望まぬ性的言い寄りなどから女性労働者を守ることだ。しかし、セクシュアルハラスメントや望まぬ言い寄りこそまさに売買春の定義をなすものであり、男たちがお金を払ってすることに他ならない。だとすると、どうやって組合は女性の安全を守るふりをすることができるのか? 売春婦のレッテルを公けに貼られることを望む女性はほとんどいないし、レイプや性的暴行など売春店で起きている現実的な問題は、労働裁判所ではなく、通常の法廷でしか扱えないものだ。

 職場での暴力は、性産業で働く女性にとってごく日常的な問題である。たしかに、他の労働者にとってもそれはけっしてまれなことではない。しかし、売買春がけっして「他の仕事と同じ仕事」でないのは、そもそも女性の身体はけっして売り物ではないからだ。存在するのは「顧客」ではなく、一方的な性的快楽のためにお金を払う男たちがいるだけだ。どうしてユニゾンがこのような搾取を正当化しうるのか、私にはまったく理解できない。

出典:https://www.mailplus.co.uk/edition/comment/156910/giving-prostitution-a-union-wont-protect-women-itll-just-legitimise-their-pimps

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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