【解説】以下は、Nordic Model Now! の代表を務めているアナ・フィッシャーさんが今年の国際女性デーにイギリスの社会主義日刊紙『モーニング・スター』に寄せた記事です(『モーニング・スター』はイギリスの左翼メディアの中でほぼ唯一の反売買春の立場を明確に打ち出している新聞)。アナさんの許可を得て、ここに掲載します。
アナ・フィッシャー
『モーニング・スター』2022年3月8日
左翼界隈では、「セックスワークは本物の仕事である(sex work is real work)」と主張し、そうでないことをあえて示唆する者は右翼、ファシストであるとさえ主張するのが流行している。もし「セックスワーク」が本物の仕事なら、性産業の完全な非犯罪化が解決策になる、と話が続く。
数年前、ソーシャルメディア上で「セックスワークは仕事だ(Sex work is work)」というスローガンが書かれたTシャツだけを身に着けた男性と、彼の前で膝をついて表向きはフェラチオをしている裸の女性の写真が話題になった。男の顔は、特権と独善を絵に描いたようだ。女の顔は彼の股間に埋もれているため、見えない。

この写真をもう少しよく見てみよう。まるでお祈りのポーズのように、彼女の頭がやや斜め上に傾いているのがわかるだろう。彼女の首へのストレス、体の緊張を感じてほしい。彼女はその姿勢で体を固定し、アゴを酷使して口を動かしているのだ。
そして、男の顔を見てほしい。彼の目は閉じられている。彼の意識は自分自身に向けられている。彼女ではなく、自分自身に。掃除機でペニスを挿入して救急車で運ばれた男の話を思い出すなら、なぜオナニーマシンでなく、女にそれをやらせる必要があるのかと思うだろう。すると、この問題の核心が見えてくる。男がご主人様になるために女が必要なのだ。機械ではダメなのだ。
では、写真で男女が逆になっているところを想像してみよう。女性がTシャツ一枚で、若い男が女性の股間に顔を突っ込み、頭を少し上に傾けて祈るように、全身に力を込めている光景を。これは簡単にイメージできるものではない。ちぐはぐな感じがする。解剖学的な理由だけではない。何世紀にもわたって女性の性が恥ずべきもの、危険なものとして位置づけられてきたからでもある。そして、女性がその性ゆえに、いかに罰せられ、拷問されてきたことか――男性には想像もつかないような規模でだ。
そして、若い男性が1日に5人、10人、15人の見ず知らずの女性に対して「オーラルセックス」をしなければならないことを、普通の仕事と考えるか、と問う必要がある。もしそうでないなら、なぜそうなのか? 他ならぬあなたはその仕事をしたいか? もししたくないなら、なぜそうなのか? これは見ず知らずの人にコーヒーを出すのと本質的に違わないと、心から言えるのか?
しかし、その場合、忘れてはならないのは、それは男性が求めるものであり、女性にはありえない規模でそうだということだ。たしかに若い男性がこの「仕事」なるものをしている場合もあるが、その場合も「客」の大半はやはり男性なのだ。若い女性の「客」の大多数が男性であるのと同じだ。そして、ここに問題がある。これは本当はオーガズムの話ではない。もしそうなら、機械を買えばいい。女性用のバイブレーター。男性用のテンガ。
もう一回、先の写真を見てみよう。ご主人様としての男、下僕としての、奴隷としての女。このことを示しているのがこの写真だ。労働組合運動が正当化したいのは、こういうことなのだろうか。私たちの母や父、祖母や祖父の世代がかくも長い間懸命に戦ってきたのは、こんなことのためなのか?
ご主人様としての男、下僕としての女。そして、その関係の上に成り立つ強欲な性産業。この産業は、(大部分)若い女性が男性をご主人様にすることで、儲けを上げ、利益を得ている。まるで、男は互恵関係のルールに縛られた社会的な生き物ではないかのように。まるで若い女性の健康や幸福、性的な尊厳などどうでもいいかのように。
数週間前、イギリスの大手労働組合の一つであるユニゾンの女性会議は、同労組が10年以上にわたって支持してきた北欧モデル・アプローチを放棄し、代わりに売買春の完全非犯罪化を支持するよう働きかける方針を可決した。性売買の完全非犯罪化は、売買春が通常の仕事であるという理解が前提となっている。そのためには、売買春に関するすべての法律を撤廃し、売買春を他のビジネス活動とまったく同じように扱うことが必要だ。セックスを買うことは、散髪をすることと何ら変わりはない。売春店の経営は理髪店の経営と同じだ。ピンプは立派なビジネスマンだ、と。
経済学者でなくても、そんなことをすればこの業界の急速な拡大につながることはわかる。セックスを買うことが散髪と変わらないものであるかのように提示されれば、当然ながらそうする男が増える。数ヵ月もすれば、あらゆる都市や郊外の工業団地に何階もある大型売春店が出現することになるだろう。労働者階級の連帯はどうなるのか? 女性はどうなるのか? ひざまずいて、男はご主人様となり、女は下僕、あるいは奴隷になるのか。
労働組合員よ、どうか正気に戻ってほしい! そんなことはやめてくれ! すべての女性にとってどのような影響があるか考えてほしい。すべての労働者にとって前例となってしまう。性産業のプロパガンダを鵜呑みにするな。あなた方が代表するすべての善良で勤勉な女性を裏切ってはならない。次の世代を裏切ってはならない。職業安定所が若い女性を売春店に送り込むような世の中を作ってはならない。
売春は普通の仕事ではないのだ。
出典:https://morningstaronline.co.uk/article/f/iwd-content-sex-work-normal-job-really
★関連記事(アナ・フィッシャー)
「アナ・フィッシャー「売春は普通の仕事ではない――国際女性デーに労働組合に訴える」」への1件のフィードバック