「売買春は人間性を奪う」――フシュケ・マウへのインタビュー

【解説】以下は、『人間性を奪われて――なぜ売買春を廃絶しなければならないか』を2022年3月に出版しベストセラーとなったフシュケ・マウさんへのインタビューで、ドイツのメディアに公開されたものです。自身サバイバーであるマウさんの記事としてはすでに、このAPP国際情報サイトで「買春者たち」をアップしており、過去最大の1万以上のアクセスがありました。

 なお、上の写真は、ドイツでおなじみの道路脇にずらっと並んだ簡易の買春ボックスです(写真はケルン近郊)。この種の簡易買春施設はまるで公衆便所のようにあちこちに建てられ、いつでもどこでも、男が女性(ほとんどは人身売買されてドイツに来ている移民女性)を買ってセックスできるようになっているのです。これが、日本の左派やリベラル派が絶賛する「ジェンダー平等国」ドイツ(メルケル政権下でも何ら変わらなかった)の本当の姿です。

インタビュアー:ラファエル・シュメラー
『ユンゲ・ヴェルト』2022年10月19日

『人間性を奪われて――なぜ売買春を廃絶しなければならないか』という本を書かれましたね。売春婦はもはや人間として認識されていないということでしょうか?

 売買春では、女性は商品に貶められるので、人間性を奪われてしまうのです。左翼の一部がそれをセックスワークとして美化し、そこでの搾取の存在を否定する一方で、すべての労働は搾取だと言っていることに私は驚きました。これは矛盾ですよね。すべての労働が搾取であるなら、セックスワークも搾取です。

セックスを買うことはレイプだとまでおっしゃるのは、どうしてですか?

 先日、マヨルカ島では、買春されている女性たちの4人に1人が人身売買の被害者であるという記事を読みました。そういう記事は、さまざまな新聞でしょっちゅう目にします。ですから、買春客たちだって知っているのです。それにもかかわらず、彼らはセックスを買う。相手の女性が自発的にやっているかどうか、知るよしもないままにです。まさにそこがポイントです。私たちはずっと「MeToo」について、同意についてさんざん語ってきましたよね。よりにもよって売買春で、それが適用されないというのはどういうわけでしょう。

 問題はこうです。売買春では、女性が自発的にやっているかどうかを客は知ることができないのですから、そもそも同意が成立しないということです。なにしろ、強制された売春においてさえ売春婦は客に微笑みかけるのです。なので、解決策はただ一つです。もし私が男として、女性が自発的にやっているかどうか確信が持てず、また女性が自発的にやっていないリスクが高いとわかっているならば、手を懐に入れたままにし、ペニスはズボンの中にしまっておくということです。

売買春の推進派は、自己決定したセックスワーカーの割合が高いと言いますが、そうなんでしょうか。

 市場で取引されるセクシュアリティには、自己決定することができません。需要と供給のような経済状況に左右されるのです。何が自発的なのでしょうか。たとえば貧困による売春は自発的なのでしょうか。これについてあと100年も議論できるでしょう。10人の女性のうち9人が自発的に売春していないことがわかれば、その時ようやく売買春の廃止を決断するのに十分だと考えるのでしょうか。それとも実際に10人の女性中10人全員が自発的に売春していないことがわからないとだめなのでしょうか。

その数値はどのように算出されているのでしょうか?

 アメリカの科研究者であるメリッサ・ファーリーさんが大規模な調査を行ない、9カ国の売春婦たち数百人に何がいちばん必要かを尋ねました。すると、10人中9人の女性が、「出口」と答えました。つまり、10人中9人の女性は、自発的に売春をしているわけではないのです。だから、いつも自発的とか自己決定的なセックスワークを言い出す人たちは、1割のことしか考えていないんです。それは議論の的を外しています。そもそも売買春や女性を買うことが許されていいのかどうかを、社会として決めなければならないのです。しかし、議論は個別的に行なわれます。問題は、少数の女性が自発的に行なっているかどうかということではないのです。

売買春の合法化を支持する論拠のひとつに、それによって「業界」の労働条件が改善されるというものがあります。それについてどう思われますか。

 先ほど述べたように、ほとんどの女性が自発的にやっていないことが主たる問題です。しかし、その論拠については、よく聞く話です。そうすれば、女性たちは〔自治体に〕登録している正規の売春店に入ることができるというわけです。しかし、登録売春店であっても、そこに自発的に入るのでないとしたら、何の意味もないのではないですか。それがこの国の現状なのです。ドイツでは、何万人もの強制された売春婦が合法的に登録されており、まるで問題にされていません。自発的に行なっているわけではないということは、どうでもよいことのようです。問題はそもそも、売春を安全に行なうことはできないということです。なぜなら、その核心がすでに暴力なのですから。女性と寝て、それが強姦かどうか後から言えない男、そういう男がどうやって売買春を安全にすることなどできるでしょうか。

典拠:https://www.jungewelt.de/artikel/436955.ausbeutung-mich-wundert-dass-linke-das-als-sexarbeit-verkl%C3%A4ren.html

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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