アリーマリー・ダイアモンド「ニュージーランドの性売買における暴力と人種差別」

【解説】これは、ニュージーランドの先住民性売買サバイバーであるアリー=マリー・ダイアモンドさんが、2023年3月13日に開催されたUN Womenの年次フォーラム#CSW67のセッション「農村女性の性的搾取――被害者からリーダーへ」でのスピーチをテキスト化したものです。Nordic Model Now! の許可を得て、ここに全訳します。本サイトには、ダイアモンドさんの証言としては他に「なぜ私は北欧モデルを支持するのか――ニュージーランド先住民サバイバーの証言」があります。

 この証言を読めばわかるように、ニュージーランドは世界で最初に売買春を完全自由化した国ですが、それによって売買春の中の女性たちが守られるどころか、公然と暴力を受け、被害を訴えても警察に相手にされなくなっている実態が暴露されています。未成年の少女を売買した犯罪者でさえ、非常に甘い対応がされていることがわかります。しかも被害者の大多数はマオリや太平洋諸島の先住民であり、ニュージーランドの白人男性たちは、リベラルな建前を唱えながら、先住民の女性と少女を日常的に売買しているのです。

アリーマリー・ダイアモンド

Nordic Model Now!, 2023年3月22日

 私の名前はアリーマリー・ダイアモンド、性売買のサバイバーです。私はニュージーランド出身で、マオリとサモアとヨーロッパ系のミックスです。

 ニュージーランドは私の生まれ故郷であり、私の心が常に属している場所です。だからこそ、私は自分の生きてきた体験と未来への希望を語り、声を増幅させ、あまりにも長い間秘密にされてきた真実を明らかにしようと思ったのです。

 搾取されるマオリと太平洋諸島(パシフィカ)の女性と少女

 ニュージーランドでは、性売買のかなりの部分はマオリと太平洋諸島の女性たちによって構成されており、そこに不釣り合いなほどたくさんいます。マオリと太平洋諸島の女性は、ニュージーランドの人口の約16%しかいないのに、性売買ではその倍の31.7%を占めていることは憂慮すべきことであり、他のどの民族よりも多いのです。彼女たちは性売買において最も支払われる額が少なく、最も暴力や虐待を受けるリスクが高く、路上や未登録の低俗なマッサージパーラー〔マッサージを装った売春店〕などの最も危険な環境で買春されています。また彼女たちは、パケハ(白人)に比べ、貧困やその他の要因により、16歳未満で性売買に巻き込まれる可能性が高いのです。

 すでに、マオリや太平洋諸島の9歳の子どもが路上で売られたり、マッサージパーラーで買春されたりしているという話も聞いています。また、性売買の中で殺された女性たちの大半は、有色人種の女性です。ニュージーランドでは白人と有色人種の間には明確な溝があり、白人男性が有色人種を搾取する最前線にいるのです。

 ニュージーランドにおける性売買のノーマライゼーション

 ニュージーランドでは性売買と搾取がノーマルなものとされているため、メディアは性売買の当事者、特に子どもからの虐待や暴力を、「被害者のボーイフレンド」などと表現して最小限に評価することがよくあります。メディアは、被害者が被っているグルーミング、強制、人身売買、搾取に焦点を当てるのではなく、この虐待の存在を最小限に見積もっているのです。これは最も悔しく憤りを感じさせるものです。ちょうど、性的虐待やレイプ、ドメスティック・バイオレンスなどがかつてタブー視され、誰も耳と傾けたがらなかったように、性売買における有色人種の女性や子どもに対する暴力、人種差別、性差別が覆い隠され、ないことにされているのです。

 最近、ニュージーランドの地方都市ノースランドで、未成年の性的人身売買業者に関連して5人の男が逮捕されました。彼らはニュージーランドの売買春改革法に基づく罪に問われました。しかし同法の欠陥のせいで、5人のうち最初に判決を受けたマーカス・バーカーは、「15歳の少女と違法な性的関係を持ち、彼女から性的サービスを受け、性的サービスを提供するよう手配した」という罪でわずか12ヶ月の自宅拘禁を受けただけでした。彼の判決は、一連の裁判に一貫性を持たせる必要があるため、この事件に関するその後の判決の基調をなすものとなります。

 この事件の中心人物である他の無名の男性の1人は、地元メディアから「被害者のボーイフレンド」と呼ばれ続けており、結局、事件を矮小化し、単に年齢の問題にとどめ、長期にわたるグルーミング、捕食、搾取の問題とはされていません。

 人身売買と搾取の実態

 農村部に住む人々は、最も人身売買や搾取の危険にさらされており、私たちの国の中で最も脆弱な立場にあり、その大多数は有色人種で、貧困、家族の暴力、虐待、教育やリソースの不足の中で生きています。世界保健機構(WHO)の調査によると、マオリの少女はヨーロッパ系の少女の約2倍、性的虐待を受けています。オークランドではヨーロッパ系の17%に対し、マオリの30.5%、ワイカト北部の農村部ではヨーロッパ系の20.7%に対して、マオリは35.1%です。

 マオリの家族はほとんどが農村部出身で、私たちの子どもたちの多くは、貧しさのために学校に通っていません。子どもたちは支援が足りないせいで、あるいは家庭内暴力、アルコールや薬物の使用、家族やコミュニティ内での性的虐待などのせいで、家出をし、お金を稼ぐためにオークランド〔ニュージーランド北島にある最大都市〕などの都市に逃げ込みます。しかし、そこに着いても、選択肢は限られています。12歳の少女は正規の教育をほとんど受けておらず、できることは限られています。選択肢がまったくない人もいます。つまり、逃げて行った都市でギャングにつかまり、ドラッグを売らされたり、売春をさせられたりすることも多いのです。

 街頭「セックスワーカー」を支援する団体「ストリートリーチ」の代表、デビー・ベイカーは、中心街で少なくとも12人の11歳から15歳の少女が「セックスのために自分を売っている」と報告しています。

 「若い肉体ほど多くのお金を稼ぐことができる」と彼女は言います。「未成年の売春は以前から問題になっていたが、最近とみに増えています。そういう若い女の子をどんどん見かけるようになりました」。

 ベイカーは、大麻を売るためにギャングにスカウトされた12歳の少女を知っていると言います。クスリ代にお金を費やした後、その少女はギャングへの借金を返すために売春婦にさせられ、その仕事で得たわずかな余剰収入を家族と分け合うのです。「彼女の両親は、彼女が何をしているのかよく知っていた」と彼女は言います。

 貧困や、資金、支援、サービスの欠如のため、農村地域の家族は子供を売春に送り出しているのです。それで得たお金で家族全員、場合によっては地域社会を養うことができるからです。選択肢について言うと、これらの子供や女性には選択肢などありません。生きていくために、そして家族を養うのに必死で、売春が唯一の選択肢になるのです。

 農村部に住む有色人種の女性や子どもたちが最も危険にさらされており、人身売買業者の餌食になっています。人身売買業者は、絶望した人々が自分の子どもや家族を守るためなら何でもすることを知っているのです。

 女性や少女に対する暴力

 現在、ニュージーランドでは、

・マオリと太平洋諸島の女性は、ニュージーランドで最も高い割合でパートナーから殴られ、殺されている。

・調査によると、マオリと太平洋諸島の女性の最大80%が、一生のうちに家族や性的な暴力を経験する。彼女たちがパートナーに殺される確率は、白人女性の3倍。

・マオリと太平洋諸島の女性は、ソーシャルサービスや法執行機関に助けを求めても、被害者とみなされず、粗末に扱われる。

・マオリと太平洋諸島のコミュニティでは、犯罪を通報した場合、子供が連れ去られるという現実の恐怖がある。

 マオリと太平洋諸島の女性や子どもに対する暴力が悪化していることは、よく知られています。ニュージーランドでは性暴力が常態化しており、女性や子どもに対するあらゆる形態の暴力は年々悪化しています。地域のリーダーやメディアはみな、「どうじて? なぜニュージーランドは他の国よりもこんなに暴力的なのか?」と疑問を発しています。

 売買春改革法の失敗

 2003年、ニュージーランドは売買春の完全非犯罪化法を成立させました。この法律は、女性や子供、特に有色人種の女性と子供に対する暴力を助長しただけでした。完全非犯罪化によって、女性の売買は普通の仕事であり、それは女性をエンパワーさせる選択であり、受け入れるべきだという態度が、性売買そのものの中だけでなく、社会全体の中で定着してしまいました。

 ニュージーランドでは、売買春改革法が成立して20年になりますが、この法律は女性、特にマオリ、太平洋諸島、先住民の女性、貧困、ホームレス、家庭内暴力、ドメスティック・バイオレンスを経験している人々の期待を裏切り続けています。完全非犯罪化は、女性や子どもに対する暴力を常態化させています。女性や子どもに対する暴力を減らすのではなく、むしろそれを助長しているのです。

 性売買被害者へのサービスの必要性

 ニュージーランドでは、トラウマに焦点を当てたサービスが切実に求められています。性売買で暴力を経験しそこから抜け出したい人たちのために、文化に配慮し文化的に構成されるサービスが必要なのです。

 また、予防サービスも必要です。もし農村コミュニティが、家族が生きるために子供たちに売春させなくてすむような支援やサービスを受けられたなら、そして脆弱で人身売買業者のターゲットになりやすい状態を改善する支援やサービスが存在したのなら、本当に重要で本当に必要とされているところに変化を起こすことができるようになるのです。

 ドメスティック・バイオレンスや家族間暴力のためのサービスはありますが、性売買で搾取されている有色人種の女性や子どもたちのためのサービスはありません。彼女らは、選択肢がなく搾取されやすいという脆弱性を抱えて生きています。だからこそ、私たちの団体「ワヒネ・トア・ライジング(Wahine Toa Rising)」が誕生したのです。

 私たちは、弱い立場にある女性や子どもたち、特に有色人種の女性や子供たちが、決めつけや非難、嘲笑を受けることなく、話を聞き、評価し、サポートできる場が急務であると考えました。自分が危険にさらされているときに、相手を」信頼し頼ることのできるサービスです。被害者やサバイバー、子どもや若者は現在、守られていると感じられず、助けを求めようとしても、報復としてさらに危険な目に遭うので、沈黙していると話しています。また、支援団体や支援窓口に助けを求めようとすると、安直に決めつけられ、「何もできない」と言われてしまうという話も多く聞きました。特に地方の有色人種コミュニティの出身者の場合は、なおさらです。

 また、性暴力関係の団体に、サポートを必要としている性売買サバイバーについて話を持ちこんでも、耳を塞いでしまいます。あるいは、「セックスワークはワーク」であり、性暴力の範疇ではないので、何もできないと言われます。

 性暴力にさらされて助けを求めてやって来た女性や子どもたちは、性売買をしていると言うと、被害を信じてもらえないことが多いのです。彼女たちの経験、マネージャーやピンプ、買春者による虐待について語っても、信じてもらえません。サバイバーたちは、暴力が自分の身に起こったこと、そしてそれが空想の一部でないことを頑張って証明しなければならないのです。

 警察もこの状況に対処できていない

 警察は資金も手段もないため、行動する力がありません。もし未成年の女性がセックスで売り買いされているのを見つけたとしても、警察にできることは、おそらく虐待を受けているであろう家に被害者を連れ帰ることだけなのです。

 このように、ニュージーランドでは性売買が常態化しており、最も脆弱で不利な立場にある女性や子供たち(ほとんどが有色人種)の声に誰も耳を傾けていないのです。私は、性売買の中にいた有色人種女性としての思いや生きた経験を共有することで、地域社会だけでなく政府内にも変化をもたらすことができればと考えています。

 完全な非犯罪化が撤回されるまで、ニュージーランドでは有色人種の女性や子どもに対する暴力は増え続け、悪化していくでしょう。もし加害者たちが暴力を振るっても何の報いも受けないなら、彼らはどこまでやれるかの限界に挑戦しながら、暴力を続けるでしょう。政府や社会が声を上げることを恐れているため、男たちの手によってどれだけの命が失われるかを考えると、怖くなります。

 変革に向けたコミットメント

 ベラ・テパニアは若いマオリの母親で、何度も性売買から抜けようとしたが、彼女を助けてくれるサービスや支援はありませんでした。そして、ある日、売買春の世界に戻ってきた彼女は殺され、現在、彼女の娘は母親のいない人生を送っています。

 彼女の話を読んで、私はあることに気づいたのです。性売買における私の経験は、私が何もしないなら私を支配し続ける存在であり続けるだろうということ、私を殴り、虐待し、暴力を振るった加害者たちは、私が沈黙しているかぎり、勝者であり続けるだろうということです。

 この時、私は本当に自分の声を見つけ、自分の思いと自分自身の声を大きくする方法を発見しはじめたのです。私は自分の人生において正しい道に立っていると完全に確信しました。しばしば嫌な記憶がよみがえり、感情が私を圧倒し、何度も立ち去りたいと思いました。しかし、忘れられないベラの顔を思い浮かべ、私が大切にしているベラの物語を思い出しました。私が黙っていれば何も変わらず、より多くの命が奪われることを思い起こさせてくれた彼女の殺人事件のことを思ったのです。

 だからこそ、私は自分が成長する方法を見つけ、同じように変革の旅をしている人たちとつながり、学び、より強く、より多くの情報を得、より賢く、より大きな声で、より破壊的になることができるのです。

 ワヒネ・トア・ライジング

 ワヒネ・トア・ライジング(Wahine Toa Rising)は、その声や思いが届いていない弱い立場にある女性や子どもたちの生活に影響を与えたいという私の夢から生まれました。ワヒネ・トア・ライジングは、2019年から法人格のない任意団体として運営されています。その間、性売買で搾取されている100人以上の女性や子どもたちを支援してきました。政府やコミュニティで開催される多くのイベントで、私たちの経験と思いを共有してきました。しかし、さらに力づけられるのは、2019年に私たちは2人のサバイバーから始まり、今では10人のサバイバーの声が私たちとともにあることです。

 サバイバーの声、証言、本、旅がなければ、私たちの闘いは空っぽになってしまいます。彼女らこそがこの闘いの中心であり、彼女らや何千人もの女性や子どもたちが、昼夜を問わず、いまだにこの拷問の中で生きているのです。

 私たちは、自分が経験した、そして今でも時々経験する拷問部屋に、誰も住まなくなるように声を上げています。なぜなら、私たちがこの世を去ったとしても、その記憶や感情、感覚は、まるで呪われたかのように、私たちの周りに残っているからです。言葉に出すと、その時の記憶がぱっとよみがえり、私たちが感じた感情を感じ、虐待、拷問、有償レイプをまだ体験しているかのように感じてしまうことがあります。サバイバーが真実を語るのを耳にしたら、彼女らを祝福し、彼女らの声に耳を傾け、彼女らを見つめ、彼女らを評価することが重要です。彼女らは、他の女性や子どもたちの自由のために、自らの感情的、身体的、精神的、そしてスピリチュアルな健康を犠牲にしているのですから。

 ワヒネ・トア・ライジングは、最も弱い立場の人々への搾取をなくすという共通の目的のために集まった勇敢なサバイバーのリーダーたちなしには存在しません。今年、私たちは、希望を与え、意識を高め、コミュニティにおける女性や子どもに対する暴力や搾取をなくすために集まり、法人化に向けた一歩を踏み出しました。サバイバー主導の組織はこの変化に欠かせません。

 ニュージーランドで性売買に従事していた私は、助けが必要なときに助けが来ず、泣き叫んでも誰も私の声を聞いてくれませんでした。このような声を聞き、求められる支援を提供することが、私たちの使命です。マリアンヌ・ウィリアムソンの言葉を借りれば、「私たちが自分自身の光を輝かせるとき、私たちは無意識のうちに他の人々にも同じことをすることを促している」のです。サバイバー・リーダーたちとともに立ち上がる私たちのワヒネ・トア・ライジングは、その光なのです。

典拠:https://nordicmodelnow.org/2023/03/22/violence-and-racism-in-the-new-zealand-sex-trade/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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