ポルノに支配される若者たちの脳――ゲイリー・ウィルソンの著書を読む

【解題】以下は、Nordic Model Now! の最新記事の全訳であり、インターネットポルノが若者たちに及ぼす深刻な被害と、そこから脱却するためのプロセスについて説明したゲイリー・ウィリアムズ氏の『ポルノに支配される脳――インターネットポルノと依存症の新たな科学』〔邦訳は、ゲーリー・ウィルソン『インターネットポルノ中毒――やめられない脳と中毒の科学』DU BOOKS、2021年〕に対する書評です。同書はけっして、フェミニズムの立場からするポルノ批判ではなく、医学的な立場、あるいは若者をポルノ社会から守るという立場からの著作です。NMNの許可に基づいてここに紹介します。

 インターネットポルノ(以下、ネットポルノ)の強迫的な利用が一種の依存症になりうるという考えは、一部のフェミニスト界では評判が悪い。これは男性を免罪することになる、それどころか彼らを被害者に位置づけることにさえなるという確信があるようだ。おそらく個々の男性も男性全体も被害者になってしまう、と。私は長い間、これは誤った論理であるだけでなく、人を過たせるものだと感じてきた。

 男性は生まれつき暴力的だと考えるのは簡単かもしれない。しかし、それはかなりニヒリスティックな見方だ。もしそれが本当なら、変化をもたらす現実的な希望はない。われわれはあきらめるしかない。

 ポルノや売買春の男性利用者が経験する葛藤に焦点を当てることは、ポルノや売買春が女性や子どもたち――直接の当事者たちも、また暴力ポルノを見て興奮した男性によって同じ行為をさせられる人々も――に与える非常に現実的なトラウマを矮小化する懸念がある。しかし、何が男性をこのような行動に駆り立てるのかを理解しないのであれば、私たちは彼らを道徳的に非難するしかないが、非難は、変化をもたらすための効果的な戦略ではない。

 NoFapコミュニティ〔ポルノ視聴をやめたい人のためのSNSコミュニティで、リベラル派からは保守的ないし宗教右派系などと攻撃されている〕でよく使われる言葉を使えば、「大規模な行動変容」あるいは「大規模なリブート」が緊急に必要なのだ。ポルノが人々の生活を破滅させ、社会構造を壊滅的に破壊しているのは明らかなのだから、人々にそのような行動変容が起こすのに役立つのであれば、何だって〔つまりフェミニスト的なものでなくても〕いいのではないかと私は言いたい。男性がポルノの習慣をやめたほうが、女性や子どもたちのためになるのではないか? そのためには、その行動の根底にある中毒性の神経学的、生物学的、進化的な諸力を理解することが必要なのだとしたら、そうしようではないか。

 ゲイリー・ウィルソンの『ポルノに支配される脳――インターネット・ポルノと依存症の新たな科学(Your Brain on Porn: Internet Pornography and the Emerging Science of Addiction)』は、そのためのツールを提供してくれる。率直に言って、私たちが今生きている世界を理解したい人なら、誰もがこの本を読む必要がある。親、教師、青年向け相談員、政治家、政策立案者、カウンセラー、セラピスト、医療専門家ならなおさらだ。そして、フェミニストもそうだ。

 本書は約10年前に初版が出版され、2017年に第2版が出版された。技術的な面でも、新しい研究の面でも、その多くがウィルソンの結論を裏づけている。ウィキペディアや他の多くの主流出版物に頼っていれば、このことはわからないだろう。何十年もタバコ産業は、あらゆるエビデンスを無視して、喫煙は無害であり、健康をもたらすことさえあるという主張を繰り返してきたのと同じく、莫大な既得権益がそこには絡んでいるのだ。

 この本は、現代のネットポルノの内容――いかにそれが暴力的でミソジニー的であるか――については詳しく触れていないし、男性がポルノを強迫的に使用することがパートナーや家族に与える恐ろしい影響にも焦点を当てていない。そうしたことは言うまでもないこととされている。一部の人は、そうした実態がわかりさえすればいいと思っている。つまり、そのことが理解できれば、おのずと人はポルノをやめるだろうと。しかし、人生における多くのことがそうであるように、事はそう単純ではない。そこで本書の出番だ。本書では、この問題と、なぜこれほどまでにポルノが定着してしまったのか、その生物学的、神経学的、進化論的根拠、そしてどうすればコントロールを取り戻せるのかについて説明する。

私たちは何に直面しているのか

 第1章では、憂慮すべき現実を説明し、特に若い男性のポルノ使用の多くが、依存症の重要な兆候に合致していることを示す。高速ネットポルノと、古い世代が読んで育ってきた雑誌ポルノとは雲泥である。

「雑誌だと、ポルノの使用は週に数回だったし、それほど「特別」ではなかったから、おおむね制御できた。でも、ネットポルノの泥沼の世界に足を踏み入れたとき、私の脳はもっともっとと欲しがるようになった。半年も経たないうちに、すっかりコントロール不能に陥った。雑誌を何年も読んでいたが問題なかったのに、数ヵ月のネットポルノですっかり僕は中毒になった。」(12ページ)。

 ネットポルノの高速利用は、自分のセクシュアリティを発見する健全な方法とはほど遠く、性欲や現実のパートナーや人生の目標への関心を失い、集中できなくなり、緊縛、サドマゾヒズム、獣姦、フェティシズム、児童虐待など、より過激で暴力的なものへとエスカレートしていくことが多い。それとともに、自分が視聴したものを誰かに試してみたいという欲望も抱くようになる。たとえば自撮りサイトを通じて、あるいは親密なパートナーに、もし相手が同意しなければ売買春の中の女性たちに、あるいは子供にさえ、やってみたいという欲求が生じる。

「レイプ、殺人、服従について抱いた妄想は、18~22歳のハードコア・ポルノ使用前にはなかったと断言できる。5ヵ月間ポルノから遠ざかっている間に、そうした妄想や衝動はすべて消えた。私の自然な性的嗜好はごく普通のものに戻り、今もそうだ。ポルノで興奮するには、よりハードで、よりタブーで、より刺激的で、より「やばい」ものが必要になる。」(46ページ)

 被害は男性だけではない。少女や女性がポルノを視聴し続けると、通常なら忌避するような行為に対する嫌悪感が上書きされてしまう。その結果、性的搾取産業に巻き込まれることを含め、現実の逸脱した性行動を受け入れたり、求めたりするようになり、深刻な被害を受けることになる。

 ネットポルノの利用が自分たちに与えていた害に気づき、ポルノをやめるか、やめようとしている人たち、そしてそれを支え合っている人たちのオンライン・コミュニティのネットワークがある。ウィルソンは、そのようなフォーラムでの証言を紹介している。

「(18歳) 僕は15歳でポルノを始める前は、ものすごく性欲旺盛で、女の子なら誰でも追いかけてたぐらいだ。女の子とイチャイチャすると、めちゃくちゃ勃起した。でも、ポルノが僕をダメにした。女の子にまったく興味がなくなり、勃起を維持することもできなくなった。ポルノに溺れる以前だったら女狂いのはずなのに、この若さで何かが間違っていると思った。17歳のとき、ポルノをやめて、やり直すことにした。昨日、ED(勃起不全)治療薬なしでセックスに成功した。」(53ページ)

 最終的にやり直しに成功した別の男性は、ポルノの使用がどのような影響を与えたかについて、こう説明する。

「友人たちが離れていった。自分の部屋で自慰にふけるために、人付き合いをあきらめた。家族は僕を無条件に愛してくれたが、一緒にいても楽しくなかった。大学の授業だけでなく、仕事にも集中できなかった。恋人もいなかった。人間関係全般に不安があった。猛烈に体を鍛えたが、何も得るものはなかった。精神的に参っているとみんなに言われた。ビデオの画面にちらっと映る僕の目は、うつろなまなざしだった。家には誰もいなかった。まさに虚脱状態だ。いくら寝てもエネルギーが回復しない。何もない。まったく何もない。いつもへとへとだった。目の下のくま、顔色、にきび、脱水症状。ひどく落ち込んでいた。ポルノによるEDだった。ストレス、不安、混乱、迷いがあった。人生を生きてはいなかったが、死んでもいなかった。僕はゾンビだった。」(29~30ページ)

 現在、若い男性の間でネットポルノの乱用はほぼ普遍的であるため、インセル運動に象徴されるように、彼らの多くが深い疎外感を抱いているのも、「無性愛」がかつてないほど増加しているのも、若者の現実のセックスが両親や祖父母の世代に比べて著しく減少しているのも不思議ではない。

 多くの理由から、ポルノの使用をやめることは難しく、時には一時的に症状が悪化することもある。効果が現れるまでに数ヵ月かかることもある。ヘロイン中毒者のように、一回打てば苦痛が和らぐという知識から、再発の誘惑に駆られることもある。しかし、辛抱強く続ける人にとっては、その報酬は深く、他人とつながりたいという欲求が戻ってくる。ある人はこう書いている。

「社会的な不安感が劇的に改善した。自信、アイコンタクト、対話のしやすさ、スムーズさなどだ。一般的にエネルギーが増した。精神が冴え、集中力が増した。顔が生き生きしてきた。抑うつ状態が緩和された。女性との交流が欲しくなった。勃起が復活した!」(29ページ)

研究結果

 2010年以降の6つの研究によると、40歳未満の男性の勃起不全率は現在14%から33%である。3人に1人の割合に近づいている。半世紀にわたって2〜3%で安定していた以前の割合から10倍も増加したことになる。この増加は、高速インターネットとポルノサイトが普及した時期とぴったり一致する。

「ポルノを何年も見ていると、勃起に問題が出てきた。2、3年前からどんどん悪化していた。ますます多くの種類のポルノの刺激が必要だった。本当に心配だったが、不安に駆られてさらに過激なポルノを見るようになった。今では、ポルノもオナニーもファンタジーもオーガズムもなしにすればするほど、勃起しやすくなっている(笑)。ほんの数ヵ月前のようなEDの問題や弱い射精はない。治ったんだ。」(17ページ)

 学術的な研究は丹念に時間をかけて行なわれるため、研究が発表される頃には、最新の発展とは関連性がなくなっているかもしれない。また、調査の狙いが不十分なものもある。例えば、全人口(全年齢、男女など)を対象にした結果が報告されることが多いが、これは、10代や若い男性など、不釣り合いな影響を受けている特定のグループの結果を覆い隠してしまう可能性がある。

 研究者のなかには、ポルノが自分の問題を引き起こしたと思うかどうかをユーザーに尋ねる者もいる。まるで、思春期が始まったときからネットポルノで自慰行為をしている人に、それと比較するものが他にあるかのようだ。このことと、多くの医療や治療の専門家が無知であること、そしておそらくはポルノの影響を全面的に否定していることから、ポルノ使用に起因する問題を抱える若者の多くが、社会不安、自尊心の低下、集中力の低下、意欲喪失、うつ病、その他さまざまな疾患に関して、日常的に誤った診断を下されている。精神科の薬を処方されたり、ポルノ依存症とは無関係だと断言される可能性が高い。これほど不適切なアプローチはないだろう。

 多くの人は、因果関係を証明するほど十分な研究はないと主張し、しばしば関連する二重盲検テストがないことを指摘する。しかし、ポルノを使用する人と使用しない人を比較する二重盲検テストを行なうことは明らかに不可能である。なぜなら、その違いは誰の目にも明らかであり、被験者も研究者も、誰に研究中の介入が行われ、誰にプラセボが投与されたかを知らないという条件は無効になってしまうからである。

 しかし、因果関係を証明する方法は他にもある。例えば、ポルノをやめた場合の影響を調べる方法がそれだ。既存のポルノユーザーを2つの対照グループに分け、一方はポルノをやめ、もう一方は現在の利用を維持する。ウィルソンは、医療専門家や為政者たちが対策を講じないことを正当化できないように、そして、若い男性に問題の原因について誤解を与え続けることがないように、この分野での取り組みを強化するよう研究者たちに求めている。この本が出版されて以来、多くの人が今や因果関係は証明されたと考えている。

 ウィルソンは、これまでに行なわれた研究を的確に分析し、ポルノを見るのは子犬や夕日を見るのとほとんど変わらないというポルノ推進派の主張を見事に論破している。

根底にある神経学的・生物学的メカニズム

 ここでは、ネットポルノの使用に伴う神経学的、生物学的、進化的メカニズムや、なぜそれが両親や祖父母が使っていた雑誌のポルノとはまったく異なる現象なのかについての衝撃的な資料を紹介するスペースはない。

 ネットポルノの強迫的な使用は、コカイン中毒やオピオイド中毒を含む他の中毒と共通点が多いが、ユニークな点もある。薬物中毒は、セックスのために進化したメカニズムを乗っ取るが、ポルノはそのメカニズムと完全にかぶっているので、自然な抑制物質もなく、より危険なのだ。

「僕はこれまで、ニコチンやアルコールなど、いくつかの依存症と闘ってきた。そのすべてを克服してきたけど、これが一番難しかった。衝動、狂った思考、不眠、絶望感、無力感、自分には価値がないという感情、その他多くのネガティブなことが、このポルノで経験したことの一部だった。それは本当に恐ろしいものだ。」(18ページ)。

 すべての依存症(アディクション)がそうであるように、渇望はしだいに増大し、快楽はしだいに減少し、絶えず目新しさを求めるようになる。ネットポルノは、驚き、衝撃、規範の侵害、不安、スリルの追求とともに、その種のものを豊富に提供してくれる。

 ウィルソンは、この問題が依存症なのか強迫観念なのかという議論に、手短に答えている。

性的条件付けと思春期

 若者がセックスについて学びたいと思うのは、まったく自然で健全なことである。それは思春期の基本的な部分であり、進化的な衝動である。若者は生物学的に、性的な合図に敏感になるように仕向けられており、思春期には脳がドーパミンやその他の神経化学物質の高いスパイクを生成する。しかし、このことと、実生活での性体験が乏しいことから、青少年は特に高速ネットポルノに乗っ取られやすいのだ。だからこそ、ネットポルノの年齢認証が不可欠なのである。

「初めてのキスをするまでの数年間を、10個のタブを開いたスクリーンにかじりつき、左手でオナニーをする方法や、父親が聞いたこともない性行為を見つける方法など、怪しげなスキルをマスターして過ごしたとしても、満足のいく性行為はおろか、一塁ベースへの道を手探りで進むための準備にもならない。」(90ページ)

 高速インターネットとポルノチューブのサイトが登場するまでは、若者の主な性的手がかりは他の10代の若者だった。今やそれが変わった。

「僕は25歳だが、12歳から高速インターネットにアクセスし、ポルノビデオのストリーミングを始めている。僕の性体験は非常に限られており、経験した数回のセックスはまったく期待外れだった。勃起しなかったのだ。5ヵ月前からポルノをやめようとしていて、ついにやめた。自分の性的衝動がコンピュータの画面と深く結びついていることに気づいたんだ。僕にとって女性は2次元で、モニターの向こう側にいなければ、興奮できなかった。」(90ページ)

 ポルノは意識をはるかに超えたレベルで若者を条件づけている。そんなものは現実のものではないと説明すれば万事うまくいくという考えはまったくナンセンスだということだ。とにかく、ほとんどのネットポルノは本物である。現実の人々が現実の性的行為をしている映像なのだ。

 喫煙、ジャンクフード、ナイフ犯罪など、他のリスクについては、それが現実ではないことを示唆してすますということはない。また、戦争やその他の残虐行為の報道をファンタジーや「現実ではない」と説明することもない。今こそ私たちは一丸となって問題に対処し、若者たちに真実を説明する時なのだ。

コントロールを取り戻す

 最終章は、ポルノ習慣を克服するための実践的なガイドである。この章では、そのプロセスがどのような経過をたどるかが説明されている。ポルノ視聴を開始した年齢が若ければ若いほど、離脱が難しくなる。禁断症状にありがちな震えや不眠症のような反応が起こることや、それがずっと続くわけではないことを説明しておけば、それを乗り切るのに役立つだろう。落とし穴を理解することで、それを乗り越えることができるようになる。ポルノによって誘発されたフェティシズムが必ずしも永久的なものではないことを知れば、希望が持てる。そして、離脱プロセスのあらゆる状況や段階に対処するためのさまざまな提案は、このプロセスを持続させることに役立つ。

 それが可能であること、あなたの前に何千人もの人がその道を踏み出し、苦労する価値があることを知ることは重要である。

結論

 これは非常に思いやりのある本である。ネットポルノがなぜ、そしてどのように危険なのか、それがいかに独特で、前世紀のポルノとほとんど共通点がないかを説明している。本書は、ポルノに巻き込まれた人々を裁くことなく問題にアプローチしており、現実的な解決策を提示している。裁きを下すべき相手は、970億ドル以上もの規模を誇るグローバルなポルノ産業と、そのロビイストたち、そしてそれに迎合している研究者たちなのだ。

 『ポルノに支配される脳』は、ポルノに対するフェミニズム的な分析を提供するものではないかもしれないが、若者と私たちの集団的な人間性を蹂躙している産業に対峙するうえでフェミニズムにとって重要な武器となるものだ。手遅れになる前に読んでもらいたい。

出典:https://nordicmodelnow.org/2023/07/25/porn-is-killing-sex-and-what-to-do-about-it/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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