【解説】これは、2023年11月11日にロンドンで開催された「サイクルを断ち切る――男性の暴力、ポルノ、売買春のつながりを暴く(Breaking the Cycle: Exposing the links between male violence, pornography & prostitution)」会議でのフシュケ・マウさんのスピーチであり、いつもお世話になっている Nordic Model Now! のサイトにアップされたものです。マウさんはドイツの被買春サバイバーであり、『Entmenschlicht: Warum wir Prostutution abschaffen müssen』という著作の著者です。このAPP国際情報サイトでもすでに、彼女の素晴らしい論考「買春客たち――彼らはなぜ買春するのか、売春婦についてどう考えているのか」とインタビュー「売買春は人間性を奪う」をアップしています。マウさん本人とNordic Model Now!のサイト管理者の許可を得て、ここに全訳を掲載します。
フシュケ・マウ
Nordic Model Now!、2023年11月16日
みなさん、私の名前はフシュケ・マウです。活動家であり、著作家であり、人文学の研究者です。現在、博士論文を執筆中です。また、ドイツにおける北欧モデルを望む売買春の中の女性たちや少女たちの支援団体、エラ・ネットワークの創設者でもあります。私自身、数年間売春をしていました。私の最初のピンプはドイツの警察官でした。また、『Entmenschlicht: Warum wir Prostutution abschaffen müssen』、つまり『人間性の剥奪――なぜ売買春を廃止しなければならないのか』という著作の著者でもあります。
ドイツは長い間、売買春を合法化する政策をとってきました。私は今日、このことがドイツ社会と売買春の中の女性たちにもたらす結果についてお話ししたいと思います。私自身の経験からお話しするだけでなく、このテーマに関する研究や統計から得られた信頼できる知見もご紹介します。
売買春がどのような状況で行なわれるかは問題ではありません。それはすべて性的虐待であり、今なおそうであり続けています。買春された女性が口にする「YES」は、セックスに対する「YES」ではなく、彼女にとって喉から手が出るほど必要なお金に対する「YES」なのです。ですから、セックスに対しては依然として「NO」なのです。望まないセックスは性的虐待です。紙幣がそれを変えることはありません。性的同意は買うことはできません。
女性が本当にセックスを望んでいるかどうかわからないのに、買春者が女性と寝るのは問題行動です。これは問題のある性的行動です。想像してみてください――「先週、ある女とセックスしたよ。セックスはよかった。でも、ふと思ったんだけど、その女がセックスを望んでいたかどうかさえわからないんだ」と。こう言われたら、あなたはぞっとするでしょう。しかし、売買春では毎回、まさにそのようなことが起こっているのです。売買春が問題なのは、同意が成立しないまま男性が女性とセックスすることを許しているからです。
売買春を制度として容認し合法化することは、私たちの社会に何のプラスももたらしません。法の目標(売買春をより安全にする、犯罪をなくす、女性に社会制度へのアクセスを与える)はすべて達成されませんでした。
では、社会がセックスの売買を合法化すると何が起こるのでしょうか?
第1に、売買春を合法化するということは、離脱を望む女性たちに離脱プログラムが提供されなくなるということです。売買春を完全に普通の職業として扱うなら、それは理にかなったことです。なぜなら、パン職人、美容師、劇場の演出家は、転職するために離脱プログラムを必要としないからです。だとすれば、どうして売買春にそれが必要なのか、ということになるでしょう。
第2に、合法化されたことで、男性の性的な問題行動は問題ではないとされ、性的虐待は隠蔽されます。売買春の中のいっさいに別の名前を与えられます。売春店の経営者は家主に、買春者は単なる客に、そして売春婦はサービスの提供者に。売買春が生み出すトラウマや傷は何一つ変わらず、スティグマも改善されません。売買春が存在するところでは、スティグマを負い恥じるべきは女性たちだとされています。合法化は、買春者が自分たちのしていること(あるいはかつてしたこと)をもはや恥じる必要がなくなることを意味するだけです。
第3に、買春者はリベラルな売買春法によって、その行動を肯定され、奨励されます。「サービス」に満足できなければ、女性を裁判に訴えようとしたり、力ずくでサービスを要求したりします。彼らは、お金を払ったのだから、セックスをする権利があると信じているのです。ドイツでは、レイプのトラウマが原因で売春に引き込まれた19歳の少女を、買春者が裁判に訴えたケースさえあります。理由は、彼女とのセックスで自分がいくことができなかったから、詐欺だというのです。
第4に、セックスの購入が許可されているところではどこでも、買春者たちの行動は実に残忍です。性行為はますます暴力的で屈辱的になっていきます。なぜなら、それは、予約された「通常のサービス」の範疇に入っているからです。買春者はますます女性を人間としてではなく、商品として扱うようになっています。買春を合法化すると、被買春女性のレイプや殺人も増えることになります。北欧モデルが存在するスウェーデンでは、この四半世紀の間に2人の売買春女性が殺害されています。しかしどちらも売買春との関係で起きたケースではありません。1人は元カレに殺され、1人は麻薬の売人に殺されました。
しかし、売買春が合法化されているドイツでは、同じ期間に売買春の中で殺害された女性や少女が110人以上もいるのです。19歳で精神疾患を患い、客にサービスを提供することができなくなったため、売春店のオーナーによってコンクリート平板に縛り付けられ、生きたまま川に投げ込まれて溺死したアンドレア・Kのような女性たちがそうです。
あるいは、21歳のウクライナ人オルガ・Pのように、売買春から抜け出したかったためにピンプによって殺され、冷凍庫に保管され、数年後に偶然発見された女性たちがそうです。あるいは、10ユーロでオーラルセックスをしたくなかったために客に刺し殺されたドリスのような女性たちがそうです。2000年以降、ドイツの売買春の中で110人の女性と少女が亡くなっているのです。何をどうしようとも、彼女たちは私たちのもとには戻ってこないのです。
第5に、合法化はより多くの買春者を生み出します。法律には規範効果があります。法律が「やってもいい」というフィードバックを与えれば、やる人は増えます。ドイツでは毎日100万人以上もの男たちが売春店に通っているのです。
第6に、買春者が増えれば、赤線地帯に流れるお金も増えます。新しい売春店が次々にオープンします。それはつまり、これらの売春店で「働く」女性が増えることを意味します。そこで、人身売買業者やピンプの出番となるわけです。「自発的に」セックスを売る女性の数はけっして十分ではなく、大多数は常に強制されなければなりません。売買春を容認し合法化する社会は、同時に人身売買と強制売春を容認する社会でもあるのです。合法化によって買春者が増え、売春店が増え、人身売買や強制売春が増えるのです――ピンプや人身売買業者はここで大儲けできるチャンスがあると考えるからです。
これは負のスパイラルです。買春者が増え、売春店が増え、人身売買された女性や強制売春させられた女性が増え、それにともなって買春者や社会が女性の苦しみに鈍感になり、さらに多くの男性が買春者になり、さらに売春店が増えるという負のスパイラルに陥るのです。引っ張られるようなもので、客の需要が増えれば増えるほど、より多くの女性や少女が強制的にでも売買春に引きずり込まれることになります。何しろ、彼女たちを使えばお金が稼げるのですから。ドイツは「ヨーロッパの売春宿」となり、その称号を得るために努力してきたのです。
第7に、ドイツでも強制売春や人身売買が形式的に禁止されているという事実は、事態を何ら変えるものではありません。ピンプや人身売買業者たちは、ドイツで見出した合法的な枠組みを利用するからです。暴力が行なわれるのは合法的な売春店においてであり、認可されている路上売春においてです。ドイツでは、強制売春は主に合法売春店で行なわれているのです。
第8に、社会にとって、買春者が増えるということは、性的に問題のある行動をとる男性が増えるということ、同意のないセックスや、実際に望んでいない女性と寝ることは問題ないと思う男性が増えるということです。このような行動は、売春店のドアの向こうにとどまるものではありません。買春者はそれを社会全体に広げているのです。
売買春はすべての女性に影響を与える行為です。なぜなら、社会のすべての女性が、それを知っていようといまいと、買春者と付き合わなければならないからです。そして、セックスの購入が認められているところでは、被買春女性以外の女性に対する性的暴行の発生率も高まります。
第9。売買春の自由化は、女性に対する暴力に対する社会の感覚が鈍ることにつながります。ドイツでは、ピンプが、「俺たちの女」が1日16時間も働かなければならないこと、警察がそれを奴隷制とみなしていることをテレビで公然と笑って話すことが許されています。ピンプ、人身売買業者、売春店経営者は、ドイツでは大いに高笑いしながら活動しているのです。
第10。性を買うことを合法化し、それを受け入れることは、性差別、人種差別、階級差別など、社会に存在しうるあらゆる差別を深刻にし、強化します。なぜなら、その差別は(売買春を通じて)性的貶めと結びつき、行動に移されるからです。例えば、エスニシティはフェティッシュとなり、女性は割り当てられた「人種的特徴」に基づいて広告され、売られ、買われます。月に2回売春店で「従順なアジア人女性」を買う買春者は、もはや売春店の外でも偏見なしにアジア人女性を見ることができなくなるでしょう。
売買春はミソジニーと人種差別から生じるだけでなく、さらなるミソジニーと人種差別をもたらすのです。ドイツで私たちは、特定の社会階級やヨーロッパの最貧国出身の若い女性たちが大量に人身売買され、ドイツ人男性の性的奴隷として虐待されていることを問題視しない社会に生きているのです。
同情と恐怖は、どんちゃん騒ぎの雰囲気とほとんど隠されていないセンセーショナリズムに取って代わられています。これは卑劣で、非人道的で、人種差別的なものですが、ドイツでは売買春がアンタッチャブルな男性の権利と考えられていることの結果であり、ついでに言えば、植民地主義的で人種差別的な行動をとる機会でもあるのです。合法化は、さらなる人種差別を生み出し、容認することを意味します。「奔放でやりマンな黒人女性」、「従順なタイ人女性」、「ホットなラテン系女性」、「アナルセックスに貪欲な巨尻のブラジル人女性」などを買うときがそうです。合法化とは、さらなる人種差別を生み出し、容認することを意味します。買春者はシリアやウクライナから逃れてきた女性たちをも買おうとしているのです。
第11。セックスを買うことがよしとされるところでは、性的同意をドル札に置き換えようとする反セックスでミソジニー的な性道徳がはびこり、男性にはセックスに対する権利があり、女性がそれを提供しなければならないものだということが暗黙の了解になってしまいます。セックスを買うということは、性行為の最悪の伝統に固執することを意味します。すべてが男性の要求に向けられ、女性の満足はまったく無視され、女性がセックスを望んでいるかどうかさえもまったく問題にされないのです。売買春が行なわれるところに性の解放はありえません。
このように、売買春の合法化は、社会全体に悪影響を与え、社会を変質させるものです。売買春は階級差別であり、性差別であり、人種差別です。それは暴力によって獲得され、それ自身が暴力であり、そして別の暴力につながります。いったいなぜ売買春が必要なのでしょうか? 男性がセックスを買うという事実は、社会にとってまったくメリットがなく、それどころか取り返しのつかない害をもたらします。
まとめます。
売買春の合法化、特に買春の合法化は、快楽に敵対的でミソジニー的な性道徳をもたらします。同意のないセックスが社会的に容認されるようになります。それは、女性たちが売買春から抜け出すことができなくなり、売買春の中に閉じ込められることを意味します。客による問題行動や性的虐待が隠蔽されるようになります。男性にセックスをする権利があることを示唆します。裁判を通じて、あるいは暴力によって、客がセックスをする権利を主張することを奨励します。
売買春の合法化は、売買春の中の女性たちにより多くの暴力、より多くのレイプ、より多くの殺人をもたらします。また、より多くの男性が買春者として行動するようになり、ますます需要が喚起されます。つまり、ピンプや人身売買業者が女性たちを売春へと強制することが、ビジネスになるということです。つまり、買春者が増え、売春店が増え、人身売買が増え、強制売春も増えるのです。
売買春の合法化は、社会における女性たちのイメージを悪化させ、売買春をしていない女性たちに対しても暴力を助長します。また、暴力にさらされている女性や少女の苦しみや悲惨さに対して社会が無感覚になります。
セックスを買うことを合法化することは、社会に存在しうるあらゆる形態の差別を強化します。ミソジニー、人種差別、社会的階級に基づく切り捨てなどです。
これらは、私たちが目にすることのできる性売買の合法化の結果です。そして私たちは気づきます。これは間違っていると。私たちにそんなものは必要ないのです。セックスを買う必要などありません。買春者も必要ありません。こんなものはすべてなくすことができるのです。
私たちはもっと多くの平等を必要としています。そして、合法化された売買春制度を廃止し、北欧モデルを導入することでしか、これを達成できないこともわかっています。北欧モデルは買春者を減らし、強制売春や人身売買を減らし、売買春の中の女性たちをより安全にし、より平等にします。これこそ私たちが望むものです。
そして私たちドイツのアボリショニストは、まさにそれを確立するために懸命に働いています。このままではやっていけないからです。亡くなったり、レイプされたり、怪我をしたり、搾取されたり、肉体的にも精神的にも傷ついた女性や少女たち。女性を買ってもいいと考えている残虐な男たち。私たちはもうそんなことは望みません。私たちはそれを廃止します。幸運を祈ってください。
フシュケ・マウさんの他の作品については、彼女のウェブサイトhuschkemau.deを参照のこと。
出典:https://nordicmodelnow.org/2023/11/16/how-legalisation-made-germany-the-brothel-of-europe/
「フシュケ・マウ「売買春の合法化はドイツに何をもたらしたか」」に2件のコメントがあります