カナダの北欧モデル型立法に対する世論の支持が49%、反対の4倍以上

 2014年にカナダの連邦政府は、売買春に関して北欧モデル型の立法を制定し、スウェーデン、ノルウェー、韓国、アイスランドなどに続く北欧モデル国の一つとなった(その後、フランス、アイルランド共和国、北アイルランド、イスラエルが続いている)。

 もともとカナダでは、売買春一般が禁止されていたのではなく、性売買の場所と様態とを厳しく規制する刑法が存在していた。こうした規制に対して、性産業の代表者たちは、それが性産業の中にいる人々を差別しているとして裁判に訴えた。2013年に最高裁でベドフォード判決が下され、刑法のいくつかの条項が売買春の中の女性の安全を脅かしているとして違憲判断がなされた。たとえば、旧法は売春店の経営を禁じていたが、これは、売春者が路上からより安全な屋内に移動するのを妨げているとの判断が下された。そのため、売買春に関して、既存の刑法の規定に代わる新しい立法を制定しないかぎり、事実上、売買春を規制する法律が存在しなくなる事態となった。

 そうした中で、女性運動および先住民の人権団体を中心とするアボリショニストと、性産業とリベラル学者を中心とする完全非犯罪化派とが激しい攻防を繰り広げ、かろうじてアボリショニスト側が勝利した。中でも重要な役割を果たしたのが、先住民・アジア系の女性人権団体(カナダ先住民女性協会売買春の廃止を求めるアジア女性連合)だった。これらの団体がアボリショニスト側に立ったのは、カナダでは性売買の中の女性たちの多くが貧しい先住民女性やアジア系の女性たちだったからだ。カナダにおける売買春は、男性による女性の搾取と抑圧の形態であるだけでなく、歴史的に、白人による先住民とアジア人に対する植民地化の手段でもあった。

 2014年に成立した「コミュニティ・被搾取者保護法(PCEPA)」は「対価と引き換えに性的サービスを獲得すること」(つまり買春行為)を犯罪化し、カナダにおいて初めて売買春そのものを違法とした。また、性的サービスの市場をつくり出したりそれを支えたりすることに寄与する活動も犯罪とされている。他者に性的サービスをさせて金銭的利益やその他の物質的利益を得ること(ピンプ行為)、人をあっせんして対価と引き換えに性的サービスを提供させること、性的サービスの提供を宣伝する広告を出すことも犯罪とされている。しかし、性を売る側の女性は犯罪者として扱われるのではなく、被害者として扱われ、サポートと支援を与えられる。

 ただし、この立法は保守党政権下で成立したために、もし学校や公園の近くでセックスを「提供する目的で交渉している」ところを捕まった場合には、買い手も売り手も犯罪とみなすという条項が維持されている。アボリショニストも完全非犯罪化支持派もこれには強く反対したが、聞き入られなかった。それでも、このカナダの法律は北欧モデル型として一般に認められている。

 2018年5月14日付の Nordic Model Now! に掲載されたオーストラリアのアボリショニスト活動家ゾイ・グッドールの記事によると、この法律の画期的性格にもかかわらず、この法はその後十分に施行されなかった。まず、カナダで同法が成立した翌年に政権交代が起き、リベラル派のトルドー政権が成立した。同政権は北欧モデル型立法の執行にはあまり積極的ではなく、十分な予算措置を取らなかった。すでに決まっていた予算の大半は、どっちつかずの立場を取っていた団体に流れてしまい、離脱支援事業に用いられなかった。

 また、地元の活動家によると、バンクーバーの警察、もっと言えば〔バンクーバーを州都とする〕ブリティッシュ・コロンビア州全体の警察も、2014年の法の執行を拒否した。バンクーバー警察のセックスワーク司法執行ガイドラインに、われわれはPCEPAは執行しないと堂々と書かれていたほどである。

 こうした厳しい状況にも関わらず、カナダのアボリショニストは地道に活動を続け、離脱支援のための予算確保の努力も継続して行なった。2014年に成立した同法は5年後に再検討と見直しを行なうことになっており、この間、同法の結果に関する調査と評価が取り組まれている。その一つとして、女性人身売買反対連合(CATW)とロンドン被虐待女性センターの共同で世論調査が行なわれ、その結果が先ごろ発表された。同法に対して「支持する」、「どちらでもない」、「反対する」、「よくわからない」のそれぞの割合は以下のとおりである。

 「支持する」が全体のほぼ半分である49%を占め、「どちらでもない」は30%、「反対する」は11%、「よくわからない」が10%だった。このように、「支持する」は「反対する」の4倍以上を獲得しており、トルドー政権の消極的姿勢にも関わらず、同法が保守・リベラルの垣根を超えておおむね支持されていることがわかる。

 もしカナダの連邦政府と各地元の警察・司法が同法を積極的に執行し、とりわけ現在のコロナパンデミック下で売買春からの離脱を支援する予算を十分に保障し、そのための努力を積極的に行なうなら、もっと大きな成果を上げ、そしてもっと大きな支持を得ることができるだろう。

 そのような積極的措置を取っているスウェーデンやフランスでは、国民の圧倒的多数が北欧モデル型立法を支持している。たとえばフランスで2019年にCAPインターナショナルが行なった世論調査では、フランス国民の78%が2016年に成立した北欧モデル型立法を支持し、フランス国民の74%が売買春は暴力であると考えている。

 北欧モデル型立法の制定は単に始まりにすぎない。政府および司法機関がそれを積極的に執行することで、しだいに国民の支持も高まり、いっそうよく成果も上がり、そしてそのことによっていっそう支持が高まるという好循環を生み出すことができるのである。

  

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

カナダの北欧モデル型立法に対する世論の支持が49%、反対の4倍以上」に2件のコメントがあります

コメントを残す