ジュリー・ビンデル「買春客が語るドイツにおける売買春の実態」

【解説】以下は、2022年11月9日にベルリンで行なわれた、買春者の実態を明らかにする国際会議に関するジュリー・ビンデルさんの記事です。すでにこの国際情報サイトでも何度も取り上げてきたように、ヨーロッパ最大の経済大国であるドイツでは、長年にわたって売買春が完全に合法化されており、そのため世界中から多くの女性たち(とくに旧ソ連圏、アジア、アフリカの出身)が人身売買されてドイツに連れて来られ、買春されています。しかし、この記事にあるように、あまりにひどい実態が横行しているため、スペインと同じく、北欧モデル型立法を導入しようとする動きもしだいに強くなっています。その動きを後押ししようと、買春者の実態調査が大規模に行なわれ、その調査結果が11月9日の国際会議で発表されたのです。

ジュリー・ビンデル

『Unherd』2022年11月16日

 ドイツは「ヨーロッパの売春宿」として知られている。それは同国が苦労して勝ちとった称号だ。全国に3000以上、ベルリンだけでも500以上もの売春店があり、その性産業は年間110億ポンド〔約1兆8000億円〕以上の価値があるという。

 ドイツでは、あらゆる形態の売買春が合法であり、その体制は基本的に第2次世界大戦以降、ずっと続いている。しかし、最近になって、その考え方が変わりつつある。国民も政治家も、政府に対して「ピンプ国家〔合法の売買春から多額の税収を得ている国家〕」の現状に目を向け、売買春がその女性や少女に与える恐ろしい犠牲について考えるよう要求しているのだ。

 ドイツの「産業化された売買春」は、それを経験した人々によれば、おぞましいものだ。合法化のもとで、ピンプは「ビジネスマン」や「マネージャー」と呼ばれ、絶望的な状況にある女性たちを公然と売り買いしている。ケルンでは2001年に世界初のドライブスルー型売春店がオープンし、その後も続々とオープンしている。ミュンヘンやベルリンなどの都市には、一度に約650人が利用できる「メガ売春店」があり、ハンバーガーとビールとセックスがセットになった「早割」プランを提供している。閑散期には、「2人で1人分の料金」、「ハッピーアワー」と呼ばれる割引料金で利用できる売春店もある。

 合法化によってドイツの性産業は拡大した。少なくとも40万人もの売春婦がおり、1日あたり約120万人もの男性(ドイツの人口は8000万人強)がセックスを買っていると推定されている。

 しかし、先週(11月9日)、ベルリンで開催された反性売買国際会議で発表された新しい報告書は、女性身体の内部を適切な職場として擁護し推進してきたこの国において、売買春とその有害性に関する物語を大きく転換させるものであった。この報告書『ドイツでセックスに金を払う男たち、そして彼らが合法売春の失敗について教えてくれること』は、ドイツの買春者96人のデータをもとに作成され、性売買サバイバーや法学者が数十年にわたって世界に訴えてきたことの多くを証明している。

 調査に協力したのは18歳から89歳までの男性で、失業者や未熟な低所得者層から高級な専門職まで、実に多彩な顔ぶれだった。これらの買春客たちは、お金を払ってセックスをするときの態度、行動、動機について、率直な情報を提供してくれた。また、彼らは次のような問いに回答した。合法化するとどうなるのか? 合法化することで、女性はより安全になるのか? 人身売買の減少につながったのか?

 心理学者のメリッサ・ファーリー博士が主導したこの調査は、アメリカ、カンボジア、イギリス、インド、スコットランド、ドイツの763人の男性との長期にわたるインタビューから得られたデータをもとに、6ヵ国で行なわれた売買春研究の掉尾を飾るものだ。

 ドイツでは、2002年の売買春法が完全な合法化をもたらし、性売買を労働の一形態として、「他の仕事と同じように」分類している。ピンプはビジネスマンとなり、女性たちは「セックスワーカー」となった。売春は「禁止されてはいないが…不道徳である」とする戦後のさまざまな規制は一掃された。しかし、政府が性売買を正規の職業にしようとしたにもかかわらず、ピンプはほとんど税金を払っていない。そして、当局への登録が法律で義務づけられているにもかかわらず、登録をした被買春女性はたった44人だった(8万人中)。

 2017年、フェミニストたちの熱心なロビー活動や、合法下で犯罪や暴力のレベルが上がっているという警察官の証言を受けて、政府は多くの制限を導入した。ピンプは、女性が客に提供すべき「サービス」を指令することができなくなり、売春店のオーナーはライセンスを申請しなければならず、客はコンドームの使用を義務づけられた。

 「もちろん、これらの規制を実施する方法などまったくありませんでした」と、ドイツの性売買サバイバーであるアンジー(仮名)は私に言う。「ピンプは金儲けしたいだけの犯罪者だし、私たちが買春者にコンドームをつけさせることなんてできない。それでも私たちは言われたことをやるしかなかった」。

 ドイツでは、買春は男性にとって必要なことであり、広く社会にとって良いことのように考えられている。ある買春者は私にこう言った。「男の性(さが)というのは、自分ではどうしようもないことなんだ。しかし、売春婦を利用できるから、性犯罪が少なくてすむんだ」。彼はこれ以上ないほど間違っている。被買春女性に対する性犯罪が起きているだけでなく、売買春が合法化されている国では、男性の暴力の割合が他の国よりも高い傾向があるのだ。

 インタビューしたドイツの買春者の多くは、女性に対する強要、恐怖、暴力の確固たる証拠を目にしてきている。それにもかかわらず、彼らはみな、セックスにお金を払うのだ。「ドイツの制度は、被買春女性に対して行なっていることからして、レイプを事実上合法化するものです」と、同じく性売買サバイバーであるアリス(仮名)は言う。

 合法化に賛成する人たちがよく用いる論拠の一つは、男たちがセックスを買っても逮捕されないとわかっていれば、人身売買や未成年の少女が搾取されている証拠を通報する可能性がずっと高くなる、というものだ。しかし、インタビューに応じた96人のドイツ人買春者のうち、人身売買の証拠を警察に通報したのはたった1人だった。

 問題は、ある買春男が言ったように、「金さえ払えば、彼女に何でも好きなことをしてもいい」と買春客が考えていることである。ピンプが女性に暴力を振るっていることを知っているか、と男たちに尋ねたところ、多くの人は、ピンプが拷問の国際的定義を満たすような暴力行為を日常的に行なっているのを見たことがあると答えた。ある男はこう言っている。「一人のピンプは、女の子を本当に殴り倒したんだ。拳で顔を2、3回殴り、壁に投げつけた」。別の男はこう報告している。「女性たちがピンプに十分な売り上げを持ってこないと、爪を剥がされたり、女性たちをボコボコに殴ったりした。女性たちは怖くて何も言えなかった」。

 買春客たちは、女性たちにほとんど共感を示さなかった。「コーヒーを飲んで、飲み終わったら捨てるようなものだ」とある男は言った。「臓器を10分間レンタルするようなものだ」とも言った。

 ドイツでは買春客であることは何ら恥ずかしいことではなく、そのことがこの問題の大きな部分を占めている。合法化によって、人身売買や暴力、地下の性売買が減るはずだったが、報告書が強調するように、その逆のことが起きており、合法的なものと並行して、違法な性産業も急増している

 彼らにとって、被買春女性は「レイプできない存在」なのであり〔レイプしてもレイプにはならないという意味〕、ある買春客が言うところでは、望むときに望む女と望む通りのセックスができなければ、「本物の女性をレイプする」ことを余儀なくされるのだと。インタビューに応じた人の4分の3がこのような態度をとっていた。ある男はこう言った。「売買春は社会にとって良いことだ。なぜなら、男性は過剰な性欲を持っており、他の女性を攻撃したり、子供を攻撃したりすることなく、それを発散させることができるからだ」。

 ヘルムート・シュポーラーは2020年まで、国際人身売買を含むドイツ国内の売買春の捜査と監視を担当する刑事警察官であった。この間、シュポーラーは、売春に関わる女性たちの状況と、組織犯罪の拡大や売買春内の虐待に効果的に対処する刑事司法機関の対応の両方が、着実に悪化していることを目の当たりにしてきた。シュポーラーによれば、この悪化は全面的な合法化にもかかわらず起こっているのではなく、合法化したからこそ起こっているのだと言う。

 ドイツの買春客たちは、売買春がいかに虐待的なものであるかを理解しているようだ。「売春が機能する唯一の理由は、男が支配的だからだ」とある買春客は言う。

 では、男性がお金を払ってセックスをするのを阻止するにはどうしたらいいのだろう? ドイツでは法律を改正する必要があるだろう。合法化政策を撤回して、性の購入を犯罪化し、女性が性産業から脱け出すことができるように支援する法律に変える必要がある。信じられないことだが、ほとんどの男性は、性犯罪者登録や前科がつくこと以外では、買春をやめられないと認めているのである。この北欧モデル型立法は、スウェーデンノルウェーアイスランド北アイルランドカナダフランスアイルランドイスラエルで採用されており、この方法があらゆる形態の性売買を抑制していることが実証されている。

 もし、ドイツ政府が買春客の言葉に愕然として、ついに自国の合法制度を非難するきっかけになったとしたら、苦い皮肉ではないだろうか? ベルリンでの会議の最後を力強いスピーチで締めくくったアイルランドの性売買サバイバー、レイチェル・モランの言葉を借りれば、こうなるだろう。

 「これらの男たちは、私たちが何年何年もずっと言ってきたことをすべて証明しています。そして、まさか自分がこんなことを言うとは思いませんでしたが、ドイツ政府に性産業根絶に必要なあらゆる弾薬を与えてくれたドイツの買春客にこう言いたい、ありがとうと」。

出典:https://unherd.com/2022/11/germany-europes-bordello/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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