アイルランドにおけるコロナ危機と売買春をめぐるオンラインシンポが開催

 5月21日、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(アイルランド最大の総合大学)の性搾取リサーチプログラム(SERP UCD)主催で、”Sexual exploitation in the shadow of COVID-19” というタイトルのオンラインシンポ(webiner)が開催されました。それに参加したパネリストたちの発言要旨を紹介します。

 アイルランドは2017年に北欧モデルを導入した8番目の国になりましたが、その成果がまだ十分発揮されていないときに、今回のコロナ危機が起こりました。以下の発言を読めばわかるように、北欧モデルを生かすアボリショニストの活動はまだまだ発展途上にあります。今回の危機によって、売買春の中の女性の苦境がいっそう深刻化する一方で、政府の財政と国民経済が圧迫されて、彼女たちへの支援と援助の活動がいっそう困難になることが予想されます。今回の危機の教訓を踏まえて、今後の活動をいっそう強化発展させる必要があることを、このシンポジウムは教えてくれています。

・デニス・チャールトン(司会)

 新型コロナウィルスは既存の問題をさらに悪化させています。性的に搾取されている女性たちにとってはとくにそうです。アイルランドでは800人の女性と少女が売買春の中にいますが、この産業は犯罪組織に年1億8000万ポンド相当の価値を与えています。今回のコロナ危機のもとで、売買春の中の女性たちがどのような状況に置かれているのか、どのような活動が私たちに求められているのか、それぞれ現場で活動され、あるいは研究されている皆さんに発言していただきます。

・バーバラ・コンドンRuhama の CEO)

 男性はコロナ危機下でもセックスを求めており、ハイリスクなセックス――コンドームなしのアナルセックスなど――さえそこに含まれます。女性たちはそのことにショックを受けており、ひどい目に遭っています。

 組織的な犯罪グループは、海外から人身売買されてきた女性の 「ツアー」をアイルランド国内で組織しています。女性たちは売春店に住んでいます。犯罪組織は、 見つからないようあちこちに移動して 、男たちに「新顔」を提供しています。しかし コロナウイルス危機は女性が住む場所を失うことを意味します。時には家主が滞在を許可することもありますが、ただ売春することを見返りにしてのことです。政府は一部のホームレスをホテルに入れていますが、その選択が取り去られたときに何が起こるか、誰もが心配しています。私たちのサービスを利用している人々(売買春の中の女性たち)の多くがウイルスに感染しています。アイルランドでは住宅が不足しており、それが現在の危機をさらに悪化させています。

 コロナ危機の中で暴力がエスカレートしています。なぜなら、女性たちは、男性が求めることの一部をする気にならないからです(もちろん感染を恐れてのことです)。

 EEA(欧州経済地域)の非国籍者だけが人身取引(トラフィッキング)の被害者とみなされていますが、Ruhama はこのルールを緩和するよう求めています。

 Ruhamaでは、サービスのオンライン化(カウンセリング、ケースワーク、教育など)を進めています。サービス利用者は社会的に孤立しているので、活動の継続が重要です。司法省から緊急資金を得て、サービス利用者に「ケアパック」(パソコン用タブレット、洗顔用品、食料品など)を届けることができました。その結果、全国的により多くの対象者にリーチすることができるようになりました(Ruhamaがオンラインサービスをしていなかった頃とはそこが違います)。

 女性のメンタルヘルスは 危機的状況にあり、私たちのサービスは今まで以上に利用されています。女性は精神的に弱っているので、以前よりも頻繁に連絡を取り合っています。しかし、通常は、路上で女性の薬物使用者を助ける活動をしているストリートバスというのを運営しているのですが、現在は運営していません。これらの女性たちはまだ路上にいますが、私たちは彼女たちを助ける必要があります。

・ヌシャ・ヨンコバ(アイルランド移民評議会。政府から独立した組織で、アイルランドでの北欧モデルの獲得に関与)

 アイルランドの性売買市場は現在、移民女性であふれています。ですから、売買春に関する議論は、アイルランドで最も弱い立場にある女性である移民女性に関する議論でなければなりません。コロナウィルス危機は、ドラッグ中毒、ピンプからの暴力、治療されないでいる性的トラウマなど、これらの女性がすでに直面している問題をさらに悪化させています。

 売買春の中のすべての女性が不法移民であるわけではなく、学生や、家族がアイルランド国籍者である女性もいます。しかし、大部分は不法滞在者であり、それゆえ、今回の危機の中で他の人々が利用しているサービスにアクセスすることができません。

 被買春女性を国外から国内へと移動させることは、性産業の特徴の一つであり、そのため、新たに入国した女性たちは途方に暮れてしまいます。しかし、その一方で、国境を越えて自由に移動できるということは、女性を速やかに帰国させたり、家族に助けを求めて連絡を取ったり、海外にいるときには必ずしも受けることのできない医療などを受けることができるということでもあります。しかし、コロナウイルス危機で国境が閉鎖されたことが困難を引き起こしました。今、女性たちは、宿泊施設のなかで身動きが取れなくなっていますが、その宿泊代を払わなければなりません。時には性産業の運営者である第三者を介して賃貸されることもあり、その宿泊施設が彼女たちの性的搾取につながっているのです。コロナ危機下にある女性たちは、信頼できない当局に自分の状況を開示しなければ、性産業を離れることができません。したがって、新型コロナウイルスの条件下で性産業の中にいる出稼ぎの女性たちはみな事実上「人身取引された」女性たちであると言うことができます。現時点では、国の支援を望むならば、当局に協力しなければならないからです。

 コロナウイルス危機のせいで、アイルランドの性売買の中にいる女性たちは自国に帰れなくなったために、本当は接したくない客とも会うことを余儀なくされています。お金が必要だからです。

・リンダ・レイサム(女性保健サービス、HSC、人身売買防止チームのマネージャー)

 エイズ危機(1980年代)、ヘロイン危機(1990年代)、人身売買(2000年代)など、現在のような危機はいくつもありました。私たちは性と生殖に関わる健康サービスを提供しているので、そうした問題に重点を置いています。性産業の中にいる女性たちの多くは、私たちの施設の再開を待っています。緊急の妊娠問題など、危機的状況の中で女性の間で生殖に関する問題が浮上してきています。女性たちは孤独で精神的に弱っており、ピンプやパートナーなどからの暴力に怯えている女性たちが増えています。平時に売春をしている女性たちは非常にリスクに敏感で、暴力などの危険がないかどうかを常に見極めて客を取っています。しかし、危機的な状況ではお金がないので、リスクを避けることができません。

 ウェブ上での動画配信も増えていますが、男性客を取ることも依然として行なわれており、部屋の消毒やシーツの交換など、徹底した衛生対策をせざるをえません。しかし、こうした対策は過度に強調されるべきではなく、そもそも現在の危機的状況の中で女性たちがそのような状況に置かれないようにするべきだと思います。私たちは、離脱という選択肢に適切な資金を提供する必要があります。

 人身売買された女性たちは、人身売買被害者向けのサービスにアクセスすることができますが、売買春の中の立場の弱い女性たちは総じて、必ずしもそのようなリソースやサポートにアクセスすることができるわけではありません。しかし、私たちは政府と協力しており、EU諸国の女性(ただし、不法移民ではない)が、あれこれ尋問されることなく危機対策費を受け取ることができるように、政府の合意を得ています。彼女たちは私たちのサービスに連絡するだけでいいのです。

 女性たちは非常に孤立しているので、私たちが連絡を取ると非常に喜んでくれます。ただ話をしたいだけの時も多いです。彼女たちは家族から離れていて、家に帰ることができないからです。

・ルース・ブレスリン(ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの性的搾取研究プログラム研究員)

 私たちリサーチセンターは、今回の危機の間、アイルランドの性産業で何が起こっているのか、その一断面を捉えようとしてきました。私たちは、過去5週間にわたり、最大の買春者レビューサイトのカスタマー投稿をチェックしてきました。また、ウェブサイトに広告を出している女性たちのプロフィールの数も調べました(男性売春者として広告を出していたのは1%未満)。コロナ危機以前には600人以上の女性たちのプロフィールが広告に出ていましたが、4月20日には半分以下にまで落ち込ました。今では再び増加し、現在(発言時点)は400人近くのプロフィールがあります。

 広告を出しているウェブサイトは、ロックダウンの準備段階でいくつかのステートメントを発表し、自分たちのサイトに広告を出している女性たちについての懸念を表明するふりをしましたが、もちろん、女性がそれでも広告を出し続けた場合には、「自分たちにはできることは何もない」と述べました。そして、彼らはウェブサイト上に「非接触系」(「バーチャル」)というセクションを立ち上げて、動画配信や電話セックスなどを提供しています。しかし、このセクションを利用しているのは、わずかな数の女性だけです(8%)。大多数の女性は、顧客に直接会いに行くやり方を継続していました。動画配信には技術やリソース(オンライン決済の設定などのノウハウ)が必要であり、売買春の中の女性たちはそのような技術やリソースを持っていないため、すぐにオンラインに移行することができず、直接、買春者に会い続けなければならないのです。

 レビューフォーラムの買春者たちは突然、「衛生レベル」で女性を評価し始めましたが、その後、ロックダウン中のすべての制限に違反する性行為(ディープキスなど)を要求していたことを告白しており、矛盾を露呈させています。私たちは、買春者からの250の投稿をチェックしました。買春者たちの間では、ロックダウンの結果、自分たちは大変な目に遭ったという感覚が見られ、ロックダウンのストレスを我慢していることの「ご褒美」として、あるいは「精神的な健康」を回復するためにとして、女性を買春する権利があるという感覚が一般に見られました。自分たちには買春する権利があるという意識がエスカレートしたのは、自分たちが苦難を経験していると考えているからです。男性たちは、コロナウイルスによる制限措置によって買春の自由が制限されたと言いつのっています(女性たちは感染への懸念から、通常行なっていることをやりたがらなかったから)。しかも、男性たちは、女性たちは買ってもらえることに感謝すべきだと言っています。ロックダウンの中ではお金がなかなか手に入らないんだからだと。

・ミア・デ・ファオイト(サバイバー、政府のコンサルタント)

 性産業のビジネスは今ではオンラインで女性を売っており、彼らは何百万ドルも稼ぎ、業界は非常に利益を上げています。彼らには、路上でコンドームを配ったりするNGOや組織からなる「倫理」部門と、業界に有利な研究を発表する研究者たちからなる「マーケティング」部門があります。しかし、このビジネスモデルは、危機の中で深刻な混乱に陥っています。女性たちはこの危機の間、業界が提供している借金を積み重ねていますが、ロックダウンが終わり、女性が借りたお金を返さなければならなくなったときにどうなるのかが心配です。したがって、融資や借金にもとづいておらず、Ruhama などを通じて適切に管理される救済基金が必要です。私たちが2017年の法律〔北欧モデルの法〕を制定した目的は、性産業を維持することではなく、できるかぎり性産業をなくしていくことでした。だから今の私たちの行動は、その当初の目的に沿ったものでなければなりません。

 このような危機の中で女性がリスクにさらされないですむとか、またはオンラインに移行できるという考えは空想的です。女性は個人的に完全に切り離されているので、どんな状況でも客を断る立場にはないし、オンラインウェブカメラでの動画配信も女性にとって望ましいものではありません。女性の側に動画配信技術が必ずしもあるわけではないという問題に加えて、個人のプライバシーをいっそう侵害するという問題もあります、この危機の間、被買春女性との関係を維持することは非常に重要です。彼女たちは孤独で孤立しているからです。女性を売春から救いだす簡単な方法はありませんが、私たちはできるだけぎりのことをしなければなりません。そのためには救済基金が不可欠であり、継続的に連絡を取り合うことが重要です。

ジェニファー・マッカーシー・フリン(全国女性会議)

 アイルランドの性売買は非常に人種化されています。女性は非常に脆弱で孤立しており、多くの女性が不法滞在者であることが事態を悪化させています。アイルランドの法律〔北欧モデル法〕はアイルランドにとって大きな前進ですが、女性のための離脱の選択肢を体系的かつ系統的に提供する必要があるのに、その点はあまり十分に発達していません。この事実は今回の危機で明らかになりました。

 アイルランドでは、女性のホームレス率がヨーロッパで最も悪い国の一つです。借金返済のために、家財道具を質に入れるというやり方が一般的に行なわれています。私たちは、危機の中で被買春女性に提供されているサービスが不足していると感じたため(ドメスティック・バイオレンスの被害者などに提供されているサービスとは異なって)、政府に特別基金(私たちのサービスを利用している女性たちに分配するための)を要請しましたが、却下されました。しかし、この提案は断られたとはいえ、私たちは国会議員や他の人たちに、国会などで努力を継続してもらっています。売買春の中の女性たちは、買春者と接触し続けるという形で現在の危機の健康リスクを処理する立場に置かれるべきではありません。私たちは、今回の危機がこの点で女性たちに何を強いているのかをよく調べて、反「性搾取」対策をめぐる今後の政策決定に反映させる必要があります。


投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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