コロナ危機下における移民女性と性売買をめぐるオンライン・シンポが開催

 今年の4月30日に、CATWインターナショナル(女性人身売買反対連合インターナショナル)の主催でコロナ危機下における性売買をテーマにしたオンライン・シンポジウム、At the Edge of the Margins が開催されましたが、その第2弾として5月27日に、とくにコロナ危機下における移民女性と性売買の問題に焦点を当てたオンライン・シンポが開催されました。司会は前回と同じく、CATWインターナショナルの事務局長テイナ・ビエン・アイメさんです。

 4人のパネラーは以下の通りです。

ジーン・エンリケスさん(フィリピン)……アジア太平洋地域における女性人身売買反対連合(CATW-AP)の事務局長を務めています。過去30年間、女性の権利保護のために活動し、人身売買と売買春、セクシュアリティ、健康、リプロダクティブ・ライツ、女性の政治参加、女性と開発に焦点を当てたさまざまな国際的・国内的なフォーラムにおいて、草の根のオーガナイザー、専門家として幅広い経験を積んできました。彼女は13歳の時にマルコス独裁政権と戦って人権運動の道を歩み始めました。2001年に南アフリカのダーバンで開催された「人種差別反対世界会議」では、人身売買に関する委員会の議長を務め、国連の女性地位向上委員会ではさまざまな機会に講演を行っています。

ドリーシャ・フェルナンデスさん(コロンビア)……社会人類学者で、19年以上にわたり人権侵害に取り組んできました。彼女は、コロンビアの武力紛争中に強制失踪(拉致)、拷問、超法規的処刑事件に関する独立した法医学チームを率いて、セカンドオピニオンを提供しました。現在は、性的搾取をなくすことを目的とした活動家、諸団体、サバイバーの連合である Iniciativa ProEquidad(平等のためのイニシアチブ)のメンバーです。

ヤグムール・ユガルキッツさん(フランス)……家父長制の構造とメンタリティから女性と少女を解放するために闘うヨーロッパ移民女性ネットワーク(ENOMW)の青年支部である Radical Girlss のメンバーです。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)で政治学を専攻し、売買春、ポルノ、ヴェール着用に関する記事を執筆、翻訳しています。

アンナ・ゾブニナさん(ヨーロッパ移民女性ネットワーク)……ロシア出身のフェミニスト活動家であり、研究者でもあります。女性に対する男性の暴力を分析してきた10年以上の経験があり、特に移民や難民の女性、性と生殖の権利に焦点を当てています。ヨーロッパレベルで移民女性の声と意見を直接代表するプラットフォームであるヨーロッパ移民女性ネットワーク(ENOMW)のコーディネーターです。また、欧州ジェンダー平等研究所(EIGE)の専門家であり、ヨーロッパ女性ロビー(EWL)の執行委員会のメンバーでもあります。

 以上4人のパネラーを迎えて、第2回 At the Edge of the Margins オンライン・シンポが開催されました。まずコロナ危機のもとで、性売買の中にいる女性たち、とりわけ移民の女性たちが置かれた現状がどのようなものであるかについて、各パネラーが発言しました。以下はその要旨です。

 アンナ・ゾブニナ(ヨーロッパ移民女性ネットワーク)

 いま私たちが目にしている売買春に関連した問題はすべて、新型コロナ危機の以前から存在していました。現在、私たちは世界的な公衆衛生問題に直面していますが、この「公衆衛生(public health)」とは実際には「男性の健康(man’s health)」のことです。さてコロナ危機の中で、各国の国境や伝統的な売春街が閉鎖されていますが、このことは売買春の中で売買されている女性たちにとってさまざまなな状況を作り出しています 。これらの状況は、各国がウイルスに対してどのようなやり方で取り組んできたかによって異なります。

 例えば、ドイツの売春店は3月中旬に閉鎖されましたが、路上売春はその後も続けられていました。そのため、売春店にいた女性の約8割が路上に放り出されました。彼女たちは、みなさんもご存知のように、自分たちを守るいかなる手段を持っていませんでした。住む家もなければ、貯金もなかったのです。これらの女性を保護するという名目で〔売買春の合法化と管理という〕制度がつくられていたはずなのに、です。ドイツの被買春女性の多くは外国人ですが、ピンプたち〔女性に売春させて利益を上げる男たち、ポン引き〕は彼女らをバスに乗せ、出身国に送り返しています。ある地域では、この種のバスがあまりにも多くて、交通渋滞が起きたほどです。彼女たち自身がバスの切符代を払わされるケースもしばしばあり、そのため、彼女たちはまったくお金がない状態で移動することになります。あるいは、ピンプたちがあっさりと彼女たちを放り出してしまうケースもあります。ドイツで買春されている女性たちの多くは、外国人であるだけでなく、不法滞在者でもあります。そのため、彼女たちは医療を受けることもできず、政府から新型コロナ対策の補償金も受けられません。こうして、ウイルスは彼女たちをすべて極貧状態に追い込んだのです。

 ドリーシャ・フェルナンデス(コロンビア)

 コロンビアでは多くの場合、売春店よりも、日払いの安ホテルや安アパートなどが女性に売春させる場所となっています。部屋代だけでなく、電話代や食費なども彼女たちの借金になります。これらの売春街は2ブロックにまたがっており、非常に広大です。ピンプやこれらの安ホテル・安アパートのオーナーたちは、コロナ危機のもとで女性たちを路上に放り出しました。

 コロンビアには200万人のベネズエラ人がおり、売春で搾取されているベネズエラ人は30万人と推定されています。多くのベネズエラ人は、自国の経済危機のせいでコロンビアにやって来ました。しかし、私たちの政府は、彼女らを人身売買の被害者ではなく、単なる「移民」とみなしています。新型コロナ危機の最中、彼女らは部屋から出ることができませんでした。というのも、ホテルの部屋を出ると、彼女らの所持品が路上に放り出され、部屋に戻ることができなくなるからです。なかには3日間も歩き通して自宅に帰る人もいました。危機の最中に食料の配布があっても、安ホテルの部屋には調理設備がないため、料理をすることができませんでした。危機の当初、大規模な抗議行動があり、食料を求めて店の略奪が起こりました。

 売買春の中の女性たちは、政府からは人身売買の被害者ではなく「路上生活者」と見られているため、避難所を見つけるのは困難です。売春収入の代替として、ポルノやウェブカメラによる仕事――特にソーシャルネットワークを通じたそれ――が女性たちに提供されました。しかし、女性たちにはコンピュータのスキルも、適切なコンピュータ機器へのアクセスもないため、騙されて、オンライン向けに行なった性行為の代金を受け取ることができないというケースもありました。

 欧米の資金提供者たちは現在、「トランスジェンダー女性とセックス・ワーク」という二重の概念を組み合わせたものだけに資金を提供しており、これらの資金はコロンビアのような国で売買春を非犯罪化することを目的としています。しかも、これらの資金を受け取っているセックスワーク組織は、売春の周旋で有罪判決を受けた元ピンプが代表を務めているのです。

 新型コロナ危機もとで、コロンビアでの先住民女性の人身売買など、社会問題についての話題が増えています。もっとも、問題の原因である男性の需要については言及されていませんが。コロナ危機の良い結果の一つは、売春に関する問題についての対話が広がったことです。

 ジーン・エンリケス(フィリピン)

 アジアでは、フィリピンやインドなど権威主義的な政権が存在しているため、新型コロナ対策の多くは、貧困者への物質的な支援に焦点を当てたものではなく、セキュリティーの観点にもとづく隔離やロックダウンが中心になっています。財政的な福祉的支援はほとんどありません。これらの地域は、富裕国にとって出稼ぎ労働者の供給源となっています。

 ロックダウンの期間中に、私たち(CATW-AP)の支援活動にメディアが関心を持ったことがありました。私たちは、一部の買春警官が今も売春女性に電話で連絡を取っている事実をメディアに伝えました。すると警察から、その警察官個人の名前を教えてほしいと頼まれました。しかし、被害者を危険にさらすことになるので、それはできないと答えました(過去には、被害者が加害者を通報したせいで殺されたこともあります)。車を持った金持ちの男性は、今でも女性を買って自分の家に連れていっています。

 ヤグムール・ユガルキッツ(フランス)

 ここフランスには北欧モデルがあります。危機のため、売買春の中の女性たちへの居住許可が3ヶ月間延長され、離脱プログラムのための補助金支給も延長されました。危機の中で売買春の中の女性たちを支援するためのクラウドファンディング・サイト(「セックスワーク」グループが運営)が立ち上げられましたが、疑わしいものです。集められたお金がピンプに行く可能性があるからです。

 次に司会のテイナさんは、国連や国際条約の枠組みが、この間のコロナ危機における活動とどのように関わっているかについて各パネラーに質問しました。というのも、ちょうどCEDAW(女性に対するあらゆる形態の差別撤廃条約)委員会によるレビュー(これまでの活動の総括と検討、今後に向けての新しい政策の立案)の時期にコロナ危機が起こったからです。

 アンナ・ゾブニナ

 移民に関する国内法は、一部の国が「移民」の枠組みの一環として人身売買被害女性に難民認定を与えるなどごくわずかなケースを除いては、人身売買の被害者には役立っていません。しかし、売買春への需要を犯罪化し、売買春の中の女性たちを非犯罪化すれば、自動的に移民女性を助けることになります。例えば、不法就労資格を持つ移民女性がドイツの売春店で捕まったとしたら、ドイツの現行法の枠組みでは、彼女は不法移民として強制送還されることになります。移民法は彼女を保護しないのです。しかし、ドイツで北欧モデルを導入することができれば、彼女は保護されるでしょう。なぜなら彼女は、不法移民としてではなく、自動的に買春の被害者だと認定されることになるからです。つまり、現在の「移民」という枠組みよりも、北欧モデルの方が移民女性にとっては有益なのです。

 女性たちといっしょに実際に現場で活動している組織や団体は、国連やその他の同種の国際機関による国際レベルの会議や公聴会に参加するには、あまりにも資金や人手が不足しています。そのため、女性の利益に敵対する組織が代わりにそうした会議に参加するのですが、これらの組織は、売買春の現場で女性たちに何が起こっているかについてほとんど何も知らないし、むしろ、女性の権利を侵害する目的をもってこれらの会議に参加しています。これらの組織は、女性が闘って勝ち取ってきた既存の法律/条約/政策についてほとんど知りません。同時に、各国の女性たちは、私たちが実際に国際法の中で利用できるいくつかの有益な条項のことをよく知らないし、それを利用していません。

 CEDAW委員会は、今回のレビューに関連して多くの方面から圧力を受けていますが、まともな女性たちも参加しています。私たちもヨーロッパ移民女性ネットワークとして参加しており、現場で何が起こっているのか、私たちの知っていることを伝えることができました。

 ドリーシャ・フェルナンデス

 コロンビアには50年間にわたって内戦があったので、国連機関がコロンビアにはたくさんあります。しかし、これらの機関は、売買春の非犯罪化に向けたロビー活動のための単なる扮装グループとして資金を提供されているか、あるいは被害女性にシェルターを提供できないと言い訳するかです。これらの機関がパレルモ議定書に従う場合であっても、人身売買を証明するために女性に高い基準(力の行使など)を課しており、また買春需要には何ら対処していません。これは私たちにとっても世界にとっても由々しきことです。なぜならそれは、国連システムの弱点を示すものであり、代わりに捕食グループが国際的なアジェンダを決定することを可能にしているからです。私たちは、各国政府が個人を「移民」とみなす前に、まずその個人が人身売買されているかどうかについて評価することを望みます。女性は「移民」になるよりも人身売買される可能性の方が高く、政府はこのことを認識する必要があります。

 政府による不作為についてもきちんと問題にする必要があります。保護すべき女性を保護していないこと、このような危機的状況の中で女性を支援している NGOに資金提供していないこと、などです。誰もがこの状況を解決するために市民社会に目を向けていますが、国や国連機関はこの危機の中で女性のニーズに応えるべきなのに、応えていないのです。

 ジーン・エンリケス

 フィリピン、香港、湾岸諸国には強力な移民の権利団体があり、それらが良いモデルとなっています。他方、マレーシア政府は現在、危機的状況の中で移民を弾圧しています。こうした状況の中で移民女性を助け、移民の政治的動員にリーダーシップを発揮する国際組織が必要です。

 アンナ・ゾブニナ

 私たちが必要としているのは、移民女性それ自身の政治的動員よりもむしろ、移民女性の間でのフェミニストの動員です。すべての移民女性がフェミニストであるわけではなく、私たちは彼女たちにフェミニストの思想に触れることのできるスペースと機会を与える必要があります。もちろん、すべての移民女性が政治的に動員されることを望んでいるわけではありません。また、異なる文化的背景を持つ女性のあいだにも違いがあり、女性の民族や文化の違いに応じて異なる戦略を採用しなければなりません。すべての移民女性が高いレベルの政治意識を持っているわけではありませんが、それにもかかわらず、彼女たちは安全と住居の保障という緊急のニーズを持っています。私たちは、移民女性のこれらの緊急のニーズに関心を持ち、より高度な政治的問題をめぐって動員すると同時に、これらのニーズの実現に向けて彼女らと協力しなければなりません。

 また、売買春の代替物として広がっているインターネットポルノの問題についてですが、インターネットへのアクセスという点で、搾取されている移民女性と、彼女らを搾取している男性とのあいだに大きな情報アクセスの格差が存在しています。女性の記録された売買春(ポルノ)がインターネット上で配布されている一方で、これらの制作に使われた女性たちは、インターネットにアクセスできないため、それらが配布されていることを知りません。危機時の支援に関するさまざまな情報もインターネットで発信されていますが、売買春の中にいる女性たちはコンピュータやインターネット、テクノロジーに必ずしもアクセスすることができないので、そうした情報に関してもギャップが存在します。

 国連や国際条約に関してですが、たとえば、1995年の北京宣言はポルノや性的搾取に強く反対しています。私たちは、これらの手段を使うべきであり、それらを忘れてはいけません。

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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