【解説】以下のインタビューは、2018年7月に行なわれたもので、フランスのアボリショニストであるフランシーヌ・スポレンダさんがスウェーデンの買春禁止法の法執行責任者であるシモン・ヘッグストレーム警部に、同法導入後のスウェーデンの変化について尋ねたものです。スウェーデンをめぐっては、セックスワーク派が多くのデマゴギーを流していますが、それらに対する反論にもなっています。Nordic Model Now! に掲載された英語版から全訳しました。NMNおよびスポレンダさんから許可をいただいた上で、ここに紹介しています。
フランシーヌ・スポレンダ&シモン・ヘッグストレーム
Nordic Model Now!, 2018年7月20日
シモン・ヘッグストレーム(Simon Häggström)は、ストックホルムでセックス購入禁止法を執行する売買春課のスウェーデン人警部としての仕事についてフランシーヌ・スポレンダと語りあった。現在彼は、人身売買とピンプ行為のネットワークを追跡するスウェーデン警察の人身売買ユニットの責任者を務めている。『影の法――売買春と闘うスウェーデン人警部の真実の物語』の著者でもある。
FS(フランシーヌ・スポレンダ):スウェーデンのセックス購入禁止法(北欧モデルと呼ばれることもある)の根拠は、売買春は社会全体に悪影響を及ぼすということです。このことについて、そしてそれがどのようにあらゆる種類の犯罪の磁石となっているのかについて教えてください。
SH(シモン・ヘッグストレーム):たしかに、売買春はあらゆる種類の犯罪を引き付ける磁石になっていますが、売買春が社会全体に影響を与えると言っても、それは必ずしも犯罪的な観点からの話ではありません。これについて最初にお話ししましょう。というのも、売買春は、その中に巻き込まれている個々人――とりわけセックスを実際に提供している女性、および買い手――に対してダメージを与えるだけでなく、社会のすべての人にダメージを与えるからです。
セックスの購入が合法化されると、私たちのお互いの見方に何かが起こります。若い男の子は、ヤリたいときはいつでもお金を払って手に入れればいいというメンタリティで育ちます。もちろんこのことは、一般に人間としてのお互いの見方にも影響を与えますが、より具体的に言えば、女性に対する見方に影響を与えます。だからこそ、私たちは売買春が社会全体にダメージを与えていると考えているのです。
「買春を禁止すると地下に潜る」という神話
FS:セックスの購入を犯罪化する法律が売春を地下に追いやっているという、売春賛成派の典型的な議論に対して、どう答えますか?
SH:私はこのような議論を聞いてびっくりしています。スウェーデンを除く世界中でこの議論を耳にします。どうやらスウェーデン以外の国では、誰もが、この法律が施行されるとどうなるかに関する専門家になっているようです。「おー、スウェーデンではどうなったか見てごらん。売買春が地下に潜ってしまい、警察はもはや被買春女性を見つけられなくなってしまった」云々。
私の答えは、「おいおい、私は警察官だ。私は10年間、売買春課にいるが、売買春は地下に潜ってなんかいない。それを見つけることは可能だ。携帯電話を貸してくれさえすれば、それがどこに存在するか教えてあげるよ」。
正直、どこからそんな主張が出てくるのか本当にわかりません。もちろん、売買春の場にも変化がありました。1990年代にはほとんどの売買春は屋外で、路上で行なわれていました。しかし、インターネット革命が起こり、アパートやホテルの部屋で売買春が行なわれるようになりました。しかし、それが表に出ていないからといって、地下に潜ったとはかぎりません。買い手がアパートやホテルの部屋にいるこうした女性たちを見つけることができるなら、警察にもできます。必要なのは携帯電話やスマホです。
基本的にこの議論はただの神話ですが、それが非常に広まっているので、私の答えはこうです。神話を信じないで、私たちに、実際にこの法律のもとで働いている人たちに声をかけてほしい。私たちは実情を知っているからです。これまで流布されてきたことが嘘だということを知っているからです。売買春が行われているアパートを見つけ出すのに数分ですみます、と。
FS:私もこの議論がばかげているといつも思います。性産業が存在するには、買春男が女性を見つけることができなければなりません。買春男に見つけられるなら、警察にも見つけられます。わかりきったことです。
SH:その通りです。だからいつも、売買春は本当の意味では地下に潜れないと私は言っているんです。人身売買業者やピンプは彼らが売る女性を宣伝しなければならないからです。売られている女性を宣伝している場所やウェブサイトは、もちろん警察も他の誰とも同じように閲覧することができます。この種の議論は現実とは何の関係もないので、私はうんざりしていますし、正直、聞き飽きました。
「買春を禁止すると、売り手の女性がより危険になる」という神話
FS:スウェーデンの法律が――反対者たちの予想に反して――、どのようにして女性にとって売買春をより安全なものにしたのか説明していただけませんか?
SH:それは、私が他の国にいるときに聞かれる質問の中で、おそらく2番目に多い質問です。「スウェーデンで何が起きたか見てごらん。買春者を犯罪化したために、売買春で女性への暴力が増加したんだ」。この種の議論もいつも耳にしますが、あなたも聞いたことがあるんですよね?
FS:ええ、何度も!
SH:でしょうね。しかし、そんなことはまったく起こっていないときっぱり断言することができます。私たちの政府は2010年に評価をしました。一流の弁護士であり、最高司法部議長のアンナ・スカルヘドさんが率いていたのですが、その結果、売買春における女性への暴力が増加しているという証拠はないとの結論に達しました。
だからといって、スウェーデンで売春をしている女性が暴力を受けていないということではありません。彼女たちは受けています。なぜなら売買春の中にいること自体が危険なことだからです。世界のどこにいようと、被買春女性であれば、レイプ、暴行、強盗などの被害に遭います。それこそが売買春の本質なのですが、スウェーデン法の導入によって暴力が増えたという証拠は見られません。
私に言えることは、そしてさまざまな証言から明らかになったことは、スウェーデンでは売買春の中にいる女性の方が実際により安全になったということです。なぜなら法そのものが買春者にプレッシャーを与えているからです。
スウェーデンの文化や文脈、そしてこの法律の規範的な影響を理解しなければなりません。この法律が施行されてから20年が経ち、社会全体に影響を与えています。セックスを購入することは、今では逮捕される可能性のある最も恥ずべき犯罪の一つとなっています。それが公になれば、仕事も家族も社会的ネットワークもすべて失う危険性があります。
買春者は、自分は法律を破るリスクを犯しているのに、これらの女性がいかなる形態の罰のリスクも負わないことを知っています。彼らは、電話一本で警察が駆けつけることを知ったうえで行動しなければなりません。つまり、女性が自分の身に何のリスクも及ぶことなく警察に通報できることを知っているからこそ、買春者の振る舞いに圧力がかけられているのです。
買い手はちゃんと振舞わなければならないことを知っていますが、それは女性のことを気にかけているからではなく、自分の利益のためであり、自分のことを気にしているからです。自分の身を守るためには、女性を大切に扱って、ちゃんとお金を払って、きちんと振る舞わなければならないことを知っているのです。そうしないと警察が来て 逮捕されてしまいます。彼らはそれを避けるために何でもするのです。
インターネットの役割
FS:スウェーデンではオンライン売春が普及しているのでしょうか(フランスでは現在、それが売買春の約70%を占め、売買春サイトに莫大な金額をもたらしています)? これに対して、どのような対策がとられていますか?
SH:これらのサイトの多くは国際的なもので、スウェーデン国内のものではありません。それぞれの国の国旗を選ぶだけで、その国の広告が表示されてしまうのです。
スウェーデンの法律では、これらのサイトは違法です。セックス購入禁止法と同様に、スウェーデンにはピンプ行為や人身売買を取り締まる厳しい法律があり、あらゆる種類の幇助活動を処罰しています。つまり、これらのサイトが違法であることは間違いありませんが、ヨーロッパでは売買春に関する言語や法律、見解が非常に異なるため、これらのサイトを閉鎖しようとすると、大きな困難に直面することになります。売買春が犯罪行為とみなされていない国のサーバー上にサイトが置かれている場合、サイトを閉鎖させることはできません。その活動は、関係する両国で違法でなければなりません。
これは間違いなく私たちにとっての挑戦課題であり、ヨーロッパ連合(EU)がこの種の広告を違法とみなすようにしなければならないことをいっそう確信させるものです。しかし、EUでは、強制的な人身売買と自発的な売春とを区別する議論がなされています。おそらくこれは最も危険な議論の一つです。というのも、実際には両者を区別することはできないからです。人身売買は常に自発的な売春を装っており、どっちがどっちであるかの区別がつかないからです。自分は自由意志でしていると女性たちは言いますが、実際にそうだという保障はどこにもありません。売春をしている女性の大多数はルーマニアやナイジェリアなどの出身者であり、彼女たちが人身売買や強制売春の被害者であることはわかっていますが、それでもヨーロッパでは、「セックスワーカーの権利」のために売買春を合法化して規制すべきであり、強制的な人身売買と自発的な売春とを区別しなければならないと主張する人たちとの間で、このような議論が行なわれているのです。しかし、私の知るかぎりでは、私が会う10人の女性のうち約9人は、何らかの形で組織的な売買春の被害者です。
エスコート売春〔日本で言うデリヘルに近いもの〕のサイトに関して言うと、それは私たちにとって大きな問題です。というのも、サーバーが国外に置かれているため、自分たちの思う通りの仕事ができない状況にあるからです。
FS:私も、これらのサイトが非常にグローバル化していることに気づきました。いくつかのサイトを所有している人の話を読んだのですが、彼はアメリカに住んでいるのですが、会社の本社はジャージーにあり、サーバーはさらに別の場所にあります。サーバーは国から国へと移動しているので、それを追跡することは困難なのです。
SH:その通りです。インターネット、デジタル革命は社会にとって素晴らしいことをしました。しかし、それにはマイナス面もあります。もし警察が、売春だけでなく、麻薬やテロリズムなどの悪質なものをすべてシャットアウトできれば、もちろんそれはすべての社会にとって大きな利益になるでしょうが、それはできません。しかし、ヨーロッパのすべての国が、売買春が女性に対する男性の暴力の一部であり、現代の奴隷制の一形態であることを、売買春の本質として認識してくれれば、この犯罪と闘うチャンスはもっと広がるでしょう。
買春男性は逮捕されたらどうなるのか
FS:あなたがおっしゃるには、ほとんどの買春男は普通の男であり、「スーツを着て」、結婚して仕事と子供を持っている。けっして貧しく孤独な男ではないということですね。彼らは逮捕されることを恐れていて、あなたを「死の天使」とさえ呼んでいます。スーパーで出会った男の話をしてくれましたね。彼は美人の奥さんと子供といっしょに買い物をしていました。彼はあなたに会うのを恐れていました。というのも、車の後部座席で18歳の女の子にフェラチオをさせたことで、あなたに逮捕されたことがあったからです。あなたは、妻には夫が買春者かどうかを知る権利があると言いますが、買春男が逮捕された場合、どのような結果になるのでしょうか?
SH:スウェーデンでは、セックス購入の禁止が論争対象にはなっていないことを忘れないでください。国民の大多数はこの法律を支持しています。しかし、ここでは当然とされていることも他の国々の人々にとってはすごいことだということも理解しています。
私たちはこの問題を最初から取り上げる必要があります。この法律は一夜にして導入されたものではありません。1970年代半ばから30年におよぶ激しい議論の末に導入されたのです。そして1999年にこの法律が導入されたときは、国家レベルで多くの注目と議論の的となりました。
しかし時が経つにつれて、状況は変化し、今日ではこの法律について政治的なコンセンサスが獲得されています。野党を含むすべての政党がこの法律を支持し、国民の大多数がこの法律を支持しています。このことは社会に規範的な影響を与えました。それは国民に正しい方向へと導く影響を与えました。今日の平均的なスウェーデン人――言うまでもなく、とくに女性がそうですが――は、売買春についてかなりの知識を持っていると思います。なぜなら、若い女の子は大人になってセックスを売ることなど夢見ていないからです。売買春に関するスウェーデン人の平均的な知識レベルは、他の多くの国と比較して非常に高く、それはセックス購入禁止法のおかげであり、長年にわたって議論されてきたことの結果です。
このことを念頭に置いて、未成年からであろうと成人からであろうと、セックスを買ったことで警察に捕まることは、スウェーデンでは恥ずべきこととされています。南欧のいくつかの国では、セックスを買うことは食料品店に行くのと同じようなものだとのことですが…。
FS:ドイツでもそうです。売買春がすっかり普通のこととされています。
SH:そうです、普通のことになっています。そこでは、サッカーチームやサポーターがサッカーの勝利を祝って売春店に行きます。スウェーデンではまったく逆の考え方です。ここではそれはとても恥ずべきことなんです。友達に自慢することもありません。もし誰かが「昨日セックスを買ったんだ」って自慢しはじめたら、たぶん友達は言うでしょうね。「おいお前、何か問題でも抱えているのか? タダでできないなんて」と言われるでしょう。それは普通しないことだし、もししたとしても誰にも言わないでしょう。だから、結果が出ているのです。
何年も前から何度も目にしてきたことですが、これらの男たちは、逮捕されるとすべてを失います。正直言うと、それは比較的軽微な犯罪です。刑務所に入れられることはまずありません。罰金を払えばいいだけです。しかし、それでもこれらの買春男たちの人生に大きな影響を与えます。結婚や家族だけでなく、社会的ネットワークも失う危険性がありますから。
私たちは、買春者が仕事を失ったケースを目にしてきました。雇用者や上司は、セックスを買うような男性は人間を大切にしていないと考え、「人間を大切にせず尊重しない人間はうちの会社にいてほしくない」と考えています。セックスを買うことで、その人はその基準に沿って生きていないことを示したことになります。
医者を逮捕したり、神父を逮捕したり、警察官を逮捕したり、検察官を逮捕したり、あらゆる社会階層の人を逮捕してきましたが、その結果は甚大なものです。もしあなたが社長や重役や有名人であれば、そのダメージは計り知れません。
数年前、サッカーのスウェーデン代表チームのゴールキーパーがルーマニア人女性からセックスを買ったとして逮捕されました。それはメディアで大きな注目を集めました。メディアは、逮捕されたセックス購入者について多くのことを書いているので、世間の意識を高める役割を果たしています。アメリカのように、逮捕された買春男性の名前や写真を公開するような恥ずかしいシステムはありませんが、このような大がかりな報道があり、それが間違いなく世間の意識向上に貢献していると思います。
会社としては、セックスを買うことで他人への敬意を深く欠いていることを示している人物に会社を代表してほしくないのです。スウェーデンではそれが当たり前で、政治家を逮捕してその日のうちに仕事を辞めざるをえなくなった人もいました。
スウェーデンで子供の頃から「誰かがセックスを買ったら何か悪いことが起こる」という考え方で育ってきた人でないと、理解するのは難しいと思います。今の子供たちはそうした環境のもとで育ちました。物心ついた時からずっとセックスを買う行為が違法であったので、それ以外の選択肢はありません。そしてもちろん、この法律は社会に深い影響を与えました。あなたの国では、赤信号を無視して運転することは違法ですか?
FS:もちろんです。
SH:もちろんそうですね。しかも都会で、夜中の3時に人が1人もいなくても関係ありませんね。他に見える車がなくても、青信号になるのを待っています。なぜでしょうか? もしかしたら、どこかに警察官が隠れていて、赤信号を無視して走っているところを見つかったら、運転免許証を失うからです。
セックス購入禁止法でも同じです。法律自体が大多数の国民に影響を与えているのです。もちろん、今でも赤信号を無視して運転する人はいますし、セックスを購入する男性もいます。だから、警察もまだいるのです。しかし、理解しなければならないのは、法律は重要であり、国民の大多数はこの法律に従っているということです。そうでない人のために、警察は仕事をしているのです。
買春者たちの言い訳
FS:買春男性が逮捕されると、彼らは大声で抗議しますよね。「無害なセックスをしたいだけの可哀そうな男に嫌がらせをするよりも、もっとするべきことがあるだろ!」とか何とか。逮捕されたとき、これらの男たちはどのようにしてセックスを買うことを正当化しているのでしょうか?
SH:いろいろな言い訳があります。以前にもお話したように、彼らはさまざまな背景を持っているので、みんな違う話をします。彼らに共通しているのは、自分が被害者だと思っていることです。逮捕されても、彼らは女性について何も質問しません。「何のためにここにいるのか、人身売買の被害者なのか、どうしているのか」等々。そんな質問はいっさいありません。
質問はすべて自分たち自身についてのものです。「俺はどうなるんだ?」「家族に電話してくれる?」「雇い主に電話してくれる?」「刑務所に行くことになるのか?」「新聞に載るのか?」。いっさいが自分を中心に回っているのです。
そして、われわれは常に何度も何度も同じことを言われます。「お前のおかげで俺の人生が台無しになった」と。2週間前にも同じようなことがありました。その男は、「お前は俺の人生を台無しにしただけでなく、子供たちの未来も台無しにしたし、うまくいっていた結婚生活も台無しにしたんだ」と。
彼らはいつもこちらに責任を押しつけます。そしてこれはセックスを買うことの意味をよく示しています。100%エゴなんです。常に自分のことなのです。自分がヤルこと、自分の性的欲求を満たすこと、いっさいがそうです。相互の何かについてではなく、相互の魅力、2人の人間のことではなく、1人の人間のことなのです。自分が望むものを手に入れることであり、相手がそれを望んでいないので、お金を払ってそれを手に入れなければならなかったというわけです。
人は、その人のことをそばにも近寄りたくないと思っている他人を買ってセックスすることができますが、その女性に他に選択肢がなかったとか過酷な背景があるとか、そういう事情がなければその女性に金を払ってセックスすることはできなかったはずです。売春は階級の問題なのです。金のある人間が貧しい人々を搾取しているのです。そのことは、私が被買春女性に会ったときも買い手に会ったときも、明らかなことです。
スウェーデンのこれらの金のある男たちは、お金があるからセックスにお金を払うのです。ルーマニアやナイジェリアなどから来た貧しい女性たちは、家族や子供たちのために食事を確保しなければならないので、このような状況に陥っているのです。
もちろん、男性の側にもさまざまな言い訳があります。曰く、「彼女がいま妊娠していて、ちゃんとしたセックスライフが送れないから」「俺はしたいからただそうした」「彼女が今すぐできないから」、あるいは「彼女との関係がうまくいってなくて」「今日は彼女と喧嘩してしまったから」「彼女が俺に冷たくて」「だから他の人と会ってヤラないといけないと思った」などなど。
恋人に浮気したくないからセックスを買うと言った男性もいました。それは正気の沙汰ではありません。彼らは、セックスを買っても、それはただの機械的なセックスで、それ以上のものは何もないので、本当に浮気しているわけではないと信じています。一夜かぎりの関係や社内不倫でも、お互いに魅力を感じているのだから浮気だと思っているのです。しかし、彼らがセックスを買った場合、そこには感情も情熱もなく、ただ機械的なもので、それは浮気ではなく、ストレスを解消しているだけだと自分自身を納得させようとしているのです。
もう一つの説明は、「自分には解消できない空想があって、恋人に話したら、荷物をまとめて出ていってと言われたので、お金で買える女性のところに行った」というものです。いろいろな言い訳がありますが、どの言い訳にも共通しているのは、100%エゴイズムだということです。
FS:このような男性に共通しているもう一つのことは、女性に対する基本的な軽蔑だと思いませんか?
SH:その通りです。スウェーデンの男性の大多数はセックスを購入していないので、セックスを購入している人たちをまとめているのは何なのかと疑問に思わざるをえませんが、それは一般的には他の人間に対する軽蔑、とくに女性に対する軽蔑だと思います。彼らは人の生を尊重していないし、女性を対等な存在として評価していません。女性は消費されるものだと思っているのです。
BOSSと買春者スクール
FS:スウェーデンには買春者スクール〔逮捕された買春者の再教育のためのコースないし施設〕はありますか。
SH:スウェーデンには買春者スクールはありません。私たちのところにあるのは、BOSSプロジェクト(BOSSはBuyers of Sexual Servicesの略)です。これは総合的なソーシャルサービスで、警察に捕まった男性や、問題を抱えていることに気づいて自らやって来た男性のために、セラピストやソーシャルワーカー、カウンセリングなどを提供しています。スウェーデンではかなりの数の男性がこのプログラムに参加していますが、彼らは自発的に参加しています。
その人にやる気があり、自分の問題に気づいたら、このプログラムに参加することができます。「自分はセックス依存症の問題を抱えていて、自分一人では止められない、助けが必要だ」と気づいた場合には、このプログラムに参加することができます。あるいは、警察に捕まって、自分の人生が台無しになったことに気がついたら、BOSSプログラムに参加することができます。しかし、もし私が路上で誰かを逮捕して、BOSSプログラムのことを話しても、その男が「けっこう、興味ないね、罰金を払えばいいんだろ」と言ったら、彼をそのプログラムに入れるために何もすることはできません。でも、買春者スクールはここスウェーデンでも絶対に必要です。罰金を払うだけではなく、買春者スクールに行かせてほしい。それは素晴らしいことです。罰としてだけではなく、1週間滞在してサバイバーの話を聞かなければならないのですから、このことについての知識を身につけなければなりません。それは絶対に良いことだと思います。
ポルノグラフィの問題
FS:何人かの被買春女性によると、被買春女性であることをいっそう過酷なものにしているものが2つあると言います。ポルノとパンターフォーラム〔ネット上の買春者の交流サイト〕です。コメントいただけますか?
SH:ポルノグラフィはここでスウェーデンではあまり話にはなりません。私たちは売買春について話していますし、何年も前から話しています。しかし、売買春と同じように、ポルノは私たちが想像もできないような形で社会全体に影響を与えています。スウェーデンでポルノを見始める平均年齢は11歳から12歳です。私は36歳ですが、15歳の頃は子供たちがポルノを見ていたのを覚えています。
大学生に話すとき、いつも彼らに「私がみなさんの年の頃、親にポルノはダメだと言われてました」と語ります。今でも同じことを言っていますが、今では、私がティーンエイジャーのころに見ていたものよりも1000倍ぐらいひどいものになっています。
今の時代に成長している若者たちにとってそれは公衆衛生上の問題であることは間違いないと思います。それは本来対処されるべき形では対処されていません。売買春だけでなく、性犯罪を専門とする警察の捜査官に話してみてください。われわれはいつも言うのですが、犯人のパソコンを調べると出てくるのは、ポルノ、ポルノ、ポルノです。いつもそうです。もちろん、ポルノが正常なセクシュアリティの基準を設定している場合、それは人々や社会全体に深刻な影響を与えます。
教師や学校が性教育の扱い方を知らないために手を引いてしまった社会ではどうなるでしょうか? ポルノが若者たちが自分自身を教育する場になってしまったら? それは悲劇であり、もちろん売買春の世界にも直接影響を与えています。
それは売買春の広告を見ただけでもわかります。これらの被買春女性はどのように広告されているでしょうか? 彼女たちはポルノスターのように広告されています。人身売買業者やピンプは、買春者の100%がポルノを日常的に見ていることを知っています。そのメッセージは何でしょうか? 「私たちの所へ来れば、ポルノで見ているすべてのことができるよ」です。
ですから、ポルノは悪夢だと主張するこれらの女性たちの意見に私は全面的に同意します。売買春の中にいるかぎり、常に見させられているものがこの悪夢だからです。今日の普通の売買春で行なわれていることは、ポルノ映画を直接模倣したものです。映画で見たようなことをしたいなら、誰のところに行きますか? ノーと言えない女性のところに行くでしょう。他の女性ならイエスと言うこともノーと言うこともできます。しかし、問題なのは、売買春では何千人もの、ノーとは言えない女性たちがいることです。彼女たちは生きていかなければならないし、家族を養わなければならないので、ノーと言うことを許されていないのです。
ポルノグラフィは単なる始まりです。言うのも恐ろしいことですが、私たちの前にある未来は非常に暗いように思えます。なぜなら、携帯やスマホでハードコア・ポルノを見て育った世代が今や大人になっており、このポルノ化した世代から多くの悪いことが出てくるように思えるからです。
このインタビューはもともと、Révolution Féministeのウェブサイトにフランス語で掲載されたもの。
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