テレサ・ジアウリス「ポストモダンでリベラルな家父長制」

【解説】ここに紹介するのは、スペイン語のラディカル・フェミニスト雑誌『トリブーナ・フェミニスタ』に掲載されたテレサ・C・ウヨア・ジアウリスさんの論考です。テレサ・ジアウリスさんは、女性人身売買反対連合(CATW)のラテンアメリカ・カリブ海諸国の組織である「ラテンアメリカ・カリブ諸国における女性と少女の人身売買に反対する地域連合(CATWLAC)」のディレクターです。

『トリブーナ・フェミニスタ』2021年4月12日

テレサ・C・ウヨア・ジアウリス

 売買春やポルノグラフィという搾取も代理出産も新しい現象ではないが、ポストモダンやリベラルのイデオロギーに基づいて、個人の判断が公共の利益の概念よりも優先されているのが実情だ。このような個々の決定が、女性や少女を取引可能で、市場性のある、売買可能で、利益を生む客体に貶めるような固定観念を永続させているという事実にもかかわらず、自由な同意という誤った根拠のもと、少女や女性の身体を原材料とする数十億ドル規模のビジネスを通じて、野蛮で冷酷で深刻な搾取が行なわれている。

 家父長制の図々しさたるや、このような違法行為を、女性が自ら決定し同意しているという馬鹿げた議論で正当化するまでになっている。もちろん、女性の尊厳、不可侵性、安全性が利用可能な法的商品ではないことは無視されている。したがって、この種の同意論はけっして妥当しないし、とりわけ、当事者たる女性が貧困、機会の欠如、暴力の発生、その他女性を弱い立場に置く諸条件がある場合はなおさらであり、また、多くの政府の共謀と多くの公務員の腐敗のもと、何百万ドルもの価値のあるグローバル・ビジネスとしてなされている場合はなおさらだ。

 しかし、最も深刻なのは、家父長制的なイデオロギーに巻き込まれた「フェミニスト」グループ、あるいはクィア理論に浸食された似非「フェミニスト」グループが存在していることだ。これらのグループは、フェミニズムの政治的主体が女性であること、そして、売買春、ポルノ、代理出産が、フェミサイドを含む女性に対する深刻な暴力の形態を示す植民地主義的で差別的な要素を内包していることを忘れている。

 売買春、ポルノ、代理出産は、サイバースペース上でグローバルな大企業に利益をもたらし、女性の身体や生殖機能を貶め、赤ん坊の契約出産を発注したり、セックスツーリズムや生殖ツーリズムを含む商業的な卵子提供を全世界の面前で堂々と推進し、ソーシャルネットワークやウェブサイトで宣伝している。たとえば、最大のポルノポータルサイトであるポルノハブとその親会社であるマインドギークの関連サイトで宣伝されており、さらにこのマインドギーク社は、YouPornやBrazersなど約30ものポルノプラットフォームも運営している。

 「ゾナディバスのエスコート嬢のフェラ」と題されたポルノ動画では、若い女の子が誰のかわからないペニスにオーラルセックスをしている。ポルノハブ・サイトに大量にアップされている多くの作品と同様、彼女はカメラの前では服従的で、従順であるように見える。素人のようでいて、そうではないかもしれない動画だ。このシーンは18秒で、少なくとも3年間で21万2000回以上も再生されている。

 実はこの動画に映っていたのは、アルゼンチンで最も貧しい地域の一つであるチャコ地方に住む若い女性だった。彼女はメキシコシティに到着し、3年前、ウェブサイト「ゾナディバス」に関連した被買春女性たちの殺人事件があいついだ際に、フェミサイドの犠牲者となった。彼女は非常に暴力的な方法で殺害され、その事件はメディアで報道されたが、今年の3月3日に『Pie de Página』に掲載されたリディエッテ・カリオン記者のコラム記事で報告されているように、彼女の映像はまだネット上に残っている。

 また、カリオンの指摘するところでは、動画をアップロードした人物のプロフィールに、「俺は娼婦とファックするのが大好きなカレシコ出身の男だ! 娼婦はホンコン・アデリタス、アムネシアに属しているか、ソロディバス、ゾナディバス、ムサスなどのエスコートサイトでゲットした。[…]俺があいつらをファックしているところを時々、密かに撮影している」と説明されている。

 このプロフィールの人物はこれまでに70本以上の動画をアップロードしており、その多くは女性の知らないうちに撮影されたものと思われる。それらの動画には、ゾナディバスをはじめ、さまざまなエスコートクラブの名前、ナイトクラブの名前のタグがつけられている。

 被害女性のビデオが「クリック」されるたびに、利益が発生する。1日に100万回以上再生されるXvideosやポルノハブといったプラットフォームへのお金、それをオンラインで公開した個人やグループへのお金、サイトに広告を出した連中へのお金だ。このように全員が利益を得るが、もちろん被害女性だけは別だ。これが性的人身売買の仕組みである。彼女は、殺害前にはメキシコシティの組織犯罪によって搾取され、殺害後は世界最大のポルノサイトで搾取されつづけているのである。

 そして、最も深刻なのは、フェミニストを名乗るグループが、たとえそうであったとしても彼女は同意していたし、自分の町にいるよりも売春をしていた方がよい、その方がより多くの収入を得られるからだと主張し、彼女がメキシコまで行って組織犯罪やポルノサイトに性的に搾取されなければならなかったという脆弱性の諸条件を無視していることだ。

 マインドギークは事実上、ウェブ上のポルノを独占しており、あの被害女性のようにサイトにアップされた女性たちが見たこともないような天文学的な金額の利益を生み出しつづけている。

 ポルノハブは、世界で35番目に訪問者数の多いサイトとしてランキング入りしている。それよりも3つだけランキングの低いXVideosでは、「diva zone」というタグで、ホテルでこっそり撮影されたビデオがいくつも紹介されているが、その中にあの被害者のものも含まれている。

 ポルノハブとXvideosは、「膨大な数のアダルトサイトの中で、最も著名な2つのサイトにすぎず、実質的にマインドギークはこのビジネスをほぼ独占する立場にある」と、デジタルジャーナリストのホセ・マヌエル・ロドリゲスは2018年に説明している。

 しかし、ケイト・ミレットが言ったように、「忠実な補佐や自己犠牲的な共犯者がいなければ、どのような制度もその支配を維持することはできない」。

 バダホス・アボリショニスト・プラットフォーム(Plataforma Abolicionista de Badajoz)は、『トリブーナ・フェミニスタ』2021年4月3日号に掲載された記事「これらの男たちを支える女たち」の中で、次のように述べている。

 自らの性的階級〔女性〕を裏切ってでも権力の座を失いたくない女性従者や、女性に対する暴力との闘いを支持すると主張するが、実際には、社会的に成功し利益を上げるために、自分たちに関心のある特定の暴力だけと、そして関心を持っている時だけ闘う似非フェミニストが数多く見られる。……私たちの生きている家父長制社会が、性的・生殖的奴隷制度や女性の家事・ケア労働の上に成り立っていることを無視しては、フェミニストとは言えない。これが私たちの抑圧の起源であり、原因なのだ。その結果、私たちを従属的な地位に置きつづけるために、ジェンダーが押しつけられる。ジェンダーは私たちに対する拘束衣である。それはアイデンティティではなく、パフォーマンスでもなく、選択されたものでもない。ジェンダーは服従であり、女性に対する暴力だ。……ある者は積極的に、ある者は利己的に、またある者は無知から、私たちが苦労して手に入れた法的手段をすべて奪うことに加担し、男性、新自由主義、家父長制の利益のために、私たちを女性として、さらにはレズビアンとしても抹殺することを意味する「社会的進歩」に拍手を送り、祝福している。

 そして、真実から疎外されている女性たちがいる。彼女らは、このシステムが最初からあてにしている人々だ。彼女たちはまだ自分の目を開いておらず、家父長制の「マトリックス」〔ハリウッド映画の『マトリックス』をもじっている。家父長制の過酷な現実を直視しないようつくり出された、幸せな社会という幻想の世界〕の中で生きていて、自分に起こることは自分のせいだと考え、いざという時は男性たちが守ってくれ、自分たちが男性と対等であり、男性の言うことはすべて信じなければならないと思っている女性たちだ。とくに、男性が「僕も苦しいんだ」と言えば、余計なことを考えずに助けてあげなければならないと思っている。私たちは、8M〔国際女性デーである3月8日でのデモ行進を企画したフェミニスト・左派団体の連合体〕やフェミニストサークルなどのフェミニスト活動グループに参加したり、結成したりしてきたが、クィア系のトランスジェンダリズムがそうした運動に持ち込んだ暴力のせいでそこから去ることを余儀なくされた(もちろんその過程で無傷ではいられなかった)。フェミニスト団体は、その理念において、疑う余地のないものとして、常に他者への配慮と、活動・成長・議論のための安全な空間の創出を掲げてきた。ところが突然、私たちはこれらの空間に、私たちが逃れてきた当の相手、私たちを攻撃してきた人々、私たちがもはや信頼していない人々を含めるよう要求する思想やそれを信奉する女性たちが支配的になるのを目にした。男たちは、私たちの闘争目標としてのマニフェスト〔国際女性デーのマニフェスト〕に紛れ込み、自分たちの要求を盛り込み、偽りの差別や人権の名のもとに、自分たちの存在を受け入れるよう強要し、自分たちのスピーチに黙って耳を傾けるよう強要した。そして、女性の同胞たちは、このような男性をケアするために、同性の人々を見捨てることを選んだのだ。

 最後に、これらのトランスセクシュアル、トランスジェンダー、ジェンダーフルイド等々の男たちを支持する女性たちは、彼らがそう主張すれば女性であることを当然のこととし、彼らを擁護することが姉妹たちとの団結よりも優先されるとみなし、「彼らは苦しんでいるのだからかわいそうだ」と言う。彼らは、自分たちの違和感の原因は、自分が女性として生まれなかったことにあると説明する。彼らを擁護する女性たちは、自分自身がこうむっている苦しみ、そして家父長制の世界で女性として生まれた私たち全員がこうむっている苦しみを無視している。彼女らは言うだろう、いやそうじゃない、フェミニズムにはいっさいが包含され、フェミニズムは排他的になるべきではない、と。しかし、抑圧者たちを自分の仲間に入れ、その要求を自分のものにすることで、抑圧者と闘うことができるだろうか? 私はそうは思わない。また、トランスインクルーシブな女性たちはまた、男性の性別違和や性別不合による苦しみが、私たち女性が女性として生まれたことで受ける苦しみよりも大きくないことを無視している。

 彼女らは、自分が女性的な身体になることにエロティックな興奮を覚える「オートガイネフィリア」が男性のトランスセクシャリティの一つの原因として広く認知されていることを無視している。彼女らはまたしても、女性の権利よりも男性の性的欲求や自由を擁護しているのだ。これは、普通の理解力を持った女性たちにとっても見過ごせないほどの「無知蒙昧」だが、彼女らは、目をつぶって青い薬〔映画『マトリックス』に登場する薬で、今まで通りバーチャルな世界を生き続けることができる。赤い薬を飲むと、悲惨な現実が見えるようになる〕を飲み込んでいる。その方が、厳しい現実に直面するよりも簡単だからだ。

 トランスインクルーシブな女性の同胞たちは、すでにLGBT運動の中にあった性的自由のための闘争を、フェミニストの闘争の中に持ち込んでいる。すべての人が自分のジェンダーアイデンティティを決定したり、誰とどのようにセックスするかを選択できるようになったら、家父長制を終わらせることができるのだろうか? 私はそうは思わない。まだ頭を上げておらず、多くの姉妹たちの沈黙と共犯のもと、今すでに踏みにじられている女たちが、このいっさいのことで被害を受けることになるのだ。

 しかし、それだけではなく、当局や議員たちの共犯も存在する。女性を抹消することにはさまざまな利害関係があるが、その第一の目的はフェミニズム運動を破壊することである

出典:https://tribunafeminista.elplural.com/2021/04/patriarcado-postmoderno-y-liberal/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。