テイナ・ビエン・アイメ「戦争の武器としての女性――ウクライナの悲劇を利用する性産業」

【解題】以下は、女性人身売買反対連合(CATW)のテイナ・ビエン・アイメさんの最新記事です。戦争や紛争が起こったり、それが長引くことで儲かる産業は軍需産業だけではなく、性産業もです。ヨーロッパ各国ではこの間、リベラル政党や社会民主党、緑の党などが主導して、性産業の合法化が進められており、いちばん最近ではベルギーで売買春の非犯罪化法案が国会で可決されました。国家によって合法的存在を与えられた性産業は、このウクライナ危機を絶好の好機を考えており、国境付近に避難してきた若いウクライナ人女性を性産業にリクルートしようと活発に活動しています。このことを告発する記事です。

テイナ・ビエン・アイメ

『WOMEN’S e News』2022年4月25日

 「紛争下での性的暴力担当国連特別代表」のプラミラ・パッテンは、国連安全保障理事会における最近の演説で、戦争の武器としてレイプを使用することの破壊的で衝撃的な影響について、心をえぐるような説明を行なった。性暴力と性的搾取は、恐怖の戦術として今なお使われ続けており、サバイバーとその家族に長期にわたる苦しみを与えていると彼女は告発した。

 女性や少女が組織的にレイプされたり、性的搾取を受けたり、戦争や政治的抑圧の戦利品とされている国々のリストは、驚くほど長い。ボスニアからハイチ、イラクからスーダンに至るまで、紛争および紛争後の状況下で性的暴力をどうすれば防ぐことができるのかに関して、私たちはいまだ何も学んでいないように見える。サバイバーのために正義がなされることは、依然として稀である

 今日においても、女性や少女に対する組織的な性的暴行、集団レイプ、拷問、性的人身売買は、エチオピアのティグライ州、シリア、ミャンマー、そして現在ウクライナにおいて、軍事的戦略として遂行されている。ロシア兵やその他の軍属や傭兵たちが、ウクライナの女性や少女を自宅で、あるいは戦争から逃れる際にレイプし殺害しているという報道が増えている。

 今年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、500万人以上のウクライナ人(ほとんどが女性と子ども)が国を離れ、ヨーロッパをはじめとする世界各地に避難している。多くの国が必要な救済措置を講じて難民を受け入れている一方で、別の危険もこれらの人々を待ち受けている。3月中旬になると、国境でピンプと業者が、絶望的状況にあるウクライナ人女性を待ち伏せし、移動手段や仕事、宿泊先を提供しているというニュースがポーランドから飛び込んできた。駅やその他の拠点での混沌とした状況下では、搾取者が、まっとうな援助を提供する善意の人々の群れの中にまぎれ込むことはあまりにも容易である。

 ベルリンでは、ピンプや人身売買業者が、難民支援の職員がよく着ているオレンジ色のベストを着て、「私と暮らすことができます」と書いた看板を掲げていた。イギリスでは、英国政府が後援する「ウクライナのための家(Homes for Ukraine)」というプログラムがあるのだが、ウクライナ人女性にセックスと引き換えに宿泊場所を提供する男たちが大勢いるという報道が出ると、このプログラムは「性的人身売買業者のための出会い系サービス(Tinder for sex traffickers)」と呼ばれるようになった。国連難民機関は、英国政府に対し、独身男性とウクライナ人難民の女性とのペアリングをやめるよう正式に要請した。

 このように人身売買業者や売春店経営者がただちに動員されるのは、性行為の売買市場が繁盛し成長していることと、買春側が何の責任も問われずにすんでいるからであり、それが直接的な原因となっている。たとえば、ドイツはこうした搾取者にとって格好の国であると同時に、こうした凶悪犯罪を防ぐために何が必要かを示すケーススタディでもある。国際法に反して、ドイツでは2002年に売買春が合法化され、その後、爆発的に性産業が拡大し、今日では毎日120万人もの男たちが買春していると推定されている。このような男たちの異常な買春需要を満たすには、人身売買を通じて絶えず女性の「新鮮な供給」がなされることが必要である。

 ネット上では、買春者たちが各種ニュースをチェックし、地元の売春店にウクライナ人女性がいつ到着するか尋ねている。ソーシャルメディア上では、ドイツのセックスワーク派団体が、入国してくるウクライナ人に対して、ドイツでは性売買が合法であること、「…ドイツでセックスワークを始める方法についてサポート情報が必要な人がいるなら、私たちがお手伝いします」と伝える投稿を行なった。このメッセージが世論の怒りを買うと、このグループは難民を募集していることを否定し、単に、ドイツで売春を始めたい人の相談に乗っているだけだと開き直った。「経済的に不安定な時期にセックスワークを始めるのはごく普通のことで、そこには戦争から逃げてきた人たちも含まれる」。まさにその通りだ。

 他のケースでは、売買春が同じく合法化されている隣国オーストリアのある有名な売春店は、ウクライナ難民の流入を好機と捉え、暴力や殺人さえ起こっている同店を、専用トイレ付きの歓迎シェルターとして売り込んでいる

 性産業へのこうしたあからさまなリクルートに対抗するため、女性が運営するシェルターをはじめとするいくつか団体は、国境で避難女性たちに注意を喚起し、国のホットラインの番号を手渡し、難民の登録は政府主導で行なうべきだと訴えている。

 しかし、政府は国連からの警告や地元の小さな組織の努力だけに頼っているわけにはいかないはずだ。性的人身売買を防止する上で最も実現可能な解決策の一つは、そもそも商業的なセックス市場に対する需要を生み出している人々を不問に付すシステムをただちにやめることだ。問われるべき責任は、人身売買業者や性産業の利得者たちに限定されるものではなく、買春者自身にも及ぶものでなければならない。

 買春者をも性暴力や差別の加害者とする法律を世界で初めて制定したスウェーデンは、先月、38人の買春男性を逮捕したが、そのうち30人は地元の売春店に誘い込まれたウクライナ人避難女性を買っていたという。買春をいまだに性犯罪としてではなく文化的に認められた男性的行動だとみなしているドイツやオーストリアなどの国々でも、この動きに追随すべき時だ。

 国連は、女性、平和、安全に関する10の決議のうち、特に紛争下での性的暴力に焦点を当てた5つの決議を実施することを誓った。また、国際法に従い、性的人身売買を防止し、加害者に責任を取らせ、トラウマを抱えたサバイバーに対して生活を再建できるまで支援する法律を採択するよう、引き続き各国に働きかけていかなければならない。これらの目標に到達するためのツールは、すでに用意されている。必要なのは、戦争や性産業の餌食として女性や少女が武器化されるのは不可避だとみなすのではなく、そういうことはもう受け入れられないと認識する政治的意思なのだ。

出典:https://womensenews.org/2022/04/women-as-weapons-of-war-a-spectrum-of-sexual-violence-in-ukraine-and-beyond/

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投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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