【解説】本稿は、いつもお世話になっているNordic Model Now!にサイトに掲載された最新のポストの全訳です。欧州議会が2023年8月30日に報告書を出し、その中で加盟国に対して「北欧モデル」のすべての要素を採用するよう勧告したことについては、本サイトにアップした以前の記事で紹介しましたが、2023年9月14日、欧州議会は同報告書に基づいた決議を採択しました。本稿は、それを受けて、売買春サバイバーの一人である「シアン」さんが寄せた文章です。Nordic Model Now!とシアンさんの許可のもと、ここに紹介します。
シアン
Nordic Model Now!, 2023年9月22日
2023年9月14日、欧州議会は、売買春を暴力の一形態であり、女性と男性の間に根強く残る不平等の原因であり結果でもあると定義する決議案を投票で採択した。決議案は加盟国に対し、男性の売買春需要を減らし、売買春システムに巻き込まれたすべての人々に支援と離脱サービスを提供し、セックスを売る行為を非犯罪化し、セックスを購入することと、他人の売春から利得を得る第三者の行為を犯罪化することに基づくアプローチを採用するよう奨励している。つまり、北欧モデル(別名、平等モデル)のアプローチである。この記事では、売春サバイバーであるシアンさんが、このニュースを聞いたときの気持ちを語ってくれている。――Nordic Model Now!
先週、ヨーロッパ連合(EU)が北欧モデル(平等モデル)の諸条項を支持することで、EU全域での売買春廃止を擁護する決議を採択したというニュースを読んで、一人の足抜けした女性としてとても嬉しく思った。EUが売買春は女性と少女に対する暴力だと考えていることを読み、売買春が女性と少女にもたらす被害を認識しているとはっきりと書かれているのを見て、私は信じられないほど感情の高ぶりを感じた。
長い間、ドイツの性産業合法化がいかに素晴らしいかを指摘する人々を見てきたような気がする。そこでは誰もが、好きなだけ多くあるいは少なく、自分が欲するどんな値段でも、楽しくセックスを売る自由があり、性産業における暴力の問題は、すべての都市に大規模な売春店があることで何ゆえか解決されると言われてきた。
性産業から離脱した女性として、同意が売買されただけでなく、売買春という行為によって完全に抹消されたことを誰かに説明するのは、とても苦痛だ。しかも、そう説明した後で、あなたは悲しむべき少数派で、他の売春女性たちはみんな完全にハッピーだと言われるのだ。
私はその仕組みを知っている。なぜなら私も以前は、売買春に問題はないし、自分は完全にハッピーだと主張していた女性の一人だったからだ。でも、もし誰かがその時の私に、離脱プログラム――今いる地域から出る方法、売買春以外で生計を立てる方法、あるいはピンプに見つからず搾取されないような場所で暮らす方法――を提示してくれたなら、私はその手に飛びついたことだろう。
だが、数えきれない数の人々が私に言ってきた話は、違った。売買春は本人が同意すれば何の問題もない、暴力的な買春者やピンプというのは神話か、ごくごく少数の話だ、完全に非犯罪化されれば、そのような被害を受けても警察に通報すれば真剣に取り合ってもらえる、と。
だから、このEU決議で、売買春が暴力、搾取、差別に満ちていることがちゃんと認識されているのを読むと、信じられないほど心強く、素晴らしいことだと感じるのだ。実際、暴力や搾取、差別は売買春のシステムに深く組み込まれており、それなしに売買春は機能しないのだ。
ドイツでは、2002年に、すでに合法だった売買春システムを自由化して以来、人身売買が10倍に増加している。もし売買春が、同意している大人同士の単純な合意で成り立つような穏やかなものだとしたら、なぜドイツの売春店は、このいわゆる「仕事」を引き受けるために、不本意でしばしば人身売買された女性や子どもたちをたくさん連れてくる必要があるのだろうか?
EUが売買春のもたらす被害を認めたことで、ようやく売買春から離脱した女性たちの声が、少なくともどこかで聞かれるようになったように感じる。女性や少女の売買は恐ろしい産業であり、女性の身体から金儲けしようとする既得権益者たちによって日常的に嘘がつかれている。
EUの決議が指摘するように、売買春は個人の主体性の問題ではなく、性別、貧困、人種・国籍に基づく極端な不平等の枠組みの中に存在している。女性の身体の売買を、その女性をそこに追いやった状況から切り離すことはできない。そしてその状況の大半は、「セックスワークはお仕事(sex work is work)」派のロビー団体が何を言おうとも、自由な選択とは程遠いものなのだ。EUがこのことを認識していることは、非常に心強いことだ。いかなる女性や少女も、お金を稼ぐ必要があるというだけの理由で、人権や、「ノー」と言う権利、安全や自由を失うようなことがあってはならない。
決議案では、資金が十分に保障され組織だった離脱プログラムが、売買春を望まない女性たちが売買春から離脱するための重要な手段であると指摘されている。逆に、権利や離脱プログラムや支援が利用できるかどうかについての知識が不足していることが、EUの被買春女性、特に人身売買された女性たちや居住国に不法滞在している可能性のある女性たちを支援する上での真の障壁となっている。こうした障壁を取り除くことが決定的に重要だ。
EUでは、売買春の中の女性たちや子どもたちがあまりにも多く、売春をやめたいと思っているが、そのための支援がない。合法化された売買春という構造のもとでは、支援サービスに関する情報は、売春店オーナーやピンプ、周旋者たちのフィルターを通さなければならないが、彼らは、自分たちの支配する被買春女性や子どもたちに情報を提供しないことに既得権益を持っているので、支援がさらに難しくなっている。
決議案は、売買春の中の女性たちや子どもたちを虐待して利得を得ている者たちに対して、EUのどこにおいてもほとんど起訴されていないことに言及している。この点に関しては大きな変革が必要だ。人身売買業者、ピンプ、売春店オーナーの大多数が男性であり、買春者の大多数も男性である。
売買春の本質的な暴力性、売買春が引き起こす人権侵害を認識したなら、売買春を周旋したり、売買春から利得を得ている者たちを野放しにすることはできないはずである。EUの中の誰も、女性や子どもをレイプすることから利益を得てはならない。それこそが売買春なのだから。支払い(または支払いの約束)によって得られる同意は、決議文にはっきりと記されているように、まったくもって同意ではない。同意のないセックスはレイプである。EUがこのことを認識したことは非常に心強い。
ようやくにして、私たちは味方を得られたような気がする。売買春の中の女性たちが直面している虐待について私たちが声を上げれば、耳を傾けてくれる人、私たちとともに闘ってくれる人、法律を改正して実際に売買春の中の女性たちと子どもたちにとってより安全なヨーロッパを作ってくれる人たちだ。
決議案はまた、EU加盟国における売買春の法制化に対するアプローチの違いが、域内全域で人身売買業者の取り締まりに大きな問題を引き起こしていること、そして売買春が完全に非犯罪化されている国々に、人身売買が容易かつ明白にはびこっていることを指摘している。
私が心から望むのは、ドイツの合法化が女性の権利にとって絶対的な災難をもたらしたことを示す長年にわたるデータが蓄積されている現在、ドイツ政府がようやく目を覚まし、被買春女性たち、売買春の中に閉じ込められている何万、何十万人もの女性や子どもたち、そしてEUの声に耳を傾けるようになることだ。被害の存在をもはや否定することはできない。
合法化と完全な非犯罪化がもたらした現実は明らかだ。女性と少女は、出身国がどこであろうと、現在居住しているEU加盟国がどこであろうと、EU全域で同じ人権を持った存在であるべきだ。今回の決議はそのことを明確に述べている。北欧(平等)モデルを導入し、女性と少女にこれらの権利を実際に与え始めるかどうかは、加盟国にかかっている。
もう言い訳はできない。私たちはもう十分に待った。
出典:https://nordicmodelnow.org/2023/09/22/a-step-towards-a-europe-free-from-prostitution/
「売買春のないヨーロッパへの一歩――欧州議会が北欧モデルを推奨する決議を採択」に2件のコメントがあります